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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第7章 パルザノン
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3 パルザノン・・・シロル

 これまで:休暇に筈の西行きだったがアリスとミットの行く先々には騒動が絶えない。パルザノンを前にビクソン商会とガルツ商会の道路班が何やら揉めていた。

 夕方まで揺られて最後の道路班に追いつきました。何か揉めているご様子。

 近づくと相手はビクソン商会のようです。


「何かあったんですか?」

「あれっ?アリスさんにミットさんじゃないすか?なんでこんなとこにいるんすか?

 ビクソンのライトとマルコっす」

「あー、まあ休暇ー?観光旅行だねー」


「へぇー、それはうらやましいっす。うちの親父もそれくらい度量の広いところを……」

「でー?どうしたのよー?」

「いやー、言って良いのかなー。

 この先25ケラルにパルザノンって大きな街があるんすよ。それでこんな立派な道を、急に結んじゃって大丈夫かなって話なんすが」


「何かまずいことでもあるのー?」

「そーっすね。まず、あいつら、プライド高いっす。魔法を使うんだそうで。

 いやいや、オイラたちはアリスさん見てますから驚くもんじゃないんすが、未開の民の交易品を買ってやるみたいな態度でして」

「ねー、ほんとに魔法なのー?見たいー」


「いやーどうなんすかね。結構むにゃむにゃした感じで、ろくな説明もしてくれないっすからねぇ。誤魔化されてるって感じが付き(まと)うっす。

 それでオヤジに相談したかったんすが、ちょうど良いや。お願いしても良いっすか?」

「連絡は2ハワー25メニ後でございます。夕食後になりますね」


 あたくしが言うと

「オイラたち、ずっとろくなもの食ってないっす。ご馳走(ちそう)してもらうってわけにはいかないっすか?」

「あー、食べたいものとかあるのー?」

「もうなんだって良いんすが、オイラの好物は香草焼き肉っす。コイツは煮物が好きっすね」

「分かりました。ご用意いたしますのでお待ちください。ここにテーブルを出しましょうか?」



「それなら僕たち道路班の分もお願いできるかな?僕はマーク。こっちはアイクだ」

「はい、承知しました」


 クロにテーブルの用意を伝え、あたくしは台所へ向かいます。



 お酒も少し出してあげたのでライトとマルコは気持ちよく情報をくれました。マークもどこまで道を延ばして良いのか分からず気にしています。

 アラームがミーミーと鳴りました。


「ガルツさん、アリスです。ビクソンさんの交易路の端まで来たんだけど、25ケラル先に大きなパルザノンと言う街があるらしいの。交易は昔からしてたって言うんだけど付き合い方が難しいみたい。道も見せたくないってビクソンのライトさんが言ってる」

『ふーん?パルザノンな、ビクソンのとこに行って聞いて見るか。難しいってのはどう言うことだ?』

「なんでも魔法があるらしいよ。あんまりはっきりした話じゃないんだけど、こっちが上だ、みたいなのかな?プライドが高いって言ってたね」


『あー、そういうのか。で、こっちの技術が高いと見せたくないってか?一度切るぞ。話が(まと)まったらこっちから連絡するよ』

「はーい。ガルツさんがビクソンさんと相談してくれるって。話がまとまったら連絡が来るよ。

 パルザノンってどんな街?」


「そうすね。人口は16千くらいかな、出入りが多いんで2万はいないと思うんすが、高さ8メルの城壁で囲まれてるっす。中には広い畑なんかもあるっすよ。一度山から見たんすけど30ケラルの丸い形をしてるっす。

 南北から商品が集まってくるんでそりゃあ(にぎ)やかなもんっすよ。アリスさんの刃物には敵いませんが、ここらじゃかなり良い剣を売ってるっす。

 うちは穀物を持ち込んで生活用品を買ってましたが、この頃は鉱石を買うように……って使うの、アリスさんすよね」


「食料品は売れるの?」

「まあ、なんでも売れるっすよ?ガルツ商会のものを売ったことは無いすけど、売ればすごいでしょうね」

「あたいたち3人が(もぐ)り込むにはどうすればいいー?」

「ミットさん、行くんすか?え、3人って、シロルさん?」


「そうだねー。クロミケはいくらなんでも目立つでしょー」

「ああ、3メルっすか?片方ならいけるんじゃ無いっすか?ごく稀っすけど見たことあるっすよ?でも耳と尻尾はまずいっすね」

「ふーん?でっかいリュック背負わせて連れてくー?」

「あははは、面白そうー」

「まあちょっかい出すやつは、災難に手を出すようなもんっすから。

 でもあんまり引っ掻き回さなでくださいよ。良い取引先なんすから」


「そこは自信ないねー。あんた、案内役に一緒に来るかいー?」

「うえっ!オイラがっすか?いやまあ美人3人の案内なんて、滅多にできるものじゃないっすけど……みんなオイラより強いからなぁ」

「まあガルツの返事待ちだけどねー。ダメって言ったら観光だけ行ってくるねー」

「絶対それじゃ済まないっす」


   ・   ・   ・


 ガルツさまのお返事は朝食の前でした。


『ビクソンといろいろ話したんだが、お前たちできればそこで引き返してくれ』

「えー、大人しく待ってたのにー」

「そーだそーだー。あたいなんて枕濡らしてまってたんだぞー」


『何?枕?よだれでか?』

「あれー?なんでバレたー?」

「ミットはいいから。なんでよ?折角(せっかく)ここまで来たのにー」

『いや、お前たちに行かせたら戦争になるかもしれん』


「あー、それねー。大丈夫だよー、そんときはボッコボコにするからー」

『ウグッ!だから言ってるんだ。

 しょうがない。ビクソンのとこの二人も連れて行け。クロミケは留守番だ』

「やったー。

 道路班はどうするの?」


『そこで中止だな。そこにいるのはマークだったか?北ルートに回ってもらってくれ』

「むー。トラクとクロミケをここに置いて、ビクソン馬車でパルザノンに観光に行くっと。

 小遣いは?」

『そこにいくらあるんだ?』

「60000シルくらいかな?」

『金額を控えておけ。あとで精算しよう』

「わー、ガルツー、太っ腹ー」

『むう。それ、ズキっと来るんだが……

 ()め事は最小限に頼むぞ。あとなんかあったら知らせろよ。切るぞ』


「ヒューヒュー。パルザノンにおっでかけー。ビクソン馬車の荷物降ろそー。うちのを代わりに積むよー。アリス、物置作ってー。シロルー、耳と尻尾引っ込められるー?調理道具も少し持って行こー」

「おい、聞いたか?なんでそうなった?」

「オイラが知るかよ。きっと大変だぞ」

「ああ」

「アリスー、中にハッポー敷こうよー。きっと大変だよー」

「そんな顔しなくても、御者台にもクッション入れてあげるよ」


 マークさまにはウエスティアの十字街から北へ、道をレクサールを目指して延ばすように伝えてあります。急な事だったので、まだ片付けが済んでいないマークさまに見送られ、馬車は出発しました。

 25ケラルと言いますと夕方までに辿り付けるでしょうか?いくらも行かないうちにアリスさまが車軸にバネを追加し、車輪にハッポーを巻きました。格段に乗り心地が良くなりましたが、走る速度も若干上がったためそう劇的な変化とは行きません。


 お昼の休憩のあと坂を一つ上り詰めるとパルザノンの城壁が見えました。チズが更新されていないので概算になりますが、まだ11ケラルの距離があります。


「おーパルザノン。見えたねー。2万人近い人が住んでるってー?すっごいねー」

 ミットさまがはしゃぐ横で、アリスさまはすやすやとお休みですね。クッションのおかげで揺れがなかなか心地よいのです。ミットさまも30メニ経たずにお休みになりました。


「やっと静かになったなー。子供みたいにはしゃいじゃってよ」

「いーじゃないっすか。いざとなったらあんな頼りになるやつはそうはいないっすよー。見てくれは可愛いっすけどねー」


 それから2回の休憩を挟み日も傾いて来た頃、城門にたどり着きました。

 何度も来ているライトさまとマルコさまですから、すんなりと場内へ入りました。まずは宿へ行くそうです。


「マルコ。いつもの宿だとお嬢さんたちにはきついかな?」

「そうっすね、2軒隣にちょっといい宿があったっすね。お嬢さんたちだけでもあそこにしたらいいんじゃないっすか?」

「そうだな、近いし、いいだろう」

「さあ着いたっす。ここは落ち着けると思うっす。おかみさん、女3人っす。頼みますね。オイラたちは1軒向こうの安宿に居るっすからなんかあったら言ってください」


 馬車を降りると宿屋の裏手で、こちらはお店の搬入口が多くてあまり人通りがないですね。

 裏口から宿の受付に案内されました。


「マルコさんもライトさんもうちに泊まったらいいでしょうに。いつも大変ねぇ」

「いやー、ビクソンのオヤジに怒られるっすから。朝に迎えに来ますから大人しくしてて下さいよ」

「えー、折角の街だよー。屋台行こーよー」

「それは明日にして下さい。お願いっすから」

「プンプーン。つっまんないのー。いいよー、ぬいぐるみ作るからー」

「記帳終わったから行くよ、ミットー。3階だって」


 お部屋は4メルの5メル、右奥に3台のベッドが50セロ程の間隔で横に並び左に縦向きに1台、正面に濁ったガラスの入った窓がありました。


 荷物と言ってもリュックくらいですので、それぞれ支度をしてドアにカギをかけ食堂へ降ります。


 食堂は4人がけテーブルが5つあって2つにお客さまが着いています。奥の一つへ3人で座りました。メニューは無く日替わりの様です。

 いくらもしないうちに肉料理とスープ、パンを茶のワンピースに白いエプロンの女性が運んで来ました。

 アリスさまがスープを一口含んで顔を(しか)めました。温度を確認しますと28セッシド、かなり冷めてます。猫舌のミットさまも微妙と言った表情です。肉料理も低温と出ています。


 あたくしもスープのお味を確認します。味覚センサーは高性能なものですが、解析結果は塩味と(わず)かな野菜の旨味成分ですか。嗅覚は人間ほどではないのでコメントは控えますが、おそらく塩っぽい具材入りのお湯と感じられるでしょう。

 続いて肉料理に手を付けたお二人ですが、

「ダメだね。シロル、行こう」


 あたくし、まだお味見が……ダメとおっしゃるなら仕方ないですね。

 ミットさまが厨房(ちゅうぼう)に声を掛けます。


「これ、片付けはどーするのー?」

「ああ、そのままでいいよ」


 奥から声が返ってきました。


「よーし。部屋に戻ってお出かけ準備ー」


 リュックの中身を粗方出し、短剣だけ吊るすと少し日の傾いた街へお出かけです。

 ライトさまの宿に伝言を頼んで(にぎ)やかな方へ向かいました。


「わー、いっぱいお店が出てるじゃないー。

 あ、あの薄皮で巻いたの美味しそう!おねーさん、これ二つちょうだい」

「120シルだよ。うちのクレープは美味しいよ、贔屓(ひいき)にしてね」


 お肉と野菜が小麦の薄皮で巻いてあるんですね。皮は鉄板に塗り広げて薄く焼くんですか。手持ちで食べても崩れず、ふわっと食べられる薄さ。


「うん、美味しい!シロルー、味見ー」

「あ、はい、では一口いただきます」

 皮にも甘みがあります。ソースはいろいろなものを煮込んで作られています。コクがあってほんのり甘い。お肉はただ焼いただけですのによく調和しています。これはいろいろ試したい食べ方ですね。


「よーし。次行こー」


 足元が暗くなる前に柱の上のガラスの箱がオレンジ色に光り出しました。見ると柱に銅線が仕込んである様です。この色はナトリウムですね。灯りが点いたのはこの大通りの500メル、10メル間隔で3列、153本です。発電か蓄電か、興味はございますが今は屋台を楽しむ時ですね。


「串焼きだー。へー、いろいろあるねー。鳥、豚、鹿、うさぎ。おにーさん、2本ずつちょうだい」


 灯火のせいでお肉は少しオレンジがかってい見えますがそう違和感は有りませんね。


「はい、まいど。320シルだよ」

「シロル、今度はあたしの食べて」


 串には一口と言うには大きめの肉が3つずつ刺してあります。一番先のブタのお肉を半分噛み切ってみると、筋切りがされていてそれなりの肉と感じさせませんね。塩と少し辛味のある……わたくしの知らない香辛料があるようです。

 4本それぞれ肉に合わせた調理がされていて感心しました。


「知らない香辛料が3つ、もしかしたら4つ使われています。アリスさま、手に入るでしょうか?」

「へえ、明日ライトにきいてみようか」

「わー、美味しかったー。次は何にしよー。飲み物がいーねー」


 人混みを掻き分けるように進んでいくと、お目当ての果物の飲み物がありました。

 赤系は明るく見えますが青や緑は黒く見えています。あまり美味しそうに見えませんが大丈夫でしょうか?


「この薄いのがいいなー」

「あたしはこっちの黒いにするね。お姉さん、一つずつ頂戴」

「あら、嬉しいね。

 あんた何笑ってるの。あたしだってお世辞は分かってるよ。

 ごめんね、お嬢さん。うちのトウヘンボクが失礼したわ。200シルです。カップは返してね」

「「はーい」」


「はい、シロル、味見ー」

「次はあたいのー」


 なんの果物かは分からないけれど、丁寧(ていねい)に絞られているのが分かります。布地で()してあるのでしょう。どちらも甘味料を加えていないようですが、個性があってさっぱりとした甘みですね。


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