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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第7章 パルザノン
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5 魔石・・・シロル

 これまで:パルザノン観光のつもりがホンソワール男爵との商談に発展してしまった。ビクソンの二人に勝手に出歩くなと釘を刺されてしまった。

 味気ない朝食は止めにして二人が来るのを待っていました。早速外の食堂に入ります。労働者相手の安い店でしたが、早朝から開いていてそれなりに品数があり皆で楽しめました。


 次は宝飾品を見に行きます。だいたいは小さな石を引き立てる台座としての金銀ですが、美しい大きな青い石に(いばら)が絡むような見事な細工のものもありました。細い精緻(せいち)な鎖も職人の腕のほどが垣間見え、あたくしも鎖だけのものを1本買ってもらいました。

 ミットさまは赤い石の指輪を一つ、アリスさまは青い透き通った原石をいくつもご覧になり3つ買い求めていました。

 鉱石はビクソン商会で仕入れているので、変わった物がないかみるだけで先へ進みます。


 魔石と言うのがなんなのか、昨夜から興味の尽きないところです。店に行ってみると形は両端の尖った筒といった感じで、大きさは直径で3セロ、筒部分が2セロ、全体で6セロの赤や青などの曲がった縞模様(しまもよう)が不思議な白い石です。

 あたくしたち3人で濁ったガラスの下にある石をじっと見ておりますと、店主さまでしょうか、一つ出してくれました。


「あー、軽いんだねー。表面もツルッとしてるー」


 ミットさまがそう言ってあたくしに渡して下さいます。持った瞬間に妙な感覚に襲われました。地面を()いつくばって移動するカエルのような生き物が浮かびます。これはなんでしょうか?

 アリスさまも(ほう)けにとられたようなお顔で、両手に載せたまま考え込んでおられます。


 店主さまが説明してくれました。

「魔石は魔物の内臓から採れるものだよ。魔力を注入すると感覚が合えばだけども、一定の魔法を使うことができるんだ。

 石によって使える魔法は異なるよ。そいつは火が出せるやつだ。焚き火には便利だよ。石の上に薪を置いて念を送れば火が点くんだ」


「動物とは違うんですか?」

「似てるけど違うね。体つきは一緒だが二回りは大きいし力も強い。おまけに魔法だ。この石は赤岩ガエルから採ったものだが、吐きかける唾が燃えるんだよ。唾は半メニ近く燃えるんだが、それを3回も吐かれたそうだ」

「燃える唾を吐く、ですか」


石を持ったままアリスさまが呟きました。


「青いのは木や皮から水を作る。黄色は押しつけたものに雷が走る。黒いのは岩に手掛かりを作れるよ」

「へぇー。面白そーだねー。いつか狩ってみたいねー」

「お嬢さん、狩られないように気をつけるこったよ」

「勉強になったっす。また縁があったら来るっすよ。

 行きますよ」


 そそくさとマルコが引き揚げを宣言しました。


 香辛料の店を数軒回ります。1つ知らないものがありましたが、あの串焼きのものはありません。諦めて果物を買い(あさ)っていると、果物屋の奥のガラス瓶が目につきました。


「お兄さん、その瓶には何が入ってるの?」

 アリスさまが聞くと


「これはクシハキソウの実の種を乾燥させた物だよ。粉に()くと辛味が出るんだ。肉にかけるといい味が出るよ」


 それは聞き捨てなりません。


「おいくらでしょうか?」

「ひと瓶800シルだよ」

「アリスさま。5本よろしいでしょうか?」


 (かす)かな匂いが買いだと告げています。


「味見くらいさせてもらおうよ」

「ああ、いいとも。ちょっと待ってな。うちで使ってるのを出してやるよ。

 ああ、これだ。()めてみな」


 そう言って手の甲にちょんと黄色い粉を載せてくれました。昨日嗅いだ匂いの一つに間違いありません。味見すると確かにこの味です。

 アリスさまが支払いして5本受け取ると、マルコさまも5本買い付けていました。

 クシハキソウ自体は夏までで、この時期は店頭にないそうです。


 あの香辛料もこのような変わった売られ方をしているものなのでしょうか。そうなるとこの探し方では時間が掛かります。


「アリスさま、あの串焼き屋台を探しましょう」

「あー、そうだねー。マルコさん、ライトさん昨日の夜大通りに出ていた屋台に行きたい」

「えー?夕べ出てた屋台っすか?嬢さんそりゃ難しいかもっすよ。まあこれから回ってみましょう。運が良ければ会えるっす」


 屋台の入れ替わりは結構あるのだそうです。集めた食材を売り切って一晩営業できる材料を4、5日かけて集めるなどと言うことが良くあるらしいのです。アリスさまもハイエデンではあり得ないと言っていました。


 少し範囲を広げて回ってみましたがあの屋台は出ておらず、結局あの匂いも嗅げないまま街を出ることになってしまいました。


 ミットさまはよくこんな揺れるなかで縫い物などできるものですね。アリスさまが引く線と記号がついた布がリュックのポケットからいくつも出てきて、暇さえあればチクチクとやっておられます。とは言えさすがにこの揺れでは1ハワーもすると、ぐったりとして2ハワーは横になってしまわれます。


 アリスさまはこういう時、だいたい外を見ています。ですが目に映っているのは景色ではございません。チズの画像や数々の設計図、作ろうとお考えの物の仕様書などを、襟裏(えりうら)の[さん]を相手にご覧になっています。

 今日はおそらく杖か魔石についてですね。


 あたくしはもちろん料理のレシピをソート、検索、アレンジして過ごします。今回は新しい果物と香辛料が2種もあるので1日などあっという間でございました。

 遅い夕食と次の朝食、お弁当の調理は至福の時間です。新しい試みのお味見になんとワクワクすることか。


トラクまで戻ると早速アリスさまが杖の作成を始めます。揺れないトラクの中でお二人ともぐっすりとお休みになったようです。


 また1日馬車に揺られぐったりと宿へ入りました。夕暮れ時、早速屋台へ向かいます。お目当ての串焼き屋さんは出ていませんでしたが、汁物に良い香りを載せている物を見つけました。


「美味しそーだねー。二つちょうだいー。このちょっと酸っぱい香りは何かなー?」

「おや、お客さん。この香りがわかりますか?

 ポンミと言うミカンの皮です。肉の臭み消しにいいんですよ。このシシジルの場合は肉の甘みを引き立ててくれます」


 ポンミは今果物で店頭に出ていますが、皮が調味料にできることはあまり知られていないそうです。

 そう言う調味料は他にもあるのでしょう。


 先日の飲み物屋台がありました。また黒いのと色の薄いものを一つづつ頼みます。


「あらー。あなたたち、大丈夫だったのね。ちょっと心配しちゃったよ?」

「あははー。ごめんねー、美味しかったからまた来たよー。ホンソワとは話が付いてるから大丈夫だよ」

「そうかい。元気そうでよかったよ」


   ・   ・   ・


「アリスとミットが来たよー。

 フラクタルさんはいたー?」

「お静かにお願いできませんか?朝もまだ早い時間に貴族屋敷の門前で、そのような大声はご遠慮(えんりょ)願いたい。ただいま当主にお知らせしますのでお待ち下さい」

「うん、ミットが悪い。ごめんねー」


 伝言役が帰って来た。


「当主がお会いになります。お連れさまもこちらへおいでください」


 応接間へ通され挨拶(あいさつ)の後、ピッカピカの黒い杖を包んでいた布を取って見せる。


「おおっ、これですか?試してもよろしいですか?」

「はい、魔力は注入済みです。そのままどうぞ」

「では、中庭で」


 フラクタルさまは一通りと言われましたが、火、電撃、鉄弾、磁力までで終わってしまいました。こちらで言う魔力はまだ残っておりますのに?アリスさまも気付かれたようです。


「ちょっといいかな?こう言う機能も付いてるよ?」


 そう言うと足元に杖を向けすーっと2メルの踏み台を伸ばし自分を持ち上げます。


「この石は軽い石だよ。何に使うのか知らないけどこの機能は古い杖にもついてたよ」

「ほう?地味な能力なので伝承されなかったのかな?」

「あと古いのと比べると能力は3割増しかな?あの古い杖も直す?」

「うーむ。応接間へ戻りましょう」



「まずお礼と報告を。

 この度の杖の件、ありがとうございます。

 また愚息の始末も関わった商人、取り巻きは鉱山送り、被害者にはできる範囲ではありますが補償金を出させていただきました。本人も廃嫡としましたが、対外的な配慮から鉱山に入れる訳にもいかず処置に困惑しております。

 何か良いお考えがございませぬか?」


「アリスー。これってボタン付き案件だよねー?」

「あー、ボタン付きって悪意を持てなくなる処置だよ。つけるとほんとにいい人になるよ。首の後ろに白いボタンをつけるの。そこから56本の細い線が脳に伸びると悪いと自分が分かることは考えられなくなる。ボタンはあたしかあたしが認めた人しか外せない。無理に取ると本人が死ぬよ。そう言う物だけどやってみる?」


「テレクソンは外せるようになるだろうか?」

「どのくらい腐ってるかによるねー。善悪がまるで分からない奴には効かないよー。あんたに隠してたってことは悪いことだって分かるってことだから、そこは大丈夫ー。本人が苦しむようなことはないみたいだから、3年くらいつけてみたらー?」


「あ、外した人が仲間に居るんです。自分が嫌なやつじゃなくなったって言ってました」

「その人は自分が嫌な奴だったのか?うーむ。それは恐ろしいことだな」

「話を戻すけど、あたしはどっちでもいいよ」

「お願いする。今できるのか?」


 アリスさまが頷くと

「そうか。すぐ連れてくる」と出ていかれました。


 テレクソンが暴れようとするのを、兵士二人が引きずるようにして連れて来ました。

 アリスさまは口を開くことなく背後に回り、手を当てると軽い電撃を飛ばしました。


「うつ伏せに寝かせて」

 兵士が言われた通りにすると首の後ろに1セロくらいの丸を描き何度もなぞっています。ポケットから出したボタンを真ん中に置きますと、アリスさまの処置は終了です。10メニほど待っての回路の確認が残っていますが、その間にお話を進めるようです。


「杖の販売の件はどうする?」

「息子の状態を見てから考えたい」

「じゃあ10メニほど待ちだね。何か飲み物をもらえるかな」

「これは失礼した。すぐに持って来させよう」


 その言葉を受けて兵が戸口を離れていきます。


 すぐに執事がワゴンを押して部屋へ入り、お茶を淹れてくれます。

 このお茶もなじみのないものですね。ハーブのような爽やかな香りがします。アリスさまもライトさまも目を丸くしています。


「このお茶はなんと言うお茶ですか?」

「サーベラスの葉と呼ばれる茶です。私の好きな茶です」

「お土産に買って帰りたいので、どこで買えるか教えていただいてもよろしいでしょうか?」

「シーニア茶葉商はご存知ですか?」


 執事さんが聞いて来ます。


「あー、知ってるっす」

「ホンソワール男爵家の紹介だと言えば出してもらえるでしょう。それほどの量はないかもしれません」


 流石にお詳しいですね。


 アリスさまがテレクソンの様子を見に行きました。アリスさまが頷くとすぐにテレクソンは起き上がります。

 フラクタルがテレクソンを隣室へ連れていきました。


 10メニほど経って半信半疑の表情でフラクタルがテレクソンを連れ戻ってきます。


「これほどの効果があるものなのか?気味が悪いくらいだ」

「そうですね。でも言うべき理由があればちゃんと反駁(はんばく)もしてくれますよ?」

「杖の件だがやってみようと思う。この街も少しは変わるべきだと思うのだ」

「そうですか。ではここまでの分を精算しましょうか。この二人はあたしの代理人のライトとマルコです。今後の分も合わせて相談しましょう」


「わたしがビクソン商会のライトっす。ここまでこちらがやったのは、杖の作成と納品、魔力1本の納品、テレクソンさまの、んー、治療、でよろしいっすか?」

「うむ。それにテレクソン以下7名の連行と治療、杖の使用方法解説、杖の修理を加えてくれ給え」

「こちらが提示した金額は杖が5000、魔力が2000シル、他は決めていない。で良いっすか?」

「うむ。異論ない。だが予算もあるのでな。全部で30万シルでどうか伺いたい」


「さん……いや桁が一つ多いっすよ?それ。3万シルなら分かるっす」

「ふむ。それは困ったな。先ほども言った通りこちらも予算があるのだ。テレクソンの治療費が安いと言うのは納得いかぬ。杖にしても当家の家宝であるぞ?いかに末流とはいえ家格を軽んじられるのは心外である」

「うーわっ、話が通じねぇ!」


「あはははー、ガルツ商会の定番だよー。

 お金を受け取る方は少なくていーって言うのに払う方はたくさん払わせろって言うんだー。

 中とって15万シルでどーよ?お茶のお店教えてくれたし?」


「むむぅ、困らせるのは本意ではない。それで取り決めるか。

 では次だな。月に100本のそれぞれに魔力3本を付属する杖の納品の件である。まずこれの可否は如何に?」

「まだ生産ラインを作ってないから、大きなことは言えないけど多分大丈夫だよ。戻ったらすぐにやるし、15日以内に結果を知らせるよ」

「ふむ。価格についてはこちらの売値で1本30万シル、魔力1本2万シル。杖の本数を500本としたいが如何か?」


「ダメだ。オイラの手には負えないっす。アリスさん、ミットさん任せるっす」

「なんだい、だらしないねー。

 まず、あんたたちがいくらで売るかはうちには関係ないんだ。ウチの卸値は先日言った通りだよ。杖一本5000、魔力一本2000。500で打ち止めも分かったよ」


「だがそれでは当家だけがぼろ(もう)けではないか?」

「んー?気がひけるかいー?じゃあ代わりに落ち着いたら、テレーをあたいたちの本拠に遊びに寄越(よこ)しな。

 ビクソンが街に出入りしてるから連絡は付くよ。あ、そーだ。配達と集金はビクソンでやってよ。手数料はうちが払うよ」

「むむ、致し方ない」


「ふう、終わったかな?ミットの仕切りが一番収まりが良いよ。じゃあ古い杖直しちゃうよ。出して」

「ああ、そうであったな。よろしく頼む」

「ふんふーん。んーっと、うん、できたよー」

「なっ?もうであるか?」

「一本作ってるからね。こんなもんでしょ」


「お父様。お願いがございます。ミットどのの剣を……」

「お、そうであったな。あの剣は紋章入りで是非納品していただこう。当家の衛士は12名ゆえ、長めの両刃直剣12振り。執事には同じ仕様で長さを40セロ一振り。メイド、馬丁には30セロ8振りである。私とテレクソンの分はミット殿と同じ仕様の片刃の曲剣である。

 当家の予算は60万シルである。納期は2ヵ月でどうであるか?」


「納期は大丈夫。値段は仕返しかな?分かったよ、できたら連絡するよ。あ、紋章って?」

「ああ、これである。この短刀を見本に持っていくが良い。3振り渡すゆえ各々が持つように」

「はーい。邪魔(じゃま)したねー。また遊びに来るよー。


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