1 レントガソール・・・アリス
休暇のつもりで走り回った末、辿り着いたパルザノンで聞いた「魔物」という言葉。俄然興味の出た二人は、偽装した馬車をクロミケに曳かせ、西の海を目指す。その案内に雇った男はクロミケと大差ない背丈の大男だった。
登場人物
アリス 主人公 16歳 薄い茶の髪、白い肌、青い目、身長158セロの女の子。
マノさん ナノマシンコントロールユニット3型
ミット 15歳 孤児 濃茶色の髪、やや褐色の肌、黒い目、木登りが得意、身長162セロの女の子。
ガルツ 36歳 工房出身 元猟師 その後兵士を3年ほどやっていた。日焼けした肌、赤黒い髪、青い目、身長185セロの大男。青ずくめの防具、楯と長剣が基本のスタイル。ガルツ商会の会頭
シロル アリスの従僕 白猫ベースのネコミミメイド ロボト
クロミケ アリスの従僕 クロとミケの2体 身長3メルのネコ耳ヤロー ロボト
レントガソール パルザノン ヤンクレーズ伯爵家3男 身長3メルの大男
サントス ハイエデンの金物屋の店主。商取引の仲介役。
イヴォンヌ ハイエデンの商会長ローセルの孫娘 美人 170セロの長身。
エレーナ ガルツ商会本部の調理長 157セロ ぽっちゃり系 短髪にしてる
フラクタル パルザノンのホンソワール男爵家当主
ジョセフィーヌ パルザノンのホンソワール男爵家内義
テレクソン パルザノンのホンソワール男爵家長男
シャルロット パルザノンのホンソワール男爵家長女
セバーク パルザノンのホンソワール男爵家執事
ヤクトール パルザノンのホンソワール男爵家兵長
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第8章 魔物
1 レントガソール・・・アリス
ホンソワールの屋敷はパルザノンの南寄り、貴族屋敷が立ち並ぶ一角にある。
この街は大通りを中心に4、5ブロックの幅で家が立ち並びその裏手はほとんど畑作地になっている。
男爵だけあって土地も広いが、その東側は城壁まで畑が広がっている。南門から中心へ続く大通りまで2ブロック。中央広場までは6ケラル。城内の通りは馬車が走るので石畳が敷かれているが、間の路地は広いところでも3メル、長年踏み固められ排水も整備されているので泥濘むようなことはない。
こんな路地にもちらほらと看板が出ていて、先日行った魔石屋もそんな裏店だったので、中央広場へ行くついでに同じような店を探しているところだ。
街歩きだけどスカートでは武器が釣り合わないから、ミット、シロルを含め3人ともキュロットに剣をベルトから吊っている。
路地の看板を覗きながら通りを歩いて行くと武器防具の店があった。パルザノンは割といい剣を売っているとビクソン商会のマルコが言っていたのを思い出したので、フラッと入ってみた。
「両刃の直剣が多いねー。見たとこ結構硬そうな剣だよー。折れそうで怖いなー」
「お嬢さん、何を言われる。そこに並んでいるのは鍛治師レノスカルの作品。一本40万シルの高級剣だぞ。並の剣など刃を合わせる事もできないのだ」
「とゆーと?」
「この剣で攻撃をされると受けた剣が切り落とされると言っている」
「レノスカルさんねー。腕は悪くないみたいだねー」
「えーい、ものの分からん子供の来るところではないわ。一体何用で参った?」
「うるさいおっさんだねー。あたいが何を見て何を言おうと勝手じゃないかー。店を回っていいものを探すのは悪いことなのかいー?
そもそもあんた誰よー?」
「わしはここの店主、アルバトールである」
「ふーん。じゃあ客の邪魔をせずおとなしくしてなさい。一通り見たら出て行くよ」
「おー、ここから斧だよー。戦斧はちょっと憧れちゃうよー。でも、やっぱり柄が太いねー。あたいに向いたのはなさそーだねー」
「何か変わった武器ってあるかな?」
「アリスさま。あの棚に丸いものがありますが」
「へー、何だろ?手で投げるのかな?ねー、店主さん、これなーに?」
「それは榴弾であるな。爆発して周囲10メルに鉄片を撒き散らす。こちらは煙玉。風が弱ければ4メルの範囲があっという間に見えなくなる」
「爆発?ふーん?……なるほど」
あたしの背より高い弓をミットが見つけた。
「おーゴツい弓だねー。こんな太いのを引ける人がいるのかなー?」
「ガルツさまなら引くでしょうね」
「でも邪魔だって怒り出すよー。体格がクロミケくらいでないとー」
「お嬢様方、それは看板代わりで使えるものではありませんよ」
「あ、ほんとだ。1メル以上引くと折れちゃうね。看板だから、弦を緩めてないんでしょ?弦も傷んでるよ。もったいないねー」
「なんと?緩めるも何もこの剛弓の弦は常人の手には負えぬわ」
「なんだと?2月もの間この弓が欲しくて金を貯めて来たと言うのに。ここに値札があるじゃないか?それが看板だと?もう少しで買えるところまで来ているんだぞ!?」
背後から掛かった声に見ると店の天井に合わせて屈む大男。ここって2メル半はあるから低い天井ではないんだけど?
「あー。68000シル。書いてあるねー」
30前くらいかな?彫りの深い顔立ち、グレーの瞳、黒っぽい髪、日に焼け赤銅色の肌、体は灰色の塊のようだ。
「あ、あ、お客様。この弓をお求めですか?大丈夫です。作った職人に言って新たに作らせますので」
「うーん、この弓、元々2メルまで引けないよ?あなたの体格だと軽く2メル引いちゃうでしょ?」
「あんた、なんでそんなことが分かる!?」
「分かるから分かるんだけど。2月もお金貯めて弓が店先で折れちゃったらあんまりだよね。これ引いてみる?1メルで折れるよ?」
「うちの看板を壊す気か?ダメに決まっておろう」
「まあ、あたいたちには関係ないかー?
あたいはミットだよー。こっちはアリスー。それにシロルー」
「俺は魔物狩りをやっているレントガソールだ」
「ヤンクレーズ伯爵家の御3男でございますか?」
「ああ、だが勘当も同然の身だ。家とは連絡をとっていないのでな」
「あたいはこの人が引く弓に興味があるよー」
「あたしも。ちょっと宿まで来ない?」
レントガソールはあたし達を片膝のまま見回した。
「あんた達、俺が怖くはないのか?」
「「「なんで?」」」
「いや……まあいいが」
店を出て、来た道を4人で戻る。遠目には幼児を連れたお父さんかな?
全身灰色の装備だね。明るいところで見る髪は紺に近い青色。厚手の革ジャンパー、小さく見えるけどガルツさんのより大きいリュック。鍔の広い皮帽子は顎紐がついていて、今はリュックの上に被さっている。太い黒いベルトにポーチが右、左に剣が下げてある。これもおっきな厚みのある剣なのに小さく見えるのがおかしい。
ズボンも何の革なのか、膝から下が太めで足首の上で絞ってある。その膝には丸くて分厚い膝当てが巻かれている。靴は元は青だったのかな、擦り切れの目立つゴツい革の編み上げ靴だ。
「ねー、名前長いからレントでいーい?」
さっそくミットが絡んで行くねー。
「ああ、構わんが」
「魔物狩り、いーねー。今日はその情報を集める日だったんだよー」
「あたし達は東から来たんだよ。こっちの珍しいものを探しにね。魔物ってどんなところにいるの?」
「洞窟、森、川べり、西の内海にも居るな。
魔物ではないカエルやトカゲ、クモなどが魔石を持って凶暴になるものと、他に似た奴がいない魔物が居る。気軽に見に行くようなものではないぞ」
「見に行くんじゃないよー。狩るんだよー。
肉とか皮とか欲しいじゃないー?」
「ふむ?普通は魔石を欲しがるんだが?」
「あー、確かに売ってる値段は良いよねー。皮のうんと固いのが欲しいけど知らないかなー?」
「皮か。タイラントスネークと言うのは聞いたな。嘘か誠か、剣が折れるそうだ」
「へー。どこに居るのー?」
「内海のどこか。俺が聞いたのはそこまでだ」
「それ、知っている人はいないの?」
「どうだろうな。10何年も前に引退寸前みたいなオヤジが酔っ払って話した事だからな。
ところで、こうして若い娘3人にほいほい付いてきたわけだが、俺の弓をどうすると言うのだ?宿と言うのも迷惑にならぬのか?
ぬ?こちらは貴族街だぞ?どこへ行く気だ」
「ホンソワール男爵はご存知でしょうか?
あたくし達の宿はこの先でございます。敷地が広いのと、あたくし達の馬車がありますので大抵のものはお作りできますよ」
「なに?ホンソワール?作るだと?
お前たち、何者だ?」
「何者って聞かれると、旅人って言うんだろ!」
「「あはははー、なっつかしー」」
レントさん、困惑してるね。あたしも説明が難しいよ。
「あー、門番ご苦労様ー。
ちょっとお客さん連れてきたよー。母屋には行かないつもりだよー」
「いや、こちらはヤンクレーズ-レントガソール殿であろう。このパルザノン広しと言えどもこの小山の如き上背の戦士は2人とおらん。
伯爵家の御3男がお客様とは男爵様に知らせぬわけにはいかぬ」
「まあいいけど、あたい達はここでやることがあるんだよ。シロルー、お茶の用意お願いねー」
「はい、お任せください」
「クロミケー。テーブル出してー」
馬車の後ろを開いてテーブルと椅子をクロミケが出してくるんだけど、こうやってみるとレントさん、おっきいね。クロミケとおんなじくらい?
椅子を引き執事然としたクロを警戒するようにレントが椅子に座った。昨日、面白半分に一つだけ作ったクロミケ用の椅子が役に立ったね。ローテーブルみたいになってるけど。
シロルがカップを並べ紅茶を淹れてくれる。お茶請けはいつものクッキー。
「お庭で紅茶もいいものだよねー」
「うん。厩が近いけど綺麗なお庭だよー。
レントはどんな弓がいーのかなー?」
「どんなと言われても、弓は子供の頃何年か引いただけであるから、分からんよ」
「そっかー。ガルツの5割増しでどうだろー?
6割かなー」
「むー。ちょっとクロと腕相撲してもらおうか?台にする木質、あー、昨日の根っこでいいや。ついでにあれ始末しちゃうよ」
あたしは兵舎の裏手に行っておっきな根っこ3つにマシンを撒いてテーブルに戻る。
「5メニくらいだね」
「西の内海へはどうやって行くのー?」
「馬車で6日であるな。途中左手の山から魔物の襲撃を受けることがあるので旅のものは護衛が欠かせない。海にも魔物は出るがあまり出ない場所が幾つかあって、漁師が船子屋を置いているな」
「ふーん。行ってみたいねー。
あ、そー言えばこの街の下水道が北西で川に放流してるらしーね?なんか知ってる?」
「ああ、聞いたことはあるが見に行ったことはないな。カエルやトカゲの魔物がその辺りの川で狩れると聞いている」
「やっぱり怪しーなー。なんかありそーだよー?」
「下水のせいで何か起きていると言うのか?
だとしても良い狩場なのであれば、それで良いのではないか?特に被害が出たとは聞こえてこないからな」
「うふふー。ミット、他所の土地なんだから、あんまり首突っ込まないの。
台ができたから、レント、腕相撲してもらってもいいかな?」
「ふふ。腕相撲か。13の時にやって以来だな」
「じゃあ、クロ対レント。用意。
はっじめー」
まあクロは人間じゃないからね。関節を固定しちゃえばもう動かないよ。そんなことはしないけど、本気も出せない。
フラクタルが丁度来たね。レントの背中から汗が湯気になって揺らめくのが見えるよ?クロはゆっくりと押し負ける動きをしているから、レントはここぞと押し込んでる。えっと数値はどうなってるかな?
「おー。クロ、まさかの本気負けだー。
腕と背中、修理だよー。レント、すっごいねー。クロが壊れるから勘弁してね」
「壊れるって?この二人はなんなのだ?」
「ロボトって言っても知らないよね?人間じゃないし、魔物でもない。あたしの従僕」
「ヤンクレーズ-レントガソール殿。ホンソワール男爵フラクタルである。当家へようこそおいでくだされた。
招いたのが当家の客人ゆえ挨拶だけと思ったのだが、このクロを腕相撲で負かすとは心底畏れ入った。こちらの用がお済みのあとは母屋で食事を共にされたい」
「ああ、構わない。先に言っておくが5人前は食うぞ」
「了解した。ではまた」
さて、これほどとなると2メルの弓はセルロースだけじゃあっさり折れられるよ。センイ方向?の組立がちょっと面倒?って言うのがマノさんの見立て。製作に30メニだって。弦も同じような補強をするそうだ。矢は2メル20はないと弓に乗らないね。
「矢は何本作る?矢筒も要るよね?」
「いや、ちょっと待たれよ。どうするつもりなのだ?対価はどうするのだ?」
「あー、ごめん。魔物情報のお礼に弓を作るつもりだったの。でもクロを負かしちゃったでしょ?
あたしもちょっと本気で作りたくなった。最高の弓と矢、矢筒までは止まらない。
後のことは考えてないよ」
「いーよ、アリス。そっちはあたいがやるよー。で、矢は何本要るのー?100本でいーい?」
「いや、一体いくら請求されるのか?」
「お願いするのは多分、西の海までの案内と魔物狩りのサポートだねー。働きによってはボーナスが出るよー。この辺では買えない剣とかー?
あたいの剣を見るかいー?」
「むむっ。西の内海であるか。危険な場所も多いゆえ案内できぬところもあるぞ。俺一人では守りきれぬゆえ」
「そこは多分心配ないよー。道中でどんなものかわかると思うー。
あたいの剣、見ないと後悔するよー?」
「では、拝見する。
むむっ?」
レントが持つとミットの鉄剣が長めのナイフに見えるよ。あ、軽いのも渡したね。
「ほう?これはなんと?」
「どっちが欲しいー?」
「うーむ」
話の進まない人だねー。100本で進めよう。
太さ2セロの矢を100本、矢筒はいいとこ30セロの深さ1メル半?鏃も重い方が良さそうだな。試し射ちの的もつくるか。




