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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第4章 ガルツ商会
36/157

3 倉庫番 2 ・・・パック

 これまで:ハイエデンの街に本拠と温泉場は出来上がった。ガルツはパックに商品管理をさせるようだ。パックの仕事はまだまだ忙しい。

 僕は地下通路を手押し車で使って温泉場へ食材を届け、倉庫に戻って来た。

 上へ上がると珍しくお客さんだね。


「いらっしゃいませ。何か御用でしょうか?」

「ガルツ商会というのはこちらかね」

「はい、そうです。失礼ですがどちら様でしょうか?」


「ほう、こんな子供にこれだけの応対を仕込むとは。わたしはホレイショと申す者。行商人だよ。ご主人にお目にかかりたいのだが」

「主人のガルツは留守にしています。そうですね。あと1ハワーほどで戻るはずです。お待ちになりますか?」

「1ハワーか。街の南側を一回りして来よう」

「そうですか。主人には伝えて置きます。お気をつけて」

「ありがとう、坊や」


 まあ、子供ってのは間違いじゃないから良いんだけどね。


「ガルツさん、聞こえる?」

『どうした?パック。トラブルか?』

「いいえ。細かいのは幾つかあったけどね。昼ご飯が屋台飯になったのを聞いた?」


『ああ、ミットが言ってたな。なんでも慰霊碑脇に屋台を出す許可の代わりに、25食優先してうちに売るって話だった』

「すごいなミット。ほんとに美味い店なら良いんだけど」

『あの食いしん坊がそんなミスをすると思うか?』


「いいえ。本題ですけど、ホレイショさんと言う行商人が来ました。お昼に戻りますよね?主人に会いたいと言ってました」

『ふーん?分かった。じゃあ戻るよ。切るぞ』


 何か面白いものを見つけたのかな?ガルツさんは今、アリスと一緒に洞穴周辺の虫材料を回収する下見に行っている。近いから言っておけば大丈夫。


 ヤングとサーラムが先を争うように戻って来た。


 馬車が1台荷下ろしを始め、もう1台はその後ろで待機している。満載の手押し車は店の外に置いてみんなであっという間に1台空にした。手押し車の見張りをしているとミットが屋台を案内して来た。


「やあ、ミット。面倒かけたね」

「いーよ、パックー。あたい、このおっさんの飯が気に入ってさー。いっぺんみんなに食べさせたかったんだよー。ちょうどよかったよー。

 おっさん、ここだよー。通路邪魔しないように寄せて置いてねー」

「26個になったんだけどいいかな?」

「はい。大丈夫です。準備しますので少々お待ちを」


「あれあれ、休みの連中がずいぶん帰って来たな。いつもは街で食うんだろうに珍しい」

「さっきあたいが声かけたからねー」

「あいつら全員が飯を買ったら50は要るぞ。間に合うのか?」


「大丈夫ですが、温泉の客で商売する思惑が外れてしまいますね。売り切れるんなら、なんの文句もございませんよ」

「悪いけど26食、先に押さえちゃうよ。この箱に入れてくれたら僕が運ぶから」

「承知しました。パックさん」


「ヤングさん、サーラムさん。昼ご飯はあの屋台のご飯になったんだ。着替えの終わった人に手伝って欲しいんだ」


「「「「へい、あっしが手伝いやす」」」」

「いや、そんなに大勢は……分かったよ。お願いね」

「パックさんの手伝いができるなんて……」


 おいおい、泣いてる奴がいるよ。どうなってるんだ。

 あいつら荷上げ台も使わないで、全部階段で持って行っちゃったよ。まあ、いいけどね。


「代金はここに置くよ」


 うちの休みの連中が群がった。

 それを掻き分けて上へ上がるとエレーナさんのスープが待っていた。これは嬉しいね。絶品の味だもの。

 たっぷりあるから大丈夫とは思うけど、

「エレーナさん。屋台にうちの休みの連中が25人くらい群がってたから、このスープも欲しがると思うよ」

「あら、そうなんですか?足りるかしら?

 アニータ、クス。器を用意して。あたしは追加を作るわ」


 少ししてドヤドヤと包みを抱えて上がってくると差し出される絶品のスープ。

 なんとかみんな座れそうかな?あ、2人あぶれたか。


「僕らの部屋から椅子を出すから、ちょっと待ってね」


「そんな、パックさん。あたしらなんか床だって……」

「いーから、いーから。テーブル、詰めたげてー」

「ミット嬢ちゃん、パックさん、ありがとう」


「ねー、なんでパックはさん付けー?」

「はて、それは……?」「なんででしょうね……?」

「ふーん。まあ、いーけどねー。

 このトリ肉の照り焼き、美味しーでしょー?

 あたい、この間見つけてすっかりファンになってさー。

 今日はちょうどよかったよー。おかげでみんなで食べられてさー。

 美味しーねー」


「ああ。昼飯はミットのお手柄だな」

「こんな美味しい屋台があったなんて知りませんでしたわ」


「あ、ガルツー、下に誰か来たよー」

「あ。行商人のホレイショさん。僕、案内してくる」

「2階の応接室に通してくれ」

「はい、ガルツさん」


 降りて見るとやはり先程の行商人だ。

「あー、先程はどうも。ご主人はお帰りですか?」

「はい、お待ちしておりました。屋台ものですが昼食を用意してます。いかがですか?」

「やあ、これはありがたい。頂きます」

「ではこちらでお待ちください」


 パタパタと3階へ戻り、お盆の上に照り焼き弁当とスープを載せると応接室へ運ぶ。


「今日は屋台のご飯で申し訳ないのですが、お召し上がりください。スープも持ってまいりましたので。

 主人はもう少し準備にかかります。ごゆっくり」


 ガルツさんが降りようとするところを、まだ食べているだろうからと止める。


 僕はご飯の途中だったんだよ。急いで食べていると、アリスが出来たてのスープと取り替えてくれた。


「アリス、ありがとう」

「うん」

「ガルツさん、僕も一緒に聞いてもいいかな?」

「ああ、パックが一緒なら俺も心強い」


 またまた。ガルツさんのこう言うところがすごいよ。サラッと持ち上げるんだもの。

 アリスやミットに言わせると、なんも考えてないだけだって言うんだけど。


「そろそろいいんじゃないかな。ガルツさん行きましょう」

「おう」



 コンコン

「ようこそ。俺がガルツだ。用件を伺いたい」

「僕はパックと言います。よろしくお願いします」


「わたしは行商人をしとります、ホレイショと申す者。こちらの商会は珍しい商品を扱っていると聞いたので、買い付けしたいと思い伺った次第。いかがでしょうか?」

「買付けですか。どんな物をお求めですか?」


「わたしが聞いたのは色の鮮やかな装飾(そうしょく)品の数々、光る猫。他にもいろいろあると聞いた。いくつかは目にもした。是非いくばくかでもお売りくだされ」

「パック、おまえに任せていいかな。俺はまた上へ戻るよ」

「分かりました。ガルツさん」

「えっ?このような年端もいかない子供に任せるとは如何なる……」


「パックが気に入らないってんなら話は終わりだ。帰っていいぞ?忙しいんだからな」

「いや、そのようなことは……

 分かりました。パックさん、よろしくお願いいたします」

「そうか。じゃあパック。任せた」


 ガルツさんは背を(ふる)わせて出て行った。絶対笑ってるよ、あれ。

 えーと午後の予定は特になかったはずだ。食材の配達まで2ハワーはあるはずだね。


「では、まず一通り見ていただきますか?

 付いて来てください。この階にも一部の在庫が置いてあるんです。こちらへどうぞ」

「うむ」


「先程言われた飾りものは、ほぼここにありますね。

 髪飾り、耳飾り、首飾り、ブローチ、腕輪、指輪、(くし)、ベルト、飾りボタン。それにカップと灯りです。いかがですか?」

「ふむ。聞いた話よりも色が暗いな」


「ああ。ここは暗いですから。それでも普通の色よりはずっと鮮やかなんですけどね。灯りをつけましょう。どうです?」

「うわっ、それはなんだ?(まぶ)しいくらいだな。

 おおっ!光り輝いているではないか?」


 光る猫ってさっき言ってたのに?見たことなかったのかな?

「この灯りもそう明るいものでは無いんですよ。周りが暗いからそう見えるんですが、お日様を浴びるともう少しすごい色ですよ。尤も周囲も明るいんで感じる色はそう変わらないかも知れません。ここにあるのは物により多少の上下ありますが、大体100シルが卸値になってます。うちで一番安い部類の商品ですね。次へ行きますか?」

「えっ?ああ」


「まだここを見ると言われるなら、それでも構いませんよ?」

「いや、次を頼む」

「では、奥へ。こちらです」


 ドアを開けると布地が棚にぎっしり並んでいる。僕は部屋の灯りを点け、手前のロールを一本引き出した。


「これは今一番出ているタオル地です。水気をよく吸うので濡れた時に()き取るのに便利です」

「1メル幅太さ10セロ巻きか。おお、ふわふわだな。この列が全部そうなのか?なんメル巻いてあるのかね?」

「その通りです。この生地は厚いんで絞っても12メルしか巻けません。これ、解いてしまうと倍の太さになっちゃいますから、気をつけてくださいね」


「たくさんの色があるんだな。淡い色が多いな?」

「きつい色も出来ますが水に何度も(さら)されると、他の生地に比べ色落ちが早いんです。それで柔らかい色なら印象がそう変わらないので」

「なるほど。この優しい風合いに合っているかも知れん」


「次によく出るのはこの2つです。こちらはごく薄い艶のある生地で、ドレスに仕立てるとすごく華やかですよ。お針子さんは薄いので大変らしいですが。30メル巻きです。

 こちらは厚手の伸び縮みする生地です。ズボンに仕立てるとお尻や膝が突っ張らないので動きやすいと好評を頂いてます。これは18メル巻きです」


「この生地を買うとしたら、同じ色を30では多過ぎるな。短くできるかね?」

「ああ、大丈夫です。ご指定の長さで巻いてお売りしますよ。棚に貼ってある紙に1ロールの長さと値段が書いてありますので、ご検討ください。

 ああそうだ。これお貸ししますよ。紙挟みとペンです。覚えを書きつけるのに使ってください。ペンはここの突起を押すとその色で書けますので。

 はい、それで良いですよ」


「いや、ありがとう。このペンもすごいな。んん?この紙は?こんなツルツルの紙なんて見たことがない。ペンと紙はいくらだね?」

「ペンは1本150シル、半年くらいそのままで使えます。紙はその大きさで200枚入りが100シルですね」

「むう、この品質は……

 紙は安過ぎるくらいだが……むむっ。この板も使いやすいな。これは?」

「1枚30シルです」

「ここまでの分を書いてしまうからちょっと待ってくれ……

 すまんな。次を頼むよ」


「はい、隣は服飾(ふくしょく)です。

 靴下、手袋、下着なんかですね。専門の者が仕立てています。サイズや色がいろいろありますよ。男性用、女性用、子供用、乳幼児用ですね。値段は棚に貼ってあります」


「あら?いらっしゃいませ。わたくしは商会組合から出向で来ております、イヴォンヌと申します。ごゆっくりご覧ください」


「おおっ、よろしく頼みます。わしはホレイショ。こんなものもあるのか?ふむ……

 むう……これ縫い目はどうなってるんだ?」

「ああ、手袋や靴下はその形や柄になるように編みますのよ」

「なんですか?その編むってのは?」


「糸から布を織るのはご存知ですか?あれは平らに作るんですけれど丸く織るんですの。丸の大きさを変えながら織って行って、曲がりや指の繋ぎは面倒なのですけど、上手く作るものですよね」

「むう……

 こんなものができるのか。しかもこの値段!」


「こっちは女性ものですね。僕にはよくわからないですが、うちの女性陣がこの間争奪戦をやってました。それが落ち着いたんで、やっと昨日からここに在庫できるようになったんです」

「ああ、あれはすごかったですわ。わたくしは落ち着いてから注文させて戴きました」


「はあ、そうなんですか?これもいったいどうやったらこんな見事な形を作れるのか?しかしサイズが分からないな」


「こちらでしたらある程度合わせられますのよ。それでも5種類ありますけれど」

「今回はうちの土産に一通りだけだな。道中が危険でなければ連れてくるんだが」

「あら、奥様にですの?お優しい旦那様で(うらや)ましいですわ」


「でもそんなに危ないんですか?」

「いや、まあ危ないのはカイラスの山辺りだけだが。もう何年も山賊が住み着いていてね。領主様は動いてくれんし困ってるんだよ。あそこの領主は財政難らしい。

 他のも良いかな。イヴォンヌさん、失礼します」

「あらあら、ごゆっくり見ていってくださいませ」


「ではこちらです。

 地下にも倉庫があるんで階段で行きましょう」

「ほう。広いんだね。

 おや、これは?」

「荷上げ台です。3階に調理場がありまして……あ、いけね。ちょっとすみません。

 エレーナさん、パックです。食材の配達はどうなってますか?お客さんの相手をしてたんで」


『大丈夫よ。クスがさっき配達したから。次もやっとくから気にしなくて良いわよ』

「はあ、良かった。

 すみません、お待たせしました。こちらです」

「パックくん、忙しいところを悪かったね」

「いいえ、僕も勉強になります。

 ここです。桶とかバケツ、タライ、料理に使うボウルなんかがあります。これもよく出てますね」


 灯りを点けると棚にぎっしりと商品が重ねて置いてある。何度見てもこの重なり具合は見事としか言いようがない。


「これはまた色鮮やかな。これが桶?軽いな。

 バケツ、タライ、これは履物(はきもの)かい?突っ掛けるだけの履物か。ベッドのそばに置くと寝起きのトイレなんかは楽かもな。あれ、縫い跡がないがどうなってる?皮だよな?

 まあ良いか。珍しい物ばかりでいい加減疲れて来た。明日出直して来るよ。今日はありがとう」

「そうですか?まだいろいろありますから、またいらしてください」

「あー。そうだな。また来るから」


 そう言ってホレイショさんは紙を大事そうに畳んで出て行った。


「カイラスの山、ねえ。ミットが喜びそうな話だね。

 ガルツさん、聞こえますか?」

『ああ、どうした?』

「今までホレイショさんの相手をしてたんですが」


『ああ、行商人な。ずいぶん粘ったな。なかなか根性あるじゃないか』

「そうですね。えーっとカイラスの山って知ってます?」

『いや。この辺のことは分からんよ。お前と一緒だろ。ひと月ちょいしか経ってないんだ』

「なんでもそこに山賊が住み着いて困ってるそうですよ」


『ほーう?ミットにケビンと二人くらい付けて行ってもらうか?俺も行きたいところだが』

「ガルツさんはダメですよ。いないとみんな困りますから」

『へいへい。晩の会議でな。切るぞ』

「この人はもう。

 上の元ドルケルは知らないかな?」



「ジャグさん、テモンドさん。カイラスの山ってどこか知りません?」

「あー、パックさん。カイラスですかい?東へ海沿いに行くと海岸線が北へむかって曲がるんでやすが、2本目だったかな?」

「3本目じゃなかったか?河口に大きな岩がドーンと立ってるからすぐ分かるぞ?」


「ああ、そういや見た気がするな。とにかくそっから川沿いに西へ遡るんでさ。そうすると川の両側が切り立った岩山になって来やす。右手の山がカイラスですぜ」

「さっき来た行商人がそこを通るらしい。山賊が巣喰(すく)ってるって言ってたよ」


「あんなところにでやすかい?まった物好きな。まあ往来はそこそこありやすが、あそこの領主は騎士を大勢飼ってるはずで。

 まあ5年前の話でやすがね」

「なんでも財政難だって言ってましたよ?」

「へぇー。あの領主、なんかやらかしたかな?あんだけの羽振りがねえ」

「そうか。ありがとう。ミットが遊びに行くかもしれない」


「本当でやすかい?あっしも混ぜてもらいてえもんだ。嬢ちゃんと遠出なんてもう考えただけで身震いがしやすよ」

「うーん?大概にしときなよー」



 夕方の会議で早速、翌日ミットに行ってもらうことになった。ケビンとジャグ、テモンドを道案内で連れて行くそうだ。

 テモンドのはしゃぎっぷりは後が怖そうだ。


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