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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第1章 トラーシュ
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1 アリス

盗賊や敗残の兵士崩れにたびたび襲われ滅んだケルス村。

そこから命からがら逃れて来た2人の少女は、戦場からの逃亡兵と森で出会う。

 元猟師だという男は巨大なカイマンワニを、苦戦の末倒してしまった。森で一応の装備をしてデコボコな3人旅が始まった。

        登場人物


 アリス 主人公 13歳 薄い茶の髪、白い肌、青い目、身長150セロの女の子。


 マノさん アリスの話し相手?魔法使い?


 ミット 12歳 孤児 濃茶色の髪、やや褐色の肌、黒い目、木登りが得意、身長148セロの女の子。


 ガルツ 32歳 工房出身 元猟師 その後兵士を3年ほどやっていた。戦場で壊滅(かいめつ)した部隊から逃れて来た。日焼けした肌、赤黒い髪、青い目、身長183セロの大男。青ずくめの防具、楯と長剣が基本のスタイル。


 ナタリー 21歳 ケルス村からトラーシュへ連れてこられた。


 *********************************************



      第1章 トラーシュ


        1 アリス


 板壁の隙間から差し込む光に目を焼かれ、鈍い頭の痛みをぼんやりと覚えアリスは深みから浮き上がった。


 ぼんやりした脳裏に診療所の床に横たわり、ピクリとも動かないお父さんの姿が映る。

 お母さんの優しい笑顔が引きちぎられるように飛び散った。暗い道を誰かに手を引かれ、別の誰かの手を握って必死で走っているのはあたし。前に恐ろしい形相の大男が立ち……



 強烈な獣の糞尿(ふんにょう)の匂いが鼻腔(びこう)を焼く。

 湿った(わら)の感触が突き刺さるように戻り、身じろぎして光から逃れると薄く目を開け周囲を探る。

 薄暗い中、大きな動物が少し離れたところに繋がれているのが分かった。縛られているらしく手足の感覚がない。畜舎と(おぼ)しい建物の梁と小屋裏をボーっと眺めているうちに、ふと路地での戦闘を思い出した。

 確かトラーシュの町を出る時にならず者に襲撃を受けた後……



 《緊急覚醒シークエンス終了します。拘束の解除に移ります》


 その声から少しして戒めが外れ血流が戻ると、感覚のなかった手足が猛烈に痺れ始めた。そこへ複数の足音が近づいてきた。


「ヒヒヒ、ひさびさの女だぜ。じっくり楽しまないとな」

「まだガキだろ。使えるのか?」

「バーカ、あのくらいになればちゃんとできるんだよ、知らねえな?」


 まだ痺れは抜けておらず、受けたダメージがぶり返して身体中が痛み身動きが取れない。異臭のする(わら)に横たわったまま見ていると、戸板がキイと甲高い音と共に押し開かれた。汚い革鎧に短剣を腰に挿した男が二人。頭の薄い大男と短髪の小男、デコボココンビというやつだ。

 わずかに震えるようにしか動かぬ手足、見開いたまま周囲を見ようとくるくる動く眼球。

 そんな状態のアリスを見て(あざけ)るように小男が言う。


「なんだ、縛ってないのか?ふん、動けねえみたいだな。手間が省けていいじゃねえか」

「おとなしくしやがれ。すぐ天国まで行かせてやっから。へっへっへ」

「よーし、まずは剥いちまおう。おう、そっち押さえろ」


 アリスの肩を小男が覆い被さるように押さえ、大男が足の方へ回った。キュロットと一緒にタイツを掴んで引き下ろそうと腰に両手がかかった。

 アリスはまだ体に力が入らない。動けたとしても非力な少女に何ができるだろうか。恐怖を湛えた目だけ動かすのだ精一杯だった。

 太い指が腰回りに荒っぽく食い込んだところで、半端まで開いたままになっている戸口から出て来る影があった。


 ボロを(まと)った女が男達を追いかけるように扉から現れた。肩まである汚れた髪を振り乱し、(くわ)のような柄の長い農具を振りかぶる。男たちはアリスを剥くのに夢中で気づいていない。尻を持ち上げるようにタイツを引き下ろそうとしたところへ、大男の背後から脳天に鉄の刃が突き立った。

 鮮血がブシュッと吹き上げ小男とアリスに降り注ぐ。急に真っ赤になった視界に驚いて顔を上げた小男に、左寄りに刺さった鍬で引かれて倒れ込む大男の鮮血が、狙ったように顔面に飛んだ。


 両眼に血を浴びた小男が悪態を吐き、自分の腰の汚いボロ布をむしり取って目を拭う間に、再び鍬が空中高く持ち上がる。ザリザリと目を(こす)り、前を見上げたその顔面に鍬が落ちて来る。小男は瞬間後ろへのけぞるようにそれを躱したが、突いた両膝を動かすのは間に合わず、左(もも)の膝上辺りに鍬の刃が突き刺さった。


 やっと感覚の戻って来たアリスが左へ体を(ひね)るように転がった。小男の悲鳴が響き渡る中、女は大男の短剣を引き抜いて小男の喉を抉った。

 ガボガボと血を撒き散らし小男はそのまま後ろへ倒れ込んで、胸を大きく痙攣(けいれん)させて見せた後動かなくなった。


 さっきのはなんだったの……ぼんやりアリスは考える。あたしの生まれた村は外の盗賊に襲われ滅んで……


 女はまだ自由の効かないアリスを抱き起こした。悲鳴を聞きつけて見にくるであろうならず者から逃れるため、アリスの肩を支えて繋がれた牛の前を通って路地へ足を踏み出した。まずは浴びた血を洗い流したいところだが、すぐにもやって来るかもしれない追手を引き離すのが先だろう。


 そんな緊迫した場面というのに、女は覚束ない足どりでアリスを抱えたまま、古い恋歌を呟くように歌っている。


 〽︎

 明日は遠くあの街へ

 行ってしまうの可愛いあの娘

 忘れないでねあの日の出会い

 忘れないでね夕暮れの刻

 覚えていてよあの約束を

 きっとぼくの元へ来てくれる

 信じているよ明るい笑顔

 きっと村へと帰って来てね

 ライ・ライ・ヤー・ライ……


 引きずられるように狭い路地から路地へ歩くうちに、回復してきたアリスが肩に回した手で女の背を叩き、足を止める。アリスの指差す道の先には青ずくめの軽鎧に長剣を背負った大男と青いチェニック、水色の短パンに白タイツ姿の赤い弓を構えた少女がいた。


「もう大丈夫だよ。ナタリー」

 頭上を矢が飛び越え、背後から追手の汚い悲鳴が響いた。


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