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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第2章 チューブ列車
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3 温泉・・・アリス

 これまで:汚い馬車を新調しようと進路を西に変えた一行。森は探し当てたがアリスがトラと温泉を見つけた。

 お昼も終わって一休みしたら、荷物を積んで温泉探索だ。森の右手へ馬車で移動する。いくらも行かないうちに空気の匂いが変わり、湯気が見えて来る。


 しばらく行くと石で囲まれた水溜りがあった。

 でもこの石なんか変だ。

 頭が平らだし、よく見ると手前が波のように曲がっているのに、水から一定した高さで揃っている。幅も座れるくらいの幅で揃ってる。

 モヤの中で奥を見ると次の石は1段高いようだ。


 ガルツさんに続いて馬車から降りた。


 ガルツさんが手を入れ確かめる。

「いい感じのお湯だ。温泉で間違いないな。アリス、毒は見えるか?」


 あたしは首を振った。ガルツが毒と聞くのは、あたしの目にマノさんが毒を赤い点々を重ねて見せてくれるからだ。野草やキノコの探索で便利なんだ。

 手を入れてみるとあったかいお湯だ。


 石を左に見ながら進んでいくと二つ目のお湯は更に1段高い。石もグルっと同じように高く、四角い形だ。

 奥にもう一段あるねー。二つ目のお湯は下よりもっとあったかい。

 三つ目のお湯は結構熱い。

 ここは四角じゃなくて半円形の石で囲ってある。

 どう見ても自然にできたものではないよね。


「マノさんのお墨付きは出たようだが、この温度を保ってる理由が知りたい。浴槽の中も見えないのでは安心して入れんしな」


「上の方があっついんだからお湯は上からでてるー?」

「そうかもしれん。見てみよう」


 上の浴槽を調べると半円の頂点にお湯の出口があって。お湯はここから延々と出ており温度もかなり高い。火傷しそうなくらいだ。


 さらに奥を見ると四角い石のようなものがあった。

「この四角い石はなんだろう?こんなものは見たことがない」

 高さ2メル半幅3メル奥行きも3メルある。


「ガルツー、裏側が凹んでるー。真っ茶っ茶だよー」

「本当だ、これって鉄?」

「ああ、錆びた鉄だな」


 そう言って拳でゴンゴン叩いた。

「これだけ錆びててもえらく丈夫だな。アリス、頼めるか?」


「やってみるー」


 あたしは錆び錆びの鉄を、手の届くところから下へ落とした。

 鉄の変形はマノさんの得意とするところ。

 穴を開けて見ると厚さが3セロもあった。これだけの鉄があったらガルツさんの長剣、何本作れるんだろ。

「ガルツさん。すっごい量の鉄だよー、ほらこんなにあるよー」


「なに?この赤錆が全部鉄か?見たことないぞ、そんなの。穴は空いたんだな」

 ガルツさんが猫耳付きの灯りを中へぶら下げて覗き込んだ。


「中はがらんどうだな。地面に穴の開いた赤い花びらのようなものが、3つあるだけのようだが手前が見えないから……

 この作りだと、ここが扉だと思うんだが、何かないか?取っ手とか開ける仕掛けのようなものは?」


 マノさん、中って見えるようになる?……無理か。この鉄は扉なのかな?それなら………え?このこぶ?表面が錆でポコポコと波打っている中で、ちょっとだけ大き目の出っ張りがあるねー。


 そこを中心に広めに撫でると……錆のお掃除マシンが頑張ってくれて、横向きの窪みとその中に四角い感じの棒が見えてきた。

「おっ、なんだそれは。動くのかな。やってみよう」


 ガルツさんの太い指が隙間に差し込まれた。あの窪みだと狭くて引くしか動かしようがない。カタカタと音がする。マノさんがどこまでお掃除したのか分からないけど、動きそう?


 ガルツさんが首を傾げ、グイグイと押し引きを始めた。動きのたびにギッギッと聞こえて、少しずつ棒の動きが大きくなる。


 ガコンッ

 棒はすっかり突き出たようだ。押せるけどそれ以上は引けない。見ると右にだけ細く丸い棒が穴に繋がっている。


「ガルツー、回してみるー?」

「こうか?……ん?」


 下に回すもののようだが固い。何度も回して戻してを繰り返すうちに最後まで回るようになった。


「これでどうするんだ?」


「さーあ?そのまま引いてみるー?」

 ガクッ、ガクッ

「動くな。よーし」

 ガクッ、ガックン、ガッ、ギギギー

「「「開いたー」」」

 開いた扉は縁の厚さが5セロもあった。裏も錆び錆びだ。扉の下に石の床が見えている。


「ガルツー、手は大丈夫ー?」

 えっ?


「ああ、なんともないぞ」

 なんだ、一瞬心配しちゃったじゃない。


 中の下の方には両手の平ほどもある赤い輪っかと十字。その真ん中に下へ向かって軸がある。それが等間隔で3つ並んでいる。地面って土?ナイフで探ると柔らかい。刃先を刺すといっぱいのところでコツンと何かに当たった。


「なんか埋まってるねー」

「どれ、俺が掘る」


 ガルツさんがショベルを持って来ると、土を掻き出すが、輪っかの下に突き出ているものがあって、奥が掘れない。下も長い3本の背中が見えるところまでだ。ナイフでほぐして手で掻き出し始めた。


 あたしが出て来た土を手に取って見るとふわっと暖かくてやけに軽い。


「こんなものか。これ結構熱いぞ」

 ガルツさんの声に、覗いて見ると穴の底に円筒形が手前から奥へ3本。その途中の丸っこい塊が上や横へ突き出ていて、そのてっぺんの軸に赤い丸と十字が付いている。


 何かは分からないが、どう見てもこの輪っかを回すように見える。輪っかを見ると回す両方向に矢の形が浮き出ている。

「その輪っか、回すものみたいだね」


「やっぱりそう思うか?ひとつ回して見るか」

 ガルツさんが右の輪っかを回そうと……あ、簡単に回るね。そういえば熱いって、わっ。マノさん、(まぶ)しい。急にサーモにされたー。あー右が一番熱いのね。ほー。


 円筒ごとの温度が違うってことは?3つだしー、すっごく安易な対応だな。人工物みたいだから、もっと(ひね)ったのかと思ったよ。

「ガルツさん、温泉見て来るー」


 行ってみるとやっぱり一番上のお湯が止まってる。それぞれの浴槽に一つずつあの輪っかが対応してるとしたら、このザンザン入ってくお湯は、(あふ)れもせずどこへ行くの?左側はどーなってるのかな?


 向かいから見たら影になるところに石の溝。上の浴槽の穴はお湯がチョロチョロ出てる。下の二つはザバザバ出てる。溝が繋がってるから他の浴槽の出口も見えるの。溝の真ん中が一番深くなってるみたい。ゴミがいっぱいでよく分からないけど。これはお掃除大変だ。


「ガルツさーん。今閉めたのは上のあっついお湯ー。たぶんこの輪っかはそれぞれの浴槽のお湯を止められるー。真ん中止めてソージしよーよー」


「おう、じゃあ止めてみるから見ててくれ」


 あたしは2番目まで駆けて行った。


「止まったー」

「上は戻しておくぞー」

「はーい」


 お湯()みしなくっちゃー。皮袋で汲んでたら大変だよねー。

 流すのはこっちでいーんだろうけど。

 溝の中を眺めていると、出るお湯がチョロチョロになった、その下にも穴があるような。

 折れ枝で作った棒で上からつつくと確かに穴だ。お湯を抜くための穴があるんだろうか。浴槽のその辺りを見ると、向こうからは見えなかった上のとよく似た黒い輪っかがある。


「ガルツさーん。これたぶんお湯抜きー」

「おっ。それは助かる。俺もどうしようかと思ってた。ああ、ここに余り湯を捨てていたのか。贅沢(ぜいたく)な話だよな。どれ回すぞ……ん?こっちか?固いな。むう、ふう、ぐう。お、回るか?」


 キュキュッ ブッシャァーーーーー

 後ろでお湯が噴き出した。

 浴槽は見ているうちに水面に渦巻きができて、真ん中がどんどん落ち(くぼ)んでいく。尖った杭の抜き跡みたいな窪みがグルグル回る。

 ズ、ズズ、ズズズ、ズゴズゴズゴー、ゴゴゴー

 だんだんすごい音に変わって、みるみる水面が下がって行く。5メニ程で底と言うか溜まったものが見えて来た。

「うえぇ、臭いしすっごい量だなー。どーしよーこれ?」

「穴掘って埋めるのがいいんだろうけど、場所がないな。一つ下へ放り込むか?」

「「ソレハゲンジツテキナカイケツホウダネー」」


 隣にゴミを放り込むって罪悪感が凄いんだけど。


「まあ、暇と金ができたらここに家を建てて温泉旅館もいいかもしれんが、今はしょうがないだろ……アリスのチズで見てみるか?近くに村でもあれば、やりようもあるぞ?」


 そう言われて目のチズで近所を見たが、ここって街道まで何にもないとこだ。


「さて掃除だな。口と鼻をぼろ布で覆うか。で、二人でゴミを下の湯船に寄せてくれ。俺がショベルで下へ放り込む」

「ガルツー、一人だけ道具ってずるいー」

「あー、そうだな。じゃあアリス、道具を作るか」


 ガルツは荷台テントの支柱を下ろして絵を描き始める。


「お前たちの体格だと柄は手を上に伸ばしたくらいもあればいいか。握りやすい太さでな。

 先の方に板を立てて直角に付ける。一応補強でスジカイを付けるか。板は俺の腕くらい。俺用のも一つ頼む、大きさは5割増しだ。

 トンボって言うんだが、これでゴミを引っ張ったり押したりするんだ。

 さすが作るのは早いな。こう持って、引くときはこう、押すときはこうだ。じゃあやってみるか」


 湯船に降りるとガルツさんが奥の方からトンボを使ってゴミを引っ張り始めた。見る間に半分まで引いて来る。


「アリスの道具は丈夫でいいな。結構重かったけど、びくともしない」


 もう一回半分まで引っ張ると今度は押し始めた。

「お、ここ排水穴だな」


 見ると穴がたくさん空いた鍋が伏せてある。錆びがないから鉄じゃないんだろうね。

 あたしたちも見よう見まねで引っ張るけど、ゴミが重い。長年お湯を吸った木の枝や積もった落ち葉、何かの骨、そして大量の泥。早々に敗北宣言をして排水穴を掃除する。


 ガルツさんはその間にもゴミをみるみる寄せてしまい、ショベルでジャボジャボとゴミを隣へ放り込み始めた。


 あたしたちが凹んでいるのを見て

「ゴミが重かったんだから気にするな。アリスのトンボのおかげで俺は(はかど)ったぞ。

 これが済んだらお湯を半分くらい出す。ここにバシャバシャ落ちるから、トンボで角までお湯を連れて行って汚れを排水穴へ落とすんだ。

 水遊びは楽しいぞ。あーブラシがあるといいな」


 次はブラシってのを作るらしい。馬車に戻ってガルツが木とクマの毛を取り出した。


「よーし。柄は身長くらい、太さはさっきと一緒だな。

 次に俺の靴ぐらいの木の片面に熊の固い毛を植える。そんなにぎっしりじゃなくていいぞ。あー、もうちょっとあってもいいかな。ん、そんなものか。

 で、この毛を下へ向けて、ミット、これで押さえていてくれ。こんな感じか、アリス、俺の持つ棒とブラシを繋いでくれ。おお、いいな。おまえたちのブラシも小さめに作って繋いでくれ。じゃあ行くか?」


 湯を抜いた浴槽の前に戻ると

「俺が輪っかを回す。ミットとアリスは浴槽に落ちる水を見てくれ。汚れを流すからそこそこの量は要るぞ。ちょっとずつ増やすからな。増やせは上、減らせは下で手を振ってくれ」


 言われた通り浴槽で見ているとお湯がダバダバと出て来た。そこそこの量ってのが分からないけどまだ足りないね。増やしてー。


「どーだろ。多目がいいよねー。増やして。待ってとかいいよの合図も要るねー」

「あたい、行ってくるねー」


 まだ多くても良さそう、ミットが戻って来た。

「ミット、待ってにして。あたし下で散らしてみるー」

 やってみると全然足りない。角までお湯が押せない。

「増やしてー」

「増やしてー」

「待って」

 うーんもうちょっと欲しいか?

「増やしてー」


「いいよ。ミットー、これ楽しーいー」


 ガルツさんが降りて来た。あたしとミットがキャアキャア言いながら洗ってるのを見て、呆れた顔をしていた。

「あれで全開だったぞ」


 たっぷり1ハワーお掃除で遊んで、一回お湯を止めた。残った水気をできるだけ流して、排水の輪っかを閉めたらー。

 また全開だー、ってしょっぼいよねー。こーやって、ただ溜まるのを見てるとー。あ。


「ガルツさーん。上のお湯貰っちゃおーか?」

「どうやるんだ」

「石の壁の上の方に穴を開けるの」

「やってみるか。すぐ止められるようにしとけよ。汚いお湯が混ざるのは困るから」


 う、汚いかも?


「ちょっと桶に上の水汲んでみるよ」

「ああ、それがいい」

 結果はダメだった。結構上までゴミが巻き上がっていた。そうだ、お風呂といえば石鹸(せっけん)!マノさん石鹸ー?

 ………皮の脂から作れるの?いっぱい採ってたもんね……やったー。今日の分お願いねー。


 ガルツさんが馬車をすぐそばまで連れて来てテントの準備を始めた。

 どーするのーと思って見てたら、斧で低木を2本根こそぎ切って柱を立ててしまった、てゆーか、あたしが柱に加工してガルツさんが穴を掘って根本を埋めて立てた。

 馬車にも(かさ)増しの柱を立ててロープを張れるようにしてしまった。

 ここは伐採場に近いし、何日か居る事になるので三角テントの方が楽だって。


 そうなるとお布団の準備やら、焚き火の用意やら、やることは結構あるので退屈せずに済んだ。

 お湯、もーいーかなー?


「ガルツさーん、入れそー。石鹸もできたよー」


「お、待ってましたー」

 おおお、はしゃぐガルツさん。引くわー。


「ガルツー、はしゃがないー」

 あ、ミットもお気に召さなかったか。

 すっかり大人しくなったガルツさんと、3人でゆったり入るお風呂。もーサイコー。


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