1 温泉場・・・ガルツ
「飢えない世界を」
この言葉を実現する一歩目は交易だとガルツは言う。その足掛かりとしてハイエデンの街を本拠に決めたが、商人の経験など無い3人の奮闘が続く。
登場人物
アリス 主人公 14歳 薄い茶の髪、白い肌、青い目、身長148セロの女の子。
マノさん ナノマシンコントロールユニット3型
ミット 13歳 孤児 濃茶色の髪、やや褐色の肌、黒い目、木登りが得意、身長143セロの女の子。
ガルツ 33歳 工房出身 元猟師 その後兵士を3年ほどやっていた。戦場で壊滅した部隊から逃れて来た。日焼けした肌、赤黒い髪、青い目、身長185セロの大男。青ずくめの防具、楯と長剣が基本のスタイル。
パック 14歳 ケルヤーク開拓団で町を出る 身長 146セロ 赤髪、灰目の男の子。
サントス 金物屋の店主。武器にする鉄を集めに行ったら譲ってくれた。商取引の仲介役。
ベイク-アイゼル ハイエデンの首長。
トルケル ハイエデンの商家の主人。
ビクソン 交易商人。
ローセル ハイエデン商会長。
イヴォンヌ ローセルの孫娘 すっごい美人 170セロの長身。
ケビン 元ドルケル 2メルの大男。武器はハンマー。
カジオ 元ドルケル。涙もろい。
ヤング 元ドルケル
エレーナ 調理人 22歳 157セロ ぽっちゃり系 短髪にしてる
マークス ケルヤークの商会長 デブ
チーノ ケルヤークの少女
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第4章 ガルツ商会
1 温泉場・・・ガルツ
パックとミットが街の瓦礫回収を始めて4日。特にトラブルもなく片付けは順調だ。携行バッテリの作製道具も出来上がって灯りも用意ができた。今は梯子の作成道具を作っている。
注文品で揃っていないのはトーメイ板だけになった。期日はトルケスのところが後4日、ビクソンの1回目が8日、2回目が12日。在庫を見たが灯り以外は十分にあるようだ。明日からは次の注文まで別の仕事をさせたい。
木質もかなり集まったし温泉浴場でも建てるか?西の生き残りを雇う話も伸び伸びになっているし、そろそろなんとかしないとな。
「アリスー。ちょっといいかー?」
「ガルツさん。なーに?」
「梯子はどうだ?」
「もうちょっとだよ。午前中にはなんとかなるかなー?」
「ふむ。海水はどうなった?」
「5層目が芳しく無いって、いま8層目に挑戦してるよ。少ないけど材料はあるってー。塩が大量に採れちゃうけど今の水でやるか、コーリツ?のいい層を見つけるかでマノさんが悩んでる」
「そうか。明日ビクソンが来るから塩のことは聞いてみよう。
でな、ここに住んでた人たちを呼ぼうと思うんだ。もう在庫も充分にあるし片付けで木質も大量に集まったから温泉浴場を作ろうと思う。
お湯は3種類あるから浴槽も3つにする。一つ20人入るとして幅4メル長さ10メルならゆったりだろう。脱衣場から男と女に分けて洗い場は40人分くらいか。
後の施設をどうするかな?みんなが帰って来たら相談してみるか」
「アイゼルさんとサントスさんにも聞いた方がいいかも」
「ああ。確かにそうだな。よし、ちょっと行って来るよ」
「その大きさだともう一本掘らないとお湯が足りないって。場所が決まったらそこに掘るねー」
サントスさんの店に行くのはあれ以来だな。商品をごっそりもらっちまったし、まだ売上がないから支払いもしていない。どうしているんだろうか?
「こんにちはー、サントスさんはいたかな?」
「おや、ガルツさん、いらっしゃい。こんなところまでわざわざおいでとは、何かありましたか?」
「こっちはどんな様子だね。ちょっと気になってな」
「わたしのとこは何にも変わりませんよ。人が減って売上はさっぱりさ」
「扱う品が金物でなきゃいけない訳でもあるのかい?」
「まあな。義父の代からやってる店だし、わたしは婿養子なんだよ。勝手はできないのさ」
「副業みたいなのもか?」
「ふむ。何をさせるつもりだ?」
「いや、何ってのは無いんだが、ちょっと話を聞いてくれ。
あの場所で温泉浴場をやろうと思うんだ。西の生き残りを引き取りたいってのは言ったよな。ただ飯食わすなんてのはできることじゃ無いし、食わされる方だって居心地が悪いもんさ。で、俺としては仕事を用意してやりたい。
男は今元ドルケルがやってる片付けができるだろう。女は風呂屋の売り子や裏方ならできるんじゃ無いかな?子供は手伝いとお勉強だな。
一時に男女それぞれ60人ずつ入れる規模にしようと思うんだが、風呂だけじゃちょっと弱いかなと思うんだ。で軽食や飲み物を売ろうかと思ってるんだが」
「すごいな。温泉が出たのか?で、わたしはどこに絡めばいいんだね?」
「いや、それは俺には分からん。まず立ち上げに案が欲しい。人を雇う以上簡単にこけるわけにも行くまい。動き出したら客の反応を見て何がしかの対応も必要だろう。そういうのはまるっきりなんでな。どうだろうか?」
「幸いと言うかあんたの取引には、かなり口出しさせてもらったから懐事情もある程度わかる。最初の売り上げが入るのはあと5日だったか?」
「納期は4日だ。次が8日、12日」
「そうか。建物は?」
「これから作るさ。材料は集まってるし温泉も出てる。建てる人手も自前でほとんど賄える」
「相変わらず無茶苦茶な人だ。分かったよ。手伝おう」
「それはよかったよ。次はアイゼルさんのところに行くんだ。一緒に頼む」
「はいはい。どこへなりとお供しますよ。ローセルさんの知恵も借りた方が良さそうだ」
「商会長、だったか?あのじいさん」
「そうだ。じいさんの方から行ってみるか?」
「了解。ぜひ頼むよ」
「おーい、ケイトー。ちょっと出て来るよー」
「はーい、いってらっしゃいー」
「よし行こう。商会組合は一本南の通りだ」
これまたでかい建物だな。商会組合ね。
「そもそもどんな組織なんだ?商会組合ってのは」
「ここでそれを聞くかね?商会同士のいざこざの仲裁が主だよ。みんながやりたがる仕事を振り分ける。やりたがらない仕事もそれに応じて振り分けるのさ。金にならなくても必要な売り買いってものもあるからね」
「ふうん?見当も付かんが」
「こっちの話が先だろ。行くぞ?」
コンコン
「ああ、入れ」
「予約無しで失礼するよ、ローセルさん」
「この10年予約なんぞ聞いとらんよ、サントス。今日はどうしたんだね?」
柔らかな日の入る大きなガラスの入った窓が一つ、その左右は書棚。少し離れて椅子に座ったローセルが居た。その前には3メル幅の大きな執務机があり書類の束が左右に厚く積んである。
見回すと8メル四方と言ったところか。
「こちらのガルツさんから面白い話がありましてね」
「ほう。ぜひ聞かせていただこう」
ローセルが左手のドアを示した。ドアの先の広い応接室には4人が座れるゆったりしたソファが二つ向かい合わせにあり、奥の2人がけの中央にローセルが陣取った。
豪奢な飾り棚には美術品は一つ一つ離して置かれ、その広い間隔がそれぞれを引き立てているように見える。ローセルの背にも左右に小ぶりで絢爛な花器が飾られていた。
中央の低いテーブルには、3セロほどの落差をつけた花が2輪。こちらは花を引き立てる地味な色だが精緻な紋様が施されている。
「不法居住地をこちらが預かったのはご存知ですね。あそこに温泉浴場を建てるそうです」
「温泉じゃと?あの土地は何度か調査を入れているはずだ。温泉など出るはずあるまい。サントス、おまえだって……?
まさか出たのか?」
「わたしもまだ確認してませんが、この人が言うんだ。出たんでしょう。一緒に見に行きませんか?」
「ふふふ、面白いのう。よし、見せてもらうとしよう」
どうなってやがる?話がまるで見えないんだが。ローセルが立ち上がり、執務室へ戻ると右のドアを開けた。
「おい。イヴォンヌは居るか?供をせい」
「あら、おじいさま、どちらへ参りますの?」
うわっ、すげぇ美人だな。少しきつい目、鼻筋が通って小さな口、細面で背も高い。172セロってとこか。
かっちりした明るい青の上着、ごく薄い黄色の丸襟のシャツに濃い青の飾り紐を首に蝶結びにしている。緩く突き出た胸を覆う上着の、下の方にしか無いボタンを止めていないので隙間から細い腹が、いや背中側の裏地が見える。腰はパンと張って白のひだの多いスカートが足首まで流れている。ひだの中が薄い青に染められた変わった生地だ。
靴は薄い赤だが足の甲が大きく開いていて、よく脱げないものだと思う形をしている。踵がやけに高いな。4セロくらいあるぞ。
いや、これはびっくりした。
「イヴォンヌ、サントスは知っておろう。
こちらがガルツ殿じゃ。不法居住地へ行く。付いて来い」
「あらあら、あなたがガルツさまでしたか。お噂は聞いております。わたくしはこのローセルの孫でイヴォンヌと申します。どうぞよろしく」
「あ、ああ、そうだな。ガルツだ、こちらこそよろしく頼む」
「では参りましょう。ガルツさま、サントスさま」
イヴォンヌはニッコリと会釈をした。
うわっ、笑うと目が優しくなるのか。すごい破壊力だ。
道すがら、あらましの説明をする。
「温泉は3種類の泉質の湯が出ています。硫黄泉と塩泉が2種類です。温度は55セッシドですので水で埋めて入ります。
計画中の浴槽は幅4メル長さ10メルが3槽。脱衣所から男女に分けて洗い場を各40人分と言うのが浴場部分です。
あとは休憩場として軽食と飲み物の提供を考えていますが、その辺りは素人ですのでサントスさんに声をかけたところです。従業員はこの場所に住んでいた西の人たちを引き取れればと考えています」
本拠に着いた。まず建てる場所の吟味から入るようだ。
大きな建物の脇を通りぽっかりと現れる空き地。右の角に慰霊碑、建物の並びに俺たちの平家の本拠。敷地の幅は70メル、奥行きは500メル以上600はないと思う。右も左も住宅地で家に囲まれ奥は山裾、森が見えている。
この敷地への出入りはこの正面の30メルほどと、左右の住宅地の3メル幅程の路地が10本ずつくらいあるか。山裾を道路にすれば出入りは可能だろうがいかにも不便だ。
ローセルさんは少し首を傾げていたが特に何も言わず風呂を見たいと言うので、少し狭いがうちの風呂へ案内する。
「アリス。さっき言ってた温泉の計画で見に来てくれた。サントスさんとローセルさんは知ってるな。こちらはイヴォンヌさんだ」
「イヴォンヌさん。この子がアリス。14歳だ。他にパックとミットがいるが、今は元ドルケルを率いて街の瓦礫を片付けに行っている」
「アリスちゃん。イヴォンヌです。このローセルの孫にあたります。どうぞよろしく」
「アリスです。お風呂を見て貰えばいーい?」
「そうだな、あとカネツキー、ベンキー、灯りとトーメイ板か。建物に使いたいと思うんだが」
「うんそうだね」
「あー、まず風呂ですね。こちらです」




