2 本拠・・・ガルツ
これまで:ハイエデンの街に本拠を置く事にしたガルツは、西の民の職場を作ろうと考えた。幸いアリスが掘った温泉と広い土地がある。温泉場を作ろうと金物屋のサントスと商会長のローセルを本拠に案内した。
俺は金物屋のサントス、商会長のローセルさんに来てもらって温泉場の相談をしていた。
「それで西の難民じゃがどうする?ここの建て替えの後に移動してもらうか?」
「料理人を一人明日からってできますか?」
「一人なら問題ない」
「では明日の午後から引き取ろうと思います。
アリス。ケビンたちの家と同じで部屋数が50、風呂食堂と大きな台所付きで明日の朝から作って入ってもらう。
で、この家の角から隣と似た雰囲気の大きな建物を建てるんだが、材料をどうするかな?」
「似てればいーのね?聞いてみる………あー、そっか。ガルツさん、おっきなセラミックー?の箱を作って色をつけるよー。地面で屋根付きの壁を作って押し上げる感じ。下におっきな穴が残るけど蓋しちゃえば地下室もできるね。うーん、このうちじゃまだねー。マノさん動かせる?………あー簡単だね。ピピンに引っ張ってもらおー」
「なんだって?それどのくらいの時間でできるんだ?」
「んー?作るだけなら1ハワー?でも引っ越しが大変だよー。地面にあるうちに引っ越してから持ち上げた方が楽だと思う。だから一番上、5階と屋根裏は誰が住むの?」
「店は1階、地下は倉庫、2階の半分を倉庫にしてケビンたちがのこりの半分、俺たちは3階かな。台所と風呂も3階にして、そこから上を西の人たちかな?厩は1階の外側に張り出しを作って馬車と一緒にしまうようだな」
話を聞いていたミットが割り込む。
「ふーん。多分ピピンが連れていかれちゃうから先に家を退かしてもらっちゃおー。
あ、ちょうど来たねー。
みんなー。出かける前にちょっとだけ手伝ってー」
「アリス嬢ちゃん、何をすれば良いんで?」
「あれ、ミット嬢ちゃん。スカートでやすかー。これはこれはあっしの女神さまー」
「片付け班から抜けたから着替えたのー」
「はいはい。ミットはかわいーよ。
この家にぐるっとロープをかけてピピンで引いてあっちへ動かして欲しいの」
「そんなことできるんでやすかい?」
「バカ。アリス嬢ちゃんがやるったらやるんだよ。できないなんて考えるな!」
「よーしロープ持ってこい。ぐるっと?一本で間に合いやすか?そんなにないんで」
「大丈夫。出来たらみんなも押してねー」
「「「「へい!」」」」
「こっちの用意は良いよー」
「おう、野郎ども押せー」
ピピンがロープを引き10人程が一斉に押す。動き出しこそ渋かったがすぐに3メルほどの移動は完了した。これで新しい建物の建てる場所は確保できたわけだ。
「あらら、簡単に動いたね。はーいおわりー。ありがとうねー」
「やっぱりすげーな。アリス嬢ちゃん」
「へへっ。動いたねー。行ってきやーす」
「はーい、行ってらっしゃーい」
「なんか凄いものを見たな?」
「ガルツー、アリス気にしてたら持たないよー。
おっちゃんたちもしっかりしなー。寝るには早いよー」
「わたくし、やっぱりここの子になりますわ!」
「ああ、明日からじゃぞ。行くぞ、仕事じゃ。わしはアイゼルのところへ行く。サントスも行くじゃろ?」
「はい。参りますとも」
「ガルツさん、パック、屋根から黒を剥がしたい。梯子出して。上に上がるよ」
なるほど。一番高いところから順に引っ越しと言うわけか。
上がってみると広い屋根が全部黒で覆われていた。アリスが端の方から何か撒くような仕草をして戻ってくる。
「あっちの端から捲って巻いて来て欲しい」
「お?おう」
やって見ると厚さが1セロくらいある膜はすんなりと剥がれ隙間なく巻いて行ける。面白いな。こんなもの触ったことないぞ。
「これ、ねっとりして気持ちいいね。面白いよアリス」
「真ん中まで行ったら逆から巻いて来てね。落っこちないようにね。あたしは先に降りるよ」
「おう。下ろすのはどうするんだ?」
「んー。こっちへ落としていいよー」
巻き終わってアリスを探すと、とんがり屋根の先っぽがあった。地面から50セロ一直線に突き出た三角。綺麗なオレンジ色だ。
はあ。なるほど。ああやって建物のてっぺんから生えてくるのか。とんでもないな。
「巻けたー?こっちに運んで欲しいなー」
「お、おう。降りるからちょっと待て」
「この角にくっつけて向こうまで転がして伸ばして行って」
「おう、こうか?ほうほう。ピタッとくっつくな」
せっかくのオレンジ屋根だが日当たりのいい南側は黒を貼るらしい。
「うん、ありがとう。あとは一人でできるから用があったらまた呼ぶね。温泉の建物をみんなで考えててねー」
「ああ母家で考えるよ」
中に入る前にふと後ろを見ると屋根が半分立ち上がり白の縁取りの出窓が8つ並んでいた。白い格子戸がついているようだ。
食堂へ行くとパックが紙を広げペンを構えて待っていた。ミットはお茶を啜っている。
「どんな感じにするんですか?ガルツさん」
「まず中の絵から描くか?5メル幅の長さ10メルの浴槽が3つ、それぞれは1メル半離すか」
「こうかな?」
「パックー、そんなに行儀良く並べても面白くないしー。ガルツー、あの温泉ってこうだったよね?」
ああ、あれな。四角い浴槽が縦に3つくっ付いるんだが、上が半円、真ん中は長方形、下は波波。真ん中しか入れなかったがいい風呂だったな。
「あれはいい風呂だったねー。うちのには負けるけどー」
ミットはほんとに負けず嫌いだよな。
「じゃあコの字に並べて見るか?角もくるっと丸くするとか?」
「あ、かわいー。いいかもー。男湯はそんな感じかー。あたいが女湯を描くー。んーっと」
真ん中に横から見た花の形、右に丸が二つ繋がった形、左は猫とうさぎかな?輪郭だけなんで分かりにくい。俺もちょっと描いて見るか。丸くなった猫、耳はみせるとして手足と尻尾が表現しにくいな。いっそのこと湯船の底に絵を描いてしまうか。それなら手足も尻尾も模様も目鼻まで描けるが。
「ガルツー、丸まった猫かわいー。でもお風呂にお湯が入ったら見えるのー?」
「あーそうか。うちの風呂で試してみろ。硫黄泉なら色が薄いから見えないかな?」
「分かったー」
「湯船の他に歩いたりする場所が5メル幅くらい欲しいな。で、40人くらいの洗い場があって、脱衣場があって……盗みか。脱いだものを取られる心配があるな」
「ガルツさーん。手伝ってー」
「おう。どうした?」
行って見るとオレンジの屋根と5階部分が出来ていた。こっち側の壁の三角だけ白か。
「中に部屋を作って家具を置きたいの。木質を中に入れて欲しいの」
「どのくらい要るんだ?」
「15本かな」
5階部分に仮の出入り口が1箇所有るのでそこから木質を運び込む。
「これで12本入れたぞ。屋根裏にも運んでおくか?」
「じゃあ3本ずつお願い」
「ああ、それでな。脱衣場なんだが脱いだ服を盗まれるのが心配でな。何かないかな?」
「聞いてみる………ふーん。コイーロッカ?
コーンロカー?むうー!コインロッカ。ちょっと作ってみるね」
でかい箱だな。蓋はこれか?どうやって開けるんだ?あ、こうか。盗まれるのが困るんだが。
「ふふーん。コインロッカ。えっとね、このちょこんと出てるのがカギ?だよー。
この丸いのがコイン?で、ここに入れる。
入るとカギが回るようになって取れる。蓋はもう開きませーん。カギにはのびのびの紐がついているから手首とかに巻くのねー。お風呂から出て来て、服は中にあるからカギを手から取ってここに入れて回す。あ、そうそう、カギに番号がついてるの。ここねー1234番。この扉にも同じのが描いてあって、他のは開かないの。
カギを回すとコインは戻って来まーす。鍵はもう取れません。コインが戻ってこないのもできるってー」
「そうするとコインか。それは買うのか?」
「さあ?なんかねホショウリョー?カギを無くしたりのために少し高くするのもあるって。コインが戻る方ならお金を返せばいーと思う」
「で、このコインって虫の殻か?」
「そうだよー。ちょっとトーメイになるの」
「そうか。色はつくのか?」
「色はキラキラ色だけだよ。トーメイは濃いか薄いかだけ。なんか考えてるねー。なーに?」
「いや防具が透明だったらどうかなとか。この鉢金な、ちょっと重いだろ。しかも隙間だらけであまり防具って感じでもないんでな。これならすっぽり被っても軽いかなと。あとは盾も向こうが見えるんなら上にも伸ばせるからな」
「あー、なるほど。良さそうだねー。考えてみるね。薄い青のトーメイか。染料を聞いてみるか」
「このコインロッカ、持ってくぞー」
「いいよー」
「あれっ、なーに、ガルツー。おっきな箱持って来てー?」
「ああ、脱衣場の盗み対策のコインロッカだそうだ」
俺がつっかえながら説明すると
「ふーん。さっすがアリス。なんでも出てくるねー。でもこのコインを買わせてー、また買い戻すのかー。いくらにするのー?」
「それなんだよな。50シルとか?」
「そもそも、風呂代っていくらよー?」
「そうだな。200くらいかな?タオル貸付と石鹸付き?」
「2食分ねー。タオルって売ると高いもんねー。あたいら基本ビンボー人だから、なんでも高いと思っちゃうけど、どーなんだろ?
こいつはあたいとおんなじビンボーって分かったら安くするよーとか?こっちならタダでいーよーとか?」
「ああ、そういうのもありかな。こっちの広い入り口は金持ち用。といってもぼったくるわけでもないが、ちゃんとあつかう。
で北と南に住宅地が有って、20くらいの路地がここに繋がってるよな。アリスが言ってたが土で建物を建てると地下室ができちゃうそうだ。お日様は当たらないけど灯りが有るから地下の風呂もいいかもな」
「でも僕はただはありがたいけど、お世話になりっぱなしって嫌だ。何かちょっとでもお返しがしたい」
「んふー。パックー。いいことゆー。頭撫でてあげるねー。頑張ってるよねー。みんなちゃんと見てるよー」
「な、な、なんだよ。そんなの当たり前……」
「それは違うよー。頑張らない子もたくさんいるのー。みんななんとなく生きてるのー。でもねー、一生懸命な子はカッコイーんだよー」
「むぅ。何かの対価を取るか仕事をさせるか。それによっては飯も食わせるか。
畑でもやるか?虫の要らないやつ、肥料になるって言ってたよな?
あと分からないのが海の水……塩か……むぅ」
「まーまー、そんなに詰めないのー。ゆっくりやろー。
まずは建物だよー。お風呂の絵は5枚描いたよー。外観はどうするー?んー、この街ってさー、丸い建物がないよねー?」
「いや他でも見たことないぞ?」
「えー?そうなのー?あの黒壁から見たでしょー?坂の上の家の屋根からでもきっとここが見えると思うよー。5メルより高いくらいの丸い建物ー。猫耳付きー」
「それ、ミットの趣味だし」
「あはははははー」
「そうか。あそこから見た街の中に猫か。またアリスに頼むのか?それはまたどうなんだ?絵描きを探して雇うか?」
「なになにー?なんで絵描きー?」
「いや黒壁の足場から見た街の景色はすごかったよな?おまえのいう通り猫の形にすると、あそこからどんなふうに見えるか描いてみたいなと……」
「それはアリス案件だよー。絵描き雇ったって設計図なんか描けないし、絵に近い建物にはならないよー」
「ガルツさーん。ちょっと見てー」
「そら来た。行くよー」
「わーい、ミットも来たー。あのねー、中の家具とか作ったから見てー」
「どれどれー?」
「あーそうだ。この窓ってどうするつもりだ?」
「当然、トーメイ板入れちゃうよー」
「格子戸は外へ両開きだろ?中にトーメイ板をどうつけるんだ?」
「えー?あーそっか。中に引き込む?じゃまっけだなー。この形のまま下へ落とす?出来なくはないけど。上の三角を固定して下だけ畳む?
うーん。結構面倒だねー。マノさん常駐ならパパッと出来ちゃうんだけど」
「この形の屋根裏窓を何種類か決めてしまって、窓に合わせて屋根を作って貰えばいい売り物になるな」
「よく分かんないけど、あたいは部屋を見よー」
仮の出入り口から入るとガラッと中の様子が変わっていた。そこは階段室で5階は手前に6部屋、向かいは7部屋、真ん中が2名幅の廊下で一部屋が幅6メル、奥行き6メル。窓が2つ付いている。2段ベッドが2つ、大きなテーブルに椅子が4脚。
片側の壁一面にタンスやら飾り棚があって全て移動出来るが、天井との隙間が僅かしか無いので移動は面倒かもしれないが、倒れるようなことはなさそうだ。家族用の部屋だな。
屋根裏へ上がると真ん中に1メル半の廊下の左右に4部屋。一部屋は幅8メル奥行き4メル半で窓は2つ、窓側の1メルが屋根の分欠けているこちらも天井いっぱいの箪笥や飾り棚が両側の壁に並び2段ベッドが一つ、テーブルに椅子が2脚置いてある。
最上階は北側に廊下1メル半の廊下だが60セロ屋根側が欠けている。南側に4部屋あり中は下の屋根裏と同じ作りになっていた。
3階の風呂がちょっと遠いか?トイレはベンキーが作れれば小部屋の一つ二つなら廊下の突き当たりにでも作れる。
「良さそうじゃ無いか。あとは人が入ってから考えれば良いな」
「うん。いー部屋だよー。ねーパック」
「僕ん家なんてもっと狭かったし家具もたいしてなかったから羨ましいよ」
「あー、それは大丈夫だと思うよー。これからアリスが腕によりをかけて作ってくれるからー」
「うん、まっかせなっさーい」
「でねー。アリスー」
「なーに?ミット」
「あの黒壁から見た景色覚えてるー?」
「うん」
「温泉をねー、高さ5メルのおっきな猫さんにしよーと思うんだけどー、あそこから見て猫ってわかるようにしたいのー」
「ふーん?」
「そーゆー絵って描けるー?」
「たぶん……んー。こーかなー?んー。どーだろー?………これならいーかな。ちょっと待ってねー」




