5 ケルヤーク・・・ミット
これまで:ハイエデンの街に本拠と温泉場は三月ほどで軌道に乗った。ガルツはパックに商品管理を任せ、チューブ列車でケルヤークを目指す。
今日はお弁当を持ってガルツーとお出かけだー。
あたいもガルツも完全武装だし武闘派のケビン他4名も連れて来た。ピピンは交易に充てる商品と穀物を積んだ荷車を曳いている。
パックの住んでいたケルヤークを探すため、筒に乗って一つ先へ行ってみることにしたのだ。
筒はパネルで呼ぶと5メニほどでやって来た。開いた壁から乗り込み、40メニほどで次の乗り場に着いた。
この洞穴の出口は天井が高いせいか、光が結構奥まで差している。馬車を下ろす前にあたいとケビンが前に出て気配を探る。風の音だけのようなので合図を送ると、カジオがピピンを宥め筒から引き出した。
あたいはヤングを連れて先行して偵察に出る。
出口に近づくに連れ陽光が強くなるが、危ない気配はないのでゆっくりと進むと、2メルの木柵が正面に現れた。向こう側に落としの角材を嵌め込んで開かないように固定されている。
ここまで来ても気配はないが、風に乗って来る生活臭を微かに感じる。近くに集落があるねー。
柵を二人で乗り越え、閂の角材を外すと奥へ合図する。これで柵は押せば開くので後に任せ先の偵察を急ぐ。左右の土が高く溝の底を歩いているように感じる。パックに聞いたケルヤークの乗り場と似ているようだ。
土塁が低くなって来たのでより警戒して進むと家並みが見えて来た。この辺りから広場になっていて隠れるところが全くない。
右手の山裾まで200メル、正面のやや低いところの住宅地まで100メル。左側も山が見えているがこちらは1500メル、ずっと遠くて手前が畑になっている。人影はごく疎らだがこちらを見ているものはいない。
勝手に接触して悶着になると厄介だね。
「ガルツー、聞こえる?やったら見晴らしがいーんで、こっそり近づくってわけにいかないー。あたいらだけで先に話をしてみよーか?」
『ガルツだ。全員で行くからそこで待ってろ。切るぞ』
「ヤングー、待機だよー」
「はいよ」
程なく馬車が追いついて来たので、のんびり風にゆっくりと集落へ近づく。無警戒と言うかまるで気づかないのー?
70メル辺りで声を掛けた。
「こんにちはー。ハイエデンから来たんだけど穀物買いませんかー?他にも少し積んで来てますよー」
やっと気がついたのか、何人かが慌てたように走り去った。責任者に他所者襲来を伝えに行ったかなー?残りはボーっとこっちを見てる。
こちらはそのまま近づいていく。
6メル幅の通りの向こうから、30人くらい走って来たねー。武装してるし軽い登り坂だから大変だよー。お気の毒ー。
こっちは足を止め、あたいを先頭にして4人が横一列に並んだ。
この中じゃあたいが一番無害に見えるからねー。逆にガルツとケビンは後ろにいて、馬車の護衛ですって顔で立ってる。
兜に羽飾りねー。どーなんだろ?偉いのかなー、この人ー?
「こんにちはー。ハイエデンから交易に来ましたー。
穀物と他に幾らか商品がありまーす」
「ハイエデン?聞いたことがないが、筒で来られたのか?」
「そーです。一つ右の乗り場だよー」
「一つ右……そこは昔2回先遣隊を出したが帰って来なかった」
「昔っていつのことか知らないけどー、大ムカデが棲み着いてたよー。退治したからあたいが来たんだよー」
「ほう。そうなのか?ようこそ参られた。こちらへ来てくだされ」
「ちょーっと待ってよー。あんた誰ー?あたいはミットだよー。この隊の責任者は後ろの青い男、ガルツって言うのー」
「わたしはケルヤークの警備隊長マルリック。これでよろしいか?」
「ふーん。分かったよー。案内をお願いー」
「ではこちらへ」
マルリックに付いて坂をゆっくり下って行く。お揃いの防具は隊長を含めてカッコいーけど大したものじゃないねー。剣は鞘が1メル、普通の剣かなー?小盾を左に付けてるのがちょっと厄介そう?いーや。縁取りの鉄板が薄いー。あれも切れそーだ。
着いた建物は集会場なのか、入り口が四方にある天井の高い建物だ。広さは30メル角、30人は壁側に散った。入り口で馬車から商品の一部を下ろし、中央へ隊長に案内されるまま進む。
馬車にはヤング1人を残しあとは荷を持って中へ入った。
案内された先には役人風の男が二人待っていた。今さっき聞いたにしてはやけに手際がいいねー?どーも胡散臭いと思うのは気のせーかなー?
「どーするー、ガルツー。交渉するー?」
「いや。ミットに任せるよ」
「はーい。あたいはミットだよー。
こっちが責任者のガルツー。馬車の積荷はうちの商品見本だよー。交易に来たよー。
さてそちらは誰ー?」
「ふむ、わたしは商会長のマークスだ。
何かと思えばこの程度の品質かね。これでは大した値は付けられないな。まあ遠路来ていただいたことでもあるし、全て引取らせていただく。代金として銀貨で10枚お支払いしよう」
「ふーん?銀貨10枚って何シルなのー?」
「なぜこのような無知な子供に交渉させるのだ?1000シルだよ」
「あっそ。それは残念だったねー。積んで次に行くよー」
「へい、ミット嬢ちゃん。分かりやした」
「ああ、待ちなさい。こちらで引き取ってやろうというのだ。これを取りなさい」
「なんでー?もう用事ないよ?
さあ、帰るよー」
「えーい、仕方がない。縛り上げろ!」
「あーあ。言っちゃったー。言っとくけど手加減は苦手だからねー、あとで文句は……言えるかなー?」
あたいのセリフが終わらないうちに、みんな武器を抜いたね。ヤングは言っておいた通りにさっさと手を上げ縛られてる。
あたいは鉄の剣を抜き、手当たり次第に相手の剣を切り落とす。マノさんの剣は上手に振ればこの程度の剣を切り落とすくらい造作もない。ワイズ、カジオ、ユーラスが牽制に徹する中、ガルツも同じように相手の武器を根こそぎ切り落としている。ケビンが外の連中を薙ぎ倒しヤングを解放した。
あたいはマークスに刃先を突き付けた。
「どーするのー?死人は出てないみたいだけどー、マークス、あんたのせーだよー?」
「ううっ。よくもっ」
「先に仕掛けといてよっく言えるねー?死にたいのー?警備隊長ー」
後ろに回ったマルリックが掴みかかる右腕を、あたいは左手で抜いた軽い剣で切り飛ばした。
「うぐぁぁーーっ!」
「カジオー、くっつけてやってー」
「へい、ミット嬢ちゃん」
「この治療は別料金になるからねー。だからどーすんのよー。めんどーだからあんたら皆殺しにして外の連中と交渉しよーかー?あたいはそれでも構わないよー?」
「ううっ、わたしが悪かった、なんでもいう通りにするから命だけは助けてくれ!」
「まった、なっさけないこといーだすし。
まずあんたのとこ食料足りてるの?怒らないから正直に言ってごらん」
「ううっ、足りておりません」
「だろーね。こんなアホなことするんだ。聞くまでもないよ。でもうちだってタダじゃ提供出来ないんだ。分かるよね、商会長?
何が出せるんだい?」
「ううっ、それが……」
「おいおい。鉱山とかー?岩塩とかー?金銀銅鉄錫鉛ー?お茶ー?量が少なくても特産品とかー?」
「………」
「ヤングー。外からテキトーに5人くらい連れて来て。こんなアホの相手なんかしてらんない!」
「はい、ミット嬢ちゃん」
「連れて来ましたよ、ミット嬢ちゃん」
「ごくろーさん。
連れて来ちゃってすまないねー。このアホ、商会長のくせに何にも知らないんだ。あんた達少し教えてくれないかなー?
まず食料は足りてるのー?」
「足りると説明されておりますが……」
「あたしはまるで足りないと思ってるよ」
「まー、それについてはこのアホが足りないって言ってたけどー。マークス、どのくらい足りないんだ?」
「ううっ。1月分でございます」
「何人の1月かなー?」
「ここの人口は800人くらいです。お嬢さん」
「それはすごい量だなー。ハイエデンに戻ってそーだんしないと分かんないよ。
それで。こっちもタダで提供できないんで、なんか交易品になりそーなものってあるかい?」
「昔は幾つかあったんじゃが、いまは……」
「上の者が溜め込んでる物とかー、ワタ、糸、木の実変わった石、金属、豆、貝、虫ー?」
「溜め込んでいるのは間違いないです」
「ふーん?マークス、飢え死したくなければそれ出しな」
「ええっ。そんな!」
「だからどの口がそーゆーこと言うかなー。さっきなんでもするって言ったよねー?」
「ううっ。ですが到底足りないかと」
「他にも偉いってのがいるんだろー?交渉しといで」
「ううっ、やってみますが……」
「ほら、さっさと行け!さてと。特産品に戻ろーか?」
「ワタがここで使うだけですが取れます。あと苦い豆があります。炒って気付に使ってます」
「昔は木の皮に傷を付けてネバネバを取って弾むボールを売ってましたが木がなくなってしまいました」
「苦い豆って見たいね。取ってこれる?」
「薬にしてるのが少しありますので持って来ます」
「ネバネバを採った木ってまだどっかに1本くらい生えてない?探せないかな?ワタも増やせないかな?」
「若い者に年寄りを一人つけて探しに行かせます」
「他では見ない真っ赤な土と白い粒の土がありますが……」
「その土、見たいから持って来てねー」
「赤はすぐそこですが白は遠いんで……」
「もう一回また来るから探して置いて。
ガルツー、お昼のよーいしないー?
あんた達食べるものはあるのー?」
「それが。配給が滞ってまして……」
「この穀物は食べられるー?」
「はい、臼でひいてパンにできます」
「じゃ、やってちょうだい。持って行ってー」




