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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第4章 ガルツ商会
35/157

3 倉庫番・・・パック

 これまで:ハイエデンの街に本拠と温泉場はひと月ほどとありえないペースで出来上がった。ガルツはパックに商品管理をさせるようだ。

『パックさん、ヤングです。2軒目の回収が終わりました。カジオの荷馬車を出してもらえますか?』

「そうか。いま南のサーラムさんのとこに出てるんだ。戻ってきたらそっちへ回すよ。何回分だい?」


『たぶん3台あります。南側から回らせてください。路地の北側は建築の連中が足場で道を塞いでるんで通れません』

「分かった。言っておくよ」

『お願いします。ヤング以上』


 今日片付けに出ているのはヤングとサーラムの2隊だ。ガルツさんが遠くから片付けをさせているので、1ヵ月も経ったら結構近間になってきて日に1隊6、7軒回れるようになった。

 ピピンだけでは回収が大変になって来たから、馬を増やしてもらったけどもう1台入れたほうがいいかな?お昼に聞いてみよう。


「こんにちは、パックさん。野菜持ってきました」

「トーマスさん。ご苦労様。見せてもらうね。

 いい葉物だ。野菜はこうでなくっちゃね。

 おや、このカブは傷んでるね。何かあったの?あ、こっちもだ。あまりひどいのは受け取れないよ?」

「すみません、イノシシに荒らされたらしくて、数が揃わなかったんです」


「ふーん?どこの畑だい?討伐隊を出そうか?

 僕の見る限り、このカブは古いと思うよ。この傷は荷台で3日以上揺られたように見えるね。こんなの買い付けてくるんじゃ他へ頼まないとダメかなあ」

「わわっ。それは勘弁して下さい。次はちゃんとしたのを仕入れて来ます。お願いします!」


「でもねー、3回目だよ?

 ガルツさんの許可はもらってあるんだよ。いっぺんに変えるのも大変だし、こう何度も食材が揃わないとこっちも困るんだ。次の買い付けから半分になると思っていてね。

 カブと大根は要らない。このきゅうりもダメだな。至急代わりを持って来てよ。

 廃棄(はいき)に困るんなら、うちで肥料にしてあげようか?」

「はい。分りました。別の物を仕入れて来ます。廃棄もお願いします」

「じゃあいつも通りこの紙に書いてある数をそこの台に。残りは温泉の搬入口へ持って行って。廃棄はこの手押し車に入れてくれれば良いよ」


「エレーナさん。野菜が来たから上げるよ。

 カブ、ダイコン、きゅうりは後になる。今日は無理だろうね」

『分りました』


 この伝声管は少し声が割れるんで、エレーナさんの綺麗な声がキンキン言っていつもガッカリするね。ボタンを押し込むと2メル幅の荷上げ台がゆっくりと登って行った。

「ニコラス。そっちへトーマスが行くよ。カブ、ダイコン、きゅうりはダメだ。今日中のものにはならないかもだ」

『パックさん、またですか?ニコラス、了解。切ります』


「イヴォンヌさん聞こえますか?パックです。トーマスがまたやらかしました。野菜の仕入れ先お願いします。急には難しいと思うんで半量からでも良いですから」

『あら、またですの?分かりましたわ。サクさんのところには話してあります。お任せください』



「こんちわーす、クライスでーす」

「やあ、クライスさん。今日はどんな具合です?」

「あ、こないだはすんませんっした。

 良く聞いたら3、4日前から餌の食いが悪くなったんで潰したらしいっす。普通なら自家用で処理するんっすけど、魔が刺したんでしょうね。俺も気が付かなきゃいけなかったんす。

 本当にすんませんっした」


「ああ、いいよ。お客さんに出す前にわかったんだから。さて、見せてもらうよ?

 ああ、いい肉だ。串焼きで塩を振ってすぐにでも食べたいくらいだね。

 あれ、これは何の肉?どこかでみたような気がするけど……」

「鹿っすよ。猟師の持ち込みっす」

「ああ。そうか、鹿だ。お尻のとこだね」

「へえー、良くご存知っすね。この辺りじゃ珍しいんっすけど」

「まあね。鹿は全部こっちに置いて。他は伝票通りで頼むよ」

「うぃっす」


「エレーナさん、肉が来たんで上げますよ。

 珍しい鹿肉が15キル入ってます。温泉で売れるか見てください」

『はい、分りました。鹿肉ってやったことないんで楽しみです』

「ニコラス、クライスさんが来てる。そっちへ回すよ。鹿肉が15キルあったからこっちで調理を考えるよ」

『ニコラス、了解。うんと美味いの頼みます。切ります』


 そうこうしているとカジオがピピンを引いて戻って来た。


「カジオさん、ご苦労様。ヤングさんが2軒目の材料を運んで欲しいって言ってました。3台分だそうです」


「分りやした、これ下ろしたらすぐに向かいやす」

「そんなに(あわ)てなくても一息吐いて行ったらどうですか?」

「いやあ、ありがてえんでやすが、午後のサーラムの予定にでかい建物の片付けが入ってやすから、今のうちにやっとかないと後が大変でさ。気ぃ使ってもらってすんません」

「そうですか。じゃあちょっと待ってください」


「エレーナさん。歩きながら食べられる果物があったら3つ下ろしてもらって良いですか?」

『はい、ちょうど良さそうなのがありますよ。今下ろしますね』

「今日は果物屋が来る日じゃないからね。あってよかったよ」


 そんなことを言っているうちに荷上げ台が降りてくる。大きなトマトが3つ載っていた。


「これ食べるなら荷を下ろしたあと手を洗った方がいいよ」

「へい、あいつらの分もお礼を言いやす。ありがとうございやす」


 この1階は入ってすぐが荷の積下ろし場所で、馬車ごと南面の大扉から入って西の温泉側へ抜けるようになっている。

 西の壁側は馬屋になっていて現在は2頭、あと2頭分の場所がある。


 回収班は馬車を入れたら右の壁際に石材と骨、左は木質(セルロース)、金属その他を下ろす。集まった石材は週に一度敷地の奥へ運んで積み上げる。骨は夕方、大体は僕が慰霊碑(いれいひ)に納めてお祈りする。

 その他は作業場の材料になるのでここで保管するんだ。


 馬屋と材料置き場の間は片付け班の水浴び場だ。水浴びと言っても上から降ってくるのは温泉なのであったかい。6人用だが詰めれば、と言うか2隊カチ合うと飯を待ちきれないと言って、ギュウギュウなのに10人一度に洗っている。

 水浴びは手前で服を一つのカゴに入れ、洗い場で洗ったら奥の洗濯済みの着替えを着て階段を登ると食堂って流れになっている。


 大扉を入って左側が店舗と言うか、見本棚があってその裏手は中2階のある作業場だ。作るものに因っては上から下への動きを利用したりするからね。その奥にも荷上げ台があって出来上がったものは2階や地下の倉庫へ送られる。

 もっとも荷上げ台より大きいトーメイ板なんかは、ここで作って保管した物をここで積むことになる。


「ちわーす。パックさん、生きのいいのを持って来ました」


 魚屋のマットが来た。今日の納品は彼で最後だな。


「マットさん、いらっしゃい」

「アマチのいいのが揚がりましてね。あとはアカハラの1メル越えが3匹!あとはいつもの小魚です。貝は虹貝と白貝です。エレーナさんに料理してもらえるなんて、羨ましいくらいっすよ」

「これは美味しそうですね。アマチの煮付けは楽しみだな。先日の空き箱はそこに置いてありますので、忘れずに持って行ってね」

「やだなあ、パックさんそうそう忘れませんから大丈夫ですよ」


「エレーナさん、魚が来ました」


 魚は何が入ってくるか漁次第なんで、ここで調理法を決めて指示してやらないといけないんだ。

 まだ返事がない、忙しいんだね。荷上げ台の蓋まで作業台に使ってる時もあるから、返事が来ないうちは上げる訳にはいかないんだ。


 さっきの鹿肉に苦戦してるのかな?聞こえてないってことはないよね?


『ごめんなさい、パックさん。もう少し待ってください。まだ片付かなくって』


 今は寒い時期だからそう焦ったものでもないか。


 食材はここで荷下ろしして上にあげるけど、製品を荷積するときは荷上げ台で倉庫から出してここにもらうようになっている。

 そこに僕が1日詰めているわけだ。僕は受付と見本棚の間にある1メル半の通路で奥へ行き、右に曲がると見える階段から3階へ上がった。階段の正面は男湯になってる。そこを左へ行った左の部屋は、食堂と長いテーブル付きの間仕切りで仕切られた台所だ。この間仕切り越しに料理や食器の受け渡しをして配膳している。僕はそばに行って中を覗き込んだ。

 今日の当番はエレーナさんとアニータさんクスくんの3人のはずだが、アニータさんが見えないな。


「ねえ、エレーナさん、二人なの?」

「そうなのよ。アニータがお腹が痛いって言い出しちゃって。今部屋で休ませてるんだけど、クス一人じゃどうにも回らなくって」

「上に誰か残ってないの?」

「さあ、どうだろう。今日休みの人はみんな市場を見に行ったと思うけど」


「そうか。

 ニコラスさん、聞こえるかい?」

『ニコラスです。何かありましたか?』

「アニータがお腹が痛いって抜けてるんだ。仕込みが間に合わなくなりそうでさ。誰か調理に慣れたやつを回してくれない?」

『分りました。大至急回します。ニコラス、切ります』


「温泉から応援を呼んだよ。それまで頑張ってくれ」

「はい、助かります。クス、ここ片付けちゃって。お魚をあげてもらうから」

「はい、エレーナさん」

「じゃあ、僕は下へ戻るよ」



 下へ降りると温泉浴場からイルカム料理長が走ってくるところだ。どうしたんだろう?


「イルカムさん、料理長が走ってくるなんて、何かあったんですか?」

「何を言う。君が知らせてくれたんだろう。一大事じゃないか。私はすぐに上へ行くよ」


 応援って料理長だったのか。エレーナさんの部下なのに持ち場を放って来て怒られなきゃいいな。


 そろそろ温泉浴場が開店する時間だ。付属の食堂の開店まではもう1ハワー余裕があるけど、今日は大変だな。いつもなら片付け班の昼の仕込みに入ってる時間だからね。

 ミットに25人分の昼飯調達を頼んじゃおうかな?


「エレーナさん、ちょっといいですか?」

『……はい、何でしょう?』

「片付け班の昼食は間に合いそうですか?」

『えっ。わぁーー。やばいわよ、えーどうしよう!?』


「ミットに頼んで、屋台回って25食集めてもらいましょうか?」

『はぁー、すみません。助かります……』

「了解。

 ミット。聞こえるかい?」

『はーい、ミットだよー。なんかあったー?』

「片付け班のお昼ご飯がピンチなんだ。25人分なんとかして欲しいんだけど」


『おーう!そりゃ大変だー。大食らいどもが反乱をおこすぞー』

「えっ。そんなにかい?」

『あいつらならやりかねんぞー。やったらあたいがボッコボコにするけどー。今ちょうど美味そーな屋台の前にいるんだよー。交渉してみるねー。まっかせなさーい。切るよー』

「エレーナさん、ミットが任せろって言ってた」

『ごめんどうかけます』


 そろそろ温泉のお客さんがこの前を通る頃だ。店先へ出てみると、ウチで買った色とりどりのタオルセットを持って5人が通るところだ。左を見るともう何人も中へ入っている様子。これは今日も忙しいぞ。右の女神像の広場で市が立っているから、そこから直接流れ込んでるみたいだ。


「エレーナさん。仕込み2割増しかな。お客さんが多いよ」

『まあ、大変。急ぐわ』


 少しすると仕込みの終わった食材が箱詰めになって降りて来た。

 僕はそれを見て地下1階へ降りると、手押し車に積み替え地下通路を温泉浴場に向かって押していく。全部で200キルくらいあるはずだけど、床が平らで滑らかなので僕一人でも楽々運べるんだ。多分あと4回は運んでやらないとあの人出は(さば)けないな。

 荷下ろしして戻っても3メニくらいで往復できるからって、店番も兼任なんで結構忙しいよ。

 温泉浴場では今頃僕の運んだ食材を合わせて、調理を始めている頃だね。


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