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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第3章 ハイエデン
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2 戦闘開始・・・アリス

 これまで:ハゲ山から乗った(チューブ)を降りてすぐに襲って来た大ムカデは700。通路の先には大きな街が広がっていたが、街の支配権は無数の(大ムカデ)が押さえてれいるらしい。

 街を蹂躙(じゅうりん)する大ムカデの大群。マノさんの記録では7日から2日前の間に街を襲ったようだ。少ないなら別に構わない。多かったら街の人たちはみんな死ぬ。あたし達は最悪の場合、逃げることができるけど。


 あたしはマノさんと相談して2000匹くらいは落とし穴で殺せると見ている。あの穴は音で呼び込んで窒息させる凶悪なものだ。深さは10メル。効果があるのはおそらく3メルより下。そこまで死骸が積もるともう単なる障害物だ。


 お昼も食べたし休憩もした。呼び鈴を鳴らす時間だ。

「始めるよ。穴に落ちなかったのだけお願い。ここにも穴作るから落ちないでね」


 待つ間にも、洞穴の周りに落とし穴を4つ作る。いよいよとなったらあと4つ下げて入り口を囲うつもりだ。


「ガルツさん、槍は洞穴で使ってね。外は弓でお願い」

「おう」


 空気がゾワゾワっと震えた。何かが、いや、大ムカデの大群が坂を駆け上がって来る。すごい数だ。一列目の落とし穴が見る間に埋まってしまった。

 黒壁を超えて来るものは、そのまま穴へ落ちる。

 両方の柵側は穴の間を抜けて来るのが結構いる。あたしも右側で針を連射する。ガルツさんとミットの矢は左で穴を越えた大ムカデを確実に仕留めている。パックの槍はどうしても投げる間隔が開く。


 最初の勢いはないが、2列目がかなり埋まって来ている。斜面への回り込みも始まった。

 出入り口前を囲む落とし穴を発動した。

 上から落ちて来る大ムカデを止めるのが間に合わない。


「中へ入るよ」

 あたしは声を掛けて正面に二つ発動した。もう出口はない。

 完全に後退戦だ。中へ入ったのでみんなに15メル退がってもらい、用意してあった穴を3列発動する。超えた虫、天井の虫を落としてもらう。ガルツさんの槍は、途中に何匹居ようと関係なく黒壁まで飛んでいく。パックも3匹くらいは抜くようだ。ミットとあたしの連射もまだいける。


「15メル退がるよー」

 また3列分発動した。あと2回退がることができる。

 ガルツさんは1投で10匹以上(ほふ)っている。狭く長い場所では凄まじい威力だ。その槍もあと20本ほど。あたしも弓に切り替えた。


 ふと思いついて外の穴の誘引音を大きくした。大ムカデが一斉に振り向き外へ移動を始める。うろつく大ムカデを殺しながら付いていくと、入り口近くの穴から収穫モードのマノさんを撒きながら戻る。

 戻り切ったところで振り向くと、大ムカデの(かさ)が減って穴が深くなっていくのがわかる。


 外の音を切った。

 もう一回戦が始まった。と言っても穴が深くてほとんどそこで窒息するので、ガルツさんの槍だけがゴォっと音を立てて飛んで行く。

 あたし達は天井のと最後まで来た虫だけ潰す。


 まず槍が尽きた。ガルツさんはまだ矢がいくらかある。パックにはピピンの世話を頼んだ。


 ガルツさんの矢が終わり長剣を引き出した。ミットの弓は威力が落ちている。

 まだ穴に余裕があるが15メル退げたので少し休める。あと1回退がれるが、天井の虫だけは落とさなくてはならない。あたしが交代して射ち落とす。

 大ムカデはかなり減って来たがこちらの体力も残り少ない。


「どれ、交代だ。弓を貸せ。小さくても弓は弓、軽く射てるから負担にはならないぞ」


 ガルツさんがそう言って笑った。

 ミットが剣を抜き前へ出た。

 最後の3列を発動した。これ以上は退がれない。

 30メニ経つと大ムカデがほとんどいなくなった。


 水を飲み干し肉を(かじ)って、少しでも体力の回復を図る。散発的に現れる虫を交代で潰す。

 休んだような気がしないけれど、いつまでもこのままというわけにもいかない。


 あたしは気合を入れて立ち上がると、みんなで動く虫を殺しながら、収穫モードのマノさんを穴に撒いて蓋をして進んで行く。出口まで行くと目を慣らすために止まる。

 まだ何匹か襲って来るが大丈夫、数が少ないので脅威ではない。斜面に気を配りつつ広場へ進出する。


 襲って来る虫があれば殺し穴へ落とす。収穫マノさんを散布して次へ進む。広場の外周は蓋をせずに置く。

 そうやって全ての穴を確認して洞穴へ戻るまで2ハワーかかった。

 これで別働の集団が来ても相当数が穴へ落ちる。

 出口を完全に塞ぐ壁を作って煙突穴を開けたら誘引音はそのままにして、今日はもう閉店にした。


 火を起こしスープに焼き肉。タライのお湯で体を()き、泥のように眠った。


   ・   ・   ・


 これは夢だと分かる黒い靄の中、アリスは一人でベッドの中。掛け布を被ったまま聞いていたあの声。


「………でしょ。きこりのあなたが……」「……の端くれさ。あんな連中一歩だって……」「……気をつけてね」


 お母さん?お父さん?



 一転してあたしは繕い物をチクチクと縫っている。何か音がした気がして顔を上げるとドアが開いて、お母さんが顔を覗かせた。


「アリス。すぐに行くよ!」


 お母さんの声に一体、何事?と周りを見ているとナタリーがあたしを抱えて走り出した。後ろからおじさんを支えたハルトとおばさんも走ってくる。

 お母さんが診療所のドアから飛び込んだ。中へ入るとナタリーが下ろしてくれた。

 見るとお母さんが座り込んでいるその先に、横になっている人が居る。見覚えのあるズボン。あの靴……!

 恐る恐る近づいて行く後ろで、バタバタと騒ぎがあった。おじさんたちが着いたのかなと、ぼんやり思った。

 でも、あのズボン、さっきから動いてないように見える。

 お母さんの横までいくとおっきな男の人が顔に布をかけて寝ていた。

 お父さんだよね、この服。なんで顔隠してるの?お腹動かないのはどうしてなの?


「お父さん?」

 お母さんの声が横で言った。

「アリス……ごめんね、アリス……間に合わなかった……」



 場面は又変わった。ナタリーの家に押し入った見知らぬ男がハルトの胸に剣を突き立て、返り血を浴びてあたり一面が真っ赤に染まった。

 燃え盛る村の家々から逃れ、あたしはナタリーに手を引かれミットの手を引いて必死で走っている。足は泥濘(でいねい)の中で藻搔いているようでなかなか先へ進めない。背後からは野太い男達の叫び声が追いかけてくる。

 突然、目の前に恐ろしい形相の大男が立ち塞がり、あたしの掌がそちらへ向くと真っ白に光った。


   ・   ・   ・


 あたしはガバッと上体を起こした。心臓がバクバクと踊って、汗が額から、胸と背中に3筋流れていくのが分かる。


 あたしは呆然と周囲を見回した。

 そこはひどく暗いはずの洞窟の中、薄い緑色の視界に赤く燃えるような人影が3つ。大きいのはガルツさんだね。あとミットとパックだ。離れたところにピピンが赤い輪郭になって見えている。


 あれは、あの夢はあたしの両親の死に様だった。

 こんな夢を見るなんて今日の戦闘が厳しかったせいだろうか。

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