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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第1章 トラーシュ
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6 馬車の旅

 これまで:トラーシュを出た後、追いかけて来た5人の男を倒し馬車を手に入れた。馬車は汚い荷車だったが馬は拾い物のいい馬だった。

 馬車を手に入れたので移動距離は(はかど)っている。この子は働き者だが結構な大食らいだ。

 とはいえ道端の草でいいんだから、見かけたらごっそり刈って荷台の後ろの張り出しへ積んである。ガルツは花も何も一緒くたに刈って、ミットにやり込められたのを思い出し顔を(しか)めた。


 もう3箇所の町や村を通過してイミジア王国の国境も近い。あの森を出て120ケラルを走破したと思われる。右手に頭の白い山の連なりが迫って来ている。気のせいか少し寒く感じるのはあの山のせいだろうか。


「今日はこの辺りで野営するか?」

「「はーい」」「ブヒヒン!」


 ここは旅人の野営地のようだ。水場が近いのはいいが薪木はほとんど落ちていない。それどころか立木も近くにはほとんどない。皆切り払われたのだろう。

 左手は海があるはずだが遠くに霞んで森が見えている。森の手前はおそらく湿地だ。その水がここに集まって水場になっているのだろう。


 ガルツは馬をポツンと一本ある立木に(もや)って大食らいで働き者の馬、ピピンの前に水桶を置いてやる。


「ピピンもよく走ってくれたな。さあ水だ。草もすぐ持って来るからな」

 そう言いながら大きな水壺からダバダバと桶に水を注ぎ足し、飼い葉桶を荷台から引き出した。

 パタパタと板を拡げて箱形をつくると乾いた草を詰め込んで置いてやる。夢中で食っている姿にいつもながら癒される。


「そっちはどうだ?」

「もう用意できるよー」


 折り畳みの低い台が二つ、小さな椅子が3脚。焚き火の上には鍋。

 今日は燻製(くんせい)肉を蒸して見ようと馬車で盛り上がってたっけ。どんな味になるやら。

 昼に飼い葉を刈った時に、アリスが毒のない草だといって3つの袋いっぱいに採っていたから、どんなことになるかって心配もある。

 アリスの目には毒が赤い点々になって見えるのだそうだ。毒があると言われれば食わないし

、今まで当たったことはないから、まあ大丈夫だろう。


「どーかなー?」

「いーんじゃないー?」

「あっけるよー、じゃっじゃーん」


「おぉ、燻製の香りがすごいな」

「これは期待できそーだねー」

「はーい、スープ、よそうよー。ミット、お椀だしてー。次はあたしのー。ガルツさんは山盛りー。さあ食べよー」


「塩味が少し薄いか?燻製だからな。少し塩を足そう、ほれ、お前たちも入れるか?」


「「ふー、ふー、自分でやるー。しょっぱいのはや!」」

 昨日の晩飯で入れ過ぎたのが悪かったか。


「むむっ!?こ、これは!?」

「どーしたのー、ガルツー」


「燻製肉のいい香りがさっき蓋を開けたときにほとんど飛んでった。かな?」

「えーっ!………あらー、不味(まず)くは無いねー」


「味はスープに落ちた分、少し薄いけど残ってるからな」


「そっかー、じゃ、飛んでかないよーに葉っぱで包んで蒸すとかー?」

「きれいな葉っぱってまだあったか?」

「あー、あんまりないー。いろいろ使うもんねー」


「なかなかあんなに大きな葉っぱはないからな。まさかくっ付けー?……られるか?……アリス……?」

「んー……できるってー」


 マノさんがすんなり返事をくれたらしい。ガルツは疲れたように息を漏らした。


「はあ……」

 できるのか。あれは理不尽だよ。



「さて飯も済んだから寝る準備か。ここは見晴らしが良い分なんにもないからな、石にでもケッカイを結ぶか。15も置けばグルッと回るるな」


 ケッカイと言うのは、最初の野営でガルツが夜通し見張りをして起きていた。それを咎めたアリスがマノさんのセッケーズを漁った。それでできたのが動くものを感知してけたたましい音を立てる道具だ。


「街道のすぐ脇だもんねー。誰か通るだけでビービー(うるさ)いよー、きっとー」


「ああ、そうか。もっと離れたところへ移動するか。ピピンを(もや)うのに都合がいいと思って、ここにした俺が浅はかだったな。よし一回荷物積むぞ。ピピンもこれ一回しまうからな」

「ブフルゥ」



「なあアリス。トラーシュの町で見た、ろうそくみたいに光るものは作れるか?」


「んー………まーたマノさん、ごちゃごちゃ言ってる……だから分かんないって、ポッとこの辺だけ明るくするものは?……いっぱいあるの?ちっちゃいのがいい。皮と鉱石だってー」

「できるのか。寝る準備ができたら頼む。ここらでいいか」


 ガルツは馬車に輪止めを掛けピピンは馬車に繋ぐ。

 木が一本あれば馬車と木でテントを張れるのだが、今夜は荷台で寝るようだ。

 ガルツはピピンに飼い葉と水桶を下ろしてやり、テーブル、椅子、直した防具など大きいものをおろして、皮から作った薄い幕で(おお)いをする。細いロープで括って外はこれで良しとする。


 どこかの街へ寄って板を手に入れて、使いやすい馬車を作りたいな。

 ガルツはそう思いながら荷台の4隅にフシだらけの柱材を当てあちこち細いロープで縛って三角屋根の骨組みを作る。これを使うのは3日ぶりだ。


 てっぺんの棒に振り分けになる様に畳んだテントを紐で3箇所固定して、細長く丸めていた紐を2本解くと重みで半分くらいテントが下へ転がり落ちる。

 ガルツは地面に降りると御者台にはしごをロープで固定するとアリスとミットに声を掛けた。

「中を頼む」


 テントの裾を伸ばして荷台の下に紐で固定していく。

 後ろの飼い葉のところはやりにくい。

 この馬車は荷台の幅2メル長さ3メル半。床の高さが1メル、高さ50セロの板が荷台をぐるっと囲っている。そこに後ろに50セロ、ガルツが改造して飼い葉を積める様に伸ばした。

 今はその上に3角のテントを載せた格好だ。

 車輪は1メルと70セロ、厚みも10セロとゴツいが、これくらいないと長く使えない。


 新たに作るならテントは四角い感じで、張りっぱなしの方が雨でも荷物が濡れなくて良いな。野営の時は横にテントを拡げて、風が吹いても転がらない様に両側へロープを張るか。

 荷台と張り出しのテントは中で行き来したいな。となると荷台が高すぎる。車輪を小さくするか、車軸に荷台を吊るか、荷物は積みにくいし邪魔だが低くなれば安定はいいはず。


 そこまでガルツが考えたところでミットがテントの裾を捲って顔を出した。

「ガルツー、中いいよー。ケッカイはもうやったー?」

「あ、すまん。考え事してた。これからやって来る」


 ガルツが足早にケッカイの黒い紐をいくつもの石に結んで、周囲へ配置を終えて戻ると焚き火を見ながらアリスが灯りを作っている。手元がポッと光った。相変わらず何か作ると言ったら早い。


「あ、ガルツー。ごくろー」

「ああ、もうできたのか?小さいな?それ、手に持って熱くないのか?」

「うん。ほら!」


 投げ渡されたのは4セロくらいの円盤だ。縁が黒く両面の膨らみは白い。厚みは半セロもない。


「真ん中を(つか)むと光が変わるのー」


 ガルツがミットに言われた通り真ん中の白い部分を挟む様に摘む。明るく光るが熱くはない。もう一度やると消えた。もう一度やると少し暗くなり、もう一回で元の明るさに戻った。消えるところまでやってアリスに返す。


「それ、端っこに紐を通す穴をつけられないか?ぶら下げた方が使いやすそうだ」


「あ、そーだね、猫耳付けちゃお。これでどーだ。でもってこーか?」

 アリスは馬車の上の方に灯りをぶら下げ、光を強くした。


「いいなー、明るいじゃーん」


「本当に暗くなったら、一番暗い光でないと周りが見えなくなるぞ。明るいものを見た後は闇に慣れるまで時間がかかる」

「そっかー。そうだねー、でも灯りがあると暗くなってもいろいろできるねー」

「それ一つずつ持ってるようにするか?

 それでだな、馬車を作ろうと思う。コイツは荷馬車だし、汚いし、使いにくい。

 次に街があったら、そこでテントが張りっぱなしできる馬車を作りたい」

「ふうーん、どんなのー」


 ガルツが地面に絵を描いて説明するが、細かいところは線が重なってしまい上手く描けない。見ていたアリスが

「門とか、宿にあった紙とペンがいいね……草の布はガルツさんのリュックか」


「あたいが持って来るよー」

「あ、鉱石も要るって」

「じゃあ、俺が取って来る」


 ガルツはリュックごと持って戻ると、アリスの横に置いた。他に何が必要だと言い出すかわからないから。

 アリスが左手に皮の塊を持ち右手をリュックに突っ込むと小さな石を一つ取り出した。両手を重ねると、にゅうっと白くて細い棒が出て来た。ペンらしい。

 差し出すのでガルツが受け取ってみると、端に赤青黒の模様がついているが、ペン先のようなものはない。

 アリスは続けて草布を取り出して、ピローって感じにペラッペラの白いやつを引き出す。あれは紙か?

 ちょっと首を傾げると、皮の塊を引っ張って伸ばし始める。縦横に引いてできた板に、白い紙らしいのを載せ端を撫でると挟む仕掛けが出来る。


 何が何だかわからず呆然としているガルツにアリスが手を出すので、さっきの棒を渡す。黒い模様を弄ると反対側に小さな突起が出て来る。


 アリスは棒を握って

「えーっとね。最初のこれがペン。色が3つ?出るって。で、この白いのが、紙。そのままだと描きにくいんで台を作ってもらった。今、色は黒」

 と言って紙の端の黒い線で丸を描く。

 続けて赤と青の丸を描いた。


「はい、ガルツさん。紙はいっぱい作れるからどんどん描いて」


「お、おう……今の馬車は見ての通りだな。

 木がそばにあればテントが使えるが単独だといろいろ面倒だ。

 それで骨組みを作り付けにして四角いテントを張ったままにする。これだけだと寝起きには場所が足りないので、例えばこう横の両側に風が吹いても馬車を倒されない様にロープを張る。そのロープにテントを張ると中が広くなる。荷物が脇に下ろせるし、うまくやればここで焚き火もできる。

 ただ荷台が1メルもあって高すぎる。ゴツい車輪の車軸の上に荷台があるためだが、車輪自体も邪魔だ。

 あまり車輪が小さいと穴にはまったりしやすくなるし、長持ちしないんでこの大きさなんだが……」

「「マノさん!」」


 アリスの独り言が始まる。

「じゃあ、車輪ね………わ、またいっぱい、この辺ので出来るやつだからね、あ、ひとつになった。何よー今まで、できないのも並べてたの、ひっどーい。………えーっとね、あ、一緒だ。丈夫にするだけかー」

 (はた)で聞いていてもよくわからない。


「いっぱい案はあったが材料がないってことか。材料を聞いたところで何処にあるのかも分からないのでは仕方ない。車輪と荷台全部作り替えるのは出来るか?」


「……さっきの木が4本くらい要るって」

「倒すのに斧が要るぞ」

「この間の要らない武器がある」

「そうか。東は多分湿地だから西の山へ行ってみるか。後は揺れがひどいんだが、なんとかなるか?

 お前たちハッポーの上だからまだマシだろうが、御者台は結構激しいんだ」

「「知ってるよー」」


「んー……イタバネー?スピングー?……作ると斧が無くなる?」

「鉄が足りないか。馬車の新調が先だな。材料があれば改造は早いもんな。じゃあ、片付けて寝るか」

「「はーい」」


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