4 不法居住区域・・・アリス
これまで:3回戦目の残敵掃討のつもりだったが大ムカデまだ多かった。アリスは女神像の足元の落とし穴を作り最終戦を仕掛けた。数は減ったがダラダラと来るので付き合いきれないと言い出したアリスは隠れ家を作り寝る事にした。
隠れ家の壁を開けて、警戒しながら周りを見るけど、数えるほどしか大ムカデが居ない。みんな大人しく穴へ落ちたようだ。
掃討はすぐに終わった。収穫マノさんを散布して落とし穴の底をせり上げ殻の円筒を32本。大きな円筒は肥料にでもするしかないけど、ここだけで150もある。
馬車を地面まで上げたけど、とても乗る量じゃないね。石畳は元に戻すよ。
そんなこんなしていると、街の人が周りに集まって来て見ている。
ミットがおじさんを目を丸くしてみてるね。
「サントスさんだよねー。無事だったんだー。虫は片付いたけど、山とかに隠れてるかもだから、まだ油断できないよー」
「ああ、嬢ちゃんも無事か。良かったよ。虫を本当に退治してくれたんだな。ありがとう。どのくらい生き残ったのかまだ分からないし、街がめちゃめちゃになったんでな、お礼もできなくてすまない」
「礼なんて必要ないさ。旅の途中でたまたま寄った街だ。一応行きたいところはあるが、どうするか決めてない。しばらく居させてくれるとありがたい」
ガルツさんも知ってる人なのかな。
「あのねー。あたいたち売る物があるんだー。どっかお店紹介してくれたら嬉しーなー」
「ほう?何を売るんだい?」
「馬車に見本があるよー」
「見せてもらってもいいかね」
「いいよー。こっちー」
「俺が出してやろう」
ガルツさんが箱を一つずつ出すので手渡しでサントスの前へ並べる。
「これはまたずいぶん変わったものばかり」
カップの色と軽さに驚き、飾りものの色艶仕上がりに驚く。ナイフの刃の品質と灯りにも驚いていた。
「どうだい?売れそうかな。在庫は結構積んでるんだ。足りなければまた運んでくるよ。
口利きはあんたにやってもらいたいと思うんだ。あの急場で鉄を分けてもらえて、俺たちも助かったよ」
「うちで扱えるものはないが、いいよ。旅の人ならツテもないだろうし、紹介してあげよう」
「それは良かった。あとどこでも良いんだが壊れた建物でもあったら、直して寝泊まりできるようにするから教えて欲しい」
後ろから男の声が割り込んだ。
「それでしたら私の出番ですな」
「あ、これは首長。
こちらは首長のアイゼルさん」
「このハイエデンの首長をやっているベイク-アイゼルです。街の行政庁舎は幸い無事ですが、所員が何人か行方知れずでして手が回りません。
土地を貸すといっても、地権者との交渉も必要ですぐにはできないのです。
それでそこの建物の裏手でしたら、私の一筆だけで許可が出せますが、見てみますか?」
「首長。あそこは不法居住地域ですよ。恩人に対してあんまりだ」
「まあまあ、サントスさん。実際この騒ぎが落ち着くまで、手続きもできないしそれこそ猫の手でも借りたい。こちらで今見せられるのは、そこか山の開拓くらいだよ。まあ見て頂こう」
「俺たちは構わないよ。見せてくれ」
あたし達は出した箱を馬車に入れてピピンを引いて付いて行く。
手前の建物は外壁が黒っぽい緑系のレンガに白い枠の扉が4箇所。白い窓が3メル置きにずらっと並ぶ5階建て。とんがり屋根にも出窓が2段並んだ大きなものだ。
72メルもあるよ。長すぎでしょ。
2階から上はアパートメントのようだ。1階の店舗は空き家らしい。
提供できると言う土地はその裏手。行って見るまでも無く瓦礫の原と言った感じで、立っている建物は一軒もない。
「ここにはバラックのような簡単な作りの家しか無かったのです。それで大ムカデの襲撃で真っ先に潰され、何人殺されたのかすら分からない。ここの生き残りは100足らず、今は街で保護しています」
「アリス、どうだ?集めれば結構な量がありそうだが」
「うん。いーんじゃない?どこまで?」
「あー、この瓦礫全部使ってもいいのか?土地も?」
「えっ、何ですって?この量と面積ですよ?
見たところあなた一人じゃないですか。ああ、馬が一頭いましたね。それにしたって!
何年かけるつもりですか?」
「んーとね。1ヵ月くらい?」
「おいおい、そんなゆっくりか?」
「いや、絶対やること増えるもん」
アイゼルさんは呆れた顔だね。
「まあ、いいです。時々私が様子を見に来ますよ」
「すぐに始めてもいいか?寝る場所くらい作りたい。
あー、そうだ。あの上の広場に大ムカデの素材がかなり置いてあるんだが、下ろすのに何回か運ばなきゃならん。すぐには片付かないが構わないか?」
「はい、どちらもそれで結構です。上はこちらも手が回りません。ではまた後で」
脇で話を聞いていたサントスさんは心配そうだ。
「あんた達、こんな廃墟、片付けるだけでもとんでも無いぞ。大丈夫なのか?」
「まあ何とかなりますよ」
「そう言うなら、もう言わないが何か助けが要るようなら、遠慮なく言ってくれよ」
「「はーい。おじさん、ありがとー」」
「ガルツさん。1回上に行って来よう。マノさんの回収と隠し部屋を開けたいの。マノさんが増えればこのくらいはすぐだもの。
今手元にある分だけこの辺に撒いておくよー」
・ ・ ・
上の広場に着くと、全部の穴を元通りにして大ムカデの素材を地面に転がした。
散らばってしまったマノさん達には10メル間隔で集まるように伝えたので、帰るときに回収できるはず。
ガルツさん達が殻の筒と武器を集める間にあたしはドアを探って、やっぱり穴を開けることになった。
数が前回より桁違いに増えているけど、それでもあたしが通れるまで20メニ掛かった。
鏡と灯りで中の様子を見てミット達を呼ぶ。
「ミットー、パックー。潜るよー」
あ、ガルツさんも来たねー。
あたしは前と同じように手を先に左向きで潜り込む。パックが足を押してくれたみたいで、すぐに中へ入った。ドアの裏からマノさんに診断してもらうけれど、今回も色々面倒らしい。
その間にミット達が机や棚を漁って行く。
あたしが欲しかった箱ヒモ。デンシブヒンって言うらしい。
やっとドアが動かせるようになったので、ガルツさんに開けてもらい、回収品を馬車へ積む。
洞穴の内外を歩き回って集まってくれたマノさんを回収して行く。その間に武器と殻を積めるだけ積んでくれた。
帰りは中に乗るところがないのであたしとミットは屋根の上、パックは御者台に乗った。
ところがピピンが降り坂で重い荷を載せられ、ブレーキで間に合わず苦労しているので、降りて少しでも軽くする。
拠点予定地に戻ると昼を回っていたので食事にした。
あたしはそばに転がる大小の粒々や棒を指して
「出る時に撒いて行った分がこんな感じで丸まっているから、温泉で使ったトンボで集めて欲しいの。そうすると材料別に長さが1メルの棒になるから、後で馬車で集めて来れば何にでも使えるよ。
あたしは食べたら全体にマノさんを撒きに行くから」
あたしは資材分離のマノさんを端からひと通り向こう端まで撒いていき、戻って来てから荷車を作り始める。
みんな最初は粒になるのを待っていたが、粒ができ始めるとこの面積を集めて歩くのは大変な作業だ。
近くの木の材料と馬車についている余分で何とか荷車の分を間に合わせたので、ピピンに引いてもらって木質の棒を集めて行く。
こうやって見るとここに建っていた家って、木造ばっかりだったようだ。金属や石なんてほとんどない。他は繊維が少し。骨のブロックも結構ある。これは別にして埋めてあげよう。
荷車5回分集めたよ。どんなお家にしよーか。みんなを呼ぼう。
「お家作るよー。そっちは明日にしよー」
「ねー、どんなのにするー?土地がいっぱいあるから、だーーーっていっぱい部屋作っちゃう?」
「あー、それいいな。真ん中に廊下があって片側に部屋を並べて、向かい側を店だの作業場だのピピンの寝床だの。マノさんなら後からでも直せるから作ってみて考えよう。まず寝床だな」
「うん、じゃああたしの考えで作っちゃうよ。うーんとね、こんな感じー」
柱になるところに木質の円筒を配置して行く。
「今置いたところに5本ずつ置いてねー」
そうお願いしながらもどんどん柱を配置して行く。こんなもんかなー?
ガルツさんが言ったように片側に台所、部屋が5部屋、奥にお風呂とトイレ。
真ん中に2メル幅の廊下、反対側の奥はピピンの寝床で後は柱だけが並んだガランとした場所。
屋内は廊下の両側に出入り口が並んでいる。屋根はごく緩い三角になっている。
お風呂場作ったけど水ってどこだろ?
トイレはただのおっきな穴だし。
明日アイゼルさんに聞いてみよう。
部屋の前あたりに大きな戸をつけて馬車を入れた。ピピンは奥へ連れて行き集めた繊維をほぐして敷く。飼い葉と水を置いてあげた。
「こんなんで、どーよ?」
「一部屋、ハッポーを敷き詰めよー。今夜はみんなで雑魚寝ー」
ミットが提案した。
「何言ってる。ずーっとみんなで雑魚寝だったじゃねーか」
ガルツさんが力の入らないツッコミを入れた。
「晩ご飯はどこで食べるの?」
パックが聞くのであたしが答える。
「一応前が台所だよ。まだなんにもないけど」
「うーん、仕方ない。屋根の下だが馬車の横で薪を燃やすか。いつも通りのスープと干し肉だな」
「そうだねー。明日アイゼルさんに相談する事がいっぱいあるねー。あたいたちに時間とってくれるかなー?」
「虫の黒い殻もすっごい量になったから、なんか作って見るね。なんか思いつくものってあるー?」
「あれ、すごく軽いよね?軽くて丈夫な手押し車とか」
「パック!すっごい、それやって見るねー。他になんかあるー?」
「あれで梯子なんかを作って見るか?筒を組み合わせて。普通じゃ作れないものでもマノさんが作っちまうから」
「あー、なるほど。筒にすれば丈夫なのか。馬車はどうだろう。中に入れるくらいおっきな筒。てゆーか穴の空いた球?」
「アリスー。あれ、色はどーなのー?色じゃないキラ色ー、できたら面白いよー」
「うん………出来るってー」
「じゃあ、キラキラ真っ赤な丸い馬車ー。いいねー、かっわいいよー。あたいが乗るー」
「ピピンが嫌がりそうだよ」
パックのツッコミが入ったところで、桶に水を入れて体を拭いて寝ることにした。
・ ・ ・
今朝も刻み肉スープと干し肉だった。違うものが食べたーい。
ガルツさん達には昨日の続きで粒々集積と終わったら材料の円筒運びをしてもらい、あたしは昨日出た案を思い出しながら殻で色々作っている。
手押し車ー。30セロの車輪の間に四角い台を作った。台は3セロの筒でできているので丈夫だ。手で押したり引いたりできるように、持ち手をつけた。良さそー。
はしご?
あたし見たことないかもー?
馬車ー。
考えて見たら軽すぎて、風が吹いたら飛んじゃうー?
馬車の屋根ならいいかもだけど畳みたいよねー。うーん、どうしよー。保留ー。
丸い桶ー。
軽くて使いやすいー。上を少し広く作るときれいに重ねられるー。
むぅー。水をいっぱい掬うとちょっと頼りないかー?
じゃあ、湯船ー。
丸い桶のおっきいやつー。
火にかけたら割れたー。鍋もダメだー。
背負いカゴー。
入れ物はいーねー。軽い分余計に物を運べるー。
窓に入れるおっきな板ー。
ちょっと曇ってるー。
あたしが遊んでいるとアイゼルさんが訪ねて来た。
「やあ、おはようさん。えーと君は?」
「アリスです」
「ああ。アリスちゃんね。おや、これは?」
「大ムカデの殻がいっぱいあるんで作ってみたの」
「えっ?いやいや。ガルツさんはどちらかな?」
「向こうにいますよ。こっちです」
一旦外へ出て奥の方へ行く。
「わわっ!なんと!これはどうなっている?」
「えっ、片付けてるんですけど。いけませんでしたか?」
「いやいや、とんでもない。だが、これは?」
ふう、これは埒が明かないので呼ぶか。
「ガルツさーん!アイゼルさんが来たよー!」
「おう」
ガルツさんが手を振って、みんなでこっちへ戻って来る。
「あ、いろいろ聞いとくことがあったんだ。トイレってどうしたらいいですか?」
「トイレは汲み取りだね。穴にためておいて長い柄杓で樽に汲み上げるよ。1年晒した後畑に撒いて肥料として使う」
「水はどこから汲めばいいですか?」
「水は井戸だよ。ここら辺には無かったね。手が空いたら掘らせるけど、当面は前の建物の中に井戸があるからそちらで汲みなさい」
「やあ、いらっしゃい。アイゼルさん。こんな塩梅ですよ」
「この建物も驚いたが、昨日の今日でこれほど片付くとはいったいどうなっているのかね。どうみても君らは4人だな。馬も使っていない」
「あー、3日もあればすっかりきれいになりますよ。骨が結構出て来たんだが、まとめてそこへ埋葬していいですか?墓も建てますが」
「ああ……大勢亡くなったからね。構わないよ。大半はこの土地の者ではないんだ。
もう5年前か。西で大きな洪水があってね。山の木が大量に流されたんだ。彼らの畑はあふれた水でめちゃくちゃになった。
なんとか復興したんだがバッタがものすごい数になって、人まで襲うようになったんで散り散りにここへ逃げて来たんだよ。
そういえばそのバッタか分からないが去年、山に大量に流れて来ていたな。
今は街にも余裕がないから、墓まで建ててくれるなら彼らも喜ぶと思う」
「100人近くその人らを保護してるって言ってましたね。どんな人たちですか?」
「真面目な連中だよ。悪人ではない。ただ運が悪かったんだ。大人の男が30人ほど、女は40人くらい、子供が20人くらいだ。どうかしたかね?」
「その人ら仕事はあるんですか?」
「いや。この街で働いた者はいないよ。言葉が結構違うんだ。まるきり通じないわけではないんだが、それが余計に話をややこしくしてね。だが彼らももう慣れて来たから、これからなら大丈夫だろうと思っているよ」
「そうですか。いや、ここに戻りたいと思っているでしょうかね」
「ははは、彼らが戻りたいのは西の故郷だろう。戻れるものなら」
「あー、そうですよね」
「じゃあ、また顔を出すよ」
「「バイバーイ」」
「ああ、元気でな」
・ ・ ・
アイゼルさんとお話ししてガルツさんお疲れ?
「ふう。アリス、どんな具合だ?」
「あ、見て見てー。いっぱい作ったよー」
「お、おう」
「はーい、手押し車ー。どーお?」
「小さい馬車だな。床と横、手前は板を張った方がいいな。落として構わない石なんかを運ぶ時に荷下ろしが楽だ。持ち手をこう持ち上げるだけだからな。
あとはそうだな。握りが滑り易いかもしれないな。皮を巻くかザラザラにするかすればいいんじゃないか?」
「ふーん。次は入れ物だよー。桶」
「うん。軽くていいな。色もきれいだ。この上の方に補強を入れたらいいんじゃないか?
背負いカゴ?おおっ!これ薪木拾いが捗るぞ。おれが使いたいっ!」
「気に入った?こんな板って売れるかな?」
「ほう。透明で軽いな」
「窓に入れたらどーお?」
「ふーん。冬は寒いから戸締りして籠るが家の中は真っ暗だからな。いいんじゃないか?木や皮からも作れるって言ってたよな?」
「あっちは時間がかかるよ」
「それなんだがな。ここに住んでた連中が100近く居るってアイゼルさんが言ってたろ?
隣に居住棟を作って呼ぼうと思うんだ。それには仕事が要るからな。灯りみたいに誰でも動かせる道具って作れるか?
木を持って来たら透明な板を作るとか、箱を作るとか」
「聞いてみるー………無理だってー。
何かするたびにあたしが見ないと、細かい事はできないってー」
「そうか。もう少し考えてみるか」




