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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第7章 パルザノン
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6 山ハセロ・・・ミット

 これまで:パルザノン観光のつもりがホンソワール男爵との商談に発展してしまった。その約束を果たすためハイエデンに戻ったアリスとミットだったが。

 パルザノンは面白かったねー。ハイエデンに戻って5日、アリスは杖の作成道具を完成させた。今は少し形の違うバッテリを作る道具を作っている。

 アリスが言うには、魔石と言うのは似たことをさせようと思えばできるけど、発動が「念じれば」と言うのが分からない、だと。

 感覚が合えばってのもねー。あの雷の石、アリスは合ったみたいだけど、あたいは合わなかった。シロルはカエルが見えたって言ってたし。


 明日くらいにまた出られるように準備を頼まれた。


 ガルツに話を通したいとこだけど留守なんだよねー。乗合トラクの研修だと言って運転手候補を20人連れて各地を回ってる。ハイエデンとケルヤークの輸送部から一人ずつ引き抜いたらしい。標準乗合いトラクの作業班仕様にエレーナの助手をやっていたアニータを引き抜いて、移動練習用の40人乗りトラクの2台でレクサールへ向かった。

 筒の乗り降り、道路の走り方、休憩所の位置、観光案内まで業務になってるから覚えることは大量だよ。座席も二人分使えるし大きな街は宿が契約してあるけど、座席はベッドじゃあないからね。きつい8日間になるよ。


 そんなわけでガルツは後でツーシンで済ませるよ。ビクソン商会に行ってこよー。


「こんにちはー、ビクソンはいたー?」


 見慣れない店員が一人まごついてるね。ホーセルが奥から出て来た。


「これはミットさま、おいでなさいませ。先日はパルザノンでうちの者がお世話になりました。移動時間が大幅に減った上に商品まで増えたとあって、主人共々喜んでおりましたところです。

 あいにくビクソンは他出(たしゅつ)しております。ご用件はわたくしが代わって承ります」

「ホーセルは、相変わらず堅いねー。

 明日、またパルザノンに行って来よーと思うんだ。魔物ってのが気になってねー、面白そうだよねー。で、一応話を通しておこーと思ったんだよー」


「そうですか。それはご丁寧(ていねい)に、わざわざおいで頂きありがとうございます。

 ご存知の通りあの街の体制はいささか古いですから、私どもも慎重な交易をして参りましたが、なんとも歯痒(はがゆ)いのも事実。ミットさま、アリスさまが参られれば必ずや新たな道筋が作られると期待しておりますよ。

 明日ならばライトとマルコがあちらにおりますので、ご随意(づいい)に引き回していただいて構いません」

「見かけによらず、過激なじーさんだねー。

 なんかの時は頼んだよー」


 店を出るとあの店員が頭を下げてるのが見えるねー。あんまり叱っちゃダメだよー。


 あとはホンソワのお土産かなー?トルネールイ村のミケルにもなんか持ってってやろうかなー。この頃売り出したフォトーがいいかなー。まだハイエデンの近所の風景しかないけど、ガルツが回るついでにいい場所のを集めてるはずだから、あたいも楽しみだもんね。

 食材はシロルにお任せー。おっと、あたいのぬいぐるみの材料を買ってこよー。


 午後にタイマがミーミー鳴ったので、ガルツにパルザノンへ行って来る話を通した。

 魔物と聞いて悔しがってたけど、そんなの知らないー。

「ガルツー、お土産フォトー、いっぱい撮って来てねー。切るよー」


 裏庭に出るとアリスが杖を作る手順を職人に教えるため裏口から出たり入ったりしながら、赤い馬車を作っていた。クロミケがなんとなく馬に見える形になっている。


「この間は揺れがひどかったから、今回は自前の馬車にするよ」

「おー。いいねー。これトラクで曵いていくの?」

「そうだよ。だからいろいろ仕込んでるよ。床下にアルミーと鉄を入れたし、他の材料も柱だの壁だのを厚めにして張ってあるよ。それができないのは床の物入れに入れたよ」


「上に黄色い鳥の飾りがあるけど、あれってレーザだよね?」

「ミットにはすぐバレたねー。4発撃てる鳥を前後に1羽ずつ付けたよ」


 中を覗くとシロルが荷物を詰め込んでいた。主に食材だねー。トラクの半分もない馬車だから、中の整理は欠かせないねー。

 あたいのお裁縫(さいほう)はトラクでだけにしとこー。


 翌朝は日が登るとすぐに出発だよー。あたいたちが寝ていてもトラクは走るから、午後遅くにはウェスティアに着いたー。


 片付けは十字街だけであとはほとんど進んでいない。今は南側の畑に100人ちょっとの労働力のほとんどを回しているのだ。


 レクサール方面はまだ4ケラル。チズの範囲200ケラルに大きな町はないけどー、海岸沿いに村がポツポツあるのが見えるからこれを拾って行けば採算は取れそうだよねー。


 お風呂に入って、のんびりしてたらじーちゃんたちが帰ってきたよ。


「本当にミット嬢さんが居なすった。わしはもうとっくに先へ進まれたと諦めておったのじゃ。

 お陰様でのう、何年も放ったらかしの畑に手が入る。ありがたいことじゃて」

「ほんにのう。西だけじゃなく北にまで道を伸ばしてくれるとは。わしは昔釣りで北へ行ったことがあるが、旨い貝が砂浜を掘ればいくらでも撮れる場所があってのう。150ケラルくらい先じゃったと思うが、楽しみじゃ。

 マークさんにもようく頼んでおいたよ」


「アリス嬢さんはどうしとるのかの?わしらの体の悪いところがぐっと減ってのう、どいつもこいつも元気が余っておる。ぜひお礼がしたかったのじゃが」

「ドロル、お前が一番元気になったものなあ。

 お礼がしたいのはわしも同じじゃて」

「それはアリス、喜ぶよー。ちょっと呼んでくるから待ってなー」


 トラクで寝ころんでるアリスを食堂に連れ戻った。


「おお、アリス嬢さん。お陰様でわしら、身体がすっかり若返ったようじゃぞ。皆それなりに動けるようになって、村の手伝いができる。ありがとうございました」

「あはは、それは良かったねー。あたしも初めてだからどのくらい効果があるか分からなかったんだ。ちょっとどうなったか見せてもらってもいいかな?」

「こちらこそお願いしますじゃ」


 痛かったと言うところを順にみて、曲げたり伸ばしたりさせて動きを見ている。アリスはパックの肩の脱臼(だっきゅう)を戻したこともあるからねー。

 じーちゃんたちが喜ぶのもわかるよー。きっとマノさんに骨の動きなんかを見せてもらってるんだろね。


   ・   ・   ・


 ここを通るのは3回目だけど8メルもある真っ暗でおっきなトンネルを10メニ以上も走るってあまり気持ちのいいものじゃないね。チズで見ると30ケラルもあるんだよ。

 あたいは明るいトラクの中でチクチク縫い物をしてるから良いんだけど。



 トルネールイの平原はまだ真っ赤な山ハセロの花が咲いていた。左手の高い山の上の白が大きくなってるね。窓から花の香りと一緒に冷たい空気がわっと入って来た。


「うーん!シャッキリするねー。この空気も作って売れないかなー?」


「ここ景色も込みだからそれは無理だよ。お花の香りだけならできるみたいよ」


「ふーん?咲いてるお花を取るのは嫌だなー。枯れるくらいのから取れないかなー」


「やってみようか。シロルー、ちょっと止めて」


 トラクが止まると3人で花を見に降りる。見たところまだ元気だね。(しお)れかけをさがしてみんなで5本ほど見つけた。


「お試しだからそれでやってみるよ」

 アリスがそのまま花を(いじ)り始めたけど、村は目の前。あたいがトルネにミケルを呼んでもらって、フォトーのお披露目をする段になってやっとアリスがトラクから出て来た。


「香りが映える量の調整が難しいね。ちょっと弱い感じだけどこれで精一杯。あとは他のものを混ぜるしか無いねー」

「道からうんと離れた所を1列刈ったらどうだろー?」

「なんの話です?おや、この香りは山ハセロの花ですね。香水ですか。あの花はこの村では雑草扱いなんです。畑に入って来るのを毎年根こそぎに100メルに渡って掘り起こすんですが、重労働ですよ。花を刈るなら村の方から攻めていきたいですね」


「ふうん。聞いてみないと分っかんないもんだねー。100メル根こそぎはどうしても要るかなー。道からこの花を見に来る人がそのうち増えるよ。邪魔にならない分は大事にしたほーがいいね」

「畑の端の地面に壁を作ってみようか?種が飛んでくるんなら細かい網を立てるとか?」

「すごくお金がかかりそうですね」

「そーお?ちょっとやってみていいかな?」


「まあお金がかからないなら良いですよ」

「クロミケ、アルミーと木質(セルロース)おろしてくれる?

 ミットは道から遠いとこの花を多目に集めてくれるかな。元気な花なら香りも強いと思うから」

「あいよー」

「あたくしも手伝います」

「いや、お客さんにばかりそんなことをさせるわけにもいかない。私にも手伝わせてくれ」


「この辺で仕切ってみるね」


 アリスが道路と花畑の境目から山裾(やますそ)に向かって指を差した。


「はい、お願いします」


 土にマシンを撒いて1段高い幅50セロの固い壁にしたね。下には1セロもあるらしい。4セロくらいの穴が並んでいて、そこにクロが持って行ったアルミー筒を2メル間隔で柱のように押し込んだ。高さは1メルほどだねー。


 いつ加工したのかミケが木質(セルロース)を薄くほどき始めた。近寄って見ると目の細かい薄い網になっていて2メル置きに大きめの穴が並んでいる。ミケは支柱に沿ってどんどん網を伸ばして行く。

 アリスが山裾に行き着いた。クロもミケもすぐに追いついた。


 山側の10メル程に網をかけて行く。あの並んだ穴を交互に上から柱に通すと網の間仕切りができてしまった。最初は穴二つくらいかけて、穴を拾いながら全体に下げて行くとピーンと張った網の間仕切りになるんだー。花の高さが4、50セロだから風が吹いて種が飛ぶにしても大丈夫だねー。

 端っことてっぺんはアリスが網を二つ折りに留めたので、綺麗に見えるよ。


 山側の通り道は1メル空けてある。そこから網をクロがちょこんとかけ始めた。3メルもある猫耳ヤロー(クロミケ)がちまちまと屈んで作業をしてするのは微笑ましいよー。

 道路までかけ終わるとお昼だー。もちろんあたいも山裾を5メル幅でお花をちゃーんと刈っておいたよー。

 香りの他に布地や染料が採れるかもーってアリスが言ってたよ。シロルは早めに用意に戻ってるから、あたいはクロミケに手伝わせて大きな袋にお花詰めをした。


「大漁だー。お昼ご飯だー」


 なんでそんなに騒ぐのかって?シロルはハイエデンにいる間に、エレーナのとこに入り浸ってたんだよー。ぜったい美味しー料理をいくつも仕入れて来たはずー。今日のお昼が当たりかもー。



 ミケルがホッペにソースを付けて、満面の笑みであたいに言うんだよー。


「おねーちゃん、このご飯、お肉がすごくおいしい!きれいな絵もいっぱいもらった、ありがとー」


 アリスもデレデレだよー。


「そんなに喜んでくれるんなら、あたい、またなんか探して来るよー」

「おねーちゃん、あたしお花でかんむり作ったの。お礼にあげるね。シロルさんの分もあるよー」


 ミケルが赤い花を輪に編んで作ったかんむりをあたいたちの頭に乗せてくれた。


「パルザノンで売って見るから蜂蜜を分けてもらっていいかな?30個あったら買いたい」

「それならここの分だけで間に合うね。畑の仕切りをしてくれたんだし2万シルでいいよ」


 1万6000も値引きするのー?あとで村の人に怒られないかなー。あたいが心配するとこじゃ無いけど。


「香水ができたら帰りに報告するよ。売り物になるといいね」

「また来るよー」

「お元気でー」


   ・   ・   ・


 またトンネルを下って西を目指す。トンネルを出るとシロルは展望窓に張り付きだ。ミケルにあげたフォトーの半分は、前回の西行きでシロルが見た風景をサーバに貯めた中から選りすぐったものだったりする。


 この間迂回した森を同じように右へ緩やかに逸れた先に最初の道路班がいた。あたいはトラクのドアを開けて声をかけた。


「こんにちはー。またお世話になるよー。トルネールイの蜂蜜とフォトーがあるけどどーお?少し置いてくかいー?」

「本当に?ミットさん、良いんですか?」

「いいよー。蜜は水で薄めて冷やすと美味しいよー。パンにそのまま塗ってもいいしー」

「差し入れありがとうございます。お気をつけて」


 結構道路が進んだねー。でもまだまだ遠いよー。この先はしばらく荒れ地が続く。クッションの効いたトラクでもノロノロと馬車並みに進むしか無い。ちょっとは早いんだけど、さっきまでの速さと比べるとねー。

 池を過ぎた辺りで広い場所があったのでお泊まりになった。こっからあと2日半かなー。



 特にイベントも無くもう一班にも差し入れして、ビクソンの物置きでトラクから馬車を切り離し、クロミケが馬風に変身、手足の先が(ひずめ)風に、顔が長くなっただけでそんなに変わってないなー。翌昼まえにパルザノンに到着した。

 門では前回のマルコに(なら)ってビクソン商会を名乗るとすんなり通過できた。


「前回の宿はご飯不味(まず)すぎだし、どーしよっかー?その辺の屋台でお昼にして、ホンソワの屋敷に行って見るー?」

「ホンソワール男爵の執事さんに聞いたら、いい宿教えてくれそうだよね。そうしよう」


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