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75話 乱れている魔力の矯正

 

 魔力とは、生き物の中に備わっている力である。

 血液、脂肪、肉……と同じように、魔力もその体の一部で、生きていく上で必要になるものだ。


 それを行使して、外へと出すのが、魔法と言われるもの。

 使い方は様々だ。呪文を唱えて魔法を発動する者もいたり、魔法陣を描いて魔法を発動する者がいる。


 しかし全ての人間が魔法を使えるわけではない。魔法を使うためには、人によって向き不向きがある。

 それに、魔法を使うということは、その元となる魔力を消費するということ。つまり生命力と密着しているものを使っているということになる。


「そしてテオ様の魔力は普通の人とは少し違う性質を持っています。テオ様は魔力の鍛錬をしなくても、魔法自体は使えるようになっておりますよね」


「はい。一応は……」


 俺が魔法を使うようになったのも、つい最近のことだ。


「それは、テオ様が無意識のうちに今まで魔力をコントロールしていたから、使えるようになっているのだと思われます。先ほどのテオ様の剣の動きを見てみたところ、動き自体がとても自然なものでした。それは、テオ様が常日頃から、自分の体の神経を細部まで使っているからだと思います」


「あ、テオは昔から、いろんなことをしてくれたの。ご飯を森に獲りに行ってくれたし、魔石を使って魔法の剣を作るときも、テオは真剣な顔をしてたの」


「ええ。そういうことが今につながり、テオ様は無意識のうちに魔力のコントロールをしていたのでしょう。そして魔法を使うようになってからは、魔力を意識するようになったと思います。今こうして座っている際も、テオ様は魔力を円滑に循環させる姿勢をとられています」


「この座り方が……魔力を循環させる姿勢……」


 俺は今、普通の座り方をしている。

 けれど、ソフィアさんから見ると、絶妙なバランスで座っているとのことだった。


「しかし、テオ様の魔力はやはり特殊です。魔力の色も翡翠色で、これまで私はその色の魔力を目にしたことがありませんでした」


「ソフィアちゃんの魔力の色は蒼色なんだよね」


「はい。私は蒼龍の加護を得ましたので」


 その話でいくと、テトラの魔力の色は月光色ということになる。


「蒼龍の力は、正すための力です。平穏と、静寂。結界を張ったりすることが得意です。その力を使えば、テオ様の魔力を矯正することもできると思います。こんな風に」


 バチィ……ッ!


「い、痛い……ッ!」


 ちょん……と、俺に触れたソフィアさん。

 すると、それだけで、先ほどと同じように、弾ける痛みを感じた。


「テオ様はすでにこの感じを、おばさまのお店で感じておられるのですよね」


「はい」


 元々、あの魔導具の店を教えてくれたのは、ソフィアさんだった。


「じゃあ、あのお店のおばあちゃんも、テオの魔力を整えようとしてくれるために、あんな風にテオに触れてたのかな?」


「それは……どうでしょう。おばさまは変わった方なので、純粋にテオ様をからかっただけの可能性があります……」


「「…………」」


 申し訳なさそうに、ソフィアさんが呟いた。

 それは……あるかもしれない。


 とにかく、ソフィアさんなら乱れた魔力を正すこともできるとのことだった。


「一応、覚えておいてほしいのは、テオ様は魔力を使えていないわけではありません。翡翠色の時の魔力は十分に使えておりますし、赤黒い魔力に変色した場合は過剰に魔力を酷使しているだけなのです。それを使えるだけでもとても凄いことです」


「普通なら使えないの……?」


「ええ。普通なら使った時点で、その身は滅んでしまいます。魔力の過剰使用によって、心臓に負担がかかり、肉体が破壊されてしまいます。テオ様が赤黒い魔力を使った時に感じる痛みも、普通なら気を失ってもおかしくはない痛みです」


 それは……そうなのかもしれない。

 俺がそうなっていないのは、腕輪を通じてテトラが癒してくれているからだ。


「そしてテオ様の魔力は、その質故に、鍛錬で正すのは困難を極めます。それを正すには、外から矯正するしかないのです」


 だから今回ソフィアさんは、それを申し出てくれたのだ。


「もちろん、簡単に行くわけではありません。矯正の際には耐え難い激痛がテオ様に襲い掛かることになります。それでも、どうでしょう。私にテオ様のお力にならせていただけませんか?」


 改めてソフィアさんが、そう言ってくれる。


 俺は頷いた。


「あの、こちらからもぜひよろしくお願いします。魔力を正せるのなら、どんなことでもやりたいです」


「分かりました。では、テオ様、そちらのベッドに上りください。テトラさんも一緒に」


「うんっ」


 それから俺はテトラと一緒にベッドに上がることになった。


「では私も」


 ソフィアさんもベッドへと上り、俺の後ろへと来てくれた。


「では、閉めますね」


 ソフィアさんが天蓋付きのベッドの幕を降ろす。そうすると、俺たちは閉ざされたベッドの上に、3人で乗っていることになる。


「やること自体はシンプルです。これから私がテオ様の体を後ろから抱きしめたいと思います。こんな風に……」



 むにゅっ。



「…………っ」


「あ、テオ、今、背中にソフィアちゃんのおっぱい感じて照れてる」


「ち、ちがーー」


 テトラがじとっとした目を向けてきた。


 そんな俺の体の後ろにはソフィアさんがいて、ソフィアさんが俺の体を後ろから抱きしめてくれている。

 腕を俺の体の前の方に持ってきて、背中にはソフィアさんの体の感触が伝わってきた。


 ……だけどソフィアさんがやろうとしていることに気づくと、俺はこれから自分の体がどうなるのかを察した。


「それで、テトラ様は正面からテオ様を抱きしめてあげてください」


「うんっ。テオ、おいでっ」


 ぎゅっと抱きしめてくれるテトラ。


 目の前にはテトラの琥珀色の瞳がある。俺は膝立ちになっていて、ソフィアさんもベッドの上で膝立ちになっている。テトラも膝立ちで、ソフィアさんが俺の頭の後ろを押すと、俺はテトラの胸に顔を埋めることになった。


 前からはテトラ、後ろからはソフィアさん。


「私がテオを支えていいんだよね。魔力の矯正には痛みが出るから、それを少しでも和らげるために、テオを甘やかせばいいんだよね」


「はい。テトラ様をそばに感じることで、痛みを緩和できるかもしれません」


「テオ、いっぱい私に甘えていいからね。テトラの胸は、テオを受け止めるためにあるんだからね」


 テトラが俺の頭をゆっくりと撫でながら、さらにきつく抱きしめてくれた。


「では、いきます」


 ソフィアさんが、カウントダウンを始める。



 3……2……1……。



 ……そして、次の瞬間だった。



「……ぁ……ああ””……あああ”””……ッッッッ………………”””””ッッッ!!!」



『『『ああ、ご主人様ぁ……!』』』


 バチバチバチバチ……ッッッッ!


 襲いかかってきたのは激痛。

 ソフィアさんに抱きしめられている背中から、弾けるような痛みが生まれ……息ができなくなる。

 その痛みは刹那のうちに全身に広がり、頭の先から体の隅々まで、バチバチバチと赤黒い電流が走る。さっき、ソフィアさんに指で触れられた時に感じた時の痛みの比ではない。何倍もの痛みだった。


 鼓膜がブチィと破けた気がした。

 皮が、ベリベリと剥がされているような気もした。


「1……2……3……テトラ様」


「う、うんっ」


 ソフィアさんの力が弱まった。

 俺は目の前にいるテトラに抱きしめられる。


「テオ……てお……っ」


 ぎゅっ、ぎゅっ、と、俺はテトラの胸に顔を埋めることになる。

 落ち着く匂いだった。そんな俺の耳に、カウントダウンが聞こえてきた。


「3……2……1……テオ様、行きます」


「……!」


 その刹那ーー。



「……ぁ……ああ””……あああ”””……ッッッッ………………”””””ッッッ」



『『『ああ、ご主人様ぁ……!』』』


 再び、激痛が駆け巡る。


 矯正と休憩。

 それを交互にやることで、魔力は正されるという。


「テオ様……少し強くします。2……1……」


 バチバチバチバチ……ッッッッ!


「……ぁ…………””””ッッッ!」



『『『ああぁ、ご主人様が……!』』』


 反り上がるように、仰け反る俺の体。

 痛みを逃がそうと、反射的にそうなってしまう。

 しかし……そうさせまいと、ソフィアさんが後ろから腕と太ももで俺の体をホールドさせる。


「て、テオ……っ」


 テトラも動く。

 そして前から包み込むように、俺を抱きしめてくれた。


「3……2……1……テトラさん」


「う、うんっ」


 ソフィアさんが力を緩める。

 テトラが受け止めるように、抱きしめ直してくれる。

 俺はテトラの胸に顔を埋めることになった。


「テオ、大丈夫だよ。テトラがそばにいるよ。だから、テオ、絶対に無茶はーー」


「3……2……1……テオ様、いきます」


「ああ……! テオぉ……!」



 バチバチバチバチ……ッッッッッッッッッッッッッ!



「……ぁ……ああ””……あああ”””……ッッッッ………………”””””ッッッ!!!」



『『『ああぁ、ご主人様ぁ……!』』』


 再び、全身に激痛が襲いかかり、喉が枯れるぐらい叫んだ。

 ソフィアさんは段階的に力を強くしていくようで、これが全力ではないみたいだった。


 その後も、ソフィアさんのカウントダウンで、俺の魔力の矯正が行われ続けていき……。



「……ぁ……ああ””……あああ”””……ッッッッ………………”””””ッッッ!!!」



「わああああああん。テオが感電しちゃう〜!」


 目の前にあるテトラの琥珀色の瞳からは、涙が溢れ落ちて、シーツの上にシミを作ったのだった。


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