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74話 テオ…私に甘えていいんだよ……?

 

「テオ……もうちょっとだからね。もうちょっとでソフィアちゃんの部屋に着くから、それまで耐えてね」


「あ、ありがとうテトラ。でも、自分で歩けるからーー」


「だめ!」


 テトラが頑なとした態度で首を振った。

 俺はそんなテトラの肩を借りて、ゆっくりと赤い絨毯の上を歩いている。



 ……結局、手合わせは俺の敗北だった。

 俺は自分の魔力を扱いきれずに自滅した。その反動で、全身に痺れるような激痛が走ることになった。


 腕がバチバチと引き裂けそうなぐらい痛い。まるで体の内側から雷撃を食らったかのようだった。


 ……あの後、テトラには回復してもらったし、耐えきれないほどではないけれど、ソフィアさんの好意で彼女の部屋へと向かうことになった。


「でもソフィアさんの部屋に入ってもいいのでしょうか……」


「はい。テオ様なら、問題ありません」


 俺の前を歩いているソフィアさんが頷いてくれる。


「あの部屋なら治療用のポーションが置いてありますし、客室よりも治療はしやすいと思います」


「そうよ。せっかくだし、ご主人様は甘えてもいいと思うわ。そこまで私も支えるから」


 俺のもう片方の手を握りながらそう言ったのはコーネリスだ。

 メモリーネとジブリールは、腕輪の中に入っていて、腕輪を通じて俺の魔力に働きかけてくれているみたいだった。


『メモも内側から応急処置をするの!』


『ジルも〜』


 俺はそんな二人の腕輪をそっと撫でた。


「階段を上ったら、そこが私の部屋です」


 廊下を歩き続け、階段に差し掛かる。


 テトラに背中を支えてもらいながら、一段一段ゆっくりと上がっていった。


 そうすると、見えて来たのが二階にあるソフィアさんの部屋とのことだった。


 彼女がドアを開ける。綺麗な部屋だった。

 天蓋付きのベッド、白い机、棚があり、そこには本や瓶が並べられている。


「テオ様はベッドの方でお待ちください」


「ソフィアちゃん、ありがとう」


 俺はテトラとコーネリスに付き添われたまま、ベッドに座らせてもらうことになった。


「ここまでくれば安心ね。それじゃあ私は腕輪の中に戻っておくから」


「コーネリス、ありがとう」


 お礼を言うと、コーネリスは「どういたしまして」と言って、赤い光に包まれるとともに、腕輪の宝石の中へと姿を戻した。


 窓から日差しが差し込んでいる。ソフィアさんが瓶を手に取る音が、かすかに部屋の中に響く。

 あと、この部屋に入った瞬間から、体が少し軽くなった気がする。


「多分、この部屋に魔力に働きかける作用があると思うの」


「ええ。仕事柄、魔力は常に万全の状態にしておく必要がありますので、この部屋に魔術を付与しているんですの」


 ソフィアさんが瓶を選びながら教えてくれる。

 俺をこの部屋に招いてくれたのも、それが関係しているみたいだった。


「ではポーションはこちらを使用していただければ、少しは楽になると思います。テトラ様、一応、鑑定をお願いします」


「ありがとう、ソフィアちゃん」


 瓶を手にしたソフィアさんが、その瓶をテトラへと渡す。

 透明な液体が入っていた。テトラが瓶の中身を確認して、一滴自分の人差し指に垂らして、ぺろっと舐めた。


「ん、よし。テオも一口舐めてみて」


 もう一滴、指先に垂らすテトラ。

 それを俺は一口舐めることになった。


「どう、でしょうか?」


 反対側に座ったソフィアさんが、聞いてくれる。


「また体が軽くなったような気がします」


「よかった」


「それならテオ、口開けて。ゆっくりでいいからね」


 俺の後頭部に手を当てたテトラが、俺に上を向くように言い、口に瓶を近づけてくれる。


 でも……。


「飲むぐらいなら自分でもーー」


「だめっ!」


 即答するテトラ。


「ふふっ」


 ソフィアさんは柔らかく微笑んでいた。


「あ、そうだ。私は少し席を外させていただきますので、どうぞ、ごゆっくりしていてください」


 ソフィアさんは立ち上がると、部屋を後にしていた。

 部屋の中には俺とテトラの二人になり、俺はテトラに瓶の中のポーションをゆっくりと飲ませてもらっていくことになった。


 味は、やや苦目だと思う。でも、サラサラとしていて、飲みやすかった。

 飲んでいると、すぐに楽になっていくのが分かる。


「テオ、どう……?」


「うん。もう大丈夫かも」


「ほんと……?」


「うん。心配してくれてありがとう」


「テオ……」


 飲み終わり、瓶を置いたテトラが、俺の隣に座ったまま抱きしめてくれる。

 俺の首に頬ずりをして、きついぐらいに身を寄せてくれて。

 俺はそんなテトラを抱きしめて、その頭をそっと撫でた。


 そうしていると、不甲斐ない気持ちが膨れ上がっていく。


 ……心配をかけてしまった。


 ……今回やったのは手合わせだ。その結果がこの有様だ。

 魔力を使っただけで、心配をかけてしまい、結局は自分の魔力で自滅してしまう。ひどい結果だ。それが嫌というほど実感できた。


 今回の手合わせで、魔力のコツとか、動き方のコツとかを掴めたらいいな……と思っていたけど、ただテトラたちに心配をかけただけだった。迷惑をかけただけだった。


 結局……俺はあの日から何も変われていない。


「そんなことないよ。テオはとっても頑張ってたよ。私、テオがいつも頑張ってること知ってるよ。今回も最後のテオは、とってもすごかったもん」


 静かな声音だった。

 俺の首に頬ずりしたままのテトラが、俺の頭をそっと撫でてくれる。


「テオは普段から魔力を落ち着かせようとしてるもん。歩いてる時、ご飯を食べてる時、ずっと魔力を意識してるよね。そういう見えないところでも頑張ってるし、さっきの戦ってる時のテオも、とってもかっこよかったもん」


 顔を上げたテトラが、俺の頭の後ろの部分を抱きしめた。

 俺の顔が、テトラの胸に埋められる。

 テトラの柔らかさと、匂いを感じた。


「テオ……疲れたね。その分、ゆっくりしよ?」


 とん、とん、と俺の背中をあやすように叩くテトラ。


「テオ、お疲れ様でした」


 少し服をはだけるテトラ。テトラの胸に顔を埋めている俺は、テトラのその部分に顔を埋めることになった。


 ……包まれている。テトラの温もりに。

 この匂いも、この熱も、昔からずっとそばにいてくれるテトラの温もりだ。


「……でも俺はまだ魔力が使えてない」


 普段から魔力を意識するように心がけようと、できなければ無意味だ。


「そんなことないよ。テオはいつも頑張り屋さんだもん」


 手ぐしで俺の髪を撫でてくれるテトラ。


「テオ……」


「テトラ……」


 見つめ合う。


「テオ、私に、甘えて? 私の胸に顔を埋めて、もっと甘えて? 私の胸はテオを受け止めるためにあるんだよ? 私もテオにいっぱい甘えてもらいたいの」


「テトラ……」


 テトラの頬がほんのりと赤くなり、熱を帯びる。

 ……俺はそんなテトラの胸に顔を埋めた。


「テオ……っ」



 ……その時だった。



「あっ」



「「あ……っ」」


 ……かすかに驚く声が聞こえてきた。そこにいたのはソフィアさんだった。


「テオ様がテトラさんの胸に顔を埋めて、甘えています……」


「「〜〜〜〜っ」」


 ……いつの間にか戻ってきてくれていたようで、ドアのところにいるソフィアさんが、真っ赤な顔で頬を紅潮させていた。

 その視線の先にあるのは、テトラの胸に顔を埋めながら、テトラに頭を撫でられている俺の姿だった……。


「わ、私の胸も必要ですか……?」


「「〜〜〜〜〜っ」」


 ……ああ……なんてことだ……。

 ソフィアさんが前かがみになり、恥ずかしそうにしながら少し服をはだけた。


「て〜〜〜お〜〜〜」


 テトラも恥ずかしそうにしながら、ジトッとした目をしていた。


「今、ソフィアちゃんのおっぱい見て、あっちの方がいいなって思ったでしょ〜〜?」


「ち、ちがーー」


 そんなテトラは少し汗ばんでいた。……微妙な雰囲気になってしまった。


 しかし、ソフィアさんはすぐに気を取り直すと、こっちにきてくれた。


 そして、


「でもテオ様がテトラさんに甘えていて、丁度よかったです。あの、もしよろしければ、今からテオ様の魔力を矯正してみませんか?」


「「矯正……?」」


「ええ。先ほど見せていただいた感じですと、テオ様の魔力は鍛錬で鍛えるのは難しいかと思われます。魔力の質の問題で、鍛錬では整えられないのです。ですので、それを解消するための矯正です。それでしたら、私でもお力になれるかもしれません。例えばこんな風に」


 バチィッ!


「い、痛い……ッ!」


 ソフィアさんが俺の体に触れた瞬間、感じたのはバチィッと弾ける痛み。


「……この感じ……」


 これは、どこかで感じたことのある痛みだ……。


 触れられた瞬間、バチィッと魔力が反発して感じる、弾けるような痛み。


 ……これは、そうだ……。あの魔導具の店の、老婆に触れられた時にも感じた痛みだ。

 あの店の老婆に触れられた時も、バチバチとした弾ける痛みを感じていた。それと同じことを、ソフィアさんは今、やってくれた。


「これが魔力の矯正です。こうすればテオ様の乱れた魔力を正すことも可能かと思われます。私は蒼龍の加護を取得しておりますので、ぜひ、テオ様のお力になりたいです」



続きが気になる。


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