4 不法居住区 3・・・アリス
これまで:ハイエデンの街に土地を手に入れたガルツは商品の作成をアリスに依頼した。
アリスが全て作るのは大変だ。パックが知恵を出しなんとかしようと奮闘するが。
バッテリ作りがひとつ終わったので、お茶を淹れる事にした。
「パック、剣の鍛錬の調子はどう?」
「ガルツさんに短剣の振りを褒めてもらったんだ。少し長い剣を振るように言われたけど、どんなのがいいかで迷ってる」
「パックは剣の使い方で突く、斬る、殴る、受けるのどれが得意なの?」
「やっぱり斬るのが好きだな」
「じゃあミットの剣を使ってみる?今作ってあげるよ………
これで、どーお?気に入らないところは言ってくれれば直すよ」
「柄を両手で持ち易いように、もう少し長くしてくれないかな」
「いいよー………どーお?」
「うん、これで練習してみるよ」
「あたしは虫の殻で今のよりも少し長い刺突剣を作ってみようかな。数を突けるし色が可愛くできるから」
「その色ってこの剣にも付けられるの?」
「切れ味が落ちるから刃の1セロ幅は無理だけど他は変えられるよー」
「じゃあ、刀身を黒くしてほしいな」
色を変えるくらいは刀身を撫でるだけのことだ。
「はーい、出来たよ」
「あ、こんな感じか。ふーん」
「黒はほんとに黒く見えるよね。思ってたのと違ったかな?」
「いや、ずっとカッコいい」
「気に入ったんなら素振り頑張ってね」
「うん!頑張るよ」
パックが新しいおもちゃで楽しく鍛錬を始めたので、あたしとミットの軽い剣も作ってしまうか。ミットは反りのある1メルくらいの片刃剣を2本。色は多分水色だね。
あたしは1メルと10セロの突き重視の直剣、刃先の10セロだけ両刃だ。槍の長さが変えらるならそっちの方がいいような……ってできるね?穂先も鉄じゃないから軽いし?あたしの手だと太さは2セロ半かな、一本作ってみよう。
槍を作って伸ばしてみると2メルから3メルくらいが一番安定して突ける。練習すればもっと伸ばせるかな?
伸ばすと筒の厚みがどんどん薄くなるよね。
5メルにすると槍先がフラフラするけど、それはあたしの力が足りないせいだと思う。槍はしなりはするが曲がったりはしてない。上に振り上げて思い切り地面を叩いてみた。
バッシーーン!!
軽いくせにしなるので穂先が地面に当たる音がすごい。
穂先のすぐ下の位置に木質の丸太を置いて、そこで折れるかどうかもう一度やってみる。
バッシィィーーン!!
わわっ!びっくりしたー!
当たった後穂先が1メル以上も跳ね上がった。当たった辺りを見に行くけどなんともない。マノさんここ大丈夫?………
穂先の近くだけいっぱい赤いシワシワ模様が見えるよ?目を切り替えたのか……え、これ細かいヒビ?穂先の方にも伸びてるね。柄の方は少し離れると傷が無くなってる。補修してみて………
あー。ツルッとなったね。ふーん。
叩いた後いっぺん直せば元どーりか。間合いも目で距離が測れるからバッチリだし、これはありだね。
一番短くすると20セロのただの筒になった。これも他の人が使えるかパックに相談してみよう。
夕方ガルツさん達が戻るまでにバッテリがもう1個仕上がった。先に作った一個にはデンキが半分くらい貯まったらしい。
夕食の後は作戦会議が恒例となって来たね。
「さてパック、アリス。どんな塩梅だ?」
「今日は分解ブラシと木から透明粒を作るブラシを作ったよ。
これがその分解ブラシ。ここにあるボタンの押す回数で操作できるんだ。今朝みたいな瓦礫の山に向かってボタン3回でナノマシンを散布、2回で分解開始、1回で分解中止。終わったらブラシでナノマシンを回収するものなんだ。
1日でどれくらい分解出来るかはまだ分からないし、デンキの補充はまだアリスがしないとダメ。補充するバッテリは作っている最中だよ。
もう一つは同じようなブラシだけど木質を透明の粒々にするよ。この袋に粒々が入っているので見てみるね」
袋の底の方に白い半セロくらいの丸い球がザラザラと入っていた。
「白いんだな」
「細っかい泡が混じってるから白いって。道具の形をどうしようか?作る板の大きさも決めないと」
「1メル角でどうだ?厚さを3/5セロか2/5セロにするかくらいだと思うが?」
「ふーん?………こんな感じ?」
出来たのは長さ1メル、幅10セロ、厚さ1セロの板をヒラに置きその上に載った長い漏斗。
板の長い木口の片面は赤い色をしている。漏斗は長さ80セロに高さ20セロで幅20セロ。板の真ん中に乗っていて、片側にボタンが並んでいる。
出す 止める 1 から 5 までの数字のボタンが2列 上の列に 長さ 下の列に 厚さ と書かれている。
パックに言って白い粒を漏斗に半分入れさせると手でザッと均してもらう。ここはもうあたしは手を出さない。
「長さ1メルだから上の[1]のボタン、3/5セロ厚だから下の[3]のボタンを押してね。[出す]を押すと1枚始まるよ」
言われた通りにパックが操作すると赤く塗られた側面からゆっくりと透明な細い棒が滲み出てきた。ゆっくりと伸びて棒はやがて板となって行く。
「この数字のボタンは上に手をかざすと少し光るの。分かる?」
「ああ、今押したボタンが分かるんだね」
「そう。このままでよければ[出す]を押すだけ。粒は多めに入れておくのよ。止まってから入れるのはきっと継ぎ目がついちゃうと思うから。
パック、ここは見てるだけだから梯子持ってきて」
「ああ、いいよ」
「あたし、梯子って知らなかったから午後から屋根に登るのに作ったの」
待つ間にガルツさんとミットがゆっくり伸びる透明な板や漏斗、ボタンを覗き込んでいる。
パックが梯子を運び込んできた。
「ほう。これが梯子か?これだけ綺麗な色だと飾りと言われても分からないな。おう、軽い!」
「ほんとだー、すっごく軽いねー」
「しかし梯子は長くないと使えないのに、持ち運びが長いせいで大変なんだ。棒の状態で運び込んで使う場所で縛ったりな。
俺なんか見習いだから触らせれもらえなかったよ。一箇所でも縛りの甘いところがあると職人が叩き落ちるからな。長さを変えられるといいんだが」
「多分出来るよ。これ、あたしの槍」
ポイっと短い筒をガルツさんに渡す。
「アリス、これが槍?」
「うん、これはまだあたしでないと使えないけど、パックが分け方考えてくれたら伸びる梯子が出来るかも。
これ5メルまで伸びるの。こっちに伸ばすよ」
槍がスルスルと伸びて行く。
「おおおお!なんだそりゃ?ちょっと貸してくれ」
あ、スイッチ入っちゃった。
ガルツさんは端の方を右手で持つと後ろいっぱいに引き、左手は体の前で下がらないように支えている感じで、足を前後に軽く開いて腰を落とした。右足を大きく踏み出すと同時に右手を突き出す。柄を左手のヒラで滑らせて槍を突き出しているが穂先は下がらない。
あ、これはあたしには無理だね。スッとガルツさんが右足と共に体勢を戻す。
軽く槍先が右へ振れたと思った瞬間、足を踏み出し槍が突き出される。戻すと今度は左へ突く。
ふうと息を吐き槍を返してくれた。
「パック。この槍なんとかしろ!俺も使いたい」
「はい、頑張ります?」
「あははは、あのね、ガルツさん、ここじゃ出来ないけど殴るのもやってみたよ。上から思いっきりブーンと。バッシーーンだって」
「5メルでか?壊れなかったのか?」
「見えなくらい小さいヒビが入ったよ。すぐ修復したけど、多分少し伸び縮みをさせてもなおっちゃうと思う」
「なんだそれ。戦闘中に軽い修理も出来るってか?」
「ガルツー、そんなに興奮してちゃ持たないってー。落ち着きなよー。アリスー、まだ今日のビックリ、あるのー?」
「んーっと、後はミットの軽い剣かな、ほらそこにあるよ?」
「えっえっ、なに?あたいのー?
わっ、きれー!
あ。軽いねー、ちょっと振ってみるねー」
ブンブンヒュンヒュンとミットが2本の剣を振りまわし始めた。剣同士がぶつからないのが不思議なくらいだ。両腕を広げたかと思うと蹴りが一つ、腕を縮めると回り始める。剣身がヒュンヒュンと上下に現れるが軽いので回転はほとんど落ちない。バッと足を開くと体の回転が止まり、2本の剣が右へ振り抜かれ左の一本が頭上でくるりと回る。
「やぁっ!」
気合いの篭った右袈裟斬りが振り下ろされた。
「んー、ぶっつけじゃこんなもんかー。軽くて回転のきっかけにならないから、蹴ったんだけどねー。ガルツー、どーしたらいいと思うー?」
「むう、方向が全然俺と違うし、お前みたいなタイプと当たった事ないからな。見当も付かん。あした模擬戦でもやってみるか?」
「えっ、ずるいー。あたしもー」
「パックはどうする?」
「僕はもうちょっと後でやってもらうよ。今日この剣を貰ったばかりだし」
「おっ、アリス特製か?見せてみろ。
おー、相変わらずすごいな。ちょっと振ってみろ」
パックが振る型をじっと見ていたガルツさんが声を掛けた。
「お前の言う通りだ。まだ剣に振られている感じだな。まず剣に慣れるのが一番だ」
「はい」
「あんた達ー。透明な板出来てるよー。
全く武器のこととなったらみんな忘れちゃうんだからー」
「「「どの口が言うか!」」」
みんなで出来上がったという板を覗き込む。
「これが3/5セロ厚か。少し厚いかもな。2/5のも作ってみよう」
パックが粒をザラザラと補充してボタンを押した。またしばらくかかるね。
「あとね、アイゼルさんに聞いたんだけど井戸ってそこの大きな建物の中なんだよ。ちょっと遠いからこっちにも作りたい。水がたくさんあるとお風呂も沸かせるし。
後はトイレ。あれって貯めておいて柄杓で樽に詰めるって。1年さらしたら肥料になるって言ってた。でも臭くなって大変だよね」
「まあ、街の便所はそう言うもんだが、何か上手い手があるのか?」
「井戸は掘っていいならすぐ出来るよ。大ムカデの穴の小さくて深いやつだもん。
トイレはそーだねー、肥料になればいいのか。途中なしはマノさんの得意だね」
「あー、確かに」
「……出来るって。ベンキーってのを作ればいいみたい」
「材料はどうなんだ?」
「土がいっぱい要るね。分解マノさんとデンキ。後は水。ここはバッテリができるから大丈夫だね。他所で使うなら持って行けるバッテリが要るね」
「バッテリか。あれはまだ作れるのか?」
「箱紐から採った銀があと一つ分しかないよ。他にも種類があるみたいだけど材料がないし」
「アリス、あの黒ってのの小さいのを付けたらそのベンキー、動かないかな。日の当たるところに黒を置いて紐を繋いで」
「何処かでデンキを貯めないと暗くなったら動かないよ」
「銀を他所から運んで貰えばできるのか?」
「作る数にもよるけど、銅も要るよ」
「交易をやっているのはビクソンさんだったか?明日にでも聞いてみよう」
「じゃああと1個バッテリを作るつもりだったけど、明日はその材料で小さいのを作ってみるよ」
「2/5セロのができてるよー」
「おう、ありがとう。本当に綺麗にできるもんだな。窓にするなら枠がいると思うが、それは職人に任せてしまうか。これは切るときはどうすれば良いんだ?」
「……ナイフで深い傷を付ければ折れるって」
「ちょっとやってみるか」
ガルツさんがナイフの刃先を立てて丸く傷を入れた。最初のところまで体を回しながらぐるっと引いて行って、板を持ち上げるとパリパリと割って行く。
思ったより綺麗に割れたね。
「うん。これはいいな。これは色はつけられるのか?」
「………染料が要るって」
「そうか。昔領主の仕事で窓に色ガラスを入れたことがあってな。
濁ったガラスでも組み合わせでなかなか綺麗なものになったんだ。これでやったらすごいのが出来ると思ったのさ。
さて、もういい時間だな。片付けて寝るか」




