5 立て直し・・・アリス
これまで:通路が途中ですっぱりと断ち斬られていた乗り場。乗り換えが出来るはずの街は滅んでいた。クロミケに味を占めたアリスとミットはメイドロボトシロルを作った。だが、レクサールという町も些かきな臭い。
「北の街が破滅したのは200年以上前のことだ。8代前の領主が悪魔の仕業だと言い出したらしい。まあそう言う記録をわたしが見つけたんだ。どう言う理屈かは分からない。北の柵は昔からあるんだよ。傷んだら修理してあっちには悪魔の土地以外何も無い、と言うことになってる。逆らえば捕まって処刑されることになってるのさ。だから、他のルートから来ることはできないか?」
「領主と言うのはどのくらいの勢力だ?政治は納得のいくものなのか?」
「おいおい、なんだか物騒だな。行商じゃなかったのか?
まあいい。兵は100人その上に20人の親衛隊と将軍が居る。領主一族は32人だったか。この町と近隣の6つの町村を束ねている。
わたしら商人の税は3割、農民は4割の物納だ。払えなければ労役で精算する。職人も同じだが領主の注文が最優先、気に入らないものは受け取ってくれない。納得と言われるとなあ」
「ここの町は誰が頭だ?」
「そりゃ領主だよ。細かいところまで役人を通じて口出ししてくるよ」
「役人か。食料はどうだ?ちゃんと食えるのか?」
「この町で飢える奴は少ないな。他の町村はひどいらしい」
「少ない、か。どう言うやつが飢える?」
「親のいない孤児、体を壊し動けない者、年寄り」
リッツさんの顔が歪んでいく。
「どうする?」
「どうすると言われたって……」
ガルツさんはリッツさんを見ていない。あたしとミットをまっすぐに見ているのだ。
「面白いかもねー」
「121人だっけ?それはいいけどあとはどうするの?」
「な、あんた達、何を言ってるんだ。100人以上の兵士を相手にどうするつもりだ?」
「ああ、どうこうするんだ。だが、あとを俺たちがやるのは違うよな」
「リッツさんー、領主は潰すよー。そこまではもう決まったんだ」
「そう。後をどうするか考えてくれない?あなたの町だもの」
「俺たちは交易に来たんだ。交易の邪魔になるものは悪いが排除させてもらう。
なあ、今まで通りこの地域だけでやっていくとして、災害や旱魃で食料が不足したことはないか?その時に領主は助けてくれるのか?
助けようにも自分たちが食うだけでいっぱいだろう。贅沢はしているかもしれんが、みんなに配るには量が足りないからな。
俺はそう言うのが嫌なんだ。筒を使った交易なら、かなり離れているから同じ災害を被ることは少ないはずだ。困った時に他の街から買付けができる。援助も期待できる。
俺はハイエデンとケルヤークの交易を結んだよ。このレクサールもその輪の中に入れるつもりだ。安定するまで協力は惜しまんが、物事は自分たちで決めてもらうぞ」
「いや、しかし……どうするんだ?」
「潰し方か?屋敷へ乗りつけて説得するよ。
俺がやると当然ケンカになるから、めんどくさくなったら皆殺しかな?まあミットが穏やかにまとめてくれるだろう」
「わっ!まったあたいに丸投げー?ひっどーい、アリスー、先にガルツ潰しちゃおーよー」
「えーっ!それはいくらなんでも。ここまでの御恩もあるしー。一緒に頑張ろー。クロミケも居るし。シロル、あんたも行く?」
「是非お供させてください」
「おー、乗り気ー」
「だが、すぐにと言うわけにもいかん。孤児はどこへ行けば会えるかな?」
「北の端が貧民街です。70人くらい住んでいると思います」
「食料はこの辺で買えるかな?」
「一食分くらいなら裏の何軒かで買えるよ。だが、そんなに仕入れはできないはずだ」
「そうか。アリス、荷台を嵩上げしてくれ。ミット、サントスに3日の予定でトラク3台の食料を頼んでくれ。俺は店を見て来る」
「「はーい」」
荷台の嵩上げをやって出したテーブルを片付けていると、ガルツさんから
『食料はなんとか集めたよ。トラクを回してくれ。切るぞ』
買付けた食料を積んで町の北へ向かうと、柵が見えるあたりの路上で痩せた子供が10人ほど遊んでいた。
チッカの姿もあったので声をかける。
「ねえ、あなたたち、おうちはどこかな?」
「おうちはないよー。ご飯をくれるうちならこっちだよー」
付いて行くとドアのない納屋のような建物で、奥に何人かいるようだ。
「こんにちはー」
暗がりからおばあさんが返事をしてくれた。
「おや、こんなところにどなたがいらしたのかな?」
「ガルツ商会のアリスです。ここはどんな暮らしか聞きに来ました」
「暮らしなんて上等なものじゃあないよ。食うや食わずだ。炊き出しは2日に一度だしね。もう体もろくに動かせないけど、子供たちにはなんとか毎日食わせるようにしてるよ」
「そうですか。ここには何人居るんですか?」
「30人かな、ここの他にも3箇所炊き出し場があるはずだよ。炊き出しは昨日来たから今日は来ない」
「その炊き出しは領主がやってるの?」
「あはは、あの領主はそんな優しいこと、してくれないよ。近くの農民が自分らの食うもの削って持って来てくれるんだ。春の植付けの後でまだ収穫もないのに文句を言ったらバチが当たるよ」
「あたしも少しだけど食料を持って来たの。80人分くらいかな、足りる?」
「おや、どこからそんなに集めたんだい。領主の食糧庫でも破ったんじゃないだろうね?」
「お店の食材を掻き集めたのよ。ここで料理すればいいかしら?」
「そうだね、他の連中はこっちで呼びに出すよ。子供達には一口でも多く食べさせてやっとくれ」
「わかった。連絡はお願いね」
振り向いて親指を上げて見せるとミットもガルツもバタバタと準備を始めた。あたしはテーブルと椅子、食器の用意をしよう。
むう。もうやることないね。この人たちひどく汚いね。マノさん水を探して。
……ああ、57メルに飲める水があった。お湯はどうかな?
……かなり深いね……1000を超えたよ。
……5800メルに120セッシドの炭酸泉が見つかった。圧力がかかっているから勝手に出て来るのはいいけど、どこへ排水しようか?
チズで見ると北の川へ向かって低くなっている。とりあえずこのまま流してよさそうだ。
おばあさんにお風呂を作ると告げて場所を見てもらうため裏手までおぶって行く。
「空なんてずいぶん見てなかったねえ。気持ちいい風が吹いてるよ。
ここにお風呂を作るってかい?お湯はどうするんだい?」
「場所はここで大丈夫?広い方がいいよね。
この椅子に座って見てて」
幅3メル長さ10メル、深さ1メルの石の浴槽。屋根がないので露天風呂だ。水とお湯の配管を繋いで出してみる。温度を見ながらぐるっと囲いを回し納屋に裏口を付けた。洗い場は石を敷き詰めただけ。オケを10個作って脇におく。タオルにする材料がなかったなー。トラクから5本くらい下ろすか。
「こっちの赤い輪っかでお湯を調整できるよ。青いのは水だよ。この先半年もすれば安定するけど、だんだん熱くなるからそれまでは温度を見てから入ってね。隣にもう一つ作るよ」
温泉にすっかり夢中になって2ハワーも経っていた。
「あー、アリスー。どこ行ってたの?」
「裏にお風呂作ってたよ。身体の汚れで病気になりそうなんだもん」
「そっかー。そうだよねー」
「さて、明日と明後日の食料が問題だな。根こそぎ買って来たから次の入荷まで売ってもらえないぞ」
「領主の食料庫ってのがあるみたいだよ」
「そうか。交渉してみるか」
「「「そーだねー」」」
「クロミケ。散歩に行くぞ!」
「あいつら返事できないのなんとかしよーよ。盛り上がらないよー」
「考えとくよ」
わいわい騒ぎながら領主の館とやらの前まで来た。途中で見かけたのかリッツさんが見え隠れに付いて来る。
「リッツー、危ないからもっと離れてなー」
「こんにちはー。ガルツ商会でーす。お話があって来ましたー。領主さんはどちらでしょうかー?」
「なんだお前達。庭まで入り込んで、すぐに出て行け!」
「あんたは誰?あたしはガルツ商会のアリス。こっちはミット。後ろの青いのがガルツだよ」
「なっ!わたしは親衛隊のカールセンだ。分かったらすぐに立ち去れ」
「ふーん、そう言う態度なんだ?あたしはどうあっても領主の顔を見るよ。そこどいて」
「なんだと、この小娘が。すぐに出て行け、さもないと許さんぞ!」
「ねー、ミットー。なんかめんどくさくなって来たよー?」
「足の一本くらいならいーんじゃないー?
シロルー、頼むねー」
「はい、お任せください」
「何をごちゃごちゃとっ!ぐあっ!うあぁー、俺の足が!」
「はい、じっとしてください。暴れると付ける向きを間違えてしまいますので。
あら?ずいぶんと気の弱い方ですわ」
バラバラと10人出て来たね。
「何をした、娘。乱暴は許さんぞ」
「あんた達邪魔よ。それより領主呼んどいで」
5人が掴み掛かろうと動くのに合わせ、ミットが一歩下がった。
バチッ
「ヒュー。ビリっと来たよー。アリスー、加減が上手くなったねー」
「あら、ありがとう。バッテリ4本持って来たからまだまだ行けるよー」
「なんだ?どうしたんだ?」
「寝てるだけだよー。どいてねー。
ほら、クロミケー、仕事だよー。武装解除ー」
入り口まで来ると中の広間にぎっしり兵が剣を抜いて待っていた。前の列3人の腿を針で撃ち抜いた。戸惑っている間にもう3人に針が飛ぶと最初の3人が膝を突いた。やっと異状に気がついた兵士が殺到してくる鼻先へ、軽く電撃を飛ばすと将棋倒しに30人ほどが倒れ折り重なる。ミットと二人その背中を踏み台に奥へ飛び込んで行く。ミットはどこで拾って来たのか、両手の木の棒で兵士たちの顔面を叩いて回っている。
あたしの狙いは太った金ピカ男。前の兵士を針で縫い付け、軽い電撃からの背中踏み台。金ピカの頭上へ舞い上がり背後に降り立った。首に短剣を突きつける。
「降伏しな!」
クロミケの武装解除は剣をへし折り兵士を押し退け、もう目の前まで来ていた。
「何をしておる。捕らえよ!」
上から声が降って来た。
「あんたー、状況を分かって言ってるー?使い物になる兵なんてもうろくに居ないよー」
ミットが律儀に返事をしている。
あたしは金ピカに電撃を置いて中央の階段を駆け上がった。上には10人の兵がいて一斉に斬りかかって来た。
バチッ
「さっきから見てたんでしょ?普通に斬りかかったってダメなくらい分かんないかな?あんたが領主?」
奥のカーテンの裏に赤い人影が浮かぶ。足へ針を飛ばすと弓を持った男がカーテン生地にぶら下がるように倒れ込んだ。もう一人いたね。飛んでくる矢を躱しもう1投。
「これでおしまいかな?あんた、返事がまだだよ」
「なんで、こんな?」
「いや、そう言うのいいから。あんたが愚図な領主って事でいいのかな?」
「一体なんのためにこんなことをするのだ?わしになんの恨みがある?」
「じゃあ聞くけど、あんたはなんのために生きてるの?領民になんの恨みがあるの?
このドジな兵隊たちは何と戦ってるの?
愚図な領主さん、少しは考えたら。あんたは首だよ」
「おのれ、言わせておけば小娘が!ガハッ、ググゥー!」
「どっからあたしに勝てるなんて考えが出てくるかな?あんだけ見てたんだから分かりそうなもんだよ」
やっほー。ミットだよー。
レクサールは変なとこだったねー。
次は作った道路を使った交易路を辿ってみるよー。
おっ楽しみにー。




