5 巨大魚・・・シロル
これまで:サイナス村の引越しもやや片付きジーナによるミットの訓練が続いた。ヤルクツールへ飛ばされた場所を調べに行ったが然して成果は上がらなかった。衛星の修理をした後西の内海一周野道を作るべく再びトラクは走り出した。
午後のことでした。ミケが大きな魚を釣って糸を巻いていた時です。突然波の上に立ち上がる柱のような水飛沫。
あたくしがミケの視界を確認すると、2メルの獲物の魚に5メルもある巨大魚が噛み付いたのです。少し離れた海中で銛突きをしているはずのアリスさまとミットさま。あれがそちらへ行かず本当によかった。
そう思ったのも束の間、ミットさまがアリスさまを抱えて水柱の収まった空中に現れます。その直後日の光の中、はっきりと閃光が走ります。
あたくしの居る300メル奥の砂浜まで波の音を圧して届く、ドンッと言う電撃の響きと共に5メルもの巨大魚が空中に持ち上がりました。ミットさまが巨大魚を荷車に乗せるとミケが解体を始めました。
そんなんでいいんですか!?もう少し慌てて下さい!
2メルの魚も噛み跡がついた程度、それに5メルの巨大魚です。鮮度が命のお魚さんですと言うのに、消費先はとても大食いとは言えない女の子二人。正直あたくしは困ってしまいました。
「アリスさま!サイナス村に戻りましょう!食材が可哀想です!」
「あー、シロル。尤もな話だね。ホンソワールに持っていこうか?」
「はい?冷凍だってあんなところまで行く間に鮮度が落ちてしまって……あ、ミットさまですか?」
「せいかーい。これからみんなで行ってこよー」
「よーし、「行こー行こー!」」
どこから出したのか巨大バスケットに氷を敷いて、捌いた魚がどーんと乗りました。上からまた氷を掛けてミットさまがアリスさまとあたくしの手を取ります。前には巨大バスケットが浮いて!
「門番さんごくろーさん!ミットだよー。今日はお魚持って来たよー。急ぐから厨房へ行くねー」
「あれ?ミットどの?えーっ?」
「こんにちはー、ミットだよー。ケック居たかいー?お魚持って来たから料理してー」
すぐにケック料理長が出て来ました。お久しぶりでございます。
「なんですと?魚でございますか?いったいどのような、おおっ?
なんですか、これは?」
「名前は知らないよー。西の海の巨大魚ー。
2メルと5メルー。シロルと美味しく料理してよー」
「よし。すぐに調理台を空けろ。新鮮な魚がこの量だ。無駄にはできん。湯を沸かせ。炉に火を入れろ。メニューを変更するぞ。
して、シロルどの。どのように調理いたしましょう」
「はい。ではまず煮物から……」
この後あたくしはホンソワール調理部隊を率いて、50人分のお魚コースを作ることになってしまいました。
アリスさまとミットさまは配達を終え意気揚々とお部屋へ行ってしまいます。これは美味しいお夕食を食べていただかねば!
2メルの魚は先日も調理したのですどのような仕込みが良いか分かっておりますが、5メルの巨大魚はどうなることかと思っておりましたが、同種のお魚ですね。一緒に詰め込まれていても区別がつきません。
腹回りの脂の乗ったところを生で薄切りして試食してみます。ちょっとギトギトして良く無いですね。この部位は炒めものに。背の身はあっさりとしてるようです。ここはどうでしょう?ああ、いいですね。先日小分けした醤油を出してもらい、料理長に生の切り身の味を見てもらいます。
「生魚ですか?シロルどのが味を見ろとおっしゃる。このケック、心していただきましょう。
む?ショユというものはここまでの味を引き出せるのですか?これは是非旦那さまにも食べていただきたい」
料理長のお墨付きが出たようです。
前菜に蒸し物。スープは皮と骨から出る出汁で解した身を煮込んで濾し、主菜に厚切りの身をステーキに見立て、サラダに生の切り身を添え醤油で頂くコースになりました。
夕食は好評のうちに終わり、執事さん以下にも食べていただくことができました。新鮮な魚の美味しさは、ここのような内陸ではなかなか味わえないものです。沿岸出身の方などは懐かしい魚の味に涙ぐんでおられたほどでした。
フラクタルさまには客間はそのままにしてあるので泊まって行けと仰られ、お言葉に甘えることになりました。お風呂をいただき、部屋へ戻るとシャルロットさま、アンジェラさま、ミシェルさまがぬいぐるみを持って集まります。
「おー。シャルちゃん上手ー。すっごく可愛く縫えたねー」
シャルロットさまはオレンジの丸くなったまま顔を上げる可愛いポーズの猫を抱いて、身悶えしています。本当に嬉しそう。
ミシェルさまは、緑グモを水色で作られていました。お別れ間際に渡した分が綺麗に縫われ可愛らしく仕上がっています。
やはり圧巻はアンジェラさま。木こりミケの凛々しい立ち姿、チェンソーを剣のように構えキリリと立っています。
残念ながらトラクは西の内海に置いて来たので、次のキットはございませんけれど、と思っていたらミットさまが消えました。
「あー。大丈夫。ミットならすぐ戻ってくるよ。心配ないよ」
アリスさまが言い終わるとすぐに両手いっぱい毛並み生地を抱えてミットさまが現れました。
「ほーら。やっぱり生地を取りに行ったんだね?」
「うん。だって、みんなとってもきれいに可愛く縫ってくれててー。あたい、嬉しくって……」
「よーし。ミットがぬいぐるみの生地持って来てくれたから次のを選ぶぞー。シャルちゃん、次はどれにする?」
「わたくしはもう少しイカツイ系でいこうかと。このカイマンちゃんってなんか心惹かれるって言うか?」
いや、皆さんミット様が消えたことをあっさり流してますが良いのでしょうか?
「あー。分かるー。あたいもねー、ぬいぐるみ、どーなのって思ってたけど、意外とかわいーんだよ。実物はちっともだけどねー」
「じゃあ、色と大きさはどうします?」
「ピンクの小さめで。このくらいかな?」
「おー、ピンクカイマン!いいねー」
「はい、では少々お待ちを」
「アンジェラさんはどーするー?」
「私はちょっと故郷の妹達に送ってあげたくて。3つよろしいでしょうか?」
「いいよー、いくつでも。ここで配る分はぜーんぶあたいのおごりだよー」
「ではこちらの歩き出しそうなウサギさんを。水色と茶色と、そうですね、黒がいいかしら?小さめで。20セロくらい?」
「これ、見るより難しいよー。アンジェラさんなら大丈夫だろうけどー」
「シャルロットさま、できました。ピンクカイマン、頑張ってくださいませ。
ウサギ3色、20セロでございますね。少々お待ち下さい」
「シロルさん、忙しそう?」
「あらミシェルさま。あたくしとっても楽しいんですのよ。皆さまが喜んでくださって。あたくしはアリスさまの従僕でございますでしょ?
アリスさまが喜ぶとあたくしも嬉しくなりますの。先程からアリスさまはずっとニコニコされていて。あたくしはとても幸せなのでございます」
「ほら、ミシェルー。あんたも選びなよー。あたいのおすすめ言っちゃうー?」
「えっ?聞きたいです」
「あたいのおすすめはねー。このおすわり猫さんだよー」
「えぇー、難しくないですかー?」
「そう。見えるでしょー?でもね、意外といけるのー。前足がちょっとだけで後はそうでもないよー。出来上がりは見栄えがいいし!」
「私、これやって見ます。虎柄ってありましたっけ?」
「あるよー。茶トラに黒トラ、豹柄、ホルスタインー」
「なんでホルスタインー?「あはははー」」
「15セロの黒トラで」
「ウサギ3色できました。黒トラおすわり猫15セロですね。少々お待ち下さい」
「ねえアリスー、わたくしもおすわり猫さんいいかしら?」
「シャルちゃん、やる気だね。良いよ」
「まあ、嬉しい。じゃあ、あたくしも茶トラの15セロをお願い!」
「はい、茶トラのおすわり猫15セロ。少々お待ちください。黒トラできました」
「アリスー。あたいも頼んでいーかなー?」
「何ミットー?なーにつくろーってのー?」
「えへへー。あたいはシロルのぬいぐるみが欲しいー」
「あ、いいねそれ!あたしも欲しい!抱き枕サイズだね」
「えーっ?あたいはおすわりシロルがいいなー」
「申し訳ありませんがアリスさま、ミットさま。他でやって下さいまし」
きっとあたくしの顔は真っ赤になっています。先程から温度センサーが異常値を撒き散らしてますから!
ホンソワール家の皆さまもそんな目で見ないでくださいますか?