(間話)私が先にテオくんの元へ。
各地にいる聖女の話です。
* * * * * * *
「……これはまずいことになりました」
一人の少女が苦虫を噛み潰したような顔をしながら呟いた。
「テオくんに危機が迫っています」
その彼女の背中では、艶やかな黒い髪が揺れていた。
教会に関する建物がある。
その本部で、つい先程まで、会議が行われていた。
議題は『聖女殺し』のことについて。
聖女を、殺したとされる聖女殺し。
その存在を、教会も把握したのだ。
それにより、教会の者たちが動き出すことになった。
それも、教会の中でも高い地位についている者たちが、だ。
普通、こういう場合には、高い地位の者たちは動かない。
教会に所属している下の者たちに動かせて、自分たちは指示を出して様子見することがザラだ。
しかし、今回ばかりは、ほとんどが動き出しており、まだ聖女殺しの正確な情報が揃っていないにも関わらず、指名手配まで出す始末。
『それで、教会はテオくんをどうするつもりなんだろうね』
「……どうでしょうね。しかし、良いことにならないことは確実です」
彼女が、吐き捨てるように言った。
その言葉に納得したのは、黒い存在、黒龍だった。
彼女は黒龍の加護を受けている聖女である。
教会に所属している彼女なのだが、教会のことを信頼しているわけではない。むしろ、教会には黒龍を疎ましく思っている勢力もいるため、彼女は聖女なのだが微妙な立ち位置だったりする。
『それに、魔族側にも動きがあるみたいなんだよね』
「……むしろ、教会の狙いはそちらの可能性もあります」
どちらにしても、自分が誰よりも先にテオと接触する必要がある。
そして、保護する。
黒龍の加護がある彼女が保護すれば、教会も、魔族も、手を出せなくなるはずだ。
「なにより、私が個人的にテオくんと会いたいですしね」
そんな彼女の腰には、一振りの剣が下げられていて。
黒龍の加護を受けている彼女のことを、人はこう呼んだ。『聖魔裁きの審判者』と。
彼女も彼女で、十分危険な存在なのだった。
* * * * * * *
そして、別の場所でも、他の聖女が動き出そうとしていた。
「もう辛抱たまらない……っ! 私がテオくんを守らないと……っ!」
そう言ったのは、ベッドの上でぺたりと女の子座りをしていた聖女だった。
彼女は立ち上がると、とっておきのローブに身を包んで、桃色の髪を丁寧に整えた。
「おかしくないかな……。テオくん、私のこと、好きって言ってくれるかな?」
鏡で自分の姿を確認する。
ようやくこの時が来たのだ。
ずっと会いたいと思っていたテオ。そのテオくんにようやく会える!
その彼女の頬は赤く染まっていて、不器用ながらも必死で身だしなみを整えた。
そして、両手で勢いよく窓を開け放つと、キラキラと目を輝かせながら、大きく息を吸って、指を咥えた。
「白桃鳥ちゃん! お散歩の時間だよ! テオくんのとこに行くよ!」
ピーっ、と。
彼女の指笛の音が、満点の空に響き渡った。
それにより、彼女に加護を授けている存在が呼びかけに応えてくれる。
「テオくん、待っててね」
さらに別のところでも、指笛が鳴っていた。
「深緑鳥! 私たちも動き出すよ!」
ピー、っと指笛を吹いたのは、眼鏡をかけている、深緑色の髪の聖女で。
その二人の奏でた音が広い空に反響し、ちょうど中間地点にいるテオの上空で交わると、新たな事態の始まりを予感させるのだった。
第二章 完
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