表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第12章 トリスタン‬
116/157

8 地下都市・・・シロル

 これまで:3つ目のデパートらしき構造部の地下通路は1つ目、2つ目と繋がっているらしい。その奥には探していた乗り場があった。落盤を起こした貨物駅を修繕し、戻った一行はトリスタン支店の温泉へ向かった。

 温泉から戻りますとアリスさま、ミットさまがおやすみの間に、あたくしとシルバで回路図の改訂作業を続けます。


 朝までになんとか半分。12の機器について目処を付けました。


「おー、順調だねー。じゃああたいは残り32体のシルバを連れてくるよー。4回くらいに分ければそんな負担でもないからねー。行ってきまーす」


 トラクの隅の支柱に収まるよう非常に細身に作られている荷役ロボトは、確かクロミケがあのフロアでトラクを解体した時にそばに山積みに置いていた筈です。

 その最初の1体がたまたま起動に成功し、フレームだけ鉄とタングステンに入れ替えてマノボタンを一つ追加、知力を上げたのがシルバでございます。


 動作回路を先に入れ替えてしまえば、焼き切れてしまう心配はありませんし、代わりの部品も作れるのでメンテナンスも安心です。アリスさまもフレーム差し替えの準備を始めました。アルミ製のフレームでは、荒事はできませんものね。

 回路の方は要領が分かったので順調に小型化できています。それぞれにユニークな部分だけしっかり見ていけば共通部分はそう手間は掛かりません。

 午前中で大体になったので午後は頭からチェックに入ります。シルバも自分に搭載する回路ですので真剣ですね。性能も3割程向上する筈です。

 明日には一気に交換ができるでしょう。



 それとは別にアリスさまとミットさまは西北西へ向かう地下道の探索に出かけられています。護衛にクロミケを連れて行きましたので、あたくしもその視界をモニターしながら作業を続けております。


 アリスさまたちはチューブ列車の乗り場から、灯りを頼りにおしゃべりをしながらどんどん進んでいきます。

 地図上ではトリスタン中心部に迫る山脈の真下です。この3メル幅の通路は緩い登りの斜路となっているようで、この街より5メルほども高くなったところで急に広い空間に出ました。

 通路は前方と左右に分かれ、上を見ると天井は10メルほどでしょうか。道幅は6メルと広くなって高さ2メルほどの白い塀が連なっています。塀の向こうにはいくつか四角い箱のような建物が建っているのが見えています。


 塀はところどころ途切れた場所があり出入り口のようです。クロが灯りを掲げて覗き込むとドアが見えました。

 ミットさまが取手に手をかけ引くとすんなり開きます。右に廊下、正面に居間。普通の住宅ですね。

 クロミケのサイズでは中に入れないので、アリスさまの視点に切り替えます。もちろんアリスさまには[さん]を通じて了承を頂きました。


 居間の奥に台所、右手に寝室、家具や小物が飾られ、シンクには食器。埃が積もっていなければ昨日まで住んでいたと言われてもおかしくありません。廊下の方は洗面所、トイレにお風呂場、階段。

 3階建のようで2階は3部屋。ベッドがありテーブルに椅子、飾り棚にタンス、大きなボードが壁にかかり窓はありません。


 3つ目の部屋のベッドにあの帽子がありました。とても頭部の保護などできそうもない華奢(きゃしゃ)なヘルメットで、緩衝材(かんしょうざい)代りに電極ネットが仕込まれているところまで分かっています。

 アリスさまにお願いして本体の箱を探してもらいますとテーブルの下に埃を被って20セロ程の箱がありました。回収をお願いしておきます。


 クロが建物と壁の間で何か見つけたようです。薄いシートを大きな手でそっと(めく)ると、あの足でペダルを踏む2輪の乗り物が4台。

 これはサビや劣化がひどくとても乗れそうにありませんが、こちらで使っていた物なのでしょう。手押し車も1台ありました。


 3階も3部屋あって同じ作りでした。一部屋はところ狭しと箱が積まれ、物置のようですね。


 3軒ほど見て行きましたが、多少の違いがあるくらいで(いず)れも普通の家屋のようです。

 それにしても広い空間です。山をくり抜いたのでしょうか?


 300メルほど進む間に横切る通路は2本、左手に灯にぼうっと(そび)えて浮かび上がる巨大な白い柱が見えてきました。

 どれほどの広さがあるかわかりませんが、なんの支えもなしにこの巨大空洞が存在できるはずがありません。

 ほぼひと街区(がいく)が柱になっています。2メルの塀から少し離れた内側に屹立(きつりつ)する柱ですが、塀の途中に出入り口があります。街区の丁度真ん中辺りでしょうか。


 覗き込むと柱に縦の大きな溝があり中に螺旋(らせん)階段。その隣に大きな扉が見えます。これはエレベーターかもしれませんが、動力がないので今は動かないでしょう。


 螺旋階段は上へ続いています。しっかりした金属製で、登ってみることになりました。

 クロミケはここで待機です。大き過ぎて入れませんし150キル程の体重では古い階段を踏み抜く恐れがあります。

 柱が10メル、その上の床と言っていいのでしょうか、こちらが5メル、登るとまた広い空間に出ました。同じように壁で囲まれており、階段はまだ上に続いています。


 ミットさまがクロミケを連れて戻りますと壁の向こうへ踏み出します。通路の向かい側も下と同じように壁に出入り口が並び、家屋が建っています。


「こりゃー、調べるったって大変だねー。だーれもいない街を全部見て回るってどーなのー?」

「まだ上もあるみたいだから行ってみようよ」

「いーけど、ここだって調べないといけないよねー。シルバたちをいっぱいつくってチズ作ってもらおーよ」


「シロルー、そっちの進行はどうなってる?」

『はい、アリスさま、8割ほどチェックが終了しています。明日には製作に入れるかと思います』

「だってさ。じゃあ上に行こう」


 またクロミケを置いて階段を登って行きます。次の階は様子が違いました。出たのは広い通路でした。天井は3メル半、向かいの壁の所々に大きなドアが見えます。通路か暗がりの奥まで続いているようです。

 ミットさまがクロミケを迎えに跳び、すぐに現れます。

 向かい側の手近なドアから試してみますと、押すドアだったようですがすぐに開きました。正面にカウンターがあり右手の衝立の向こうに並んだ机が見えています。

 クロミケがドアのところで頭を下げて(くぐ)り中へ入ってきます。


 オフィスのようですが、何をするところでしょうか?

 灯りに浮ぶ20以上の机の上には端末とボードが載っていてフロアはまだ広いようです。右側の壁はぎっしり書類の棚が埋め尽くしています。左手に大きな机が見えますね。3台まで見えましたがその奥は分かりません。


 アリスさまがそちらへ歩いて行きます。大きな机は6つ。奥にドアが見えました。

 開けると立派な執務室です。黒っぽい磨き込まれた木製の机に、背もたれの高い艶のある革張りの柔らかな椅子、床は毛足の長い絨毯張り。

 埃まみれでなければさぞと思いますが、これでは台無しですね。端末は奥に専用の机がありそちらで作業したようです。


 書棚をアリスさまに見てもらいました。翻訳して分かる範囲では、ここはエネルギーの管理をしていた部署のようです。

 電源が何かまでは分かりませんでしたが、毎年必要な電力を(まかな)うため、発電施設への連絡調整に追われていたようです。需要量が多くなるとそのような部署での一元管理も必要なことなのでしょう。


 他にもう1箇所オフィスを見て、さしたる成果もなくさらに上へ階段を登ります。

 そこには椅子がぎっしりと縦横に並んでいました。隣には円柱状のエレベーター室と思われるもの。

 周囲に灯りが届きませんのでクロミケを呼んだあと、反響音で計測した結果ですが100メルほどの半球形のドームでした。東側にドアらしい反響があります。


 椅子の並ぶ間の通路をそちらへ向かって行って見ると大きな扉があります。クロが分厚い扉を押し開けると広い通路が続いています。


 途中いくつかの通路が横に現れますが、とにかくまっすぐ進んでみますとだんだん明るくなってきました。進むに連れて赤みを増す光に誘われるように進みます。

 正面に大きな窓が見えてきました。テラスのように広いスペースで木立が一面に見えています。赤いのは夕日のせいですね。山脈の斜面のぽっかりと突き出た幅50メルの透明板で囲まれたテラス。

 木々が無ければトリスタンの街が見えるのでしょうか?後ろを見ると階段があり上のドアから斜面に出られようです。


 ミットさまが見えている外へ転移します。ドアの前には大量の落枝や枯葉があったようで、脇に撒き散らしていますね。

 アリスさまが階段を登ってドアを開け外に出ました。地図上では全くの山中ではありますが、街は無理でも郊外の麦畑などは見えそうな位置です。


 そうお伝えすると、ミットさまがアリスさまを連れ上空へ舞い上がります。木々の梢まで上がると見えました。トリスタンの街並みです。中央広場に灯りが点々と灯り始める夕暮れの風景ですね。

 お二人はそのまま10メニほども暮れていくトリスタンを眺めておられました。


   ・   ・   ・


 いつものようにアリスさまが散歩に出られたあと、朝食の用意をしておりますとシルバがミットさまに声をかけます。こちらもいつも通りグズグズと引き伸ばしされるミットさまですが、諦めたように体を起こし顔を洗いに向かわれました。お帰りになったアリスさまの笑い声が聞こえます。

 本当に仲がよろしいこと。


 昨日は山脈の中に大きな空洞があって、地上とは別に街があったことが分かっています。

 こちらの街への出口の探索もまだというのに、探索範囲が増えてしまいました。トリスタンの流通路を地下に作ろうとお考えのアリスさまにとっては、仕事が増えてしまったことになります。

 シルバたち細身のロボトは力もあり、荒事にも耐えられる上、手持ちの数が多いのでまとめて投入する予定でしたが、追加で製造が必要かもしれません。アリスさまはどうされるおつもりでしょうか?


 朝食後、早速出来上がった回路図を元にアリスさまがシルバの改造を始めました。

 作業は順調に進みこれでシルバも能力が3割増、ナノマシンのコントロールもできるようになりました。立場としてはミットさま付きの執事だそうです。

 あたくしがシルバの回路を最終チェックする間にアリスさまがナノマシンを増産しています。電子部品が大量に手に入ったので、あたくしの持ち分の増量と、新たにシルバの割り当て分を作成されるようです。ミットさまが足りなくなった電子部品の補充に何度か転移されていました。


 それが一段落しますといよいよ荷役ロボトの改造です。アリスさまとあたくし、シルバで手分けして、回路交換からフレーム補強とタングステンメッキ、最後に廃棄されたマノボタンを使った知力向上の工程を行います。

 故障して廃棄されたボタンですので会話能力こそありませんが、データ通信ができるのであたくしやロボト同士の意思疎通に問題はありません。


 32体の探索ロボトが出来上がりました。翌朝からこれを半分に分け、トリスタンの地下探索と山脈地下探索に回します。増産については様子見になりました。


   ・   ・   ・


 トリスタンの地下道は3日程で探索を完了しました。地下道は街の半分ほどに広がり30以上の出入り口があるようです。

 いずれの出口も地上から瓦礫(がれき)を投げ込まれ、整地までされているので埋まっているその先はわかりません。地上に建物が建っているところもありました。

 この徹底振りは何か意図があってのことだと思われます。ことは都市計画に関わりますので市長に相談に行くことになりました。

 ミットさまは堅苦しいのを嫌がり、売店を手伝うと言って教会へ行ってしまいました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ