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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第6章 レクサール
52/157

1 探索・・・ガルツ

 ケルヤークで何隊も調査から帰らなかったと聞いたガルツだが、やはりこの遠距離交通網は発展のためには必須だ。危険を承知で装甲した作業仕様トラクを駆って、次の乗り場を目指す。‬

 降りた先には巨大鳥と深い溝が行手を塞いでいた。‬

      登場人物


 アリス 主人公 16歳 薄い茶の髪、白い肌、青い目、身長158セロの女の子。


 マノさん ナノマシンコントロールユニット3型


 ミット 15歳 孤児 濃茶色の髪、やや褐色の肌、黒い目、木登りが得意、身長162セロの女の子。


 ガルツ 35歳 工房出身 元猟師 その後兵士を3年ほどやっていた。戦場で壊滅した部隊から逃れて来た。日焼けした肌、赤黒い髪、青い目、身長185セロの大男。青ずくめの防具、楯と長剣が基本のスタイル。現在ガルツ商会の会頭を務める。


 シロル 白猫ベースのネコミミメイド


 サントス 金物屋の店主。武器にする鉄を集めに行ったら譲ってくれた。商取引の仲介役。


 イヴォンヌ   ローセルの孫娘 美人 170セロの長身。


 エレーナ  調理人 157セロ ぽっちゃり系 短髪にしてる


 リッツ レクサールの調味料関係の商人


 *********************************************



      第6章 レクサール


     1 探索・・・ガルツ


 1日が終わってベッドで横になって考えていた。

 このハイエデンに来てもう2年も経つんだなあ。アリスとパックが16歳、ミットが15歳か。俺も35だ。

 正直1年も前から戦闘力はアリス、ミットの方が上だ。守ってやるなんて立場ではないんだが、対外的には俺が保護者だったからな。

 ケルヤークもほぼ軌道に乗った。このハイエデンとの交易がある限り大丈夫だし、無くなっても苦労はあるだろうが路頭に迷うことはないだろう。パックにはそれだけの実力がある。


 ここも俺がいないとどうなるかって言うと、別に居なきゃ居ないで回るよな。

 で、(チューブ)の乗り場探索がずっと棚上げになってたと今になって気付いたわけだ。今はケルヤークとハイエデン、それに連なる商圏(しょうけん)同士の交易だが、このままで良いわけはないんだ。

 不作や災害その他で苦しい時に助け合える相手がどれほど有難いか、俺がずっと言って来たことだ。


 だが、ここには大ムカデが100年以上も前から洞穴(ほらあな)に棲みついていたらしい。40年前ケルヤークから前後3件を調べて当たりが2件ってんだから、あと3件は何かがあったってことだ。

 十分な備えをしなければ俺たちだって危ないのだ。幸い今は使える道具も材料も武器も以前とは比べ物にならない。トラクを装甲してみるか。問題は足回りだが、必要なら道を作ればいいだけだ。ケルヤークで100メルの橋を押し上げて作る技術を手に入れたから、大概のところは通れるはずだ。明日になったらアリスに相談してみよう。


   ・   ・   ・


 腹の上でドスッと柔らかいものが落ちた。


「ガルツー、朝だよー。エレーナに怒られるよー」


 目を開けると腹の上にミットが跨っていた。尻を落としたようだ。うーむ、これだけ胸の育った娘が、スキンシップで起こしてくれるってのはどうなんだ……慌てて窓の方を見る。


「ううっ、もう少し優しく起こしてくれよ」

「なーに言ってるのー。あたいはいつだった優しく起こしてるよー。ほら、起きた起きたー」

「分かったから、起きるよ」

「早くしなよー」


 ああ、クソっ。昨夜寝つけなかったからな。ミットの奇襲(きしゅう)はこの頃無かったのに。

 着替えて顔を洗うと食堂へ行く。

 早番の連中はもう仕事へ行って、今の時間は中番のはずだ。20人くらいが朝食を食べている。配膳(はいぜん)口へ並んでトレイに順に皿を取って載せていく。今日の朝飯も美味そうだ。

 アリスとミットが向かい合わせに座っているのでそこに行って座った。


「おはよう」

「ガルツさん、おはよう。あたし達と食べるなんて珍しいね?」

「相談があってな。後で話す」


 朝食を堪能(たんのう)した後で、そのままお茶を淹れてもらった。


「筒の乗り場の探索に出ようと思う」

「あー、そろそろ再開したいねー。でもきっと危ないよー」

「あたしもそう思う。どんな準備が要るかな?

 人数は?」

「トラクを装甲しようと思う。人数はこの3人を考えてるんだが」


「そうだねー、身軽でいいかー。トラクはいーよねー。足は早いしおっきーし」

「パックはケルヤークで忙しいだろうし、元々あっちの出身だしね。装甲ってどうするの?」

「それなんだが、道路班と同じ作りで外側に鉄板でどうだ?前も鉄板で蓋できるようにする感じで」


「大ムカデみたいのが出たときはどうするの?攻撃もできないよ?」

「中から外に出ないで攻撃できた方がいいか。弓じゃ大変だな。針みたいなものを飛ばすのは?」

「うーん、聞いてみるね。

 ………デンキ、針は飛ばせるけど単発だね。

 針は外壁に数を仕込んでおけば使えるかな?多少向きも変えられるけど、再装填(そうてん)に半メニかかるから連射だと弓の方が早いよ」


「外壁に数を仕込んで半メニで針を連射かよ?仕込むってどのくらいの数なんだ?」

「……50セロに1個だって。左側に最大64個、右は扉の分を抜くから56個、前が8個、後ろは4個。斜め方向は狙えないって」

「デンキってーあのビリビリでしょー?そっちはどーなのー?」

「えーっとね……使えるのは小型バッテリ1個で10回分?あー、お日様次第ね。他にも使うから30回分くらいだって。

 ……ちょっと足止めくらいで良ければ倍撃てるみたい。ただ遠くには打てないね。役に立たないか。黒焦げまで上げると5回くらいだって」


「今の話だと、針は前後と角のとこ、屋根の上が手薄なんだよな?」

「そうだね。

 ……針の角度は30デグリ?まで振れるって。

 やっぱり角はダメ、1メル以上離れてないとダメ、効果は30メルくらいまでだね。屋根も(お日様ハツデン)を貼るから付けるのは無理って。

 狙うのはマノボタンでできそうね」

「屋根にデンキを出したり出入り口を作れるか?」


「……できるって。手薄なとこはなんかある?

 ……レーザ?へー、良さそうだね。

 ……えー?バッテリ1個で4回しか撃てないの?それはビミョーだね。バッテリは増やせるの?

 ……普段余る分を貯めても8個まで?屋根の4つカドに付けると合わせて16発か」


「むう。どうしても大ムカデの戦闘を想定してしまうからな。トラクが埋まるほどの数が来たらと思ってしまう。

 だが、どちらかの側面を向ければ1メニで100以上もの針を撃てるんだ。針が通じるならもの凄い戦闘力だろう。前後が手薄と言っても、戦闘中でもトラクは動かせるんだろう?」


「動くのは大丈夫だよ」

「アリスが行くなら材料があれば必要なものは作れるからな。それで準備してみるか」



 標準乗り合いトラクの作業班仕様を装甲、武装したので本体はその日のうちにできたが、内装や積荷を揃えるのにもう2日かかった。

 その間に俺はガルツ商会代表代理をサントスに押し付けた。嫁側の親族を集めてもらい、了承をもらうのに手間取ったがなんとか片付けた。春の植え付けが一段落した時でよかったよ。


   ・   ・   ・


 アリスとミット、それに俺が加わって探索の開始だ。アリスはいつもの防刃仕様で身を固めている。ミットも同じ格好だが、この頃背が伸びた。ポケットだらけのベストの丈が足りないのに胸で生地を押し上げるもんだから、キュロットとの間に白いブラウスの腹が見える。それが妙に色っぽく目のやり場に困るんだ。


 おっと。そんなことを考えてる場合じゃない。まずは右へ一つ戻ってみよう。近いし、ロセンズによれば別のロセンに移動できるらしいので調べてみたい。


「道路班のトーレスさんの話じゃ待機通路に曲がるのが大変だったらしいよ。筒の乗り降りは横移動でスポンって感じだって。5メニで来るよ」

「むう。俺が運転するんでなくてよかったよ。右上の角なんか20セロと開いてないぞ」

「ほんとにいっぱいいっぱいだねー。他の乗り場が狭くないといーねー」


 コオォーーーー


「あれー?右から来たよー、いいのかなー?」

「右に(チューブ)を集めて置く場所でもあるのかな?呼ばれてから走り出していると思うんだが」


 ヴヴゥーーーー


「右へ一個はちゃんと覚えてるよ、大丈夫」


 ニュウゥー


 9メル幅の入り口が開いた。トラクが全部の車輪を真横に向け横移動を始めた。

 乗り移る時にトラクの重さで動くかと思ったが、全く揺れもせずに筒の中へ収まった。続いて乗り込むとややしばらくしてから開いた壁が閉じた。

 乗り込んだ壁には窓が戻っていて、乗り場が音もなく右へ流れて行く。すぐに外は暗くなり、内部を照らす灯りで(かす)かに縞模様が流れるのが見えるだけになった。


「50メニくらいだって」


 アリスはそう言うと鉄の剣を抜いて振り始めた。ミットは弓を抜きいっぱいまで引く鍛錬(たんれん)を始める。俺も長剣を抜き頭上で回して正面へ切り込む動作を反復してみる。

 しばらく振っていなかったからな。手に馴染(なじ)むまで少し振り回してみるか。


 30メニほども思い思いの鍛錬をしてお茶にした。疲れた状態で向こうに着くのはまずいからな。ゆったりと寛いでいるとアリスが、着くよ、と短く言った。


 薄明かりに見えていた壁が遠くなり流れがゆるむとやがて止まった。ぼんやりと右に出口へ続く通路らしき黒い穴が見える。何かが動く様子は見えないな、と思っているうちに壁が開いていく。

 ミットが真っ先に降り気配を探る。

 異常なしの手合図でトラクを引き出す。俺もアリスも出口側へ警戒態勢で移動する。


 ヴヴゥーーー

 筒が発進する音が一頻り響き、静かになった。

 ミットがそれを待って通路へ入って行った。5メルほど間を空けて俺が続くと、さらに5メル遅れてトラクを先導するようにアリスが進んで来る。トラクはマノさんを通じて動かしているので中は無人だ。ついでに言うと前後4基のレーザ16発も準備済みだ。通路の幅は6メルだからトラクはこのまま進むしかない。


 ミットが右手で止まれと合図した。何かあるのか?


「錆びた短剣が何本か落ちてるねー」

 

 ミットがゆっくりと進む後を付いていく。ここは曇りのようだな。と、強烈な陽差しが降り注いだと思ったら、すぐに影と陽差しが何度も繰り返された。

 大きな影が次々と上を通っているのか?でっかい鳥か?

 通路がいつもより短いのはばっさりと切り落とされているかららしい。この先は断崖になっていた。ケルヤークの探索隊はここでやられたってことか。


「トラクを前に出してレーザで撃ち落とすか?」

「やってみる。運転席の窓に鉄板を下ろしてギリギリまで前へ出すよ」

「レーザに合わせて弓も射ってみよっかー」


 ミットの提案に俺は左の壁へ移動する。


「やってみよう」


 トラクがするすると出口へ向かう。前の車輪が断崖(だんがい)ギリギリまで出たとこで止まった。左右のレーザが鳥を追尾してピカッと光ったように見えた。俺も近い奴に向かって矢を放った。少し前を狙ったのだが、俺の矢はやや後ろを通り抜けた。


「5メルくらい前でないと当たらないか」

「それでやってみる」


 レーザを浴びた鳥が2羽落ちていった。


「左の影!」


 ミットの声に後ろへ飛び退くと俺がさっきまで居たところを、羽を畳んだでかい鳥が崖の(ふち)に大きな爪跡を作って右下へ通り過ぎていった。


 ふいー。しかしトラクが鼻先を1メル以上突き出しているのでミットからはまるきり陰のはずなんだが、なんで分かるんだ?


 そろそろと前へ出て空を見上げる。またレーザが発射されたらしく上の方から錐揉みに一羽、木の葉が回るようにヒラヒラとした後ストンと落ちるもう1羽がちらりと見えた。そのやや下こちらへ向かって飛ぶ黒い羽根、その左下を右へ上がろうとする茶色の影の前5メル、一気に弓を引き絞って射った。


「左正面。来るよ!」


 ミットの声に右後ろへ飛び、トラクの腹の下へ半ば滑り込んだ俺の足を掠めて、羽を畳んだでかい鳥が奥へ滑って行った。


「生きてる?」


 アリスの声だ。


「ああ、大丈夫だ。あれ、どうする?」

「後ろの針4本でもう仕留めたよ」

「ああ、すまんな」


 こっちの方が凶悪だってことを忘れてたよ。


 ミットの弓では牽制(けんせい)にしかならないか。もう少し頑張るとしよう。

 そう思って前へ出るともう鳥の姿は見えなかった。


「ミット、どうだ?」

「まだ2羽、上の見えないところを飛んでるよー。うっかりできないよー。6羽落としたねー」


 俺の矢は当たったのか?


 トラクが走るとしたら穴を出た崖に棚のような道を作るか、トンネルを掘りまくって下まで行くか。トンネルの場合はお日様を浴びにハイエデンかハゲ山まで戻らないと続けられない。棚は当然鳥に(ねら)われるが、崖とトラクの隙間に居ればなんとかなるか。


「崖沿いに下まで降りるのはどうだ?どっちに行ったらいいかな?」

「ガルツさん、ここのエーセイガゾがまだ入ってないの。あと2日くらいはチズが使えない」

「あたいは右に降りるのがいーと思うー。右から水の匂いがする気がするー」


「分かった。ドアを崖側にしたいな。アリス、向きを変えられるだけ左を広げられないか?」

「できるけど、今度のガイドはトラクに作り付けだから、後ろに持っていくのは無理だよ。針が4つ減るけど一番前の右側に入口を作っちゃうよ」


 ああ、そうか。こいつはイヴォンヌが1ヵ月試験をして、10日ほど前に6班の道路班を相手に講習会をやったばかりの最新版だったな。トラクを道路中央に据えると画面上だけでほとんどの設定ができる上に、直線であれば100メル先まで1度に散布できるんだったか。

 飛んで行くマシンの数は垓単位で、集めると15セロ角の箱いっぱいになるとか言ってたが、何のことやら見当すら付かない。とにかく散布の向きは簡単には変えられない。


「左上!来るよ!」


 あっぶねぇ!またしても影から右下へ鳥が爪を立てて通り抜けて行った。


 ミットが警戒するなか右への拡幅(かくふく)が出来上がった。トラクの頭を右へ振るには3メルほど角が邪魔になるのだ。

 警戒はミットに任せ俺は通路の鳥を解体に行く。

 鳥は羽を広げると4メル以上あって、重さも60キルほどあった。脇に寄せたあと逆さに持ってみたがこれはきついな。


「アリス。すまんがこいつをぶら下げたいんだ。なんとかなるか?」


 棒3本を組んだ簡単な三脚を作ってもらいぶら下げた。大きなバケツも出してくれたので下に置いて首を切った。血抜きの間に羽を(むし)って袋へ詰めて行く。腹を裂いて中身をバケツに落とし、水で洗うと三脚から外してトラクへ(かつ)いで行き袋詰めにしてレゾコへ放り込んだ。羽を入れた袋は貨物庫へ、バケツは崖から空けた。

 その時向かって来た1羽はレーザが撃ち落としていた。


 マノボードで前方100メルまでの傾斜と向きを決めると、幅5メルでごつい柵の付いた棚を80メニで作る。1回で5メル下へ近づくかたちだ。

 鳥が上から見ているので外には出られないが、溝の底は崖から崩れた大岩が(すそ)付近にゴロゴロしている他は割と平らで、木もところどころ生えていて緑が濃い。

 翌日昼近くまでかかって、高低差52メルを1ケラルちょっとの斜路にして降り切った。


 谷底の大きな転石を片付け南へ向かった。鳥どももさすがに学習したのか、かなり上の方で4羽が旋回を繰り返している。

 下から見上げる崖はほとんど岩で、無理やり裂かれたように見える。溝の底を3ケラルくらい先まで進むと大きな水溜りに突き当たった。600メルほど先に岩壁が(かす)んで見えている。

 溝は左へ曲がっているようだ。水を補給し昼飯のあと、この先の調査は(あきら)め、降りた場所まで戻った。


「さて、どうする?ここはロセンの乗換ができるはずだったが、それはおそらくこの溝になっちまったようだ。例の隠しドアが上の通路にあるかも知れない。

 戻るか、溝を北へ行くか、ここから右の崖を登って上へ出るか」

「まだチズが出てないから、この周辺の地図は見たいよ。15日くらい居れば調査ができなくても次に来る時はすごく楽になるよ」


「交易相手を見つけるって言ってたよねー。近くに町があるかもだからあたいもチズを見たいよー。それにあの鳥ー。7羽も落としたのにまだ上で回ってる。なにを食べてあんなでっかいのが増えたんだろー?」

「そうだな、確かに気になるな。順番に調べていくか。溝を北に行ってみよう」


 溝の中央を大きな転石を避けながら乗り場出口の下を過ぎた辺りまで進むと、木や草がすこし減ったように見えた。両側の崖の裾には相変わらず大きな岩がゴロゴロしていてどうなっているか分からないが、ミットが(しき)りに首を傾げている。正体の分からない気配ってやつか?

 300メル先の左手、崖の上に大きな木が5本ほど密集して立っているのが見えた。マノボードで拡大して見たが、空が背景なので枝も葉も黒くなって判別が付かない。サーモに切り替えると薄ぼんやりと赤っぽいところがいくつかある。鳥が止まっているのか?

 上を見ると高いところを3羽が回っている。


 違和感だらけだが決め手もないまま10ケラル進み、陽が沈む前に停車して夕飯のあといつもの会議をしていると車内に警報音が響いた。マノボードを見るとサーモ画面にたくさんの光点が走り回っている。小さな動物らしい。


「なんだかわかるか?」

「ちっちゃいのがいっぱいいるねー。あたいたちより体温が高いよー」

「捕まえてみようか?ちょっと待ってね」


 アリスが運転席の方へ行って右のドアにかがみ込んで何かしている。

 パン!と大きな音が聞こえて来た。


「あ、ガルツさん、2匹入ってる。

 ネズミさんかな、おっきいね」


 アリスが持って来たのは目の細かい網の袋に入ってバタバタと暴れる小動物2匹。尾が細く毛足が短い。

「でかいネズミだな。歯は鋭いから気をつけろ」


 日が暮れたので餌を(あさ)りに巣穴から出て来たのだろう。なにを食っているのか知らんがすごい数だな。岩の間に虫でもいるんだろうか?

 トラクの中にいれば危険もないのでネズミを外に放して寝た。


   ・   ・   ・


 パッキャーン!

 明け方、岩の弾ける音が谷底に響く。

 何事かとマノボードを覗き周囲を見ると鳥の急降下の場面を捕まえた。一旦小さくして見ると溝の底へ向かって10数羽が降下を繰り返している。狩りのようだ。さっきの音はなんだ?

 2メニほどでそれも収まり、鳥が上空へ戻って行った。


 トイレへ行ってボーッとベッドに座っていると

 パキャーン!

 10メニほど置いてまた音が鳴り響き先程より近くで狩が始まった。


 もう一度あるかな?空の鳥の動きを小さくして見ていると崖の上の木に一斉に戻って行く。

 捕った獲物を巣に持ち帰るのだろう。少ししてまたバラバラと上空を回り始めるその中を、1羽が真っ直ぐに突っ切って来た。何か両足に掴んでいるな。大きくしてよく見てみようと思ったその時、その何かを落としバッと上に舞い上がった。落とされたものは一直線に落ちて行く。

 パキャーン!


 地面を慌てて大写しにした。薄い草むらをたくさんの何かが走り回る上から、鳥が斜めに滑り込むように飛び込んで来て左へ抜けて行った。すぐに左からもう1羽が滑り込み、地面を叩き伏せると大きく羽ばたいて空へ戻るその足に1匹ネズミが掴まれているのが見えた。

 左上を別の鳥が横切って動きがなくなったので、画面を小さくすると鳥が巣へ戻って行くところだった。


 朝の狩はそれ切りだった。

 朝飯の時にその話をしてやったらアリスがどうやったのかその絵をマノボードに呼び出して、もう一度見ることができた。


「ガルツー、お手柄だよー。すっごく分かりやすく撮れたねー。鳥はネズミを狩ホーダイなんだねー。ネズミはなにを食べてあんなに増えたんだろ?」


「多分だが、崖の上に木があるだろう?あの落ち葉が風で溝へ吹き込むと、風の弱い崖裾に集まるんじゃないのか?岩だらけだし引っかかりやすいんだろう。それを食って虫が増えるからネズミが増えた」


「ふーん?ありそうな話だねー

 そーなると鳥は厄介だねー。普通の馬車はみんなやられちゃうよー?」

「まあ、まだ馬車が通ると決まったわけじゃないしな。先へ進むぞ」

「「はーい」」


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