2 アルモスブラフ・・・ミット
これまで:ハイエデンでの開発は続いているが面白いところは大体終わった。ガルツ商会はパックの故郷ケルヤークの開発が急務だと判断した。
ケルヤークの東に町があるというので、その探索にあたいとパックが参加することになった。あたいの意見でヤングを連れて行くことにした。
川がすっごく広いことはチズで分かっている。マノボードのチズで渡れそうなところを探してみたけど、荷物もあるし船で渡るしかないね。
アリスがハッポーで膨らませるボートってゆーのを二つ作ってくれた。両側に10セロの筒が付いていて、そこから出る水流で川面を滑るように走る。町近くの支流から出たんだけど、あんまり楽しくて途中で3回も回っちゃった。それでもあっという間に対岸の河原へ乗り上げた。
「ヤング、チャックー。ボート、小さくするから背負いカゴにしまって」
「こいつはほんとに便利ですね。そもそもこんな大きな川が渡れるとは思わなかったよ」
「マノボードで見るとこっちの方角かな、足元の石がゴロゴロしてるから気をつけて行こう」
身軽なあたいとパックが先頭で、あとをヤングとチャックが付いてくる。
「こっち側にもスレートの石が流れて来てますね。上流に行けば大きいのがたっぷりあるんでしょうね」
「町の探索が片付いたらボートで遡ってみよーかー?これだけ落ちてるってことは川のそばだろーしー」
「それはパイクが喜ぶな。ミット嬢さん、よろしくお願いします」
あたいはどこを踏んだらいいか、なんとなく分かるから飛び跳ねるように進めるけど、男どもはなかなかついてこられないね。10メルくらい離しちゃったので待っていると、なんか変だ。獣臭い感じ?
あたいが右手を広げるとみんなが動きを止めてくれた。30メル先の左の薮かな?
ちょっと脅かしてみよう。弓矢を抜いて散らすように2本射った。
ギャン!ガウガウッ!
ごつい顎をした犬が3頭出てきた。1頭の後ろ足から血が出ている。あとの2頭は左へ回り込もうと走り出した。
パックたちが剣を抜いているなと横目で見ながら先頭のイヌを矢で射つと、胸に当たってその場に転がった。あれは任せてもいいね。負傷させた1頭を探すと、右へ回り込んでこちらへ走ってくるところだ。
あたいが弓を脇へ放り剣を抜くと、向きを変えて逃げ出した。
残りの1頭も逃げたようだ。
「犬とは顔が違うみたいだね」
「あまり見ないですが、コヨーテです。肉は臭くて食えないですね。毛皮は使い道がありますがどうします?
でもさすがだ、俺ら、出番がなかったです」
死体から矢を抜きながらヤングが答えた。
拭ってもらった矢をしまって毛皮を剥ぐ間に、藪の矢を回収して木立を見上げると黄色い花が咲いている。蕾も多いから咲き始めらしいね。
「この木は何か実はなるのー?」
「なるけど食えません。そっちの木なら夏に白い小さな花を付けて、秋になったら美味い実がなりますよ」
離れた木を指してチャックが教えてくれた。
毛皮の回収が終わったので先へ進む。河原を出るまで2ハワー近くもかかった。大きな階段状の崖が3段。1段目は10メルも上だ。
すこし右が登れそうなので、あたいが先に登る。男どもはやっぱり付いて来られないね、へへん。
登りきって近くの木にロープを回し結わえると、下へ放ってやる。
「それで登っといでー」
特に気配はないね。先にもう一段登っちゃおうおうか?あ、ロープがないや。
しばらく待っているとみんなが登ってきた。
ふうふうと息を吐くのを見ながらロープを回収してパックのロープも拝借した。
少し落ち着いたようなのでまたあたいが先に登る。
こんどはさっきより楽だね。足場がいい。あれあれ結構距離があるなー。ロープ繋がないと足りなさそー。パックのも持ってきて正解だねー。
20メル近い急斜面を登り切ってロープを下へ放ると辺りの探検ー。この段はさっきより広いし、木がたくさん生えていて見通しがあまり良くない。気になる気配はないので待つ間に一番高そうな木を選んで登ってみる。ギリギリまで登ったけど、葉が茂っていて見えないのでてっぺんを少し枝打ちした。
先を見ると右手が深い森だね。町は左へ回り込んだ先のはずだよー。見えないけどー。後ろは川までよーく見える。天気が良くてよかったよ。
3人の気配が上がってくる。この様子じゃバッテバテだねー。見通しが悪いからもう1段登ってしまいたいんだけどなー。
しょーがない、一休みしよー。
下へ降りて今払った枝を集めると着火具で火をつけた。火の上に長い枝を3本組み合わせてアルミーの鍋を下げると水を注ぐ。もうそこまで上がって来てるから、このお茶で一息吐けるだろう。
着火具と軽い鍋はボートと一緒にアリスが持たせてくれた。テントとケッカイ、ハッポーもあるから泊まりになっても大丈夫。
「もうじきお湯が沸くよー。こっちにきて座んなー」
「やあ、助かるよ。ふー」
「ほら、パックもカップを出しなー、お茶にするよー、少しゆっくりした方がいい。お昼はもうひとつ上に行ってからだよー」
「ああ、きついのがもうひとつあるのか。分かった、頑張るよ」
長めの休憩のあと使ったものをしまってあたいは立ち上がる。みんなも名残惜しそうに立った。
最後の斜面も結構急だけど少し低いかな。途中に太い木のある場所を選んで登り始めた。
ロープを使うならいい足掛かりになるからね。途中で場所選びに失敗したかな、とも思ったけどなんとかなるもんだね。男どもなら支えきれずに抜けてしまうような、根やら石やらの手がかり足掛かりで登っていけるんだから、身体が軽いってありがたいよ。
とはいえ流石にちょっと息が切れた。
少し遠いけど位置のいい木にロープを結わえて下へ放ると、そのまま木に寄りかかって周りを見回す。
なんとなくここに上がった時から違和感がある。
なんだろう?下からは時折ガラガラと石が転がる音が聞こえる。右手が風上だね。なら左かなと注意を向けるけど、おかしな感じだけが続いている?
上か?なんで躱せたのか分からないけど、ヒョイっと右へ飛んだら、あたいがいた木の幹におっきなものが飛びついた。
巻き付いて締めるつもりだったのかな?尻尾だけ幹に一巻きして、首をこちらへ向け左右に揺らす白いヘビ。太さは15セロくらい、長さはグルグル巻いたりしてよく分からないけど3メル?
パックたちの方へは行かせられない。2本の剣を抜いて挑発するように顔に連続して斬りつける。あれ?切れた?
おっかしーな。あの白ヘビとは種類が違うのかな。速いだけの斬り込みで皮が切れちゃったよ。
ま、いっかー。
目の辺りに一発見舞って横へ回り込み、首へ思い切り右の剣で斬り込むと、刃が骨に当たった感触と共に止まった。
右手を離し左の剣に添える。両手で少し下を足の踏ん張りと共に斬り上げた。
骨のせいで首を切り落とすまでは行かなかったけどクタっとヘビが地面に落ちた。
なんかあっけなかったけど、切れるならこんなものか?だいぶ小さいし。
お昼は新鮮なヘビ肉の串焼きー。ヤッホー。穴掘りー、皮剥ぎー、解体ー、ぶっつ切りー。
あたいがるんるんで切り刻んでいると、まずパックが上がってきてへたり込んだ。
水入れを出して横に置いてやる。あたいはお料理の続きー。
おー、ヤングだねー。頑張ったねー。
薪を拾って来よう。
串も作ったけど一人足りないね?
「チャックはどーしたー?」
「…ぜー、下の……木で、ふう、ふぅ……休んで……る……」
ヤング、どんだけ疲れてんだよー?パックは寝てるし。
見に行くと途中の木の幹にだらしなく寄りかかるチャック。
どーしよーか?そこそこ体の大きいチャックを引き上げるのはキツいなー。
あ、ガルツがテントを張るときに横に引いてたね?あれやってみよーか。
「チャックー。引っ張りあげるから脇にロープ巻きなー」
「……ミット嬢さん……俺…重いですよ……」
「いーからさっさとする」
「…これで……いい……ですか?」
「よーいするから待っててー。
ほら、パック。起きなー。チャックを引っ張るよ。ヤングもこっちに来て」
ロープを少し遠い木まで引いて行って幹に回し近くの木に戻って一巻き半。パックにはチャックの様子を見てもらう。
「ほら、ヤング。このロープ引くよ。この張ったロープを直角に引くんだよ。ほら、頑張って」
「引く……こっちへ……ですか?」
「そーだよ、ほら引きな。そうそう。
ゆっくり緩めて」
ヤングが戻す動きに合わせてあたいが引っ張る。
「こんな具合だよ。どんどん行くよ。ほら引いて」
「もっかい」
「まだだよ、頑張って」
「ほれほれ、どーした。
パックー、どーお?大丈夫そう?」
「こっちは大丈夫だよ」
「おーし、ヤング、頑張れー」
「もういっちょー」
「おとこ見せろー」
「もーいっかいー」
「ミット、上がったよ」
「はぁはぁ、ミット嬢さん……上がれました……ありがとう……ございます…ふぅふぅ」
「パックー、ロープ片付けて。あたいは焼肉の準備するよー。ヘビの串焼きだよー」
草を地面から短剣で粗く剥いで、枝を並べて火を点けた。なるべく薄く切った肉を串に刺して地面に立てる。枝を高く組んで鍋を下げ、火加減を見て薪木を足すと脂が浮いて来るのが見える。塩と香草の粉を振って裏返すと旨そうな匂いが立ち昇った。
いい感じに火が通る頃、ゴソゴソと3人が起き上がって這うように火のそばへ来る。
「もういい感じだね。肉はたくさんあるから欲しけりゃ自分で刺して焼きなー」
「この肉は?ヘビって言ってたよね」
「さっき仕留めた。ほら、そこに皮があるよー」
「「「でかい!」」」
「何言ってるのー?ガルツは一人で5メルの白ヘビを仕留めたよー。これは刃が通ったしー」
・ ・ ・
なんやかや、お昼を食べたらみんな復活したので、片付けのあと右の森の縁を回り込んで先へ進む。あたいとパックが先行するのは一緒だ。
しばらく行くと左手が畑になって来た。草が生え出し世話をした様子がない。先の方に高い屋根も見える。この辺には人影は無い。マノボードの5日前の絵にも人の姿がなかったのを思い出した。
町の広い通りへ進んでいくがやはり人影はない。300メルほど入り込んだとこで右から話し声が聞こえたので、行ってみると10人程で畑に穴を掘っていて、そばの荷車に死体が積み上げられていた。
こちらを見上げた男から声がかかる。
「あんたたち、どこから来た。ひどい疫病でこの町はほとんど全滅したんだ。すぐに戻ったほうがいい」
「俺たちは川向こう、西のケルヤークから来た。どのくらいやられたんだ?」
ヤングが聞き返す。
「元は1200人くらいだったか?
流行り始めて2月経ったが、今残っているのは80人いない。俺たちはかからなかったからこうして遺体を埋めているんだ。回復したのも50人くらいいるが、まだ体力がない。とにかくすぐに町を出ろ」
「ミット嬢ちゃん、パックさん。どうします?」
「ああ強く言われたんじゃ戻るしか無いかなー。ねー、この町の名前はー?」
「アルモスブラフ。さっさと戻ってくれ」
「ああ、分かった」
その日は河原まで戻り木の間にテントを張って野営した。石を退けて3メル四方を確保するのが大変だったけど、ケッカイも張ったので夜はゆっくりできた。
ボタンでアリスを呼んでみると、知らない声が聞こえて来た。
「只今通信ができません。回復は3ハワー23メニ後になります。アラームを設定しますか?」
夜中じゃん。
「いらない。明日の朝はどーよ?」
「11ハワー49メニ後になります。アラームを設定しますか?」
「アラームって?」
「設定された時間になると音を鳴らしてお知らせします」
「ふーん?じゃあお願いー」
・ ・ ・
朝ご飯もヘビの串焼きとスープだった。テントを片付けボートを膨らませると、2艘に分かれて川を遡る。スレートの材料となる石の切り出しができるか見に行くのだ。
ボートが走り出して少し経った頃、左からミーミーと変な音がするのであたりをキョロキョロと見回してしまった。
ヤングが何事かとみてるじゃないの。
耳のボタンだと気が付いて手を振って知らせる。
ボタンを2回摘んでアリスを呼んでみるとすぐに声が聞こえた。
『ミットー。今どこー?』
「ケルヤークの東ー。アルモスブラフって町に行って来たー。
それがねー、ビョーキが流行って1200人が80人に減ったってー。移るから戻れって追い出されたー」
『えー。それはひどいね。80人しか残らなかったのー?』
「そのうち50人は病み上がりで体力がないって言ってたよー。お墓を掘って埋めてるとこだったー」
『ふーん。大変だね。ミットたちは大丈夫?具合わるくなってないー?』
「別になんとも無いよー。それでねー、スレートの原料をまてめて取れるとこを探して川を昇ってるよー」
『ふーん。気を付けてねー。あたし仕事頼まれてるからきるよー』
「バイバーイ」
1ハワー程流れに逆らい進んでいくと、大きな石がゴロゴロあるため流れが大きく乱されて進みにくくなって来た。
邪魔な岩を見るとほとんどがスレートの岩だ。川の中でなければ十分な大きさと量があるのにと、ボートを岸に寄せ歩いて遡ることにした。歩きだとただでさえ遅いのに、岩だらけのせいでさらに歩きにくい。川沿いに進んで藪を掻き分けるのとどっちがいいのか悩ましい。
マノボードを見ると川は森を回り込んで右へ大きく曲がっている。あれ?水が見えないね。一面が石原?もう少し上流を見ると水が現れ川幅が急に広くなっている。対岸が妙に黒く見えるので大きくしてみると、山が崩れたように見える。この山が全部スレートの岩?
とにかく行ってみよう。もう少し我慢して遡れば石原が渡りやすいかもしれない。
なんでこんなに遠ーいの。チズで見る距離と歩く距離って全然違うよねー?
石原には辿り付いたけど穴が多くてとても渡れない。もう少しと思いながら歩くうちに1日が過ぎ、野営してじきにお昼かと言う頃やっと渡れそうなところまで来た。対岸の上流に黒い崖が見えている。
足元に注意しながら石と砂ばかりで水のない川を渡って行く。ところどころに黒い岩の頭が突き出ているけど、歩きにくいという事はない。
でもここを馬車で通るのは車輪が沈んでしまいそーだねー。川を斜めに、崖へまっすぐ歩いていたけどだんだん足元が柔らかくなって来た。水気の多い砂地で歩きにくいので、下流側へ戻って川を渡ってしまおう。
こんなとこでもトーレスたちを連れてくればいい道路になるんだろうな。アラームがミーミー言うのでアリスに連絡を入れてみた。
道路班は休暇のためハイエデンに向かって戻って来るそうだ。もうトラクと装備は1組分用意したらしい。チズの距離と歩く距離は一緒だとアリスが言うが信じらんない。
対岸に着いたところで野営して、崖にたどり着いたのはその日の夕方だった。




