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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第7章 パルザノン
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1 休暇 2

 これまで:ひさびさのまとまった休暇をもらったアリスとミットはトラクで長い距離を走りたくて西ルートをシロル、クロミケを伴って走り出した。途中寄ったウエスティアの片付けが進んでいない。ちょっとちょっかいを出すだけのつもりが。

 あたしはウエスティアのウィルマを相手取って交渉を成立させた。支店の用地は確保できたね。


「午後に見に来るって、忙しいよー。角の100メル、一気に片付けるよー」

「おー」


 街道でさえ6メルしかないのでトラクを真っ直ぐに向けられない。それが崩れた瓦礫でいいとこ5メル幅なので、あたしが3メル幅で交差点の角に先に分解マシンを撒いて行く。

 その分の片付けが終われば横移動のトラクが余裕で嵌るので10メル幅100メル一気の分解が出来る様になった。そうなるとクロミケが大忙しだよ。分解でできるのは木質と鉄、石ばかりだね。珍しいものはほとんど出ない。


 奥側から始めて50メル角が確保できたので地下室付きの40メル角の建物を地面から持ち上げ始めた。屋根に3階分の屋根裏部屋を作ったところで角地の分解が終わった。お日様発電は南向きの屋根半分で材料が無くなった。

 まあ充分だけどね。トラクを土地の中へ入れてお昼だよ。クロミケも通路分が片付いたら休憩させた。落ち着かないからね。その分シロルがあたしたちの給仕で忙しい。


 外にベンチを作ってお昼寝してたら、ゾロゾロと子供の混じった20人くらいがやって来た。


「ウィルマー。ちょっと早いんじゃないかなー?見せられるだけできてないよー?」

「いや、すまない。もう待ちきれないみたいでな。この三角屋根が向こうから見えたら押さえ切れなかった」

「あー、そうかー。この高さになれば見えちゃうのか。シロルー。なんか食べられるものあるー?」


「いや、いいよ。そんなつもりで来たんじゃないから」

「はい、アリスさま。22名様でございますね。10メニお待ちください。ご用意いたします」

「だってさ。クロミケー、木質(セルロー)、二つ持ってきて」


 クロとミケはコクンと頷いて手近な木質をあたしの前へ置いてくれた。でっかい猫耳ヤロー(クロミケ)が動くのを見て、みんなビビってるね。テーブル10人がけ3台と椅子30脚を作ると、クロが並べてくれて、あとからミケが布を資材庫から出して水拭きを始めた。ミットがシロルの料理を運んでくる。


「みんな、食事の前に手を洗ってちょうだい」


 あたしが水壺と石鹸(せっけん)を示して言うと、並んで洗い始めた。ウィルマが子供達に言い聞かせているのが微笑ましいね。


「手を洗った人はお皿運びを手伝ってもらっていいかな?」

「「「はい」」」

「お皿とフォークは行き渡った?じゃあ食べてね」


 さすがに色も大きさもバラバラだけど、こんな数の皿やフォーク積んであったっけ?


「ねー、シロルー。あの食器どうしたの?」

「わたくしの趣味で集めておりました。まだ3人分ございます」

「お茶も出すの?カップは大丈夫?」

「あら、カップはありませんね。アリスさま、お願いしてもよろしゅうございますか?」

「あー、分かったよ」


 材料庫からきれいそうな|木質《セルロー

 》を握り取って22個の白いカップを作った。ミケが水拭きしてテーブルに並べて行く。あんな太い指で!器用だよねー。

 シロルが鍋でお茶を用意して、お玉で注いで行くと食べ終わったものが順に回して、配って行った。

 この手際を見るとここの人達、なんとかなりそうだね。


 お茶までみんなが飲み終わったのでウィルマが代表で立ち上がった。


「急に押しかけたのに、こんなにご馳走(ちそう)していただいてありがとう。朝聞いた条件でここにいるものは納得した。明日からと言わず、今からでも手伝いたいと言って集まったくらいなんだ。よろしく頼む」

「はい、でもこちらの準備もありますから手伝いは明日の朝からですよ。後の51人はどうされますか?」


「42人が採取や狩猟(しゅりょう)で朝から出ているので話せていない。1人は怪我で寝ている。8人は年寄りだ」

「ここにいる9人に会わせてください。シロル、用意してちょうだい。ミット、片付けと作業の続きを頼んでいい?」

「あいよー」

「アリスさま、用意できました」

「うん、じゃあ案内して」



 怪我人と言うのは足に裂傷(れっしょう)を負って、それが化膿して2日、高熱を出して唸っているスペンスと言う男だった。傷は倒木の枝が右太腿の真ん中に刺さったそうだ。まだ壊死(えし)は起こしていないとマノさんは言っている。これ、なんとかなるの?……7:3で危ない……


「助からないかもしれません。本人の頑張り次第です。できることはしますので声をかけてやってください」


 マノジェルの毒素分解を強化して傷口へ塗り、口からも飲ませた。

 親しい者が呼ばれ声をかける中、あたしは体を温めて水を飲ませる様に指示した。マシンが分解した毒素を体外へ排出させなければならない。とにかく(はげ)まし水を飲ませ、おしっこを出させろ、朝まで生きていればおそらく大丈夫と言ってその場を離れた。


 8人の年寄りたちは男を心配して隣の部屋に詰めていた。皆が戻るまで看病もしていたらしい。

 ラクセルという髭の長い長老が言った。


「スペンスは助からん。だが手を尽くしてくれたあんたに礼を言う。ああやって体に空いた穴が腐り始めて助かったものはおらんのだ。手をかけていただき、ありがとう」

「そうですか。それについては朝の様子を見てからにしましょう。あなた方の体調はいかがですか?」


「ジュノー、おまえから順に答えてやれ。わしは最後にする」

「わしはジュノーじゃ。63になった。10年前に腰をやってのう、以来あまり歩けなくなった。手先が器用な方じゃから歩かんで済めば何かの役には立てるじゃろう」


「上を脱いで立ってください。ズボンも少し下げますよ」

「これは恥ずかしいのう」

「ジジイは恥ずかしがったりせんもんじゃ」


 あたしはジェルを骨のずれたところに塗る。


「治るか分かりませんがちょっとやってみますね。我慢できるところまで屈んで。

 ……伸ばして。

 もう一度屈んで。

 ……結構です。しまってください。直るとしても3日くらいはかかります。それはそれとして仕事はしますか?できる仕事を割り当てますので明日は来て下さい」


 多い人は4ヶ所5ヶ所と故障を抱えていた。その全てにジェルを塗り付け動かしてもらった。

 ラクセルさんにも同じ様に処置をしてあげたけど、どのくらい効果があるのかは初めてのことなのでわからない。


 2ハワー程で処置を終わらせ戻るとミットが3回目を終わらせていた。あたしは5階建ての続きをやってしまい、水の探査と並行して鉄から農具を作る道具と木質から透明板を作る道具、それに分解ブラシを3つとベンキーを20台作った。


 夕飯の時間になったので今日はこれでおしまい。


   ・   ・   ・


「嬢ちゃん、スペンスはまだ頑張っているよ」

「そうですか。食べられる様なら肉汁なんかが良いです。まずは養生させてください。落ちた筋肉の回復には時間がかかるから」


「あたしは今朝からなんだか肩の回りが良いんだよ。腰がこれだけ曲がってりゃあんまりご利益はないけどね、ケケケ」

「そうは言うが、テージ、腰が少し伸びとりゃせんか?」

「そうかねえ?自分じゃわからんわな」

「わしも膝が軽い様に思うがまだ朝だしな、分からん」

「「「「あっははは」」」」



 朝に集まった者たちにパンを配ったあとに住み込みの寮の整備をさせた。部屋があるだけで家具がひとつもないので、ベッドと板を木質(セルロース)から作る道具を作ってあげた。大工道具はあるようなので後はなんとかするだろうと思っていたら、鉄から釘を作る道具が追加になった。


 下の隅に若い男が3人固まって何やら相談事らしい。ミットをチラチラ見てるからお目当てはミットか。そんなの気配読みに長けたミットには筒抜け…って、知るわけないか。


 2階はシロルが台所を整備している。水の配管をすると欲しい調理器具や食器をたくさん注文された。女衆も集まって来てわいわい言いながら中の整理をしていた。

 昼前に食料トラクが到着した。


「ご苦労様ー。今着いたってことは夜中に向こうを出たんだねー。おろしたら少し休んでいくといーよ」

「なんだって?それじゃろくに寝てないのかい?

 おーい、あんたたちー。荷下ろしを手伝いなー。この人昨夜から寝ないで走って来たってよ」


 男たちがわらわらと集まって来て、食材の仕分けで台所は大騒ぎになったが荷台は瞬く間に空になった。

 台所が片付くとそのまま料理大会が始まった。よく分からない料理も混じっていたが、とにかく腹は膨れた。みんなしあわせそうな顔をして腹をさすっていた。


 午後からは今の家から家財道具を運び込むと言うので手押し車を10台前倒しで作った。馬車もあるので充分だそうだ。

 ミットは余った子供たちを集めて文字と計算を教えている。落ち着くまでは何もできないかと思っていたら、年寄りたちが道具の使い方を聞きに来た。作ってあった道具の説明をしたあと実際にやってもらうと、上手に使えるようだった。


 それを見ながらあたしはマノさんに温泉の探査をやってもらった。ここは1160メルで110セッシドの塩泉に当たった。

 もう幾つもお風呂は作っているので、それほど時間もかからずに屋根付きの浴場はできた。桶など道具も揃えて夕方にはお湯が入ったけど、しばらくは温度調節が欠かせない。どんどん熱くなることを年寄りたちに説明しておいた。


 夕食の前に5人が相談があると言って来た。


「折角立派な家を建ててもらったんだけど、わたしら今の家を出るのは忍びないんだ。仕事はしますんで、通いではダメですかの?」

「それは自由にしてもらって構わないよ。いろんな事情もあるだろうし」

そう伝えるとほっとしたようだった。


 明日は休みにした。こんな調子じゃあたしが持たないし、家の整理もあるだろう。ミットと二人でトラクに篭った。

 シロルは食堂に指導に出かけ、あたしがベッドで殆どの時間を過ごしているそばで、ミットは楽しそうにぬいぐるみの在庫を増やしていた。新作の型紙起こしもさせられちゃったよ。


   ・   ・   ・


 3日でガルツ商会の予定地の分解作業は終わった。あたしが建てた50メル角の倉庫に金属類を積み上げてもらっている。木質と石材は隣を整地して外積みにすることにした。

 そのあと街道とそれに交差する十字街にブロックを敷いて、12メル幅の広い道路にした。両側に歩道の付いた総延長で2ケラルちょっとの中心街、4日かかった。


 もう2日でサーラムがやってくることになっている。報告もしてあるしそこそこの基盤もできたと思う。サーラムたちが来るまで、残りの廃墟(はいきょ)の分解を続ける様に指示して、西の道路を進んでみることになった。


「帰りにまた寄るからねー。バイバーイ」


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