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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第7章 パルザノン
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4 男爵・・・シロル

 これまで:休暇に筈の西行きだったがアリスとミットの行く先々には騒動が絶えない。パルザノンを前に出会ったビクソン商会の二人とパルザノン観光を楽しむつもりだったのだが。

「やあ、お嬢さんたち。こんな時間に女性ばかりでお買い物ですか?そろそろ危険な時刻です。宿はどちらですか?お送りしますよ」


 声の方を見るとそれなりに立派な服装なのでしょうか。ミットさまの表現を借りますと「安っぽい金ピカ」と映る男、その後ろに3人、こちらの身なりは「チグハグ」なようすです。


「何がお送りだい。うちのお客に声なんか掛けないどくれ。ほら、あっちへ行きな」


 お姉さんが追い払おうとして下さいますが、男たちに退く気は無いようです。


「まあ、そんなことを言わずに。ほら、カップをお返しして」


 言われなくとも借りたものですから返すのですが。


「ふーん?面白いねー。

 お姉さん、ごちそうさまー」

「さあこちらですよ」

「ねー。あんたたちってどこのだーれ?」


 お姉さんが心配そうに見ているので、手を小さく振っておきます。


「これは失礼を。私はホンソワール男爵家の嫡男(ちゃくなん)テレクソンと申します。どうぞよしなに。

 こちらですよ」

「えー、そんな狭い路地に行くの?あたしはもっと広い道がいいな」

「いいえ、大丈夫ですよ。そのための護衛です。さあさ、こちらで休んで参りましょう」

「中に3人かー」


 金ピカがギョッとした顔をしました。


「遊びじゃないみたいね。どこかへ売るつもりかな?」


 あたくしは周囲のマッピングを開始します。終了しました。4人の重心移動をもとに引き続き次の行動予測を行います。


「ぐっ、捕まえろ!」


 後ろの3人の動きは想定の範囲を出ません。全体の重心を下げ本体の回転を使い右の歩行肢(ほこうし)を振り回します。

 2名の膝を破壊しました。こちらへ倒れ込んでくるところを一歩左へ避けます。


 金ピカと残りはミットさまが既に地面に叩き伏せています。アリスさまは5メル離れたドアが開くのをじっと見ています。甲冑(かっちゅう)に身を包んだ小柄な男がゆっくりと出てきました。一歩左へ寄ると同じ格好の男がもう一人。右へ寄ってもう一人。

 一斉に剣を抜き放つとアリスさまに斬りかかります。電撃が走り動きが止まる一瞬にアリスさまが右の甲冑に切り付けます。


 短剣は相手の剣を切り落とし、胸の装甲を半ばまで切り()きました。体には届いていないようで、驚いたように(よろい)が身を引きました。同じタイミングでミットさまも左へ切りかかって、こちらは剣を持った腕の中程で切り落としてしまいました。

 真ん中の男は一瞬戸惑ったようですが、あたくしに向かって剣を振り下ろす程度、想定にあります。振り下ろされる剣の腹に右の手のひらを当て、左へ押し出すと先程転がした男の背中へ落ちて行きます。左手を甲冑の腹に当て電撃を送りました。


 アリスさまが甲冑の首の隙間に短剣を挿し入れ降伏を迫っています。ミットさまがロープで順に縛って行き、あたくしが治療することになりました。死んだ者は居りません。


「さーて、ホンソワ。あんたの実家に行こーじゃないのー。

 案内しなー」

「おまえたち、一体何者だ?」

「いーんだよ、そんなことー。自分がやったこと、分かってるかー?ほれ、しゃんと立つー。しゃんしゃん歩くー」


「私の屋敷は遠いんだ。馬車でもなければ、今から歩いて行くのは無理だよ」

「ふーん?それならそれでもいーよ?縛られたままお寝んねしなー」

「分かった。この先に馬車がある。案内するよ」

「そーかい?ほれおまえたちも行くよー。しっかり歩きなー」


 ミットさまは縛られた7人を半ば引ずるように馬車まで行き、馬車の後ろに繋ぎました。


「なんでこんなことするんだ。馬車に乗せてくれ」

「ほー。おまえがそれを聞くのかー?どこへ売るつもりだったー?力でねじ伏せて通すつもりだったんだろー?ねじ伏せられたんだから大人しくしろよー?治療費もタダじゃ無いぞー。

 グズグズ言うとこのまま走らせるぞー?

 で、どっちだー?」

「ううっ、そこを右です……」



 案内に従って大きな屋敷の前へやってきました。門番が一人立っていますね。


「なんだー。近いじゃないかー。1ハワーしかかかってないぞー。

 ホンソワ男爵ってここでいーのー?」


「なんだ、おまえたちは?ここはホンソワール男爵さまのお屋敷だ。

 この馬車はお屋敷のもの?あっ、テレクソン様、なぜ縛られているのです?」

「ああ、ライクス。助けくれ。こいつらに縛られた」

「なんと!いや、しかしこんな小娘3人に男7人が縛られると言うのは(いささか)かおかしいのでは?」


「ふーん?あんたはどー思うー?」

「むむっ。薬でも盛りましたか?」

「治療ならしたけどー?腕が落ちたり、胸に穴が空いたりー?

 ここの当主って居るのー?呼んでもらえるー?」


「テレクソン様を解放してもらえますか?」

「えー?ダメだよー。悪いことしたんだからお仕置きはしなくっちゃー」

「では呼んで参ります。ここでお待ちください」


「ねー、ホンソワー。何人連れてくるかなー。

 いいとこ10人?もうちょっと居るかなー?

 楽しみだねー」

「おまえ、頭がおかしいぞ。なんだって言うんだ」

「でー?どこへ何人売ったのか教えてくれないかなー?」

「なんの話だ?そんなことは知らん」


「ふーん?指って切ったり折ったりすると、すっごく痛いんだってー。もちろんそんな時はすぐ治療できるよー。何回でもねー?」

「ううっ、うわぁぁ。まさかそんなことを私に……」


 あら、随分と気のお弱い方なのですね。そこで倒れてはお隣の方に迷惑です。皆さんの顔色が悪くなってしまいましたわ。


「あー、来た来たー。12人かー。アリスが長い剣作ってくれたから、あたい一人でいいかなー」


 馬車の中で鎧が持っていた剣とアリスさまの短剣を合成して、いつもお使いの剣をアリスさまが2本用意されていました。


「いいよ。今日は見てるよ」



 先頭は身なりの良いおじさまです。1メルの怪しげな黒い棒を持っています。後ろに3列に整列した者たちは同じ服に同じ剣を持っています。防具のようなものは見えません。門番は後列に居ます。


「私はホンソワール男爵家当主、フラクタルである。テレクソンが縛られていると聞いた。

 そちらも名乗っていただこう」

「あたいはミットだよー。後ろがアリスとシロル。コイツらを縛ったのは女と見て4人で裏路地の建物に誘い込んで襲おうとしたから。その建物には鎧が3人居て、ものも言わず切りかかって来たよー」


「ふう。

 テレクソン!」

「テレーは寝てるよー。何人をどこに売ったか聞いてたんだけどねー」

「そこにいるのはアルトルであろう。テレクソンを起こせ」

「はっ、テレクソンさま、起きて下さい」


 縛られているのは一緒なので、結構乱暴に足で揺すってますね。


「うぅーーん。

 は?お、お父様!」

「またやりおったな、テレクソン。

 一体どこまで家名に泥を塗るつもりだ。家が途絶えることになろうとも廃嫡(はいちゃく)にしてくれる。

 覚悟しておけ。

 さて、お嬢さん方は7人の男を連行した上に、この人数を見ても動揺すら見えませんな。

 私も末流とはいえこのパルザノンの貴族、こちらの都合で申し訳ないがご迷惑ついでに私と手合わせをしてもらおう」


「うん。いいよー。そのつもりで来たしー」

「お父様。こやつら雷を使いますぞ。剣も切り落とします!」

「ふん。それで心証を良くしようと言うのか。

 では、参る」


 それを受けてミットさまが1歩前へ出ます。彼我の距離は7メル。杖の先から荷電素子が飛んできました。ミットさまは杖の向きで難なく躱しますが、そこへ1メルもの範囲を巻き込んだ放電が飛びます。軽く左へ飛び退きます。どうしてあれが躱せるのでしょうか?顔を(しか)めます。


「ビリッと来たー」


 動きの止まったところへ、杖が足の方へ向き先から何か飛び出しました。さらに左へ動こうとするところへ鉄の玉が飛んでいきます。

 キィン!

 おそらく体に(しび)れが出ているでしょうに、剣を盾に弾いてしまいます。筒の向きを僅かに変えました。ミットさまがやっと左へ一歩動いたところへ

 カン!

 当たった音に構わずミットさまが4メル近い間を一飛びに詰めました。剣は下へ振り抜かれています。

 フラクタルの持つ黒い杖が中程からポタリと落ちます。


「痛ったいー」

 と言いながら剣を返して喉元に下から当てると

「参りました」


「アリスー、痛いよー」

「あー、分かったから。ちょっと手を入れるよ」


 アリスさまがキュロットの腰を緩めて脹ら脛(ふくらはぎ)まで右手を挿し込みます。肩の付け根までそれはもうズッポリと。この絵は男どもに見せられません。


「あ、はぁぁーー!くぅっ」

「あなた方は向こうを向いて下さいませ」


 ここはあたくしが守らねば。兵たちとの間へ立ちスカートを広げます。


「あー、()れて来たよー。ちょっと我慢しなよ」

「おい、さっきカンって音がしたよな?腫れるって?あれ、穴が開くだろ……」

「ぬぬ……代々受け継いできた杖をダメにしてしまった……」


 おや、そんな大事な杖でございましたか。


「杖を拝見します」


 そう言うとフラクタルさまは素直に渡してくれました。かなり古いものですね。ナノマシンの制御ユニットが組み込まれています。5種類の作用があるようですが、指示はどうしているのでしょうか?フラクタルさまを見ると(えり)についた紋章が目に止まりました。あれですか。この杖はあたくしの手には負えません。


「アリスさまにお願いされてはどうかと思います」

「なっ。これを直せると言われるか?」

「はっきりとは申せません。あたくしの手に負えないのは確かです」


「ミット、これでいいよ。しばらくは痛みが残ると思うよ」


 キュロットの腰のボタンを止めながらアリスさまが言います。


「うん。ちょっと変な感じがするだけだよー。アリスー、ありがとー」



「アリスどの。この杖は直るものであるか?」

「あー、面白そうな杖だよね。見せてね」


 受け取ると両方の切り口を覗き込んでいます。一方の端をパカっと開け5セロの円筒を取り出すと、フラクタルさまに差し出しました。


「これ危ないから持っててね」

「ほう。魔力がわかるのであるか?」

「魔力?あたしはバッテリって呼んでるよ?

 シャシュツカイロー?が切れちゃってるね。繋ぐだけで直るかなー。あと、これ随分古いねー。あちこち劣化してるよ。同じものを作っていいかなー?」


「同じものをか?そんなことができるのであるか?」

「あ、材料か。これ4日くらい借りてもいーかなー?」

「4日?まあこのままでは使えないからな。だが一人付けさせてもらいますぞ」

「それはちょっと困るかな。

 ……あ、大丈夫?近いセッケーズ?があった。

 なんとかなるみたいだよ」

「でー?テレーの方はどうするんだいー?」

「ああ、すまない。実はもう調べは付いているのだ。明日早々に関わった商人と手下どもを捕らえることになっている。見張りも出してあるので大丈夫だ。囚われた者も無事で有る」


「ふーん?ねー、このままでいーもんかなー?

 なんか収まりが悪いねー」

「そうだけど、被害があったわけじゃないから、しょうがないかな?ちゃんとしてねーで、一旦終わる話だよ。次はないけど」

「分かったよー。次はないのねー、じゃああとはよろしくー」


「杖はできたら持ってくるよ」

「ああ、ちょっと待ってもらいたい。費用を決めておきたい。当家も裕福とは言えないのだ。

 おい。この7人は身体検査の上一室に監禁しておけ。武装した見張りを置くように」

「「「はっ」」」


「あー、相場ってないですよね?」

「ありませんな。当家が払えるか別にすれば、100万と言われても買う家はあるであろうな」

「つまり100万シルよりは安い方がいいと?」


「めんどくさいねー。ここで決めなきゃダメなのー?アリスー、あんたの手間賃と材料費運搬費に3割乗せていくらになるー?」

「それだと多分5000シルくらい?」

「どーよ?」

「大変にありがたいが、他の家に知れると大変なことになる。まず、あなた方の身が危ない。修理ができると言うだけでも危ないのだ」

「んー?それだと値段がいくらでも一緒だよー。いっそ大量生産して、お宅で売るかー?1本1万とかで?」


「それは!何が起きるか分からないな。間違いなく当家に向かって様々な働きかけが来るだろう。出どころも探られる。最悪は攻め込まれるだろうが互いに牽制(けんせい)し合って動けなくなることもあるか。

 だが大量と言われるがどれほどであるか?」

「材料はあっちに戻れば揃うから毎月100本くらい?」


「そ、それはすごい数だが魔力はどうする?最低でも3つないと実戦には使えぬ」

「1本につき3つ付けるよ。さっきの計算で一つ2000シルくらいかな?充填(じゅうてん)はできるの?」

「各々の家に魔道具があるが、それほどの数では魔力の注入が間に合わぬであろう」

「あんたたち、どれだけ戦争する気なのー?

 あるだけで十分だよー。まどーぐは(あき)めなー。

 あとはいーかい?3、4日したらまたここへ来るよー」


   ・   ・   ・


 宿に戻ってみるとライトさまとマルコさまが待っていました。


「大通りの街灯も消えるような時間まで、どこへ行ってたんすかー?」

「えーっと?ここだとあれだから上に行こう」


 部屋へ上がるとこの宿の夕食から始まる長い話をアリスさまが始めます。蜜を水で割ってお出ししますとお部屋に香りが広がって、皆様の表情が心なしか緩みました。

 魔法の杖にはマルコさまが見たかったと嘆いておられました。値段の話になるとさすがは商人でございます。安すぎると散々に言われ、持ち込む時には同行を約束させられてしまいました。


 次いで明日の予定に話は進みます。この街で仕入れるべきは鉱石、魔石、宝飾品だそうで、何れも高価な物です。珍しい果物も多数ありますが、これまでは日持ちしないため買い付けできなかったそうです。香辛料も調べてくれるようです。明日は買い物、トラクまで往復に2日でホンソワール男爵家訪問という予定になりました。


「明日の朝また来るっす。メシがまずくても出ないで待ってるっすよー」


 妙な念を押されてしまいました。

 アリスさまはその夜遅くにガルツさまと話し合われておりました。


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