聖騎士パラティウム
4日連続短編投稿企画
ラスト4/4になります
ただ一人。家族を知らない子供がいた。
なぜか一緒の立派な剣を友と呼び、毎日毎日振るい続ける子供がいた。
人の世を蝕む毒『瘴気』をただひたすらに殺し続ける子供がいた。
ある日子供を見つけた騎士は、そっと手を差し伸べた。
「一緒に来るか?」
子供はその手を握り返した。
***
「朝練そこまで!各自片付けの後に食堂で朝食を取るように!」
その言葉を聞いた瞬間、私は地に倒れ伏した。
当然地面は土なわけで、そこに倒れ込むということは全身泥だらけになるということなのだがそんなことは言っていられないほど疲れたのだ。
日が登る頃に起床してそこから街が動き出すような時間までぶっ続けで訓練。16歳女子にはあまりにもキツすぎる。
『ほらほら、さっさと片付けて食堂行かないと朝食がなくなるよ?』
「無理、食べれない、胃に入れた瞬間吐く。ていうかそもそも朝食前に鍛錬を行うのは非効率的すぎると思うんだけど」
『言いたいことはわかるけど、君以外に力尽きている聖騎士はいないからなぁ』
「ううっ」
『まあ最大の原因は完全にここが男世帯だからだと思うんだけどね』
「私だってはじめは守護騎士になるものだと思ってたもん!」
『いいじゃないか、討伐騎士。聖騎士の中のエリートだ』
「パラティウム!剣と喋ってないでさっさと片付けろ!」
「うへぇ養父さん。もう私は無理です」
「職務中は隊長と呼べ!それに仮にも討伐騎士だろうお前は、もう少しシャキッとしろ!」
これ以上問答を繰り返すと本気で怒られると見た。
諦めて起き上がるもやっぱり身体中泥だらけで、食事の前にまずは着替えからしなければいけなそうだった。
***
瘴気と呼ばれる災害がこの世界には存在する。
靄のような状態で存在するそれは、偉い学者様によると分類的には生物であるらしい。呼吸も食事もするかららしいのだが、何度相対してもやっぱり生物には見えない。けれどゆらゆらと漂うそれにはただ一箇所だけ形が変動しない固定された箇所がある。それはいわゆる『核』と呼ばれる弱点で、そこをぶった斬ることで瘴気は消滅する。
そしてその瘴気から人々を守るのが私たち大聖堂の聖騎士たち。一口に聖騎士と言っても2種類存在して、街や大聖堂を守る守護騎士と積極的に瘴気を討伐しに行く討伐騎士。守護騎士は貴族の御子息さまとか女子が多い部署で、私もそこに行くもんだと思っていた。けれどなんの因果か私が所属するのは討伐騎士。ごりごりの筋肉ゴリラたちの巣窟だ。
さらに意味のわからないことには私が討伐騎士の中でも超エリート部隊、第一本隊所属ってことだ。ちなみに女性初らしい。そしてさっき私を叱りつけた第一本隊隊長は大聖堂のトップである教主さまと同じくらい敬われているすごい人なのだ。さらに言うならば私の養父でもある。
朝練でもバテていたように、私は全く第一本隊の訓練について行けていない。だからこそ私が第一本隊所属だってことを妬んだ人たちからは養父さんのコネだってよく言われるけど、当然聖騎士はそんな甘い世界ではない。いや、貴族の御子息さまたちはコネかもしれないけど、とにかく第一本隊ではそんなこと通用しない。
体力も平均、運動神経も平均、体つきは華奢な私が第一本隊に所属していられるのは単に私の持つ『聖剣:無銘』のおかげだ。
物心ついた時からずっと一緒にいるこの剣は無機物なのに何故か喋る上に、核を破壊しないと消滅しないはずの瘴気を触れるだけで消滅させられるという伝説に語られる聖剣のような力を持つ。さらにこれをふるっている間はめちゃめちゃ強くなっているらしいけれど、その間基本的に私の記憶はないので多分嘘だと思う。
そんなとんでもない剣を出自不明な私が持っているからこその無銘なんだけれど、なぜかこいつは私から引き離せない。他の人に貸与した瞬間謎の浄化能力が消え、ただの頑丈な剣になるのだ。しかも他者には無銘の声が聞こえないときているので私はちょっとおかしい子扱いされているのでした。
「………パンすらない」
ぜーはーしながら片付けを終え、井戸水を頭から被り着替えたあとようやく食堂に行くとそこに広がるのは無。
何一つとして食料は存在していなかった。
「だから早くこいって言っただろ」
そう養父さんは呆れて言うけど、こちらからすれば着替えもせずに食事ができる精神がわからない。守護騎士はみんな清潔だっていうのに、なんで討伐騎士は野蛮人ばかりなのだろう。
「野郎な養父さんや団員と違ってこちとら立派な乙女なんです!汗の臭い撒き散らすような愚行はしないんですー!」
「職務中は隊長と呼べ!ったく、ほらよ」
差し出された皿にはパンと肉とサラダ。
私には十分な量の朝ごはんだ。
「養父さん……!」
「今日の訓練はいつもよりハードだったからな。団員たちもより食べるだろうと予想してた」
「どうりで終わった瞬間倒れたわけだ!ようやく前ので慣れてきたのに」
「俺の中ではお前の成長具合がハードにするタイミングだと思ってる」
「鬼!悪魔!」
「仮にも父親に向かってそれはなんだ」
「職務中は父親じゃなくて隊長ですー!」
口癖のように言われているこの言葉を言い返してやった。胸がスッとして満足し、養父さんをドヤ顔で見つめるとひょいっとパンが養父さんの口にゴールインした。
「ちょっと?!」
「うるへぇ、おとなひくかんしゃすればよかったんだ」
「八つ当たりの仕方が子供!」
養父さんは仮にも英雄と呼ばれる人物。威厳もなにも捨て去ったその子供っぽさに、養父さんを敬うすべての人の目を覚まさせたいと心から思った。