6 首長・・・パック
これまで:疫病の始末はアリスが付けてくれた。ガルツ商会がパックに首長を命じてから半年が経っていた。
「……今年の農産物ですが穀物はやはりうまく育たず5トンほどになる模様です。今年も他から20トンほど買い付けが必要になります。
野菜類は順調ですので、冬を越すのは問題ないでしょう。近隣の町からも入って来ますから交易にも2割程度回せるでしょう。
コーヒーですが収量は6トン程、うち3トンはハイエデンから注文が入っています。ここの行商人にも1トン近く出ますが在庫がダブついています。
ゴムの方は生産が全く追い付いていません。生産量800キルに対し問い合わせが3トン以上ございます。挿木を行い増産中ですが、肥料が不足していて思うように増やせません。ガルツ商会との仲立ちをお願いいたします。
川魚の方は干物、燻製の需要が高くスレート湖と本川で漁をさせていますが、年間100トンで規制している為値上がり傾向にあります。
鉄は過剰生産のため現在採取を中止しております。再開は4か月後の見込みです。
その分スレート、アルミが好調ですので人員をそちらへ回しています。
ただ交易の黒字分の6割が道路延伸に使われており、その他の予算が圧迫されています。
近在からの人口流入は制限を設けておりますが既に1000人に迫り住宅の不足が起きています。職を求める者も多く対応に苦慮している次第です」
延々とヘイトンの今年の秋総括を聞いていたけど、総じて順調と言ったところだね。
「求職者の中で家を建てられる者はいないのか?教師は?」
「は、即刻調査します」
「ゴムの木の肥料については聞いてみる。
コーヒーは乗り場の通路に保管場所を考えてみるよ。うまく保存できるといいけど。
あとはなんだっけ。予算か?何に使いたいんだい?」
「それはもろもろかかる分を……」
「事業内容と規模、予想される費用と効果或いは目的をまとめて出すように言ってくれ。ただ増やせってのはダメだよ。
あと、今予算を使っている事業についても報告をまとめさせてくれないか?
どうも無駄遣いがあるように見えるんだ。頼んだよ?」
「は、直ちにかかります」
ヘイトンは元警備兵だ。謹厳実直だが小回りは効かない。その分強面なので睨みが効く。
あまりやりたくはないんだけど、僕が言っても小僧の戯言と舐めてかかって来るからね。いちいち潰すのが面倒になったので、最初の交渉は任せるようにしてる。もう1年半もやってるのに、それで面倒が減った気はしないのはどう言うわけなのだろう。
ガルツさんとのツーシン予約まで10メニか。アリスもハイエデンだったっけ。
この辺の書類をつついていればすぐだね。
ミーミーとアラームが鳴った。
「ガルツさん、アリスー。聞こえる?」
『おお、パックか。』『パックー、どうしたの?』
「ちょっと聞きたいことがあってね。そっちはどうです?」
『おう、道の総延長が5000ケラルを超えた。順調そのものだよ。今はビクソンの交易ルートに3班入れてガンガン西へ伸ばしてるよ』
『あたしはやっと海水から希少材料が採れるようになったよ。生産道具もいっぱい作ったから、しばらくは他のもので遊んでられそーだよ』
「ミットはどうしてる?」
『北回りルートの山中に盗賊が居るってんで討伐に行ったぞ。もう帰って来るんじゃないかな?
そっちはどうなんだ?』
「コーヒー豆が2トンダブついてて保存したいんだ」
『保存は大体なんでも冷暗所、チッソ封入だよね。やってみたら?』
「簡単に言わないでよ。冷暗所は乗り場の隠しドアでいいとしてもチッソはね」
『わかったよー、道具を作って送るよー』
「頼んだ。
あとね、ゴムが全然追いつかないんで増やしたいんだ。肥料ってそこから買ってるんだよね?」
『ああ。結構出してるはずだぞ』
『冬はやらないほうがいいって言うくらいで、普通の肥料だと思うけど?』
「ふーん、そうなんだ。調べて見るよ」
『パックー、悪い顔してるよー』
「えっ?そんなこと……切るよ」
ふう、この間からマノボードに顔が映るようになったからなー。付き合いの長い奴にはバレちゃうんだ。
買付け記録を漁ると、春先の輸送量を考えて冬にも一定量買っていて、これなら足りないはずはない。
今は1町3村のケルヤークを中心とした通商圏ができつつあるから、近隣の町村へ横流しされた可能性もあるか。
1日かけて倉庫をしらみつぶしに回り、畑で使用量の聞き込みをした結果、ヤヌーク村とタキ村への荷馬車が肥料倉庫に出入りする回数が多いらしい。
倉庫の搬入記録は買付け量とほぼ合っているのに、搬出記録で合わせると明らかに在庫が少ない。
「ヘイトン。倉庫の確認をしたいんだが場所はこれで合っているかい?」
「は、確認します。
あ。パック首長。旧倉庫が抜けています。私の記憶では冬に出し入れできない倉庫が出て、ここに乾燥しても影響の少ない肥料を入れたはずです」
「すぐにその倉庫の記録と在庫を確認してくれ」
「は、見て参ります」
なんだ。単に倉庫の記載漏れか。大げさに騒がないでよかったよ。この辺の書類をやって待っていよう。
「首長。確認して参りました。こちらが結果です」
「ああ。入庫したのはこれだけ?そのまま在庫してるね。ゴムの木に使う肥料はこれで十分だけど、馬車1台分くらい肥料の在庫が足りないぞ?ケルターは出番だったか?」
「はい、今日は本部で待機しています」
「すぐに呼んでくれ」
「は、ただいま」
「ケルターです。お呼びでしょうか?」
「ああ、よく来てくれた。肥料が馬車1台分、およそ800キル足りないんだ。心当たりはないか」
「800キルですか?ずいぶんな量ですね。
積荷を誤魔化すにしても1台で出せば我々でも見ただけでわかります。やるなら最低3回くらいに分けて軽いものと積合わせないと、出庫番が出していいと言っても私らが出しませんよ?
それに倉庫番も買収しないと、出庫伝票にないものなんて出せないはずです。軽い荷は大抵高価ですからね、代わりに肥料を積んで買収で金を使って、割りに合わないように思うんですが」
「それもそうか。今、倉庫は7つもあるんだ。
近々在庫確認と整理をさせようか。
先入後出しの都合もあるのに、あの山積み状態を放っておく訳にもいかない。在庫がわかりやすくなれば間違いも減るだろう」
「は、出入庫停止の予定も知らせねばならないので直ちに計画を行います」
ケルヤークの庁舎は主要な5叉路の角にあるので窓に寄ればどの道も見通せる。
東は町を通って乗り場へ向かう道で、この町から出る道は4本ある。
南行きの赤土山はごく近く800メルほど、早くに道ができているので両側に15軒ほどの新しい家並みができていて、比べると旧市街の建物が見窄らしく感じてしまう。
北行きの白土街道は両側が倉庫街となっている。馬車1台がやっと出入りできる小さな倉庫だけど今はこれで充分だ。東行きが長い橋を渡ってアルモスブラフ、南東がスレート山行きだ。
アルモスブラフの先に3つの村があって、この土地の交易圏を形成しているのだ。
まずコーヒー豆の保管を見に行こう。乗り場への通路の奥、右側にある隠しドアの開け方は、今朝ミレルに伝えてあるのですでに押し開けられ、ドア枠を木で作り固定しているところだった。古いドアは開けた状態で別にドアをつけるのだ。
「言いつけの通りドアの上下に丸い穴を開けさせました。戸当たりにもドアを閉めるとゴムを挟むように接着してあります。でもあの説明ではよくわかりませんでした。これ、なんなのです?」
「ああ、そうかもしれないね。
うん、うまく作ったね。奥のドアは外せるかい?あのドアはない方がいい。
コーヒー豆を運び込んだら扉を閉めたあと、上の穴からチッソを送り込むんだ。チッソは燃えないガスでね。下の穴の前に火の点いた薪を置いて、出てくる風が当たっても赤くならなくなったら穴を塞ぐんだ。
ドアには頑丈そうな鍵をぶら下げておこう。気軽に入ると冗談じゃあ無くて窒息して死ぬよ。ドアを閉める時にまた立ち会うよ」




