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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第3章 ハイエデン
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3 殲滅・・・アリス

 これまで:大掛かりな準備をして臨んだ2回戦だったが大ムカデの数が多い。アリスは休憩のため通路の入り口を封鎖した。

「うーん、暗いね?」

「起きたか?飯にしよう、アリス。おまえ以外はみんな起きてるぞ」

 ガルツの声にあたしは昨日のことを思い出した。何か夢を見たように思うが覚えていない。


「朝ご飯にしよー。もう食べられるよー」

「あー。出口に壁作って寝たんだっけ」


「おう。おかげで何の心配もなく、ぐっすり眠れたよ。いま朝なのか昼なのかも分からんがな」


「僕ら、昨日は大ムカデ、何匹殺したんですかね?」

「さあな」


「……2500くらいだって。数えられないから、タイセキワリー?だって」

「ほう、それはすごいな、手にかけたのは一人120。4人で500がいいとこだろう」


「ガルツさんの槍は一投で10匹は潰してたよー」

「あー、あれは確かに凄かったよ。そうか。そうなるとあの槍だけで3、4百潰してるのか。なんかちょっと鼻が高いなー」

「だからー。ガルツがはしゃぐと引くってー」


「でも僕でも100も殺せたなんて、恐ろしいくらいですよ」

「そうだな。8割9割はアリスの、マノさんのおかげさ。さて、食ったら掃討戦(そうとうせん)だ。最低でも200は居ると思う。気を抜くなよ」

「「おー」」


 なんか盛り上がってるね。あたしがまず武器の回収と修理だと告げるとデンションはダダ下がりだった。


「まず中を片付けるよ。あたしが奥から回収品を出してくから矢とか槍を集めてね。虫素材の円筒は邪魔(じゃな)にならない端っこへ寄せといて」


 蓋が消え落とし穴の底がせり上がって来ると、虫の死骸はいくつかの円筒に(まと)められて、武器が転がっているのでそれぞれ集めていく。


 矢と槍と鉄を回収し、修理も終わったので戦闘態勢を取って壁を開ける。目が慣れるまでしばらくかかったが、襲って来る虫は居なかった。


「ずいぶんおとなしいね。じゃあこの辺も全部出すよ」


 出口付近の落とし穴を片付けただけで、矢も槍も持ちきれないので脇へ積み上げる。もう十分な武器が集まったので街へ掃討に出ることにした。

 ガルツさんとあたしが腰に付けた誘引音を鳴らしながら大きな通りを歩いて行くと、バラバラと大ムカデが寄って来る。が、数が少ない。


「右から5。左が3だねー」

 ミットの指示でたちまち潰し次へ進む。


「んー?右に虫が10、人が3。行くよー」


 ミットが右の一本先の路地へ飛び込むと、真っ直ぐ走り出した。あたしの誘引音を聞きつけ、一斉にこちらへ向き直る大ムカデに、ガルツさんとミットの矢が襲う。ガルツさんは走りながら弓を収めて長剣に手をかける。

 ワラワラとこちらへ向かって来る大ムカデにパックが槍を構える前で、ミットが片手を横に広げた。


「あの辺に人がいるから槍はダメだよー」

「あ、ごめん」


 あたしの針で右の2匹、ガルツさんが正面で首を飛ばし、ミットが左から矢を連射して瞬く間に5匹潰した。

 出遅れた3匹にガルツさんが突っ込んで行く。人が近いらしいので、もうやたらに射てない。


 あたしはゆっくりと近づき、大ムカデが出てくれば撃つつもりだけど、ミットは弓を後ろに放り、剣を抜いてガルツさんの左脇に付いた。

 長剣が右に振り抜かれ、一匹の胸から上が落ちる間にミットの剣がその背後の頭を二つに割った。ガルツさんが足を踏ん張り刃を返すが躱される。


 あたしの位置からでは(ねら)えないが、襲われていた3人から遠ざかるので、ミットが追い立てている。パックの槍がビュウと飛んでいく。

 あたしは誘引音を止めて3人に駆け寄った。女が二人。こちらは無事のようだが体の大きな男の人が、腕から血を流しうずくまっていた。


 とにかく血を止めないと!

 リュックからロープを外し輪を解くと、肩のすぐ下へ巻き付けギュッと縛る。痛みに(うめ)いたが気にしている場合ではない。血の出ているところを探すと、肘の少し上と下の2箇所に大きな傷があった。両手に傷の治療ができるマノさんを念じて手を合わせ、傷口へ押し当てる。


 (てのひら)が熱い。男も同じだったようで逃げようと暴れ始めた。


「押さえて!」


 慌てた様子で男を抑える二人に落ち着かせるように声をかける。


「あなた達は近くの人?」

「そうよ。虫が居なくなったから食料を何とかしたいと思って。そちらはどうして?」

「虫は粗方やっつけたけど、まだ町に残っているみたい。いま残った虫を狩り出しているところなの。そばにいて良かった。危なかったねー」


 何ということもない会話だが、聞いていた男も落ち着いたようだ。


「もうちょっとだと思うから我慢してね」

「あなた達がやってくれたの?こんな子供を3人も巻き込んで……」

「あー、そこは気にしないでねー。全然大丈夫だから」

「アリス、そっちはどうだ。逃げ足の速いやつだったがパックが仕留めた」


「こっちはもう良さそうだよー。お兄さん、血は止めたけど無理しないでね」

 と言ってロープを回収した。


 薄く皮が張った左腕を3人が呆然と見つめている。


「じゃあ、通りへ戻るよー」


 完全にミットが仕切ってるなー。通りに出た途端

「この先の左に7かなー。また人!行くよ」


 二つ先の路地へ飛び込むミットに必死でついて行く。

 人が絡まれているこんな時は、あたし達の誘引音を聞くとこちらを向いてくれるのが、本当にありがたいよ。遠距離から削って近間で止め。男にケガは無し。


「まだ結構残ってるから気をつけてね」


 ろくに話もしないうちにミットが叫ぶ。

「正面から10以上、20はいないと思うー」


   ・   ・   ・


 街の中心部なのか大きな建物が増えて来た。

 ミットによると中に大ムカデが入り込んでいるらしい。片っ端から開けてみる他ないか。音を聞けば寄って来るのでミットには何匹いるか分かるし。


「前から5、右に3。左もだー4」


 ガルツさんが正面、あたしとミットが左右それぞれを向いて弓を構える。パックは好きにして。

 3匹が行儀良く並んで現れたので、順に矢で射ち抜く。


「後ろに5……前に3増えたー」

 パックは前へ行った。


「よーし、次ー」


 あ、ミットも終わったのねー。


 やっと片付いて建物の中から湧いて来る大ムカデを駆除する。



 こんな調子で街中を歩いたが広過ぎるよ、この街。


 大きな建物は3軒掃除が終わったので少し早く昼にする。どうせ帰りも一仕事あるし。一旦戻ろう。


 通りを戻って行くと街の人が何人も出て来ている。


「まだ虫が結構いるから、出てこないほうがいーよー。出るなら武器を持っといで。あぶないよー」


「あんたらどこへ行くんだい。うちの周りを見てくれないか」


「いやこっちを頼むよ」


「なんだ?おまえ達。手ぶらで出て来てどういうつもりだ?死にたいのか?そんなんじゃ、邪魔になるだけだ、家に引っこんでな」


 ガルツさんも吠えたが埒が明かない。グダグダとやっているとミットが叫んだ。


「右に6。来るよ。あんた達、そこをどきな」


 ガルツさんが前へ出て5人ほど右へ払い除ける。

 何か文句を言っているが

「やかましい」


 ガルツさんが一喝して黙り込んだその目の前で一斉射。バタバタと沈む大ムカデ。

 あ、一匹残ったね。あたしの獲物ー。


「よし。飯行くぞー」

「「「はーい」」」


「戻るなら上にいっぱいあるから矢の回収はいいよねー」

「「そうだな」」


 途中3回の駆除があったが住民の邪魔は無かった。


 午後は別の道から中心部を目指す。武器を持ったものが何組かいたが、戦力になりそうな様子ではない。


「そこの5人。後ろから6匹来るよ」

「何だ、このガキンチョが。何が来るって?」


 あたし達が一斉に前へ出て、そいつらをどかして弓と槍を構える。


「何しやがる?」


 何かしようと手を上げるが無視して矢を放つ。彼らが(あわ)てて矢の行き先を見れば大ムカデが転がっている。


「後ろから虫に食われるぞ」

「もう3匹来るねー」


 若い男たちは逃げ出した。


「ガルツー。なんか予定と違うねー」

「そうだねー。あの広場で大量駆除、一件落着ーって予定だったと思うんだけど」

「まったくだ。2500も殺したってのに街に出ればまだそこら中に居るし。何勘違いしてるんだか、うるさいのも出て来るし。

 そうは言っても乗りかかった船って奴だからな」


「左8、右3。右が先ー」

 ミットが右を向いて弓を構えたので、あたしたちは左を向く。


「お前たちそこを退け!」


 ガルツさんが走って行く。パックとあたしもあとを追う。まだ虫が居るのになんで出て来るかなー。


 わ、バカがガルツさんに背を向けて逃げようと、大ムカデに向かって一歩踏み出した。パックが散開して右にいたので、バカの目の前の大ムカデに槍が突き刺さる。間に合ったねー。そこからはもういつも通り。


「もう、頼むからお前ら出てくるな!死にたいのか!?」


 ガルツさん、切れたー。

 5人組がへたり込んだまま、パクパクしながら首を振っている。


「パック、よっく間に合わせたねー」

「いや、ぜったい間に合わないと思った」

「むふー、言うねー」

「えっ、なんの事?」

「いーから、いーからー」



 散発的に大ムカデを駆除しながら中心部へやって来た。大きな建物は隠れるところもいっぱいあるから、普通にやってちゃ終わらない。

「集めていーい?」


「何?ミット、どれくらい来そうだ?」

「最低50ー?」

「うぇっ。ちょっと待て、場所くらい選ばせろ」

「ダメって言わないとこがすごいねー、ガルツってー」


「いや、まあ。ちょっとやってみたいと言うか………」

「場所を選ぶ……んーー?あっ!」


 そう叫んだアリスが周りをぐるっと見回す。

「ガルツさん。あの像のとこ見にいこう!」

「お?おう。あ、こら走るんじゃない!」


「あー、ごめんなさい」

「気配はすっごいねー。出て来たら大変だよー」

「あ、じゃあ誘う音、切っておくよ」


 像のところに着いた。後ろはおっきな水溜りで水面は3メル下、石で区切られている。この辺りは像を囲む様に、一面石畳みの広場になっていて結構広い。

 街並みまで50メルは離れている。


「ガルツさんあの像のてっぺんにこれを置きたいんだけど?」


「ああ、ちょっと待て、こう言う大きな像は大抵中に階段が作ってある。台座か裏側に入り口があるはずだ。

 あー、これだな」


 そう言ってガコンと像の裏を開いた。

 球形の道具を見て紐をつけろと言う。アリスが紐をつけて渡すとパックと登って行った。


「アリスー、どうするのー」

「ここにぐるっと2列穴を作るよ」

「へっ?ここで上のあれ、やるのー?」

「でねー、像の上で呼んでいっぱい来たら上を止めて穴に呼ぶの。居なくなったらまた上で呼ぶの。あつまれビンビン穴だよビンビン作戦」


「あ、ガルツー。大変だよー。

 今上にかけて来たやつで思いっきり大ムカデを呼ぶってー。矢とか槍が全然足りないよー」


「上で呼んだ時は地面だったから、街中の虫が呼べなかったんだと思うの。黒壁の影だったり、建物の影だったところの虫が残っちゃった。この像の上で呼べば影はほとんどないでしょ?」


「どのくらい残ってるかな。前回の半分。1200でどうだろう」

「穴ひとつが50くらいだから24個かなー」

「あー。そうなるな。一回上に戻って馬車に武器を積んで来よう」


 途中で遭遇する大ムカデを駆除しながら乗り場へ戻り武器を回収していると、パックがピピンに馬車を引かせて奥から出て来た。


「ピピンって強いねー」

「どうしたの?」

「僕も途中で1匹やっつけたけど、まわりに6匹も虫が死んでたよー。(ひずめ)の跡がくっきりだった」


「わー、ピピン、おてがら」

「こっちの穴でも誘う音鳴らした方が良さそうだね」


「アリス。だいたい積んだぞ」

「蓋をして、一箇所柵を外すね」


 馬車を出したら蓋だけ開けて馬車へ乗り込む。あたしはパックの手伝いつきで中で武器の修理だ。ミットは屋根に陣取った。ガルツさんが馬車を下まで持って行く。




「着いたぞー。まず飯だろう。始まったらろくに休めないからな」

「「「はーい」」」


 早めの夕飯を用意する間に落とし穴を20、外側から用意して行く。区割りはマノさんがして赤い線で見せてくれるから、その通りやればいい。


 半分が終わったころ

「食べられるよー」とミットの声が掛かる。


「ねー、ガルツー、灯りが要るんじゃないー?」

「そういえばそうか。始める前に遠いけど周りの建物の角に一つずつ吊るすか。この像にも上にぐるっと吊るしておこう」


   ・   ・   ・


 準備はできた。でも、もう一つ大事な仕事がある。街の人に像の上から警告を流すのだ。


「これから石像の前へ虫を、大ムカデを呼ぶので外へは出るな。繰り返すぞ。すぐに家へ入って戸を閉めるんだ。すぐに隠れろ!」

 ガルツさんの声が街中に響いたはずだ。


「始めるよー」

 人には聞こえない音だと言うのにゾワっと総毛立つ感じは前以上だ。頭の上で鳴らしているからかな。


 街中の大ムカデが動き出すのが分かる。上の穴も同時に音を出しているので、呼び漏らしは少ないと思うけどその分集まる数は多くなるだろう。


 街路を真っ黒にして、先頭の集団が現れた。


 像の上の誘引音を穴へ切り替えると1列目の穴に大ムカデたちが雪崩(なだ)れを打って飛び込んで行く。飛び越えたりして向かって来るのは確実に殺して行く。

 大ムカデの流れが薄くなって来たので、外周の穴に仕掛けておいた収穫マノさんを発動した。前回は外からどんどん埋められて、退却が続いて追い詰められてしまったから早めに嵩を減らしていくのだ。


 また像の誘引音を最大に戻す。このゾワゾワ感はまだ結構いる感じだね。みるみる通りが黒に変わるので、もう少し待って像の音を切ると、同じ様に穴へ雪崩れ落ちて行った。

 3回繰り返すと大ムカデの数も薄くなって、石畳みが透けて見えるまでになった。それでもこの数に像を目指してこられると、対応できないので音の切り替えは続ける。


 はるか向こうの山(すそ)から、大ムカデがここまで走って来るんだと思うと、こんな短時間で終わるはずがない。山に入り込んでいるのも居るかも知れない。

 そう思って日が沈んでからも1ハワー、2ハワーと頑張っていたが、5匹10匹単位でダラダラとやって来るので気を抜けない、というか付き合いきれなくなって来た。

 あたしは像の脇に落とし穴を二つ新たに作ると、ピピンを引いて2列目の近くへ行き、馬車ごと3メル下げて1メルの壁で囲った。上に蓋もしたのですっかり見えなくなった。

 上に2箇所10セロの穴を空け、像の方の壁に入り口と階段を作る。


「ガルツー、ミットー、パックー。

 もうほっとこう。ここで休むよー。入ってー」


 一人づつ虫を警戒しながらこちらへ来ると、中に入って来た。最後にガルツさん入ったので10セロの穴を残して壁を閉じた。


「それでどうするんだ?」

「疲れたから寝るよー。

 朝になったらきっと像が真っ黒になってるでしょ。周りの穴は一回全部掃除するから大丈夫だよ。

 穴からうるさい音が聞こえるけどゆっくり休もー」


   ・   ・   ・


 むーー。誰だ、朝からゴソゴソうるさい。

 あ、虫か。そうだった。白い像に虫を根こそぎ集めたんだった。穴の状態はどーお?

 ………半分くらいだねー。じゃあ穴を最大にして像の方を………あれっ?像の音を出すやつがないよ?虫に食われたかなー。まあいーや。

 あっちを鳴らせば粗方穴で死ぬでしょ。


「ねー。朝ご飯にしよー」

「う、ああ、朝か。暗いから起きられんかったな」

「えー、朝なのー」「おはようございます」


 あたしはピピンの水と飼葉(かいば)を出してピピンの前に置くと、薪木をひと抱え天井の穴の下へ置いて、火を点ける準備をする。

 ガルツさんが肉と鍋を出して来たので水を入れてお湯を沸かす。トカゲを刻んで投入。山菜は品切れだから干し鹿もテキトーに切って投入。あったかければなんとかなるよ。


 そーいえば街のそばにおっきな畑があったね。何が取れるんだろう?てゆーかあの大ムカデ、何を食べてあんなに増えたの?この辺に食べるものは残ってるの?


 分からないことがいっぱいだけど、ご飯を食べて仕上げをしなきゃね。


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