5 ケルヤーク2・・・ミット
これまで:チューブ列車で着いたパックの故郷ケルヤークは開拓地の収量が落ちて、どうやら破綻寸前の有様だった。ガルツはミットと共に介入する事にした。
あたいがマークスに呼びに行かせた首長、副首長は、あたいが思ったとーり警備兵を武装させて連れて来たねー。
「ガルツの旦那。来やしたぜ、50人」
「まー、そんなもんでしょー。800しか居ないのに1割以上も穀潰し飼ってちゃ苦しーよねー?」
あたいは集会場を出て正面に立つ。10メル離れて左にガルツ、右にケビン。ヤングとカジオは食料を住民へ引き渡しを続け、ユーラスとワイズが側面の警戒に就いている。
「そこで止まれ!」70メルで弓を構えたガルツが吠えた。
「マークスー。こっちへ来なー」
「何をしている。斬り捨てろ!」
言い終わってこちらを向いた胸をガルツの矢が貫いた。巻き添えで後ろの一人も腕辺りに穴が空いたようだね。
「マークスー。さっさと来るー。
あんたが来ないと交易にならないんだからー」
「くっ。散開して囲め!」
命令する奴が最初の的だって分かんないかなー。こー言う時のガルツー、遠慮なんかしないよー?あーあ、首に当たった。後ろの人可哀想ー。
「行くよー」
木槌のケビンに声をかける。ガルツはとっくに走り出してるよー。全部やっちゃうほーが簡単なんだけど、戦争しに来たんじゃないからねー。一気に10メルまで近づき逆に囲む形を取った。今度はあたいの弓も使えるよー。
「マークスー。出ておいでー。兵隊さんいなくなっちゃうよー?」
「ううっ。お前たちなんとかしろっ!
ぐわっ!」
「あんた、とこっとんアホだねー。命令する奴が最初の的なんだよー、足で良かったねー。
兵隊さん、まだやるのー?」
「ふーん、まー納得はいかないかー。
腕の一番いーの前へ出なー。あたいが相手したげるから、負けたら全員武装解除だよー。
さー、誰がやるんだいー?」
ザッと踏みだす音がした。3人が互いに顔を見合わせ戸惑っている。
あたいは弓を仕舞って、鉄の剣を抜いた。
「あー。いいよー。一人づつ来なー。
右から順だよー、ほら、あんたからだよー。
名前はー?」
「パイクだ」
「あたいはミットだよー。こっちがガルツー、あのでかいのはケビンだよー。
始めよーか?」
パイクがじりっと、間を詰めて来るけどまどろっこしい。あたいが一歩前へ無造作に出ると切りかかって来た。5回弾くともう息が乱れている。あれあれ。呆れたのが伝わったのかもう3回の打ち込みが来た。もう剣が振れないようなので根元から切り落とす。
「次。あんた、名前はー?」
「ケール!」
名乗りと同時に斬りかかって来る。動きがパイクと一緒で単調だねー。同じように弾いて行く。10回目ー。ほいっ。
「次」
「サナック!」
横薙ぎから突き。それ当たらなかったらおしまいのパターンなんだけど分かってんのー?まー、付き合うけどさー。
呆れて伸び切ったナックの隣に立って見ていると、足を捻って横薙ぎが来た。上へ弾くと一歩下がって切り下ろし。
まー多彩っちゃ多彩ー?
一歩右にずれて振り下ろされる剣を斬り下ろす。刃が回転してザクっと5メル右に突き刺さった。
「まだやるー?」
「………」
「じゃ、剣をそこに全部置いてもらうよー」
ガシャガシャーン、ガシャガシャガシャーン。
ユーラスとワイズが手押し車に投げ捨てられた剣を回収して行く。
「マークスー、ここの責任者はだーれ?」
「首長のトレイルです」
「他に溜め込んでるのは居るー?」
「副首長のアサーリが居ます」
「あんた達ー。ここの食料が足りてないのは知ってるー?800人の1月分だってよー。あたいらが馬車1台の穀物を持って来たけど、全然足りないのは分かるよねー。それだってタダじゃないのも分かるよねー。さっきこのアホに聞いたけどすぐによーいできるのはこいつらが溜め込んでる分だけだよー。
馬車でもなんでも持って行って、全部集会場に集めて来なー。ちゃんと働けば明日にでも追加を持って来るよー。
さあ、どーするー?」
「あ、ああ。うちの子はもう10日も1食しか食ってないんだ。俺は行くぞ」
「うちもだよ。俺たちは少ないなりに2食喰ってるが、あの屋敷の食料庫にはたくさん食い物があったんだ。その扉の前でおれは番人をさせられてたんだぞ。くそッ、根こそぎ持って来てやる」
「はーい、みんなが食べられるよーに考えなー」
「お、おうー」「「「おうー」」」
「あんた達お昼にしよー。お腹すいたー。
マークス、行くよー。あんたにはまだ聞きたいことがあるよー」
集会場の中では持ち寄った石臼で粉挽きの真っ最中だ。
「みんなが食べられるようにちゃんと考えるんだよー。明日また持って来る予定だからねー。
悪いけどあたい達は弁当食べるからー」
「ガルツー、干し肉出してー。どうせチビ達は寄って来るから弁当を分けてやるよー。干し肉でも食べて頑張るよー」
「「ぐすっ。ミット嬢ちゃん。お優しい……」」
ヤングが周囲の警戒をしてくれるみたいだね。弁当を広げると小さい子は我慢できないよー、おそるおそる寄って来るチビ達を小さく手招きする。
「あたいはミットだよー。お名前はなんてゆーのー?」
3人の手を引いて6歳くらいの痩せっぽちの女の子。
「あたし、チーノ。この子たちがお腹すいてるの」
「そう。あんた達どれが食べたいかなー?」
「食べていいの?」
「どうぞー。でもいっぺんにたくさん食べるとお腹がびっくりするからねー。
わ。ガルツー。スープ作ろー。こいつらやばいよー。いっぺんに食べたら大変だー」
「おっ、そんなにか。おい焚き火を急げ。スープの具の用意だ。お前近所で鍋借りてこい」
食べたがる子供たちを抑えてみんなが大急ぎでスープを準備するなか、あたいは水をいくつもある色とりどりのカップに注いで気を引いていた。10メニ程でスープらしきものが出来上がったのでカップを持たせ並ばせる。
「待たせてごめんねー。お弁当はスープと一緒に食べるんだよー。先にスープをもらってねー」
3つ目の鍋が空になり、4つ目を配り出した頃やっと子供達の列が途切れた。弁当なんかとっくになくなって、細く切った干し肉を配っていたがそれももう僅かだ。
集会場に集まった食料から、お腹の負担にならない物を地元の母さんたち選んでもらい食べさせた。大人は子供に食べさせようとよく頑張っている。集まった食料もこの人数で食べたら1日分もあるかな?
「マークスー、あんた何みんなに混ざって喰ってるんだー?
4、5日食べないほーが健康にいいだろー。こっちに来なー。食料の在庫を正確に教えなー。どれだけ要るのかもだよー」
「ううっ。ごめんなさい!実は食料はそんなにありません!この町でみんなに食べさせると10日くらいです。共同倉庫はこの裏手にあります」
話を聞いていたガルツが立ち上がった。
「おーい、兵隊さんたちー。マークスのとこは見たかー?」
「はい。見てきました。食材はそれほど置いてませんでした」
「マルリックったか?あれに食料の管理ってできそうか?どうだ?」
「隊長ですか?正直、ダメだと思います」
「お前、信用できそうな兵隊を10人集めて来い。失敗すれば餓死する者が出るぞ」
集会場では石臼の作業が終わった分からパンが焼かれ始めた。徴発した食材で大鍋を沸かしスープも作っている。
「マークスー。食料の分配は配給だってー?
どうやってるんだー?」
「配給職員がリストを作って家ごとに配って周ります」
「配給職員ねー。みんなあんたみたいに太ってるだろー?」
「10名集めて参りました」
「あんた達ー、配給職員に知り合いはー?」
「は、自分は一人知ってます」
「そこんちって、痩せっぽちは居るかいー?」
「爺さんが一人痩せておりますが他は結構太ってます」
「今の配給職員ってのに食料の管理はさせらんないねー」
「どう言うことでありますか?」
「あんた達、パックって子を覚えているかいー?」
チビ3人の面倒を見ていた女の子がパッと顔を上げた。
「パック!知ってるんですか?生きてるの?」
「あー、元気だよー。今はあたいの仲間だよー。パックが言ってたよー。底辺集落ってのがあるらしいねー」
「あたしのとこもそうです」
「なんでそんなものがあるんだいー?あたいはどーしても聞きたいねー。こんなぶくぶく太ったやつとこの子らの違いってやつをさー。
あとねー。ずっと変だなーって思ってたんだけど、あんたらパックを置き去りにしたろー?口減らしかいー?」
「なんの証拠があってそんな……」
「あんた置き去り班にいたのかいー?それとも他にも置き去りにしたことがあるとかー?」
「言いがかりはやめてくれ」
「証拠ー、いーがかりー。ふーん?
そんなのやった奴がだしな。やってない証拠を出しな。悪いけどあたいはその怯えた目でわかるよ。こんな子供のあたいに、なんでそんなに、怯えるんだいー?」
「わわっ?それは……」
「上の命令だろー?ったく言う奴もそーだけどそれを聞く奴も大概だよー。マークスー。上ってだーれ?隊長ー?あんたー?首長ー?」
「ううっ、勘弁してくれ。お願いだー」
「それ、あたいに言ってもダメだと思うよー?
あんたも噛んでたんだねー。この町って真っ黒だねー、ガルツー、どーしよー?」
「うえっ。問題がデカくなってるし。こんなおっさんに多くを期待するんじゃねえよ。
おい、信用できる兵隊をもう10人集められるか?上の人間はもう使えないぞ。お前らができなきゃこの町は終わりだ。それで良いか?」
「えっ?終わりって?俺たちを見放すんですか?」
「そんなのあんた達次第だよー。あたいらはここに交易に来た他所者だよー。
まともな交渉ができないからー、身を守るために動いただけなんだよー。あたい達に何をさせよーってのー?自分たちのことは自分たちでやんなー。すこーし手伝いくらいならやったげるよー?」
「パックさんは口減らしでやすか。ひどいでやすね。あっしらも昔、里を追われたでやす」
「まー、そんな落ち込まないのー。
ガルツが交易って言ってるのはねー、まず食べ物がないと大変なんだよー。でも近所だとー、天気なんかも近いから取れない時も一緒だよねー。
今日乗って来た筒ってさー、たったの40メニだったけどかなり遠いらしいよー?
食料が融通し合えれば色んなものが食べられるしー、困ったときは他所から買えるでしょー?違う土地へもパパッと行けちゃうのが楽しーし?
そーやってちょっとずつ変えて行こーよ。
パックがねー、5メルの平らな道とトラクを作って近所を回れるよーにしたいって今頑張ってるよー。ハイエデンの周りだってちょっとずつ変えるつもりなんだよー」
「そうなんで?あっしらも頑張らねえと……」
「よーし、マークス元商会長ー。今日の支払いを見積もってくれたまえー。君ならこの穀物をー、いくらで売るねー?」
「おい、ミット。その喋り方は?」
「んー?前にケルス村に来たえらい人ー。面白いよねー、この喋り方ー。
マークス君ー。そーそーと返答をしたまーえー」
「ううっ、1/3程が適当かと存じます。ミット様」
「そーかー。ごくろーだったー、マークス君ー。では戴いて行くとしよー。皆のものー、積んでくれたまーえー」
「「「へい、ミット嬢ちゃん。お任せくだせえ」」」
じーさん達、目を白黒させて見てたねー。あれは頼んだやつを持って来たのかなー?
「旦那方、赤い土と苦い豆、ワタの種を持って来ました。白い土は採りに行ったものが明日には戻ってきます。
ネバネバの木は明日から3班組んで探します。なんとかこれで今日の分の代金の足しにしてください」
「ああ、頼んだよ。ハイエデンへ帰るぞー」
「「「「おーう」」」」




