5 配達・・・ミット
これまで:アルモスブラフでは疫病に見舞われていて、アリスがドロンで飛んで救済に当たっている。ミットは手出しが出来ずヤキモキしながらケルヤークに滞在していた。
『ミットー、聞こえるー』
「アリスー。どーしたのー?」
『あのねー。ちょっと困ってるの。病み上がりの人もだいたい元気になってきたんだけどね、栄養が偏っちゃてるみたいなの。前は猟師とか結構いたらしいんだけど今はいないんだって。ずっと寝てたからすっかり骨が弱ってるってマノさんの診断で出ちゃてー。お魚かお肉を差し入れてくれないかなー』
「いーけど、どうしたらいいー?」
『川から上がれるように階段を作るよー。河原にも家建てちゃう。町のそばまで運んで欲しいの。カクリ?はもう2日だっていうんだー。それで症状が出なければ往来ができる様になるって』
「いーよ。分かった。すぐに4人連れて行くよ」
『うん。お願いね。切るよ』
「ミット嬢さん。どうされました?」
「アリスの頼みだよ。4人、アルモスブラフへ行くよ。仕事は魚か肉を捕って配達する事だよ。泊まりがけになるかもだから行けるやつは前へ出な」
ザッと足音高くその場にいた25人全員が前へ出た。
「ボートで行くからね。80人分の肉、魚だよ。
右の4人。頼むよ。準備して1ハワー後にここに集合。他はいつもの訓練を続けて。解散」
さあ、あたいも準備しないとー。
「じいちーゃん。魚入れる箱を二つ分けてー」
「ミット嬢さん。そんなに慌ててどうなさった?」
「アルモスブラフで食べ物が不足してるんだー。魚を捕って差し入れに行くんだよー」
「それはご苦労様じゃな。そこに積んであるのをどれでも持っていきなされ」
「じいちゃん、ありがとー」
あとはリュックの中を一応見ておこう。着替え、アルミ鍋、治療具、着火具、ハッポー、ケッカイ、灯りも入ってる、うん大丈夫ー。弓、矢、ナイフ、鉄剣、かっるい双剣。訓練中だったから服装はこのままでいいね。あ、ボートはパックが使ってるー。
送って貰えばいっかー。
「パックー、聞こえるー?」
『ミット、何かあったの?』
「アリスのオーエンに行ってくるよ。あたいの他4人対岸まで送ってー。あと40メニくらいかなー。魚も箱二つ分頼むよー」
『分かった。用意しておく。切るよ』
よーし。詰所に戻ろー。
「あ、ミット嬢さん。用意できました。箱、持ちます」
「一応見させてもらうよー。
お前たちの剣もちゃんとしたのを支給しないとだなー。トラルや弓矢の訓練も入れるか。
いいだろー。ボートでパックが送ってくれる。行くぞー」
「「「「はい」」」」
支流の河原まで2ケラルあるし歩きにくいからね、どうしたって30メニはかかっちゃう。アルモス街道から河原へ降りる道も作ってもらうかなー?4日分ならスレート山にかかる前にここだけってのもありかなー?
「やあ、パックー。悪いねー割り込みでー」
「いいよ、別に。アリスの頼みじゃ断れないよ。
あ、箱貸してね。ちょっと入れて見て。
あー、ちょっと足りないね。送ったら追加を捕るよ。
ボートは4人までだから分かれて乗って」
ひゅーひゅー。風がきっもちいー。ちっさい波でぽこぽこ揺れるのがまたいーんだ。サイコーだねー。ひゅーひゅー。
あー、もう着くのかー。相変わらずでっかい石が転がった河原だよー。
そっかー。この河原があったんだよ。夕方までにたどり着けるかなー?
「この河原は前回コヨーテが3頭出たよ。あたいが索敵するけどあんた達も周囲に注意しな。箱が持ちにくそうだね。あそこの木で担ぎ棒を作るよ。移動するよ」
「「「「はい」」」」
弓矢の準備をして先頭をひょいひょいと進む。
あー、箱を腹に抱えていては足下も見えないか。
「警戒しながらそこで待ってなー。木を採って来るよー」
2人で前後で担ぐんだから3メル近く要るか、なるべく真っ直ぐな奴。枝じゃダメだね。このひょろっとした木がいーかな?
周りは?いいね、気配なし。地面から50セロ辺りから上で良さそーだね。鉄剣なら。こう振り抜けば。刃筋のイメージができてきた、こうだね。やぁっ!
ザシュッ
おっととこっちに倒れて来たよ。あっぶねー。そんな太い木じゃないからいーけどおっどろいたー。
おおー。綺麗な切り口だー。
えーっとこのくらいあればいーかなー?寝た木を斬るのがまた。あー、ガルツが前に足元の木を切ってたね?あれはこんな感じだったかな……足場を踏み締めて掬い上げる感じ?そーだこうやってたんだ。よーし。やぁっ!
うまく行ったー。ちょっと重いかなー。生木だからねー。まいっかー。
棒を担いで戻ると細ロープ で箱を重ねてくくり、棒の真ん中にぶら下げた。担がせてみると地面から1メルくらいになったので後ろの人も足元が見やすいだろう。背丈の近い者を組にして移動を始めた。こっから15ケラルだっけ?
頑張れよー。訓練のせーか見せろー。言わんけど。
「ミット嬢さん、この木を剣で切ったんですか?」
「そーだよー」
「今度教えてください。これ6セロもあるじゃないですか?」
「根元のほーだからねー。そーだなー、あと1月頑張ったら切れるよーになるかなー?」
「1月ですか。頑張ります」
「実をゆーとねー。今の警備隊は人数が多すぎるんだよ。たった800人の町に80人だよー。首長連中が住民を抑えるために増やしたんだろーけど。町の規模から言ったらいーとこ30人だよ。だから別の仕事をしてもらいたいんだ。猟師とかまあ得意なことをね。
あ。そろそろ交代しなー。30メニで交代だよー」
「「「「はい」」」」
タイマなんてなんに使うんだと思ってたけど、こういう時はいいねー。また30メニっと。
「ねー、アリスー。タイマだけどさー、繰り返しなんかもあるのー?」
『わっ!ミットー。あるよー。マノボードでタイマ使う時下になかった?ハンプクだったかなー?』
「あった!ハンプクー。ありがとー。
下の河原まできたよー。崖下に日のあるうちに着けるかなー?」
『歩きにくいよねー。うーん、今ちょっと手が空くから、そしたらそっちに行くよー』
「無理しなくていーよ。来ちゃダメだよー。切るよ」
しまったなー。余計なこと言っちゃったよー。あれ、絶対来るぞー。何するつもりか知らないけど無理しそーだよー。どーもできないのが悔しー。
交代を3回分向こうから来るアリスが見えた。
「アリスー」
「ミットー。ごめんねー、こんなボッコボコで荷物運びさせちゃってー。もうちょっとしたらこっちに道ができるから少しは楽になるよ。あたしはこのまま川まで行って来るよ。じゃあ、頑張ってねー」
「「「「がんばります」」」」
あの速さ!負けそー。アリスの通った跡を見ると1メルちょっとの幅で地面がぶくぶく言ってる。これ踏むのはやだな。そのまま少し進んでみると平らになってるね。矢でコンコン。固いね。触ってみると大丈夫そうか。ふーん。これが今作った道か。少し歩いてみた。いいねー。
「あんた達こっちを歩くよ。行くよ」
「「「「はい」」」」
おっと、調子に乗ってはいけない。あたいは索敵だ。交代2回でアリスが箒をバサバサやりながら追いついて来た。マシンの回収か。
「後ろー。箒交代したげてー」
「了解」
半分以上来たねー。んーー?
あたいは右腕を広げた。
「なんかいるね。箱を下ろして戦闘準備」
気配の辺りへ矢を2本散らして射つ。
トストスッ
外したね。動きがない?
「そこで警戒」
言い置いてゆっくり進んで行く。アリスが右後ろを付いて来る。
「右に1頭、たぶんコヨーテ」
ギャン!速い。針飛ばしたね。
左に2頭。石の影から出た頭を射つ。もう1頭!
ギャウ、バタバタッ
「もう1頭行ったよ」
正面の木の影?50メルか。
足場を踏み締め弓を引き絞る。
右からコヨーテの悲鳴が上がるが無視だ。
左腕をゆっくり下げ矢を放った。アリスが右前に来て警戒してくれている中、吸い込まれるように的へ飛んで行った。
グァァァーー
「たぶん熊。行くよ」
まだコヨーテも居るかもだからね。警戒しながら進む。あたいは弓をしまうか悩んだがアリスがいるからとそのままにした。
気配が薄い。
寄って行くが動きがない。あらー。眉間に矢が突き刺さってるよ。
「すごいね。急所一発。ミットー、さっすがー」
「コヨーテ4頭、熊1頭運ぶよー」
「「「「はい」」」」
「……アリスー、悪いけど手押し車頼めるー?」
「あははー。そーだね。この木を倒そうか」
その夜は階段下の家でハッポーを敷いて遅くまでアリスと話した。
ここには塩泉と炭酸泉が出たそうだ。病人を丸洗いする必要があったというけど、自分が入りたかったからに決まってると言ったらケラケラ笑ってたね。炭酸泉って泡がプツプツ肌に当たって気持ちいーんだって。
他にもいろいろ作ったから忙しかったけど、話し相手がいないのが辛かったって言ってた。
警備兵4人は街の入り口まで階段200段込みの5往復して隣でぐったりしていたので、静かな夜だった。




