2 本拠2・・・ガルツ
これまで:ハイエデンの街に本拠を置く事にしたガルツは、西の民の職場を作ろうと考えた。幸いアリスが掘った温泉と広い土地がある。温泉場を作ろうと金物屋のサントスと商会長のローセルを本拠に案内した。計画は動き出した。
アリスには本拠の建物を作ってもらってるんだが、温泉場を高台の乗り場から見て猫の形にしたいとミットが言い出した。
特徴があるのは宣伝になって良い。
アリスにうまく計画してもらおうと相談したところなんだが、アリスは少し考えて足元の木質から紙を引き出した。
「ガルツさんこれ持って。破かないように持ち上げて」
出て来た紙は幅1メル半長さ3メルもあった。両手をいっぱいに上げても床に50セロも余っている。
「パック。ここを持ってねー。そこに立ってくれる?ガルツさんはここを持ってねー」
横長に持たせると上の端をサーッと撫でる。これは絵の出てくるやつだな。ずいぶんでっかい絵になるが。
「パック、腕がふるふるしてるよー。椅子に登って」
流石に10メニを超えると同じ姿勢は俺でも辛い。
さらに5メニ、アリスが紙に張り付いた。
「ごめんねー。もうちょっとだからー」
な、長いな。まだか………
「はい、オッケー。回収ー。
床に拡げて置いてねー」
パックと二人で床に拡げると。これはあの景色。1週間前に見たばかりだというのに。今は人の営みも戻って賑やかな気配を纏っているんだろうな。お?白猫だな。なるほど。こう見えるのか。
「ほう。いいな」「すごいよアリス」
思わず声が出ちまった。
「へへーっ。どーお?いいでしょー?」
アリスとミットがドヤ顔だな。
「アリス案件は正解か。この絵を透明板で濡れたりしないようにできるか?」
「出来るけど虫の殻でキラキラにした方が早いしキレーだよ?もっとおっきくも出来るし」
「そうか。これで行ってみるか」
「「わーい、やったねー」」「よかったねー」
「じゃあ、あたし4階もやっちゃうよー。また呼びに行くから、お願いねー」
「さて、畑の話だったか?」
「でもさー、何を作るのー?」
「むう。闇雲に何を言ってもな。調査してみないと」
「僕がお店を回ってみようか?量が出回ってないとか、珍しいとかっていうのを聞いてみるよ」
「ガルツさーん。みんなもちょっと来てー」
行ってみるとまだ4階は出来上がっていない。
「なんだ?どうかしたのか」
「あのね、マノさんがツーシンってのがどうかって言うの。これはお話できないマノさんね。中の考える?ケーサン?のとこがダメになってるけど、うんと簡単なことはできるって。でー、離れてても話ができるっていうのがあるんだよ。
ミットー。耳貸して」
「えー。なになにー?」
「そのまま動かないでねー。こーやってー、あ、ここで曲げたら?うん、良いかも。
耳飾りだねー。形や色も変えられるって。それは後にしよう。
でね、指でボタンを摘んで押すとカチッて音がするでしょ。2回押して」
「うん。こーお?」
「何か聞こえない?」
「なんかボソボソ言ってるー」
「音をだんだんおっきくするよ」
「あ、もうちょっと。このくらい?」
「周りには聞こえない音だから、少し大きめの方が何かと良いらしいよ。次はパックね。耳貸して」
「え、僕もなの?」
「そうそう。どう?聞こえる?」
「大きくして。もう少し。うん聞こえる」
「今聞こえてるのはあたしが中継してるマノさんのおしゃべりだよ。何言ってるか全然分かんないでしょ?」
「うえっ、こんなのずっと聞いてるの?」
「あたしが用事のある時だけだよ。あとはマノさんがおっきな声を出して呼ぶ時。そーいう時は大変な時だけどね」
「ガルツさんも耳貸して」
「お?おう。俺もか?」
「ガルツさんのはちょっと違うの。テレーズさんのマノにいだよ」
「テレーズさんってあのガイコツさんー?」
「そう。あの人のボタン。ガルツさんって白ヘビの時に治療で入れたナノマシンを乗っ取っちゃったらしいんだよ。骨とか力の強化に勝手に使っちゃってるみたい」
「なんだって?俺がそんなことしてるのか?」
「そうらしいよ。今使ってる力はほんの少しだけど、会った時より3割増しくらいになってるって。ガルツさんならマノにいとお話できるかも知れないの。どーお?ガルツさん、聞こえる?
じゃ、ツーシンのテスト始めるよー。声が聞こえないとこまで離れてねー」
「はーい。みんな離れよー」
なんかよく分からんが離れるか。200メルくらい離れたな。アリスはどこへ行った?
『ガルツさん聞こえるー?』
「おう。どこからしゃべってるんだ?」
『4階が出来たから中を作ってるよー。あと6本くらい木質が要るねー』
『ミットー、パックー。聞こえるー?』
『『聞こえるよー』』
『今、4人つながったね。
使い方を説明するね。1回押しでツーシン終わり、2回押しで始め。始めは押した後で相手の名前を言うと呼び出すよ。ボタンを摘んだ形で喋ると小さな声でも相手に聞こえるから。
じゃあ少し遊んでみてねー。ガルツさん木質無くなったー。持って来てー』
「ああ、分かった」
『ガルツー。聞こえるー?』
「ああ、聞こえるよ」
『あ、繋がった。すごいねこれ』
「一回切るぞ」
これでポチッと。アリスに木質を持っていってやらんと。
『パックです。ガルツさん?』
「ああ、聞こえる」
『なるほど、面白いですね、これ』
「一回切るぞ。俺の方からも呼んでみたい」
ポチポチ。
「アリス?これで良いのかな?」
『はーい。アリスでーす。木質、まだかなー?』
「今持ってくよ」
『ありがとー』
ポチ。ポチポチ。
「ミット?そっちはどうだ?」
『こちらミットだよー。聞こえるー?』
「ああ、ちゃんと聞こえる」
『これならどーお?』
「はっきり聞こえるぞ」
『まだ聞こえてるー?』
息遣いだけでしゃべってるのか。
「声じゃなくなってるな。ちゃんと聞こえるぞ」
『そっかー。すごいねこれ』
さてアリスがお待ちかねだ。なんだ、みんなもう集まってたのか。
「『ガルツさん、遅い』」
「アリス、ツーシンも入ってる」
「あ、ごめんねー」
「途中から呼ぶ相手を増やす時はどうするんだ?」
「ポチポチ、名前ー、でいーみたいー。減らすのは出来ないから、ポチッとやってみんないっぺんにばっさりー」
「後あれだな、話の最後が分からないかな?
相手がポチッと切っていても、こっちがずっと喋ってたらどこまで伝わったんだか分からない。自分が切るときは、切るぞ、とか言った方がいいな」
「「「分かったー」」」
アリスの作業って木質を持って行って近くへ置くだけだな。あとは家具だの内装だのがほとんど勝手に出来上がって行って、余りを纏めて他へ配置するみたいだ。5階と同じだから大して考えることもないわけか。
「4階は手前に7部屋、その奥はお風呂だよー。ここはこれで終わり。一回外に出てね、3階を始めるから」
「ガルツさん、こっちが良いようなら僕は店を回って来ます」
「あー。5000シル持っていけ。手押し車もな。ミット、一緒に頼めるか?」
「あーい。何かいーものがあったら知らせるねー」
「ああ、頼んだぞ」
「ガルツさん、マノにいのことだけど、どうすれば話せるのかは分かんないんだ。マノさんもブツブツ言ってるけど良く分かんないし。
あたしの時はお昼のぼーっとしてる時に名前を聞かれたような気がする。それから本当にちょっとずつ分かるようになったから」
「ああ、ゆっくりやれってことだな。
それで、このツーシンだが、他のものには使わせないのか?」
「まだ慣れてないし、たくさんいたらうるさいよ?きっと」
「それもそうか。温泉の受付とか責任者とかに持たせると良いかなと思ったんだが」
「温泉用?」
「そうだ。結構広いからな、責任者に一つずつ持たせておくと何かトラブルの時に連絡が早いだろ」
「ボタンはあと6個だよ。他にもいろいろできるようになるみたいだから、使っちゃうのはもったいないかな?ツーシンだけの道具ってできるかなー?………トラン?トーシーバ?トラシーバ?変なの。あれっ、これあの机の上にあったね。受付用か……あとは襟とかにつける感じ?作ってみるね」
母家へ行って、木質と銀、鉱石を幾つか出し、握って待つことしばし。4セロの細長い赤い棒が2本繋がっていて、ものを挟むようになっている。少し太い方の先に黒い突起がある。これが10個。
拳ほどの大きさに広がる白く薄い円盤からまっすぐ上に手のひらひとつ分立ち上がる小指ほどの太さの白い棒。その先端がクッと曲がって俺を指差している。
さっき言ってた机の上のってあのガイコツ、いやテレーズさんか。あそこで見たのと同じ形だな。白い円盤には薄い突起が一つ付いていてこれは2個。
「使い方は耳のツーシンと一緒。赤いのは襟とか耳の近くの髪に付けて、ここの黒いボタンでお話ができる。
白いのは机の上にポンと置いてこの白いボタンだね。どっちもキューデンの側に一晩置いておけば丸1日使えるって」
「どの辺まで届くんだ?」
「あっ、そうだね………こっちのは500メルくらい?施設内なら大体どこでも話ができるかな。
マノさんのツーシンは5000メルくらい?この街くらいは話ができそうだね。……エーセイ?が良いところに居たら?……なんだろ?遠くても聞こえることもある?で良いのかな?
間におっきな建物とか山とかがあるとダメみたいだね。……あの筒の洞穴も外とはつながらないって」
「そうか。かなり便利だな」
『ガルツー。ミットだよー。10メルの木の赤い実を見つけたー。1個50シルだってー。36個あるから全部買うねー』
「ああ、いいぞ。あれは美味いからな」
『分かったー。切るー』
「ガルツさん、なんだって?」
「ミットが森の10メルの木になってた赤い実を36個買ってくるそうだ」
「あっ、それは楽しみだねー。エレーナさんに教えなくっちゃ」
俺が温泉用のツーシンを見ているとアリスがパタパタと戻って来て、
「3階が出来てるー。木質運んでー。30くらい要るかも。その後の引っ越しはどーしよーか?」
「ああ、そうか。もう引っ越しなんだ。今日はとにかく中を作ってしまおう。引っ越しもできるだけ進めたいな」
「はーい。じゃあ始めるよ」
奥から右にアリスとミットの部屋。日当たりの良い南側は二人に取られた。左がパックと俺の部屋。幅3メル、奥行きが6メル。結構広いな。
窓もひとつずつある。廊下の突き当たりにトイレが二つ、今は中身のないドアだけだが。
手前右がリビング兼食堂で、奥にソファと低いテーブル、手前は12人掛けのテーブル2台と椅子を24脚置いてみた。これで40人だ。3回に分けないと全員は無理だな。
左は台所で幅5メル奥行き9メル、4人の調理人を交代で回せば賄えるか?3勤1休。ただし早い朝食の準備から次の朝食の仕込みまでになるので、途中の休憩が取れたにしても大変そうだな。下働きを2、3人追加するか。
総勢は120人にはなるだろう。
風呂も20人規模の浴槽となると長さ8メル、幅4メル。洗い場と脱衣場を含め何とかもう一つの浴室が3階に収まった。
では3階への引っ越しをしてしまおう。私物など部屋にほとんど下ろしてないので、運ぶのは台所のものくらいだ。お湯や水はアリスが仮配管をすれば良いだけだ。
母家に残るのは作業場とピピンの寝場所だけになる。
「エレーナ。これから台所の引っ越しをする。出来上がった分は新しい食堂で盛り付けしてもらえるか?
食器類や余分な食材と使っていないものを片端から新しい台所へ運ぶんで運んで良いものを言ってくれ」
エレーナの邪魔をしながら台所の使っていないものを運ぶ。出来た料理は3階と言うか今はまだ1階の食堂に鍋、ボウルごと並べていった。
ケビンたちが戻って来て荷下ろしと体を洗って着替えからの慌ただしい夕食が始まった。




