表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第12章 トリスタン‬
117/157

9 シルバ隊・・・シロル

 これまで:乗り場の地下通路は山脈の下へと続いており、その先には誰も住んでいない巨大な地下都市があった。荷物管理用ロボトを改造し32体で地下都市と、トリスタン地下道の探索を数日かけて行なった。結果は市政に関わるとしてクレスハント市長に相談に行く。

 アリスさまと2人で庁舎へ向かうため道路へ出ると、売店で子供達が店を開け林のテーブルを()いて回る姿が見えます。


 通りは出勤の人々が歩き、乗合馬車も多く中心部を目指して集まって来ていて、特に街道では混雑が始まっています。

 庁舎でクレスハント市長に面会をお願いすると、受付の方が都合を聞きに行ってくれました。30メニほどなら話ができるというので執務室へ行きました。


 アリスさまが挨拶(あいさつ)をされます。


「おはようございます。忙しいところを割り込んでしまって申し訳ありません。今日はこのトリスタンの乗り場と、街の地下通路について相談したくて来ました」

「はて、乗り場というのは何のことですかな?」


「チューブ列車はご存知ですか?このトリスタンからはチューブ列車で遠くの街へ行ける乗り場があるんです」

「ははあ、お伽話(とぎばなし)ですな?で、地下通路というのは?」

「信じないんですね。この街にとっては重要なことですよ?」

「何か確証がお有りか?」

「うーん、ミットを呼ぶのが一番早いか。ミットー、ごめん。庁舎(ちょうしゃ)に跳んで来てー」

『うわ、急だねー。まー、いーけどー』


 いくらもしないで受付が騒がしくなりました。


「市長ー。あたいを通しなー。アリスー、この人何とかしてよー」

「わ、ほんとに早いね」


 あたくしが扉を開け手招きすると受付の方が引き止めていた手を離します。ミットさまは悠然(ゆうぜん)と部屋へ入ってきました。


「やっぱりこーゆーとこは苦手だよー」

「悪いね、ミット。4人で乗り場までいいかな」

「いいけど腰抜かしても知らないよー?」


 市長に説明をしようとしたときには、乗り場の暗がりで、ミットさまの灯りに照らされた低い間仕切りの前にいました。


「うわっ。何だ、いったい、どうなってる?」

「ここがチューブ列車の乗り場でー、右に二つ行くとヤルクツール、4つ目がレクサール、5つ目がハイエデンだよー。列車を呼んでみるかいー?」

「ミット、ちょっと待って。あんまり突然で市長さんは何が何だかわかってないよ?」


「えーっ?だいたい話したんじゃないのー?」

「これからだったの。ミットが来るのが早いんだもの」

「ふーん?まあ、見るのが一番だよねー。呼んじゃうよー」


 7メニ程でチューブ列車は来るようです。その間に路線図の説明と、わかっている乗り場についてアリスさまが市長に説明しています。ミットさまの言われる通り、証拠を見ながらの説明には納得せざるを得ません。


 コォォーーー

 チューブ列車が近づいて来ます。


 ヴヴゥゥーー

 目の前に車内を明るく照らしたチューブ列車が滑り込んで来て、ついに止まりました。目の前の間仕切り壁と一緒に列車の壁がニュゥゥッと3メル幅で開き、明るい車内が見て取れます。ミットさまが片足を乗せ

「乗るのー?それとも見るだけー?」


「あんまり時間がないから見るだけでお願いね」

「ふうん?レクサールなんか結構面白いんだけどねー」

「またこんど頼むね、ミット」

 アリスさまが市長に向き直り

「チューブ列車は分かりましたね。次は地下通路ですが少し歩きますか?」

「あ?ああ」


 乗り場から灯りを頼りに重い扉を押して出ると右の階段を登ります。右に曲がって通路を進むともう一度右へ、階段を降りて右に同じような重い扉を見ながら左へ。

 しばらく歩くと右手にまた大きな透明版の扉が見えて来ます。その前を通ってさらに進むと透明な扉の向こうは金属の壁。


「うーん、30メニだと出口までいけないかな?埋まってる出口はもう少し先なんだ」

「あたいが跳んでいーい?」

「転移するとわかんなくなっちゃうんじゃないかな?」

「乗りかかった馬だ。どれくらいか知らんが行ってみよう」

「市長さん乗り気だねー」



 しばらく歩いた通路の突き当たりは瓦礫(がれき)と土が塞いでいます。アリスさまがマノボードにトリスタンの地図を出して見せると、場所が分かったようで驚いていました。上には古い家が建っているそうです。


「調べて分かるかも怪しいな。ここの家はトリスタンでも旧家と言われる家だからな」

「今分かってる限りで32箇所あるよ。でもこの先に通路があるかは掘ってみないと分からないね。今家のあるところに大穴を開けるわけにもいかないから、こういうところはトンネルにしてしまうけど、この地下通路からの出入り口を作ってもいいかな?」


「できるだけ詳しい位置を調べて教えてくれないか。そのための費用は街で出す。出入り口を作るにしても、住民に説明をしないと面倒なことになりそうだ」

「むうー。全部の突き当たりに狭くていいからトンネルを作って全線調査するかー。ロボトたちにマシンを使えるようにしないといけないね」

「2、3体でよろしいのでは?この程度は1ハワーも掛かりませんよ?」


 あたくしが提案しますとアリスさまがニッコリされました。いったい何体改造するおつもりだったのでしょうか?

 ともかくも市長さまには調査費を出していただけるということでございます。

 山脈下の町については調査中ですので後日またということでいいでしょう。実を言うとあの広大な無人の町を含むドーム構造がもう一つ見つかっています。


「あともう一つ。この街は街道が狭いよね。収穫の時もそうだったけど、朝の道の混み方は何とかしないと無駄だよ」

「うむ。街道の拡幅については長年の課題でな。しかし、古くからの家が多くて立ち退きもままならぬ」


「地下はどうなの?今日見た地下道をどんどん延長して荷車を地下で走らせるとか」

「まず、そんなことができるのか?先程からずいぶん不思議なものを見せてもらったが、あれもどうなっているのだ?」

「それって、こんな暗がりで喋ることじゃないよー。庁舎に戻るー?」

「ああ、それもそうか」


 ミットさまにかかれば執務室に戻るのも一瞬でございますが、クレスハントさまはそうはいきませんね。驚きのあまり床にへたり込んでしまいそうになりますが、あたくしが腕を取り市長の尊厳(そんげん)をお(まも)りしました。

 少しボーッとしたご様子でしたけれど、一つ大きく首を振ると戸口に向かって大声で告げました。


「しばらく面会は中止だ。緊急事態に対応する!」


 扉の向こうでは慌てたようにバタバタと足音がしていますが、クレスハントさまは構わずに棚から大きな地図を引き出しテーブルに広げます。


「今分かっている地下道をここに描けるか?」


 アリスさまがあたくしに(うなず)きかけますので、クレスハントさまからペンを受け取りました。

 見るとこの地図はずいぶん(ゆが)んでいますね、縮尺が合いません。何とかそれらしい位置を解読しながらペンを走らせます。


「線が地下道、丸印が瓦礫で埋まっている場所です。この先の北へ1ケラル半に貨物用の乗り場がございます。この辺りで接続すれば貨物の輸送には都合が良いでしょう。南と東からの輸送路は別に考える必要がありますね」


「さっすが、シロルだよー。でもまあ、地下道の調査が終わらないことには迂闊(うかつ)なことはできないよー。それにさー、地下ってことは大雨なんかの時に水が入ったら大変だよー。何か考えておかないとねー」

「そうか。そういうこともあるのだな。だが立ち退きせずに輸送路が作れるなら、どれだけ助かるか」


「いや、全くなしにはならないよ?街道との接続に斜路を作ったり、地上に運び込んだ荷物を持ち上げたり?それを上手にやるにはそれなりに広いとこじゃないとね」

「ふむ。すぐは出せないが、ここまでの調査費用として10万シルでどうだろう。引き続き地下道の探索を全域で頼む。その分の費用はまた相談させていただく。貨物用の地下通路の件はこちらでも検討しよう」

「そちらが迷惑でなければ勝手にやるつもりだったから、いくらでもいいよ」

「うむ。ではまた何かわかったら知らせてくれ」


 庁舎を出るとぞろぞろと人の波が、それぞれの建物に吸い込まれていくところでした。

 通勤時間も一段落といったところでしょうか。


 すっかり(まば)らになった人通りを見ながら、ミットさまに手を引かれるまま路地へ入ります。次の瞬間トラクの中にいました。

 センサーの調整に手間取るので、跳ぶなら先に教えてくださいとあれほど言ってございますのに。


 トラクに着くとミットさまは売店の手伝いに戻ってしまいました。


 呼んでおいた4体に、早速アリスさまがナノマシンを扱えるよう改造を施します。あたくしとシルバもお手伝いして、地下の瓦礫(がれき)処理に送り出しました。


   ・   ・   ・


 この頃ミットさまはあまりトラクに居られません。夕食も外で摂られるようで、すっかり暗くなってから戻られる日が多くなっています。

 幸い荷役ロボトたちの調査も順調で、街の地下道はだいたいのマッピングが完了し、今日から全数で山脈地下の探索に向かっています。


 アリスさまとあたくし、シルバは地下道に貨物車を走らせる計画に取り掛かってもう3日、市中を流れる川の部分をどうするか、市街全域にまで広げる必要があるか、地上との貨物の受け渡しをどうするかと言ったところをいちいち検討していきました。


 ミットさまが言われた洪水対策も必須です。最低でも人が避難する時間は稼ぎたいですから。

 そして地中に巨大な空洞を作る場合、圧縮して厚い内壁にすると言っても限度がありますので、土砂ブロックの運び出しが必要になります。


 地下通路であれば貨物車両専用ですので幅6メル、高さ3メル半の対面通行。壁1枚について高効率に圧縮できる最大値は2メルの土や石を70セロの内壁に変換、と言うところです。

 構造や形状にもよりますがこの圧縮率ですと厚さが31セロ以上あれば滅多なことにはなりませんので、余剰土砂の搬出なしで構築を進められます。


 一方出入り口から流入する洪水を想定すると、流入口付近に巨大な水槽を作っておいての時間稼ぎでしょうか。


 深くすれば狭い面積で大量の水を溜められますが、汲み出しにかかる労力が大変です。水というのは10メル以上の吸い上げは出来ないので中継池を儲けるか、押し上げるかになります。

 ここまで検討したところでミットさまがお帰りになりました。夕飯は外で摂られたようです。


「あ、なーにこれ?トリスタンの地図ー?

 おー、街道の下と東の2本に分けたんだねー。東行きも2本かー。しゅーかく時期の渋滞は酷かったもんねー。

 んー?この丸はなーに?」

「出入り口で洪水を受ける貯水槽です。ただ普段から水を抜いておかなければなりませんので、そこをどうしようかと」


「あー、そうだねー、たくさん溜められた方が時間を稼げるもんねー。やっぱりポンプで汲むしかないでしょ?

 まさか転移陣をこんなとこに使ってもねー」

「あまり深くすると汲み上げが大変ですので、こんな大きな丸になるんです」

「そっかー」

 そう言って、さっさとベッドへ入ると寝てしまいました。


 このトリスタン中心部には2本の川が流れています。いずれも南の大きな川の支流ですが水路幅で20メル、堤防を含めると80メルの大きな川で橋が少ない事も混雑の原因の一つです。

 大貯水槽をいくつも作って余った土砂ブロックで橋を架けることにしましょう。

 いつものように地下から持ち上げたのでは、市街地の被害が大き過ぎますので。圧縮ブロックなら重いだけで出来上がりの体積は変わりません。但し、それだけの運搬能力を求められます。探索に向けている荷役ロボトの次の仕事が決まりました。

 橋は4本架ける計画にしました。


「だいたい(まと)まったね。明日クレスハントさんのとこに持っていって、相談してくるよ」


 アリスさまがそう言ってお休みになりました。

 あたくしとシルバは、山脈下の町について出来上がりつつある地図の検討に移ります。

 ドームは西へ3つ連なっており、20ケラルのトンネルで山脈の向こうの平地に繋がっておりました。3つのドームの推定人口は60万人。


 これほどの規模の都市は聞いたこともありません。と言っても情報源はジーナさま以外にありませんが。衛星の荒い地図でもそれほどの街は見つかっていません。


 この街に人が住むには光を作り出す電力と、それだけの人口を支える食料、その他の大量の資源が必要になります。

 トンネルもトラクが走れる様にするにはあちこちの階段を修正しなくてはなりません。資源の輸送方法があったはずですので、探索は続けた方がいいでしょう。

 貨物駅に山向こうへの転移陣を設置してもらうのも良いかもしれません。


   ・   ・   ・


 アリスさまと一緒に庁舎に来ております。今日もミットさまは売店と屋台の方へ手伝いに行くと言っておられました。

 庁舎では、都市計画の担当者を交えて、こちらでまとめた計画図を一つ一つ検討していきます。2、3些細な変更がございましたが計画自体は了承いただきました。

 ですが、やはり発注金額で()めることになりました。


 トカタ村や、バクスト町で格安とは言え支払いいただいております上に、これだけの規模ですので周辺地域への影響も大きいということで、5億シルという聞いたこともない金額が提示されました。


「向こう10年の分割払い。毎年5千万シルの支払いを行うということでお願い出来ないだろうか」


 そう言われてあたくしは交渉中に勝手ながらガルツさまに通信をお繋ぎいたします。後でガルツさまにそのような高額で受けたと知れたのでは怒られてしまいますから。


 お断りの口上をいろいろと(ひね)り出して交渉いたしましたが、いくら言っても退いてもらえず、アリスさまが渋々契約書にサインをいたしました。

 ガルツさまにも何とかご納得いただきましたが、相当に機嫌を悪くされた様子でした。


「ガルツさんなら大丈夫だよ。エスクリーノさんに慰めて貰えばいっぺんだから」


 そう言ってアリスさまは笑っておられました。ともかくもこれで先へ進められます。


 トラクヘ戻るとまたしても荷役ロボトの改造です。結局32体全数にマノボタンを取り付け、ナノマシンのコントロール機能をつけることになりました。

 右肩に2から順に33までの番号を振り、ナンバーで呼ぶことになりました。1は当然、シルバです。


 シルバ隊の誕生の瞬間でした。





 ミットの用語解説だよー


 単位ねー


 お金 シル


 長さ セロ=センチメートル メル=メートル ケラル=キロメートル

    

 重さ キル=キログラム トン=トン


 時間 メニ=分 ハワー=時間


 温度 セッシド=度


 角度 デグリ =度


 アリスの目 見たものの寸法が分かって赤い線を引いてもらえるー 温度が見えるー 毒が見えるー


 マノボード マノさんが提供する絵やカメラの絵が見られる板


 サーモ ものの温度が見られる表示モード


 チズ   上から見た周りの絵が見えるー。大きさも変えられるってー


 マノボタン 飾りボタンだけどお返事がないらしいー。マノさん材料が採れるってー


 デンキ   浴びると軽いのは人や動物の動きが止まる。強いと気絶したり、死んだりする 滅多(めった)に使わないよー


 灯り    4セロの猫耳付きの白い円盤 厚さは半セロ 真ん中を押すと3段階で光るよ 明るいので連続3日くらい光るらしい


 バッテリ  元気な力(デンキー)を溜めるものー


 トラク 幅2メル30セロ 高さ2メル50セロの箱型の乗り物ー 長さは用途により変わるよー。速度は150ケラル/ハワーまで出せるー。人がいっぱい乗れるのはバスってゆーのよー


 木質(セルロース) 木が原料ー。木には戻らないけどこっちの方が丈夫ー。いろんなものになるよー。


 甘味(グルコース) 木が原料ー。甘い味の調味料ー。加工用の材料にしたりもするよー


 箱紐(デンシブヒン) 乗り場の隠し部屋で採れるー。たいがい四角い箱の片面から紐が何本も生えていて箱がぐるぐる巻になってるー。いろんな原料が採れるよー。


 虫の殻(キチン質) これもいろんなものを作る原料になるよー。


 セーシキドー  アリスがアルミーで作った窓付きの殻が浮いてる場所ー世界がちっちゃく見えてーあたいは元気がもらえるんだー



 次はあたいが使える術ー。


 転移  行ったことがある場所、見える場所に跳べるー。 1トンくらいのものを運べるけどつっかれるよー。


 浮遊術 自分の体を持ち上げるんだけどこれが難しーんだ。ジーナでもまっすぐ上がって止まって降りるだけー。あたいは結構動けるよー。


 重さ無視 上げるだけなら50トンくらいは上がるー。元々は手荷物を軽くしてたんだってー。


 圧縮  石をさらに縮めて小さくするー。いい材料でやると宝石ができたりするんだー。


 遮蔽材(タングステン)変形 硬くて厄介な遮蔽材だけどなんでか相性がいいねー。中からくすぐる感じで変形ができるよー。


 気配が読める これも能力だってー。周りの興味のあるものの場所がなんとなく分かるー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ