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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第1章 トラーシュ
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4 武器屋

 ここまで:トラーシュの町を見て回る3人は手持ちが心細くなったので、アリスに複製してもらったナイフを売って資金を作ろうとするのだが。


 金物屋、荒物屋と来てちょっとした広場の先に探す武器屋の大きいのがあった。広い店内に客は見える範囲で20人ほど、結構繁盛しているようだ。

 角刈の店員らしい男が声をかけて来た。小太りに見えるが身のこなしは滑らかだ。

「お客さん、何をお探しで?」


「いや、持ち込みなんだが」

「拾い物ですかい?うちは中古はやってないんで、他所を当たってもらえませんか?」

「おいおい、見もしないうちに決めつけるんじゃないよ。アリス、見せてやれ」

「はい、ナイフだよ」


「何かと思えばナイフって?大人をからかっちゃいけないよ。これ刃が付いてないじゃないか」


「あたいがやって見せてあげるねー。ほらー」

「うおっ?刃がしまってあったのか。ほう、いい刃だな。柄は鉄か?やけに軽いな。バランスもいい感じだ。見たところサラだな、こっちへ来てくれ」

 店員はナイフを持って奥へ進んで行く。何人も他の客をすり抜けて行くので、大きなリュックを背負ったガルツが一番大変だ。


「ちょっと通してくれ。すまん。ああ。ごめんよ、道を空けてくれないか………」


 やっと帳場らしいカウンターにたどり着いた。

「おいおい、勘弁してくれ、自分だけスイスイ行きやがって。こっちはリュック背負って子供を二人連れてるんだぞ」


「あたいらはガルツの後ろ付いて来たからー、楽だったよー」

「ああ、そうだろうよ」

「いや、すまなかった。だがあの場所でこんなものを見せたあんたが悪い」

 ガルツの形相が変わる。


「なんだと?俺の話を断っておいて、その言い草はなんだ?ナイフを返せ。他所へ行く」

「ああっ!いや。ちょっと待てよ!」


 横合いから艶のある女の声が割り込んだ。

「あははっ、あはははははー。キース、あんたの負けだよ。いや、すまないね。うちのものがとんだ失礼をしてしまった。あたしも謝るんで勘弁してもらえないかい」


 ガルツの怒りは収まらない。

「ああん?なんだ、あんたは?

 人の苦労を笑い飛ばしておいて、どこが謝ってるってんだ。ふざけるのも大概にしろ。

 おい、出るぞ。こんなクソみたいな店、付き合ってられるか」


 店員が突然膝を突き、頭を床にゴンっと鈍い音を立ててぶつけた。

「いや、待ってくれ。俺が悪かった。申し訳ない。勘弁してくれ」


「あんた、そこまでするのかい?あたしも一緒の謝るよ。この通りだ。勘弁しておくれ」

 女も一緒になって床に頭突きをしている。


「おい!?なんだよ?なんで床に頭突きなんだよ?しかも二人って。立てよお前ら!」

「いいえ、堪忍いただけなければ頭を上げられないんです。どうか、お許しを」

「うえっ!?分かったよ。勘弁するから頭をあげろ」


「「ありがとうございます」」

 と言って、二人がもう一つ床に頭を打ち付けるとやっと立ち上がった。額が赤くなって男は血が滲んでいる。


「まず聞きたいのはさっきの頭突きだ。あれはなんだ?」

「ああ、驚かせて申し訳ない。わたしらは東の果ての出身で、あれは謝る時の作法なんだ。ああのやり方で収まらなければ、腹に自分で短刀を刺して十文字に切ることになる」


「いや、それ死ぬぞ。十文字って自分でかよ?よほどのものでなけりゃ無理だろ、そんなの」

「おっしゃる通りですが、男は身命を賭してお詫びするもの、一度切ると決めたら叶わぬまでも十文字を目指すのです」

「男はって、女の場合は違うのか?」

「女はそこまでの力が無いので胸か喉に刃を当て、倒れ込むことで体重をかけて突き刺します」


「………ああ、わかったよ。そんなもの見たくねぇよ。勘弁したんだからもういいよな?」

「はい。ですがこちらへ案内した用件がまだ済んでおりません」

「もうどうでもいいだろ。ナイフを返せ、俺は帰りたい。疲れたよ」

「ガルツー、なーにが疲れたよー。暴れ足りないだけでしょーが。しゃんとしなさいよー」


「うへっ。ミットは容赦ねえ。さっき言った通りそいつは売り物だ。値を付けてくれ」

「あるじ、こちらが持ち込まれたのはこのナイフ。刃を仕舞えるものです」

「オーソンのとこでもやってたけどあれかい?」

「いいえ。はるかに良いものです」


「どれ、見せてごらん。見てくれはそんなに変わらないじゃないか。あら、この刃。かなりの業物だね。しかも長い!10セロはあるね。こんなものを一体どこから?」


「それは言えないんだ。値が付かないなら他所へ行く」

「待っとくれ。これは他所では売れないし、あたしが渡したく無い。1万でどうだい?」

「良い値を付けてくれるな。だが、もう9本あるんだ」

「な、なんだって?本当にかい?」

「ああ、アリス。出してやれ」

「はーい。ナイフ9本だよ」

「うわっ!どうしてこんなものがこんなに……」


「だから、言えないって……」


「確かに同じものだね、わかったよ。言った口がここに付いてるからね。10万払うから、全部売っておくれ」

「しょーだん、せーりつー。よかったねー、ガルツー」


「ああ。それでな。鉱石を色々見たいんだが、どこへ行けば良いか知っているか?」

「キース。案内してやんな」

「はい。わかりました」


「では、10万シルだよ。また何かあったら持っておいで」

「俺らは旅の途中でな。また来ることがあったら寄らせてもらうよ」


「こちらです」

 キースと呼ばれた男は通りを少し戻ると路地の入り口で止まる。


「すまないな。案内なんかさせてしまって」

「いいえ。あるじの言いつけですのでお気になさらずに。この路地をはいります。狭いのでご注意ください」


 路地に入っていくらも行かないうちに

「ガルツー。なんかねー、今朝の匂いがするよー」


「なんですか?匂い?」


 ガルツにはその正体がわかったようだ。

「ああ気にするな。一番後ろへ回ってくれ」


 ガルツは脇道が左にあるのを見て取り、右手でリュックの下端の鞘を固定する紐を解くと左手で長剣を静かに抜く。後ろではアリスとミットが弓を抜き矢を準備している。

 アリスの弓を見て首を傾げたが、宿でナイフを作ったため鉄が品切れなのをガルツは思い出した。

 路地から剥き身の短剣を持って3人飛び出して来た。


「よう。なんか用か?」

「てめぇ。よくも仲間をやってくれたな!」


 後ろへワラワラと6人出て来る。狭いのにご苦労なことだ。


「ああ、林で絡んで来た5人か?悪いことは言わない、よしな」

「うるせえ。やっちまえ」


 この路地では3人が並ぶと一杯だ。飛び込んで来た真ん中のやつをガルツが下から斬り上げる。

 右と左は喉元に矢を受け、そのままガルツの横を通って倒れ込んだ。目の前の死にかけを左手で跳ね飛ばし剣を振り下ろす。ガルツが片手で振る剣は、男が慌てて構えた短剣で防がれた。

 前蹴りを放つと後ろに当たってよろめいたので、後ろ諸共突き抜く。その間にもガルツの左右では矢が飛んで行って容赦なく喉を(えぐ)っている。この場はあっさり斬り伏せ武器だけ回収する。


「なんなんですか、あんたら?あっという間じゃ無いですか」

「襲って来たんだ、しようがないだろ。気にすんなよ。行くぞ」


「はい。真っ直ぐです」

 あっさりと返すキース。東の果てという場所から、はるばるここまで来ているだけあってこいつも大概だ。


 その後は特に邪魔も入らず、石屋に辿り着いた。いかにも裏路地って感じで汚い外観だ。

 案内が居なけりゃ絶対入らないな。


「帰りは大丈夫ですか?」

「大きい通りに出られれば、どうにでもなるさ。ここまでありがとうな」



 扉は汚れているが厚みがあって丈夫そうだ。

 ノックをして待っていると小窓が開いて確認された。

 

「こんにちは」


 ガチャガチャと大きな音がして扉が開く。

 こんな路地に似合わない、黒地に銀や赤のラメ入りと言う派手な身なりの婆さんがそこにいた。

「ああ、いらっしゃい。旅の人かい?良くここがわかったね」


「武器屋のキースってのに案内してもらった」


「おや、キースがかね。それは驚いた。そうかい。で、何が要るんだい?」


「鉱石を一通りこの子に見せてくれ。使えるものがあったら買いたい」


「よろしくー」

「はい、こちらこそ。奥へ行くよ、付いておいで」


 大きな低いのテーブルの上に指一本くらいの高さの四角い間仕切りがびっしりと施され、中にそれほど大きくもない鉱石が並べられている。右の棚には大小関係なく雑然と石が積まれていた。


「どうだい?欲しいものはありそうかね。よーく見てっとくれ」


 アリスはテーブルへ近づくと次から次へと6個取った。

 棚へも寄って行って下から3個取り、上からも4個取った。


「もうないの?」

「いやはや、何を基準に選んどるのか分からんが、こっちにもあるよ。

 そう数はないが。見てみるかい」

 そう言って引き出しを3つ抜いて床へ置いた。一つの引き出しには3個くらいしか入っていなかったが、アリスは全部欲しいと言う。

 15個以上にもなった。


「で、いくらになる?」


「あんたも酔狂(すいきょう)だね。こんな子供に選ばせて全部買ってやるのかい?」

 信じられないと首を振りながらも計算してくれた。


「62000シルだね。どうするんだい?」

「どうするとはどういう意味だ?俺は石を買いに来たんだ。金はここへ置くぞ。石は俺のリュックでいいか?」

「ガルツさんありがとう。でも重くなーい?」


「これくらいはなんてことないさ。ばあさん、邪魔したな」

「気を付けてお帰り。さっき外が騒がしかったから何かあるといけない」

「ああ、ありがとうよ」


 少し歩いてガルツはアリスに聞いた。


「ずいぶん鉱石を買ったがどうだったんだ?」

「うん。マノさんは喜んでるよ。……ただガンユー?なんか少ない?らしいんだけど……あーっ、もうごちゃごちゃとー」

「……そうか。まあ何かに使えるんならそれでいいか。

 さて、宿へ戻ろう。アリス、ミット。晩飯に食いたいものはあるか?」

「「お肉ー」」

 屋台で肉料理を適当に買って宿へ戻った。

 玄関で掃除をしていたお姉さんが迎えてくれた。


「おかえりなさいませー」

「ああ体を拭きたいんだが、お湯を頼めるか?」

「はい、たらいが一つ付いてこの桶一杯300シルで賜っております」


「2杯頼む。600だな、部屋へ運んでくれるか?」

「かしこまりました。鍵をどうぞ。お湯は後ほどお持ちします」

「行くぞ?」


「「はーい」」



「汗と返り血でひどい目にあったぞ。身体中ベタベタだよ。少しタオルで拭ったから、まだマシだがな」

「「でも面白かったー」」


「あんなもの面白がっちゃダメだよ。あれでも人間なんだから。アリス、もっとタオル作れるか?」

「ずっと外だったからできるよ」

「じゃあ3枚頼む」


 テーブルに屋台料理を広げて3人で食べていると扉がノックされた。


「お湯をお持ちしました」

 ドア開けると3人のお姉さんが、それぞれお湯の入った桶とタライを持って立っていた。

 中へ置いてもらい、桶にタオルを浸すとよく絞って身体を拭う。

 タライに水壺の水を入れ、そこで軽く汚れたタオルを濯ぎ、絞ってまたお湯に浸す。それでもだんだんお湯が汚れてくるが、なんとか3人は一通り拭き終わった。

 洗ってあった下着に着替えて、汚れた水の入った桶とタライをドアの外へ出した。

 ガルツは湿ったタオルで皮鎧を一通り拭う。剣も全部抜いて汚れや、刃こぼれがないか確認する。弓の(つる)も外した。


「ガルツー、明日はどうするのー」

「あの燻製(くんせい)肉が欲しいな。干し肉と交換できないか交渉してみよう。それで街を出たいな」

「「分かったー、おやすみー」」


   ・   ・   ・


「ガルツー。朝だぞー、ご飯行くよー」

「ぐえっ!」


 ミットはガルツの腹の上に乗って起こしにかかる。ミットは自分が先に起きると、起こし方が手荒い。

「ぬ。分かった、起きるから」



 食堂へ降りると空いている席に座る。右奥に商人風のおっさんが二人、右手前に女二人に若い男が一人、左は子連れの夫婦らしい。

 3人は左寄りの空いた席に座った。

 今朝はパンとスープ、肉を細長く切って()えたサラダのようだ。

 待っていると程なく昨日の受付のお姉さんがトレイに3人分の食事を乗せて来て、それぞれに配膳してくれる。


「「わー、美味しそーねー」」

「うん、このサラダはいいな。蒸し肉?とこの薄い色のはソースかな、美味いぞ」

「スープ、美味しー」

「「「ごちそうさま」」」




「大満足だったな。じゃあ荷造りして、肉を手に入れたらそのままここを出るぞ」

「「はーい」」


 職人通りを昨日の昼を食べた食堂まで足を運ぶ。


「おはようさん、また来たぞ」

「ああ、昨日の人だね。今日はどうしたね?」

「それがな、あの薫製肉が美味かったんで、こっちの干し肉と交換できないかと思ってな」

「ふうん?どんな肉だ。こっちも商売だから変なものなら要らないぞ?」

「グリンカイマンと白ヘビだ」

「何だって?カイマン………いや。ものを見てからだ。素人がダメにしてるかも知れん。出してくれ」


「こっちがカイマン、こっちが白ヘビだ。5枚入りを20持って来た。見てくれ」


 おやじはハコバの葉をめくって呟く。

「…………状態は悪くない」


 ナイフで真ん中から半分に切った。切り口を薄く削ぐように2枚切ると、色と匂いを確認している。

 ややしばらくそうしていたが、やっと一切れ口に入れた。()んでみて

「悪くないな」


 ボソッと言って、白ヘビの肉に取り掛かる。葉を退けて一つ頷くと、同じようにナイフで切り分け一切れ持ってじっと見ている。

 やっと口に入れて噛み始めた。


「塩とか処理を始める時間とか、言いたいことは幾つかあるが、おたくは狩が専門には見えねえ。これだけに収めたのは上等ってものだろう。特にヘビがいい。

 金なら2万シル、燻製肉なら120ってところだが、あいにく燻製は半分の60しか出せない。

 残りは金で1万シルってことで勘弁してもらえないか?」


「構わない。燻製肉が手に入れば文句はないよ。あれはとびきり美味かった。あと酒があったら分けてくれないか?」

「これで肉が60。それに1万シルだ。酒はひと瓶オマケするよ」

「おお、それは楽しみだよ。じゃあこれ貰ってくよ」


 商談は成立したようだ。


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