5 立て直し2・・・アリス
これまで:レクサールの乗り場。乗り換えが出来るはずの街は滅んでいた。立ち寄ったレクサールという町もケルヤーク同様行き詰まりが見えていた。領主とやらの悪政のツケ。ガルツはアリス、ミットに加えクロミケとシロルを共なって領主屋敷へ踏み込んだ。
あたし達はこうしてレクサール領主の兵を制圧した。
「あたいはミットだよー。あんたら兵隊は領民を虐める為に居るのかいー?この町でも孤児や年寄り、体を悪くしたものが飢えてるのは知ってるかー?6つの町村じゃもっとひどいって知ってるー?
何と戦う兵士なんだい?ここらにどんな敵が居るのかなー?
面白くない奴は出ておいで。あたいが相手するよ。レクサールの兵士の実力を見せてもらおーか」
「………」
「なんだい、ひっどい兵隊だね。こんな根性なし、全員ボタン付きでいーかもね」
「そんな!俺たちだってやりたくてやってたんじゃないんだ。こうなったら言うが、逆らうと家族がひどい目に遭うんだ。それで仕方なく……」
ミットが呆れてるよ。
「誰が遭わせるのかなー?人数はあんたたちの方が多いよねー?他にも穀潰しがいるのー?」
「いや、それは……」
「なんだろーね?命令されたから同僚の家族に酷いことして来たってことでいいのかな?」
「「「「…………」」」」
「もう領主さんも将軍さんもそんな命令はできないよ。食料の分配が不公平だってことは分かったよ。みんなが食べるだけの食料が穫れるのか、分かるものは居るかな?」
「去年は不作と言うほどではなかったのですが、全員にとなるとおそらく足りないかと思います」
「ふうん?あんたは?」
「3番隊隊長のカールです。食料移送を担当しておりました。私の部下の18名が各町村の食料庫を警備しています」
「親衛隊のヤンソンです。ここの食料庫は親衛隊の管理であります。私も全員にはとても足りないと思います」
「親衛隊ねえ。あたし達に協力する気はあるのかな?今リッツさん達が町で自治組織を作ってるはずだけど、あなた達兵士はその下に入ることになるよ。
あと、数が多すぎるよね?一体何人居るの?」
「兵は150名であります。自分は町のために働きたいと思います」
「兵士じゃなくたって町のために働けるよ。食料を増産しなきゃいけないのは今聞いた通りだし、他にもやっていかなきゃいけないことはたくさんあるよ。
けど当面は食べ物の分配だよね。カールさんとヤンソンさんだっけ?食料庫を開放してどのくらい足りないか報告してちょうだい。
明後日にはあたし達が手配した食料が届くよ。それまで持ちそうなのかな?」
「村の備蓄は少ないですから、ここの食料を回す必要があるかと思います」
「どのくらいの量が来るか分からないのにあまり持っていかれても困るぞ」
「ああ、もう!
あんたたちー、分かる範囲でいーから二日分の必要な食料とー、しまってある分をここに書き出しなー。細かいのじゃなく馬車で大体何台でいーよ。分配はこっちで決めるー」
カールに食料庫開放の伝令を出してもらい、集計してみると4日分くらいありそうだった。遠い村に多く配分して調整した。
「むう。俺の出番が全くなかった……
死人は一人も居ないからいいか」
ガルツさんがぼやいてる。前に出ないのが悪いんだからしょうがないね。
「リッツー、終わったよー」
「ミットさん一体どうなったんですか?」
「領主はボタン付きになるよー。ボーッとしてる場合じゃないよー。街に戻って自治組織立ち上げなー」
「あの、ボタン付きってなんですか?」
「あー、ごめん。言ってなかったー。ボタンは本人を探す道具だよー。脳に56本だったかなー、細い線を繋いで悪意を持てないようにするんだよー。ほんとにいい人になっちゃうんだー。あんたも頑張んなー」
東の2つ目の村の手前の道がひどい難所になっていると言うので、ちょっとミケを連れて行ってくることにした。リュックに必要そうなものを詰めたらあとは任せたよー。
途中でミケが伝令の馬を追い越しちゃった。
「先に行ってるねー」
チズで見ると50ケラルくらいだけど1ハワーかからなかった。
右手の川が溢れたのかな、30メルにわたって土がグズグズになっている。これでは馬車どころか馬も人も歩くだけで大変だ。
6メル幅の道を50メル作って繋いでしまう。
チズで地形を見ると川が大きく曲がっているせいで溢れたらしい。
あれあれ?次の大雨が来たら村が流れてしまいそうだよ?うわっ!入り口のところが大きく抉られて道がギリギリになってるよ。崩れないように100メルにわたって壁を作ったけど、これはちょっと直すってわけにいかないなあ。
戻ったら相談しよう。
道を直しながら戻ると午後も遅くなってしまった。
あたしは食料を持ってくるトラクの帰り荷を用意したくて、町の北のおばあさんのところへやった来た。
「こんにちはー」
「おや、アリスちゃん。よく来たね、何か用かい?」
「明後日、うちが注文した食料が大きな馬車3台分着くんです。その帰り荷物を探してるんですよ」
「ああ、なるほどねえ。空で帰すのは申し訳ないね、西の山の竹はどうだろうかね。竹細工を死んだ爺さんがやっていたんだよ、ほらこれだよ。もういくつも残ってないけど」
そう言って出してくれた細工は半割の青竹を額縁のようにくり抜いて彫り上げた竹林だった。6本の竹が交差するように立ち並び細長い葉がひらりと何枚も舞う。一本一本の竹の節まで再現されて竹林の静けさを感じるような彫り物だった。
「へえー、凄いですね」
「そうだろう。あたしの宝物さ。これだけ彫れるのは爺さんだけだよ。青竹はいろいろ使えるよ。足場を組んだり、節を抜いて筒にすると水が走ったり。あとはそうだね、細く削ってカゴを編んだりもしたもんさ。ああ、カゴは一つあったよ。ほら、これだよ。いろんな編み方があってね、これはかなり凝った編み方のカゴだよ」
「カゴはいいですねー。編んでる人はいますか?いろいろ見てみたいんです」
「ああ、そこのうちがカゴ編みの師匠でローレンスと言うんだよ。元はあたしが教えたんだよ。そこからいくつか新しい編み方を考えたらしいよ。見せてもらったらいい」
「ローレンスさんですね。行ってみます」
ローレンスさんの家にはたくさんのカゴがあった。売ってもいいと言うものは全部買い取った。地下温泉の内職に良さそうだもんね。見本がないとこんな複雑なのはちょっと編めないよ。竹も仕入れるとしよう。
「ガルツさん、ミットー。聞こえる?
西の山に竹っていうのがあってカゴの細工をしてるみたいだよ。カゴは少し買ったから竹も買えないかな?内職にいいかもしれない」
『分かった。俺も探しているがなかなかないな』
『こっちはお酒があったよー。となり村で強いお酒をつくってるってー』
「へー、それいいね、あとで見に行こうか。それと2つ目の村まで道は直して来たけど次の大雨が来たらあの村流されちゃうと思うんだ。早めに堤防を作りたいよ。10日くらいかかりそうだよ」
『それはあとで相談しよう』
「うん、切るよ」
夕食後の会議で領主とその奥方、一族の中で強硬な物言いをする5人、将軍と隊長格3人のボタン付けが決まったと聞いた。
明日はボタンと酒竹でいっぱいだね。
・ ・ ・
3日ほどバタバタしたけど川の堤防を直しに行けるよ。雨が降らなくてほんとによかった。
クロとミケは開墾の手伝いでガルツさんに抜かれたし、ミットも温泉施設の整備を大工にさせると言ってレクサールに残ったので、シロルとトラクで村までやって来た。カールに話は通してあるので、案内役が2人付いた。
リッセルというおじいさんとジークは16歳くらいの男の子で連絡役だそうだ。
リッセルさんによると、川は40年前には150メル北を流れていたそうだ。その頃もすでに大きく曲がって流れていたけど、年々曲がりが大きくなってこの入り口と村の向こう2ケラル辺りに食い込んで来たらしい。
チズで見ると4ケラル北西からここへほぼまっすぐ流れて来て、ここで大きく北へ流れを変えている。その後はすぐに北東へ行って2ケラル先でまたこちらへ戻って来るのだ。
この4ケラル手前からまっすぐに次の曲がりまで結んでしまえば、村が削られることはなさそうだ。
とはいえ、水が近くにあるのは灌漑などに便利なので、水門を作って大水の時だけ向こうを流れるようにしよう。
まずここに仮水路を作るとしようか。
リッセルさんに見せた計画は、3ケラルにわたって箱を並べて仮水路を作る事、今の川の分岐点に水門をつけること。普段は今の川を水が流れるけど大水の時は入り口の水門を閉めて仮水路に流すというものだ。
水門は壁厚が50セロの箱で中を1メル厚の壁を横に動かして流れを堰き止める。動力は滑車を使って馬で引く予定だ。マノさんが言うには、何度も引き綱を掛け替える必要があるけど、軽く動くそうだ。
アイナ村の3ケラル上流に3メル幅の橋を架けた。チズの線に合わせて川幅とほぼ同じ50メルの箱を作り地面を川底から6メル持ち上げる。
この大きさだと長さ10メルの箱が精一杯だった。持ち上がった土が崩れるけど川が塞がらない限り放置だ。あとで片付けるよ。
もこもこと土が持ち上がるのを眺めながら、シロルの淹れてくれるお茶を飲む。甘いお菓子も付いている。位置決めとマシンを散布するのはあたしだけど、前回分のマシンの回収は梯子で7メル下へ降りるのが大変だからと、ジークが箒を持ってやってくれた。
一度に2ハワーかかるけど一つおきに5つずつ作って行くので、仮水路は12日でできる勘定だ。
これが繋がらないうちは水門が作れない。雨が怖いよ。いよいよとなったら村の入り口に曲がった壁を建てるつもりだけど、耐えられるかなんて分からない。
トラクが運んできた食料はこの村にも分配された。とにかく一息吐ける。でも川の整備は気が抜けない。
・ ・ ・
大きな雨が降らずに済んで、予定通り仮水路の工事が終わり入り口側の崩れた土を使って水門を立ち上げることになった。
リッセルさんが村に声を掛け、村の男総出で持ち上げた土を水門に運んでくれたので、1日がかりで水門周りを傷めずに仕切り壁と水門が設置できた。翌日も仮水路終点の持ち上げた土の崩れそうな部分を周囲に均す作業をするそうだ。
あたしは村の東の端とこちらを結ぶ8メル幅の橋をもう一つ架けることにした。きっとここにも畑が広がって行くと思ったのだ。
ついでにと言われ、仮に架けた橋の上にも土を山盛りに置いてもらって、6メルにまで幅を広げるためもう1日かかってしまったけど、無事に終わって良かったよ。
・ ・ ・
川の堤防を作るかたわら畑の肥料を調整したり、北へ垂れ流す温泉を使って灌漑用水路を作ったりしたので食料の増産が進んでいる。
けど、穀物の収穫はまだなので2ヵ月経ってもハイエデンからの買い付けで賄っている状態だ。
マノボタンが大量に補充できたので道路班の編成を見直して乗員を2名、護衛と力仕事担当に3メル丈のクロミケを1体付けたので、12班に増やせる事になった。
あたしはトラクとクロミケを増やすために3日間ハイエデンへ行って来たので、このレクサールにも2班連れて来ることができた。
「リッツさん、あの大きな街の廃墟を片付けようと思うんだ。それで準備はこっちでするから20人くらい集めてくれないかな。力仕事が多くなっちゃうけど住み込みだから、料理ができる人も欲しいよ」
「ああ、ハイエデン行きの途中で聞いた廃墟の片付けですか。あれから2月、道も良くなったですし、借金だらけではありますがひと息吐けるようになりました。いくらでも協力しますよ」
「片付けをするといろんな材料が採れるんですよ?月に一度巡回トラクを入れて使える材料は買い取ります。材料の積み替えにミケも1体つけちゃいますね」
街鉱山はレクサスと呼ばれることになった。
24人乗りの中型乗合トラクを1台連絡用に取り寄せた。こちらから行って溝から対岸の廃墟へ登る斜路を作った。50メル四方を片付けお日様ハツデン付きの共同住居を建てた。隣接して倉庫と馬屋も建てた。分解ブラシを10個置いた。
そうしてレクサールから20人の希望者を募りレクサスでの生活と仕事を教えた。ここまで全て貸付扱いになっている。巡回トラクが来て生活物資を売り、需要のある材料を買い取って行く。
上空には大きな鳥が終始舞っているので、ミケの警戒は欠かせない。常時二人は交代で監視して仲間に警告し、ミケが石で撃墜する流れが出来上がった。最初の一月は20羽ほども落として肉も食えたし、羽が高く売れたとレックスが喜んでいた。
本格的な夏を前にレクサール交易の目処がついた。借金の精算には2年くらいかかるだろうけど、もう飢えるようなことにはならない。
なかなかすんなりとは交易を広げられないものだね。
交易商圏が3つになったのでガルツ商会は旅客業を始めることになった。商圏全体に乗合トラクを定期運行するのだ。ガルツがその立ち上げと管理をすることになった。
ミットの用語解説だよー
単位ねー
お金 シル
長さ セロ=センチメートル メル=メートル ケラル=キロメートル
重さ キル=キログラム トン=トン
時間 メニ=分 ハワー=時間
温度 セッシド=度
角度 デグリ =度
マノさん アリスが勝手に名前をつけた魔法ー使いー
飾り紐 いろんな糸で撚ったひもー 房が二つ付いてて、一つは布や皮、もう一つは鉄を弄れるみたいー この頃は土系も弄れるー
アリスの目 見たものの寸法が分かってせんを引いてもらえるー 温度が見えるー 毒が見えるー
マノボード マノさんが提供する絵やカメラの絵が見られる板
サーモ ものの温度が見られる表示モード
チズ 上から見た周りの絵が見えるー。大きさも変えられるってー
マノボタン 飾りボタンだけどお返事がないらしいー。マノさん材料が採れるってー
デンキ 浴びると軽いのは人や動物の動きが止まる。強いと気絶したり、死んだりする 滅多に使わないよー
灯り 4セロの猫耳付きの白い円盤 厚さは半セロ 真ん中を押すと3段階で光るよ 明るいので連続3日くらい光るらしい
バッテリ 元気な力を溜めるものー
トラク 幅2メル30セロ 高さ2メル50セロの箱型の乗り物 長さは用途により変わる
速度は150ケラル/ハワーまで出せる
こんにちはー。ミットだよー。
アリスでーす。
ミ:いやー。やっと交易らしくなって来ましたねー。
ア:そうだね。ケルヤークとハイエデンの交易だね。
ミ:アリス、なんかご不満ー?
ア:いや、だって一駅だよ?近くない?
ミ:あー、なるほどー。干魃だの冷害だのはもっと遠くないと共倒れだとー。
ア:いっぺんに進まないのは分かってるんだけどね。
ミ:ガルツがねー。この間っから様子が変なんだよー。
ア:なんの話?
ミ:あたいの勘じゃ、なんかやるよー?そろそろー。
ア:そうなの?
ミ:まあ見てなってー。おっ楽しみにー。




