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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第6章 レクサール
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4 シロル・・・アリス

 これまで:通路が途中ですっぱりと断ち斬られていた乗り場。乗り換えが出来るはずの街は滅んでいた。これまでにない広い隠し部屋からは大量の回収物があった。もちろんボタンも。

 ここの乗り場の名前ってまだないんだよね。この土地の人と話してないし。町の名前が良いんだけどね。強いて言うなら「乗り換えが出来たはずの乗り場」なんだ。

 溝を越えガレキを除けて橋を作ってここまで来たよ。お土産も4メルの荷台と一緒に用意した。街がもうそこに見えているよ。天気も良いし。うまくいくと良いなー。


「皆様、紅茶が入りました。休憩なさいませんか?」


 うーん、良いタイミングだね。ちょっと落ち着こう。トラクも止めちゃおう。

 黒色の前が大きく開いた袖なし膝丈のワンピース、白い小さめのエプロン、スカートの裾に白い1セロ幅のフリルがぐるっと。中に白いブラウスを着て、首の細い黒の飾りリボンで結ばれたちょうちょが胸の上で躍っている。

 白い髪を緩く後ろで一つに黒のリボンでまとめ、横長の黒い髪飾りを前髪の上に留めつけて、それを挟む様な白い三角耳が音を追いかけた。白い肌紫の目。両手首に同じ紫色の細い腕輪。白いソックスに黒の丸い感じが可愛らしい靴。スカートの後ろで白い細身の尻尾が揺れている。


「シロル、ありがとう。見た感じ高い建物はないね」

「農地に向かない訳でもなさそうだがこっち側は何もないな。なんでかな?」

「そうだねー。畑はみんな南にあるんだよねー。7メルの立派な道もおっきな建物もー。こっちが使えない土地みたいな感じだよねー」


「この草の茂り方を見ると十分作物は育つと思うんだが。ふむ?」

「まあ、行ってみれば分かるでしょ。行くよー」

「ティーカップを片付けますのでこちらへどうぞ」

「はい、お願いねー」


 町の家並みが近づいて来たけど様子が違うね。


「あれ?柵があるね。なんとまあ入り口がないよ?」

「そばまで行って声をかけるしかないだろう」

「うん」



「あー、人はいるな。

 おーい。街の人ー。俺たちは行商に来たんだが、どうすれば良いかねー?」


 声を聞いた人がギョッとした顔をして向こうへ走って行った。3人声をかけたが皆同じ反応でどこかへ知らせに行ったようだ。


 ミットが赤いカップを見せて女の子に声を掛けた。この子病気なのかな、ずいぶん痩せてるね。


「ミットだよー。ねー、お嬢ちゃん。あたいたちこんなの売りに来たのー。欲しい人は居ないかなー?」

「お姉ちゃん、どっから来たのー?そっちは悪魔の土地だよー」

「へー、そうなんだー。悪魔ってなにするのー?」

「あのねー、町をパカって割ったんだってー。

 いっぱい住んでた人も殺しちゃったってー。すごく怖いんだってー」


「ふーん、そうなんだー。入り口はどこか知ってるー?」

「こっちにぐるっと回ればあるよー」

「ありがとうー、これどれでもひとつお礼にあげるよー」

「え、ひとつ?うーん、うーん……」


「あはは、どれとどれで悩んでるのー?」

「赤いカップと黄色いカップー」


「いいよー。両方あげるよー」

「ありがとうー、キッカの分なのー」

「キッカちゃん?」

「うん、妹ー。あたしはチッカー」

「そう。キッカちゃんと仲良くねー、チッカちゃーん、バイバーイ」


 ミットが指差す方へトラクを進めていくと東へ続く道が町から出ていた。右へ曲がると程なく門が見えて来た。門なんてトラーシュ以来だね。


「止まれ!なんだこの馬車は。馬がいないだと?」


 まあそこは驚くとこだよね。8メルの箱が4メルの荷台を曳いて、間にでっかい猫耳ヤロー(クロミケ)が2匹乗ってるんだから。ミットが行ったね。あたしもいくか。


「こんにちはー。行商に来たミットだよー。どんな手続きが要るのー?」

「何?行商だと?積荷はなんだ?」

「飾りものが多いかなー。色のキレーなのはどーですかー?荷はこっちだよー」


 後ろの4メル荷台の蓋を開けて中を見せているところへ合流する。


「こんにちは、あたしはアリスでーす。うちの商品はどうですー?きれいな色でしょう?あと甘味もあるんですよ。お料理の味付けにいかがですか?」

「何?甘いのか?」

「はい、こちらは試供品(しきょうひん)ですので良かったらどうぞお持ちください。手を出してくださいますか?」

「こうか?」

「はい。ではお味見です」


 なるべくきれいなところにスプーン半分のグルコを載せてやった。


「うおっ、これは甘いな。こんなものがあるのか。ふーむ」

「あの、通行の方は……」

「ああ、すまん。通っていいぞ。この札を見えるところに下げておけ。レクサールへようこそ」

「「ありがとう」」


 あの門番大丈夫かな?人の心配するのもおかしいけど、これだけ突っ込みどころを並べてるのに、馬がいないってだけ?いいの?そんなんで。あたしとミットの色香(いろか)じゃそんな効果はないし、鼻の下も伸びてなかったし?うーん?


 えーっと似たものを扱ってるお店はー、あ、あそこ調味料っぽいかも。見て来よう。


「こんにちはー、行商に来てるアリスと言います。こちらは調味料を扱ってるんですか?」

「ミットでーす」


 店の奥の机に座っていた初老のおじさんがこちらを振り向いた。濁った黄色っぽい上着を着て痩せた感じだね。


「やあ、こんにちは。そうだよ、お嬢さんがた。私はリッツだよ。うちは塩やコショウ、辛子なんかを商ってるよ」

「積荷に甘味があるんですけどー、どうですかー?」

「ほう、見せてもらっても?」


「はい、これなんですけど。味見してもらえますか?」

「いいのかね?ではちょっとだけ」


 手の甲を出して来るリッツさん。ちょんと載せてあげると匂いを確かめ、ジッと何かを確かめ舌先でチョンと触れた。改めて手の甲を()めて

「いい品だな。どのくらいあるんだ?」

「ええと50キルです」

「ほう、それはいいな。5000シルでどうだ?」

「あのー、あたしこの辺の相場が分からなくて困ってたんです。それって安くないですか?」


「この辺の相場か。どちらから来たのかね?」

「ハイエデンって知ってますー?」

「ハイエデンだと?それは古文書に出て来る街の名だよ。どこにあるのかもわからない」


「やっぱりそうなんですか?100年以上も封鎖してたって言ってましたから仕方ないですね」

「なんだい、その封鎖ってのは?」


「あー、(チューブ)ってご存知です?名前は違うかもですけど、地下の乗り物に乗って馬車の何百倍も早く遠くの街に行けるんです。あたしはそれに乗ってここへ来たんです」

「ふーん?そんな御伽噺(おとぎばなし)が古文書にあったよ?

 あれが本当だと言うのか?」

「その古文書ってあたしが見てもいいでしょうか?」


「お嬢さんが?見る?構わんよ。わたしの道楽で集めたものだ。曾祖父(ひいじい)さんの時代にはうちの蔵にあったんだよ。それにわたしが集めたものを加えてな。

 こっちだよ。蔵は裏にあるんだ」


 行って見ると30冊くらいの角が()り切れた本と200枚ほどの不揃いな紙の束があった。


「ハイエデンはこの本に出て来るよ。白い女神像が海辺に広場に立っているそうだ」

「ええ、その通りです。すごくきれいな街ですよ。あたしはあの街が大好きなんです。ああ、ここですか。あまり詳しく書いてませんね。気候が良いんで穀物も野菜もたくさん穫れるんです。海辺の街ですから魚も美味しいですよ。

 ケルヤークはご存知ですか?あそこは名前が変わっているかもしれませんが」


「ケルヤーク……聞いた名だな……ああ、確かこれだったか?」

 リッツさんがバサバサと紙を(めく)り10数枚目で

「ああ、これだ。ケルヤーク。人口8000、コーヒーとゴムが名産と書いてある」

「ああ、そんなにおっきかったんだー。今は800人、あれー?パックが200くらい増えたって言ってたから1000人だねー。コーヒーもゴムも(すた)れてしまってたよねー。最近また出荷するようになったよー」


「本当かね?(かつ)いでるんじゃないだろうね?」

「いいえ、本当です。その気があるならお連れしますよ。来たんですもの、帰れます」

「いやいやまさか。むう。しかし行けるものなら行ってみたい」


「あたしたちはその2箇所しかまだ行ってません。誰も知らないんです。これから探すんですよ。この古文書全部見せてもらってもいいでしょうか?」

「構わんとも」

「ではお返しにうちのトラクをお見せしますね。一旦外へ出ましょう」



「ガルツさーん、お客さんよー。こちら調味料関係のリッツさん。中を案内します」

「ああ、ようこそ。ガルツです。ハイエデンでガルツ商会というのをやってます」

「本当にハイエデンですか?」

「えっ?そうですが?」


「ねえ、ガルツさん。ハイエデンってどんな街か説明してあげて」

「ああ?俺がか?むう。人口は12000人、山から海にかけての斜面にできた街で港辺りが中心地だな。そこは市の立つ広場になっていて12メルほどの白い女神像が立っているよ。俺の商会もその近くだ。細かいことまで言ってもしょうがないよな、こんなんで勘弁してくれ」


「海辺の街。女神像……

 ケルヤークの名産品については?」

「ああ、あそこは鉄、アルミー、スレート、川魚、コーヒー、ゴム……あとは禿山か、くらいだな」

「うふふふー」

「なんですか?禿山って」

「ああ、他所へ開拓民を出して農産物を持ち帰る事業をやってたんだが、行った先の山の木を根こそぎ切りやがってな。大雨が降ると山が削られて大変だった。二つのうち一つは俺たちで植林して来たが、一度見に行かんとな。パックに人手は……まだ無理か。もう一箇所も俺たちでやるか?」


「ロボトが3体いるからね。あの時より条件はいいよね。元ドルケルの人なんて聞いたら連れてけって駄々こねるよ」

「違いねえ。

 おっと、中を見せるんだったな。どうぞ、リッツさん。狭いですけど」


「入って左が運転席と座席、正面がトイレです。右が居住スペースになってます」

「ガルツー、外見てるから広げてー」

「おう、停車中は中を少し広くできるんです。

 この2段ベッドは必要なら畳めるので作業したい時はいいですよ。

 シロル、お客さんだ。こちらリッツさん。

 そっちの案内を頼む」


「かしこまりました、ガルツさま。リッツさま、この奥が台所です。わたしのような小柄なものが向いた作りになっております。

 これで一番広い状態ですね、こちらにお風呂ができています。ここで衣類を脱いでお湯に浸かります。洗い場はこうしてカーテンで仕切り立ったままで洗います。この壁の向こうは食料や材料を積む資材庫になっています」


「このトラクは地上の近距離移動用でな。

 俺たちは筒と呼んでるが、本当はチューブレッシャとか言うらしい。そいつの1区間がどれくらい離れているのかはまだ分かってないんだが400ケラルよりは遠いらしいぞ」

「400ケラル!ここまで何ヶ月かかったんですか?」


「あー、寄り道が多かったし道やら橋やらで時間がかかったからな。正味10日か?

 帰りはハイエデンまで2日かな、もうすこかかるかもしれんが。道路が出来ていれば3ハワーくらいだが、そこまではやってない」

「なんと!それは……お帰りの時に同行させてもらう事はできましょうか?」

「あー、そうですね、いいですよ。まだいつ帰るとも決めてませんが、帰る時はお連れしますよ」


「リッツさーん、持って来てる商品もみてよー。後ろだよー」

「ミットー、そんなに引っ張り回しちゃだめだよ。リッツさんが落ち着けないでしょ?」


「ああ、ちょっと待ってくれないか。頭の中をすこし整理しないと。

 さっきの甘味の件は謝るよ。試すようなことをして悪かった。この辺にはない商品だから、わたしにも相場はわからない。仕入れ値に運送費、保管料、他にもいろいろとかかっているだろう。それに利益を乗せていくらになるかな?売れるのは間違いないが、値段によって売り方を考えないといかん」

「あははー。困ったねー」

「むう。ハイエデンでは1キルあたり300シルで卸しているんだが」

「卸す。小売りではないのですか?」


「ああ、製造、卸だな。困窮(こんきゅう)者には小売もするが。あとは風呂屋と解体屋、道路整備に筒路線の探索か?

 ミット、こうやって並べるとすごいみたいに聞こえるな?」

「おっさんがはしゃがないのー」


「おほん、まあ、やっているのはそんなとこだ。ごく一部だがうちの商品を持って来てる。

 お宅で扱わないものもあるが、仲介してもらえると助かるんだ。どうだろう?」

「分かりました、拝見します」

「こっちだよー」


 商品と言っても甘味はもう見せちゃったし、扱っていないものばかりなので、台所から少し見本を持って来てもらった。


「この塩とコーヒー豆は中で使ってる分なので見本です」

「おお、真っ白だな。甘味もそうだが、どうやったらこんなに白くできるんだ?」

「ははは、まあそこは外へは言えないんだ。こっちはケルヤークのコーヒー豆だよ」


「ううむ?実はコーヒーというのを見るのは初めてでね。これはどうするものなんだ?」

「シロルー。コーヒーを淹れてくれないかー」

「はーい、お持ちしますね」

「ざっくり言うと少し粒が残るくらいに()いてお湯をかけるんです。苦いですがクセになります」


「お待たせしました。お好みでミルク、甘味を入れてお召し上がりください」

「確かに苦いな。これを入れるのか?

 ふうむ、変わった味だな。これがコーヒーか」

「まあ、慣れると美味しいですよ。あとは仲介をお願いしたい商品ですが、カップと(くし)、飾り類に灯り、オケにペンですね」


「どれも色が鮮やかだね。うん?この白い耳付きのはなんだい?」

「灯りだよー。真ん中を押すと光るんだー」

「真ん中ってこうかね?おお光ったね」

「連続だと3日くらい光ってるよー。3段階になってて暗い方が長持ちだよー」


「おお、これはわたしも欲しいな。いくらかね?」

「ひとつ100シルだよー」

「あとで5つもらおう。消えたらおしまいになるのか?」


「お日様ハツデンがあれば何回でも戻るよー。5年くらいは使えるはずだよー」

「ああ、そうだったな。最初に作ったのがそろそろ2年くらい経ったかな。毎日使うわけじゃないからまだ持ちそうだ」


「お日様ハツデン……それは当然高いのだろうね」

「そーだねー、70000シルだよー。灯りだけだともったいないねー。マノ治療ジェル、ハシゴ、ベンキー、着火具とか?うちの分しか無いから見るだけになるけど」

「うちでは取引の仲介料に3割を払っているんだが、それでどうだろうか?売上があるようなら道路整備班も回せるし、貨物専用や乗合のトラクを貸し出しても良い」

「今日一日くれないか?主だった商店主を片端から引っ張ってくるよ」


   ・   ・   ・


「あー、リッツさんが来たねー。二人連れて来たよー」

「ミットさん、お出迎えありがとう。雑貨屋のヨーセルと服飾のヤンだ。商品を見せてもらって良いかい?」

「はーい、こっちだよー。ゆっくり見てってねー」


 待つ間にクロとミケに資材庫から木質(セルロース)を出して貰って簡単なテーブルと椅子を用意してある。シロルに頼んでお茶を淹れてもらった。


 ミットに商品説明を任せて

「リッツさん、この町の南に大きな道がありますがあれはどこへ行く道ですか?」

「ああ、領主様の館に続く道だよ」

「領主様ですか。この辺りの交易はどうでしょう?」


「この町を通って北東と南西に町や村がいくつかあるんだ。お宅から仕入れができれば、その交易路で売るようになるね。北には昔大きな街があったらしいが、悪魔が破滅(はめつ)させたことになっていてね。北の道は使っていない」

「そうなんですか?あたしたち、その北から来たんですけど」


 リッツさんは急に声を潜めた。


「その話はしない方がいいな。領主に(にら)まれる。

 どうだ?ヨーセル、ヤン。なかなかの品だろう?」

「ああ、この品質でこの値段ならいくらでも売れるぞ。いい取引先を見つけたなリッツ」

「まったくだ。飾りものと櫛は全部俺が引き取りたい。明日金を持ってくるから予約させてくれ」

「俺もだカップに桶と灯り、ペンは全部もらうぞ。予約だ」

「そうか。ちゃんとわたしに声をかけるんだぞ」

「分かってるよ。勝手なことはしないさ。じゃあな」

「さてと、中へ入れてもらって良いかな?」


 他に聞かれちゃ都合の悪い話があるってことか。

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