表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/130

72話 魔法の剣を使うテオ

 * * * * *


 かつて、この世界は危機に瀕した時代があった。

 もう数十年も前のことになる。


 その時代には、聖女がたったの一人しか存在していなかった。


 この世界を守っている聖女。今でこそ複数いる聖女。基本的にどの時代にも、聖女は少なくとも3人ほどはいる。代わりがいるから、聖女がその身を犠牲にして、世界の危機を退けることができるのだ。


 しかし、その時代には聖女が一人しかいなかった。

 故に、魔物を退ける事も、瘴気を浄化する事も、魔族たちから人々を守る事も、困難を極めた。


 そんな時だった。


「このままではこの世界は魔に蹂躙されてしまう。だから、俺たちが立ち上がらねば」


 一人の戦士だった。

 剣術に優れている彼が立ち上がった。この世界を危機から救わんとする英雄だった。


「まったく、しょうがないね……。面倒だけど、やってやろうじゃない」


 そんな彼には志を同じくした仲間が集まった。


 魔術の真髄を覗き込んだ魔法使い。

 己の限界を超えた魔導師。

 そして、命を代償に、のちに全てを終わらせるたった一人の聖女様。


 四人だった。

 その者たちが、この世界を救おうとした。


 その結果、見事世界は救われた。


 後の四人がどうなったのかは、誰も知らない。


 噂に聞くところによると、魔法使いはどこかの街で怪しげな店を開いているそうだ。

 夜な夜なその店からは「ヒッヒッヒ……」という不気味な笑い声が聞こえてくるそうだ。


 魔導師の彼女は行方知れずとなったらしい。

 魔石の加工技術にも優れている彼女がいなくなったことは、この世界にとって大きな損失となったそうだ。


 そして、戦士の彼はその時の名前を捨てて、自分の孫の護衛として、執事服に身を包み戦い続けているだとか。


 所詮、それは噂話。



(この感じは……懐かしい)


 そして現在。

 聖女ソフィアの屋敷の庭に、一人の老人の姿があった。

 その老人は、屋敷を訪れたメテオノールという少年と向かい合うと、ふと、そんなことを思うのだった。



 * * * * * *



 手合わせは、ソフィアさんの屋敷の庭で行うことになった。

 そこは安全性にも優れていて、怪我をしても大丈夫なように、魔力による結界を張る事もできるそうだ。


「ではメテオノール様、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 俺はソフィアさんのおじい様と向かい合う。


 彼から提案してくれた手合わせ。

 願ってもない事だった。

 俺もこの屋敷に入ってから、彼の動きはずっと気になっていたし、その動き一つ一つから只者ではないと感じる。


 だから、この手合わせで、そのコツみたいなものを知りたいと思った。

 俺には、まだ何の力もない。

 魔力をバチバチと弾けさせるだけで、これだと何かあった時に心もとない。

 だから、不測の事態に備えるためにも、やれることは増やしておいた方がいいと思った。


「おじい様の武器は模擬刀です。安全性を重視して作られておりますので、ご安心ください」


「「ご主人様、頑張れー!」」


 観戦しているメモリーネとジブリールの応援する声が聞こえてくる。

 そこにはテトラとコーネリスもいて、ソフィアさんが観戦する姿もある。


「でも、だったら俺も模擬刀を使った方がいいのではないでしょうか……」


 そんな俺の手には、魔石で作った魔法の剣が握られている。


「いえ、メテオノール様は普段のままでいいかと。その方が本来の力を出せるはずです」


 目の前にいる彼が、俺の剣を見てそう言った。


 それなら、いいのかな……。


 あと、俺は魔法も使っていいとのことだった。


「我々は戦う理由も、立場も違います。ですがメテオノール様にも守りたいものがあるでしょう」


 剣を構えながら、おじいさまがそう口にした。


「だから、それをこの老人にぶつけていただきたい。まずは体を慣らすために、打ち合いをしましょうか」


 少し剣をずらす彼。

 俺も剣を構え、一発そこに剣を打ち込んだ。


 ガンッ。


「おお……これは、すごい」


 受け止めた彼は、笑みを浮かべていた。


「見た所、力を入れていないのに、この威力。その武器の使い方を熟知しておられるのですね」


 ガン、ガン、と俺は剣を打ち込んでいく。


 刃渡り50センチほどの短めの剣。

 魔石を加工して作ったこの剣は、普通の剣に比べると重さがある。

 石を削って作ってあるから、どうしても重くなってしまうのだ。

 しかも自分が使う分の剣は、純度100パーセントで作ってあるから、なおさらだ。


 この剣を使うにあたって重要なのは、重さを一撃に乗せること。


 斬るのではなく、叩き潰すように。


 ガンッ!


「……ッ」


 おじいさまが、一歩後ろに下がる。


 そこにもう一撃。


 ガンッ!


「……ッ」


 さらにもう一歩下がった。


「今のは重かった……。


 靴で地面の土が擦れ、削れる音が鳴った。


「しかし、メテオノール様は対人戦にあまり慣れていないようですね」


 打っただけで、そういうのも分かるようだ。


「それでも、この太刀筋。……やはりこれは」


 俺は少しだけ魔力を使い、振り下ろした一撃に威力を乗せた。


 ガンッ!


「テオ様……すごいです。おじい様にあんな顔をさせるなんて」


 とソフィアさんの声が聞こえる。


 見てみると、目の前にはどこか期待を込めている目をした顔があった。


 そして、互いに一歩下がり、剣を持ち直した次の瞬間だった。


「「「「う……ッ!」」」」


 刹那ーー。

 手に重い衝撃がのしかかった。


 ガキンという音が鳴り響いた。


 彼も剣を打ち込んでいた。俺の剣とぶつかり合う。

 空気が揺れる。靴が砂の地面にめり込む。

 まるで鍔迫り合いのように、剣を押し合って、タイミングを計った俺はそれを受け流して、懐に潜り込むと、下から剣を振り上げる。


「く……っ!」


「いい動きです」


 ……止められた。


 俺よりも早く動かれて、軽々と俺の剣をさばいていた。


 その目は先ほどよりも鋭いものとなり、体を慣らすための打ち合いはもう終わったのを、身に沁みて感じた。


 だから、俺も剣を裁くとともに、魔力を使用して……。


「!」


 バチッ、という音がした。


 バチバチバチッ、という音がした。


 それを肌で感じた瞬間、プツンという何かが切れたような音がして、次に感じたのが轟音だった。


 翡翠色の魔力が弾け、それを剣に纒わらせる。

 そして俺はバチバチと魔力を弾けさせたまま、剣を振り上げて、その勢いのまま上から剣を叩き込む。


「ぐ……!」


 バキンッ! とひときわ大きな音がしたものの、それは剣で止められてしまった。


「見事な一撃です。素直で、まっすぐな剣筋だ」


「く……っ」


 裏を返せば、それは読みやすい攻撃だということ。

 攻撃を受け止めた彼は、涼しい顔で俺の攻撃を受け流すのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔術の真髄を覗き込んだ~誰も知らないの部分 4人って書いてる割には3人しか描写されてない(意図的ならごめんなさい)のと1人は命犠牲にって書いてるのにどうなったか分からないって続くのはど…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ