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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第13章トリライン‬
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4 洪水・・・アリス

 これまで:ナーバスの治水工事は順調に進んでいる。対岸の旧河川の底下げまだかかりそう。支店の方も大きいところは出来上がったと言っていい。そんな中、ナックが立ったとお祝いをした。その2日後。

 壁はもう少しだと言うのに今朝から雲行きがおかしい。雲の塊が凄い速さで上空を通り抜けて行く。風上には大きな黒雲が見えている。その雲の中にチカチカと光が見える。カミナリだ。


 なんとか壁を繋いでしまいたい。


 テト班のトラクを2台、ミットが引き上げて来た。他の6台は高い場所を目指して移動中。

 あたしはテト班の2台に大きな箱を載せる。そこにミットがゴボッと斜面の土を持ち上げ、トラクがその下に滑り込んだ。土がズシっと荷台に収まり、もう1台にも積み込まれる。

 壁を造成する現場までトラクが走って、できるだけ近くまで寄せる。流石に崖の縁までは危なくて寄れないけど、そこでミットが荷台の土を持ち上げ、ふわふわと壁の延長上へ持って行く。その土を受けたジー班の壁の造成速度がグンと上がる。


 全部の材料を下から持ち上げるよりも、上から材料を供給(きょうきゅう)した方がずっと早いのだ。

 そうやって何度もミットが土を運んでいるとついに雨が降り始めた。


 黒雲が空を(おお)い昼だというのに薄暗い中、雷鳴が(とどろ)き風が舞って雨が打ちつける。(あきら)めずに土の供給を続けるミット。あたしとシロルも上流側の補強に壁を立ち上げている。

 ここから水が流れ込んだら狭い隙間から土を吸い出されて、大変なことになってしまうのだ。


 雷は収まったが川水の色がどんどん茶色くなり水嵩が上がってくる。風はいよいよ強くなり激しい雨が降る。それでもミットは土を運んだ。水は2メルを超えた。あと1箇所がまだ(ふさ)がらない。


 そこへジーナが現れ、対岸のずぶ濡れの土を大量に持ち上げた。上げるだけなら30トンでも楽勝と言っていたジーナだけど、一人では1セロも動かすことはできない。

 ミットがその土を見えない力で押す、押す。最後の壁の隙間へゆっくりと巨大な土の塊が滝のような雨垂れと一緒に吸い込まれて行った。壁は水面まで立ち上がった。あと2メル半。


 ジーナがもう一つ土を持ち上げる。ミットがまた押す。

 濁流(だくりゅう)ができかけの壁をバシャバシャと洗い、上から流れ込む。


 固唾を飲んであたしが見守る中、土は壁の上までにじり寄って行き、あっという間に高さ5メル、町の地盤と同じ高さの壁がつながった。


 上流を見ると古い川の方へも水が溢れて行く。見る見る茶色く渦巻く水面が広がって行き、対岸が細長い島のようになって行く。

 真っ黒な低い雲の下、ゴウゴウと恐ろしい音を立て濁流が流れ下る。時折巨木が島になった対岸を削り、できたばかりの壁を叩きながら転がるように流れて行くのが薄暗がりに辛うじて見える。


 雨が降り続く中、ジリジリと水位は上がり続けている。水は4メルに達し、夕暮れまで流れ続けた。いよいよ暗くなっても水嵩(みずかさ)は減らず、一晩中ゴウゴウと鳴る水音、突然にキュウゥと鳴く風、外壁を叩きつける枝葉に、生きた心地のしない闇夜を過ごした。



 明け方になって雨風が弱まり、昼になって水位が下がり始めた。心持ち空も明るくなったような気がする。5メルの壁にはあと40セロというところまで、くっきりと水の跡が付いていた。

 壁と崖の間に水が廻り、3軒の空き家が隙間に落ちてしまった。水は徐々に退いて行った。


 陰鬱(いんさん)とした長い夜を過ごし、次の夜明けには木が薙ぎ倒され草が抉られ、裾がすっかり泥の茶色に染まった中島が、静かになった川の向こうにポッカリと残るばかりだった。


 澄み切った風の匂いと青空が戻った。ともあれ、水害はなんとかやり過ごすことができたようだ。


 水はほとんど退いたのでテト班が川底の盤下げを再開した。ジー班は中島になっていた対岸を斜面の土で埋め立て、町の土地にするため向こうの縁に7メルの壁を立て始める。町の上下流は低いまま残して水の逃げ場にしておく計画だ。


 川底の土をミットが6台のトラクに積み込む。運んだ土は壁を建てている場所へひっくり返すと、その土を使って壁が高く伸び上がって行く。

 川底の土が減ったためテト班の川底作りが速くなった。テト班のうち2台が運搬に回り、川の造成は3倍にまで加速した。当面必要な壁は10日ほどで出来上がった。

 やや半分まで来た川底の土は壁際に盛り上げて行く。流れている川はまだ埋めるわけにはいかない。


「古い川だからそうでもないかと思ってたけどー、案外土って出てくるんだねー。もうダメだって言いながら5日、頑張って盛りつけたけど限界だよー」


「川幅が広いですから。それでも半分ですからね、あと8ケラル分はどうしましょうか?」

 テトが眉をがっくりと下げて首を(ひね)った。


「新しい川の向こう岸に壁を建てて盛って行こうか?深くて広い川に広い土地。いいとも思わない?」


 あたしがそう言うとミットが

「あー、なるほどー。向こうだって橋が架かれば町の土地だもんねー」


 川の断面を狭くするとあんな大水がまた来たら大変だしね。とにかく何をするにも川底を下げてからだ。

 土が対岸にふんだんに上がって来るなら先に橋を架けてしまおうか。そうすると壁はこの辺まであったほうがいいかな?川の真ん中にも橋を支える壁を建てておこう。


 ナックがつかまり立ちで歩くようになり、目を離すとどこへでも()って移動するようになった頃には、こうして町は対岸から形になって行った。

 川底の掘り下げは一月ほどで終わり、上下流の橋は対岸の半分が架かっている。


 そしてついに河の切り替えを迎えた。薄く残った(せき)をミットが持ち上げると水が大変な勢いで流れ降って行った。堰に巻いたロープをテト班が引いて回収する。これで川の切り替えは終わりだ。


 その夜は町をあげて治水祭を行った。


   ・   ・   ・


 ジー班が上流の締切壁を建てて行く。テト班は新たに作った掘削ロボトが積んだ土を壁に供給する。500メルの壁は僅か1日で繋がった。

 ここからは上流から残った水を下流に押し出すように埋め立てて行くのだ。4台のジー班を重く改造して、運ばれた土を均し、踏み付けて固める。


 ハイエデンから支店に大量の納品が届いた。まだ道が悪いので、フセーチトラクに積み替えたら3台分もあった。近隣の村から大勢温泉にお客さんが来ていて、ろくに売るものがなかったので助かったよ。クロミケ工場だけでは売り切れ続出で回らないんだもの。


 土砂運搬の走路を作りながら斜面の土を切り出して行く。先行してミットが引き抜きに行った木に蜂の巣が見つかった。

 前回採った蜜は美味しかったからね。煙であれだけ蜂が大人しくなるなら巣を潰さずに蜜が取れるんじゃないかな。

 刺されるのは嫌だからテト班の1体にやってもらった。上手くこそげてくれて卵や幼虫は傷めずに済んだ。

 巣は木にぶら下がったまま新しい場所に植えてもらった。


 それからは3日に一つのペースで10個以上も見つけちゃった。大量の蜂蜜は小分けしてここの支店の売店に並べた。

 シロルは蜂蜜たっぷりのパイを焼いたり、ゼリーを作ってはナックのご機嫌(きげん)を取っていた。


 土を掘り進めてトンネルの出口をついに掘り出すまでになった。地層の具合から見て大規模な土砂崩れで出口が埋まってしまったようだった。町へ続く地盤も下げたので、トンネルを出たら左へ降る道を新たに作った。


   ・   ・   ・


 この頃は近くの町や村に移住した人たちが戻り始めている。埋めたばかりの土地は3年くらいは寝かせておいて欲しいので、乗り場出口周りの土地を整地して道路を縦横に整備して行く。


 埋め立てが始まって1月、ナックがカタコトでお話しを始めた。何を言っているのかよくわからないけど、そんなことを言おうものならものすごく機嫌が悪くなる。

 みんな一生懸命耳を傾けて聞いてあげている。


 あたしは外で何かしら拾って持ち帰るお土産作戦で、今のところは点数を稼げている。狭いトラクの中がガラクタだらけになって、ミットに怒られるのでそろそろ別の作戦を考えないとね。


 明日は下流側の橋をかけてしまう予定だ。

 でもまだ馬車やトラクは渡ることはできない。そもそも道が繋がってないし、盛り付けただけの土の上を車輪が通るのは難しい。土運びのフセーチが通るので道の整備もまだ先の予定だし。

 それでも高めに盛り付けた地盤は広くていい街になりそうな予感で(あふ)れているよ。

 川向こうも壁で囲って整地したからトンネル周辺と合わせると広大な土地がある。食料を近隣に頼っていたようだけど、これからは畑もできるようになるからどこまで発展するか楽しみだ。


   ・   ・   ・


 ここナーバスに来て3月が過ぎようとしていた。山沿いの街道整備をシルバ隊ジー班が続いてやってもらうことにした。テト班はトリスタンに戻って地下道の拡充(かくじゅう)をするそうだ。


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