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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第2章 チューブ列車
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4 広く世界を・・・アリス

 これまで:汚い馬車を新調しようと進路を西に変えた一行。アリスが見つけた放置された温泉を掃除してみた。

 荒野を馬車で旅をしていて見つけた温泉。

昔誰かが作ったらしいが、今は付近に集落すら無い。3つある湯船の一つを掃除して、やっと3人で湯に浸かると身体中の疲れが溶け出して行く。


「ガルツー、広いお風呂っていーねー」

「ああ、そうだなー」


「ここ、住んじゃいたいねー」

「んー。色々問題があるなー」

「どんなー」


「そーだなー。家は木がそばにあるから職人が居れば建つかー。あとは水と食料だなー。この辺を耕して野菜でもつくってー、このあまり湯、畑で使えるかなー」

「いいみたいだよー。マノさん冷めたら飲めるってー。毒はないから飲んでも大丈夫だよー」


 言った手前、あたしは一口手で(すく)って飲んでみる。


「わっ。まっずー」

「「はははははー」」

 ちっ、笑われた。


「案外濾過(ろか)すれば美味しくなるかなー」

「じゃあー、ここに住んじゃうー?あたいは悪くないと思うー」

「準備は結構要るぞー。作物というか畑作れるかー、ん?まさかマノさん土いじりとか?」

「できるってー、畑起こしだけすればタネを撒くだけでいーみたい」


「なら俺でもできるな。水の濾過は?」

「そこの森の木でー、フィルタ?なんか桶みたいの作ればできるってー」


「家は?まあ木はたくさん切り出さなきゃいかんだろうが」

「木でって言われると大変みたいー。なんかまだ?んー?持ち上げるのが苦手なんだー。

 それでだいたい下に向かって作るのねー。おっきなものを屋根みたいにするのは大変だってー。でもまだってなんだろ?

 でね、土からー、レンガ?てのをいっぱい作ってーあたしたちが上に乗せてあげれば、どんどん固めて家にするってー」


「なんせマノさんだからな。焼かなくてもいきなりレンガになるんだろーなー。んで、品質悪くてごめんとか言いながら、とんでもない家になるんだろーな」

「落ち込んだガルツー、いーねー。いーもの見たよー」


「あー。そろそろ上がったほうがいいな、

 ちょっとふわっとして来た」

「「分かったー」」

「着替えたら晩飯なー」

 そう言いながらパパッと楽そうな部屋着を着て焚き火の準備を始めている。


 こういうとこ、けっこう生真面目って言うか、せっかちって言うか、せわしい人だよね。ガルツさんが動くとあたしも動かなきゃーって、(あお)られてるような?ここで、おう、やっとけよー、なんてできないし。

 あ、ミットが行った。腰に手を当てて凄んでるよー。


「ガルツー、あんたが動くとあたいたちー、ゆっくりできないよー。それー、もう少し後でもいーよねー」

「お?おう」


 ミットー。たくましい子。最初会った時なんか小さい声で下向いて、やっと喋ってたのに。

 とはいえ少しほけっとする時間はあっても良い。行ってみると、鍋の準備までできていて、火を待つばかりのようだ。


「トラ鍋やるぞー」

「「待ってましたー」」

「煮たのと蒸したの両方やってみるか」

「焼き肉はなかなかだったから楽しみー」


   ・   ・   ・


「トラ鍋ー、イマイチだねー。蒸したのよくなかったと思うのよねー。なんか脂がみんな鍋に落ちて鍋はギトギト。蒸しはパサパサー」

「じゃあ、朝はトラスープでー」

「「おー」」


 盛り上がりにかける夕飯の後、ガルツさんが切り出した。


「なあ、ここに定住するかって話だが。

 俺もけっこうあちこち行って、いろんなものを見て来たつもりだ。俺としてはどこだって良いんだが、お前たちはどうなんだ?

 こんな人気(ひとけ)のない田舎に引っ込んで、自給自足みたいな暮らしを本当にしたいのか?

 そりゃあ、住んでた村が無くなっちまって、大勢の人と関わるのが怖いって気持ちも分かるが、俺はお前たちにもっと広く、世界を見てもらいたいと思うんだ。

 まあ、馬車はなんとかしなければならないし、お前たちが作ったもので金も稼がないとって当面の目的があるから旅はまだ続く。その間にゆっくり考えて見てくれ。

 後、だいぶ南へ来たけど国の争いから逃れられたのか、ここに居たんでは分からない」


 ガルツさん色々考えてるんだね。今日はトラ狩から温泉掃除で忙しかった。もう眠たくなって来たよ。


   ・   ・   ・


「アリスー、朝だよー」

 ミットに揺すられてパッと目が開いた。

 なんか寝起きがスッキリ、温泉の効果ー?

「ご飯のよーい、手伝おー?」


「うん、すぐ行くー」

 パパッといつもの服を着てテントを出ると、ガルツさんが肉を薄く切ろうと苦戦していた。

 あー、生肉は柔らかいから上手く切れないよねー。


「ガルツさん。代わろーか?薄い刃の方が切り易いよー」

「そうなのか?じゃあ頼む」


 あたしもあんまり上手じゃないけど、結構薄く()いでいけた。


「ほうー、全然違うな。料理用の刃物も要るかな?」

「鉄はあの錆サビのを使えば、いくらでも作れちゃうよー」


「それなんだがな、あれは元に戻そうかと思ってるんだ」

「えー、何でだよー、ガルツー。馬車のバネ?とかいろいろ鉄があれば作れるんだよー」

「説明しにくいんだが、この温泉は昔誰かが作ったものだよ。その人はどんな苦労をして、これだけのものを残したのか、と思うとな。

 意味はないかもしれないが、これはできるだけこのままにして置きたい」


「ゴミは寄せちゃったけどねー」

「また来ることがあったら、すっかり掃除してやるさ」

「「分かったー」」

「じゃ、朝飯だな」



 馬車で森まで移動する。テントは片側が潰れた形で残して来た。

「トラスープはよかったねー」


「脂のすごい肉は蒸さない方がいいみたいだな。

 木は昨日2本倒したからあと2本か。重なると足場が大変なのが分かったから、一度枝払いして分けてしまうか」


「あの葉っぱって、ピピン、食べるかなー?」

「木の葉は食べないと思うぞ」

「そっかー」

「枝は払ったら、脇に積み上げる。

 幹だけになったら、ピピンに引き出してもらうか」


「枝も木だから(まと)めちゃうよー」


 ガルツさんが重ねた枝の山に、マノさんを振りかけるつもりで手を振ると、山がゆっくりと小さくなっていった。


 太さ10セロ、長さ1メルの木質が2本できたのでそれを撫でてマノさんを回収、次の山へと進む。隙間が多いからか、崩れて脇へ(こぼ)れたぶんをまた載せてやったりで、一山10メニくらい掛かる。


 ピピンは7、8メルもある幹を一本ずつ、森から引き出している。頑張ってねー。


 ミットも重そうにあたしの作った木を運んでいる。無理しないでねー。纏めた木質は見た目以上に重いんだよー。

 ガルツさんも手伝って1回分は運び出した。


「よし、もう2本切り倒すぞ」


 木の切り出しはその日1日かかった。

 夕方、昼間あたしが考えた馬車の絵をガルツさんに見せる。


「馬車の絵を描いてみたのー」

「どれどれ、小さ目の車輪が4つか。これ太いようだけど何か巻くのか?」

「ハッポーの周りにヘビ皮を張って巻こうと思うの。足りないから熊の皮も使うつもり」

「これだとかなり荷台を下げられるな。膝上くらいか。かじ棒の高さがかなり違ってくるな。

 馬に繋ぐ高さは1メルと低くても腰くらいは欲しいぞ。そんなに曲げて弱くならないか?」


「かじ棒って?」

「馬車から前に突き出ている棒のことだ。馬のハーネスを使って、肩辺りで馬車と繋がっているだろ?」

「ふーん。低いと曳きにくそう。……木自体を曲げちゃうから大丈夫だってー」


「そうか……。マノさんだからな、ならいっそかじ棒と荷台の壁を一体にしてしまうか?後ろの車輪を真ん中辺りに寄せて、乗り口は後ろからにするか?」

「あーいいかも」


「ねー、この屋根ってどうするのー?付けっぱなしなんでしょー?」

「そのつもりだけど?」

「強い風が吹いたらー、馬車ごとひっくり返ったりしないー?」

「ああ、そう言うこともあるだろうな。荷台の真ん中に柱を立てて、吊り屋根にするか?」


「それもいーけど、ピピンの隠れ場所がないー」

「あ、そーだねー。どーしよーか?」


「まあ、それはその時考えるさ。いまはどうにもならない。明日、車輪と荷台を作って見よう。今日はまた温泉に浸かって早めに寝るとしよう」

「「はーい」」


   ・   ・   ・


 翌日、早速馬車の製作にかかる。車輪は木質(セルロース)で中心のところだけ厚くした円盤にした。その周りにハッポーを丸く載せて、硬いヘビ皮を加工して巻き付ける。

 マノさんが木質と皮素材でもしっかり融合してくれるのがありがたい。次にかじ棒から荷台の外壁へ連なる部材を作った。下の方に車軸を通す穴を2箇所開けておく。


 壁の高さを1メルにしたので外壁の上まで1メル半、これならピピンも曳きやすいでしょ。ただピピンの幅は荷台ほどないから、かじ棒の方を曲げて合わせるけど。

 車軸を固定し車輪を付ければ、おおよその形は出来上がる。床を後ろへ張り出して取り付けて、御者台を付ける。外枠の足りない分を取り付けた。


 こうして作ってみると、御者台の下に結構な空間がある。座るベンチに厚みを持たせクッション兼、蓋にして荷物を入れるようにしよう。

 3人であーでもない、こーでもないと笑いながら馬車はだんだん形になっていく。


 荷台の幅は今と一緒の幅2メル、長さは3メル半になった。後ろの50セロは今とおんなじにピピンの飼い葉入れ。桶と箱が下に入るようにした。

 前と後ろの真ん中に柱を立てて傾斜を付けた三角を吊ってそれにテントを被せる。

 こうして置けば風が強いときはペシャンコに出来る。中はキッツキツになるけど。


 何やかやと馬車が走れるまで、作り出してから丸3日かかった。古い荷馬車は木質を回収して床の下側に貼った。

 ピピンのハーネスも熊皮の残りを混ぜて、新品同様にしてあげた。



 明日は温泉の上の鉄に開けた穴を戻して旅の再開だ。


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