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47話 移動ならコーネリス

 

「ご主人様! 移動なら、私に任せてよね……!」


 村に戻ることにした俺は、街の外へとやって来ていた。

 今回、頼るのは赤い髪の眷属コーネリスだ。俺の腕輪が光り、彼女が俺の前に姿を現してくれる。


「ご主人様の村はこの街からかなりの距離にあるのよね。歩いたら、数十日はかかるし、馬車でもかなりかかるのよね。でも平気よ……! だって私がいるんだもの……!」


『よ! 待ってました……!』


 腕輪を通じてテトラの合いの手が入る。


 コーネリスは空を飛べる。だから、彼女に頼めば、村までひとっ飛びしてくれるだろう。

 これで遠い場所にある村までの距離の問題は解決だ。


「それで私がワープを使ってご主人様を村にワープさせれば、もう、一瞬で村に着くわ!」


「コーネリス。ありがとう。頼りにしてるよ」


「ふ、ふんっ。しょ、しょうがないわね。で、でもご主人様のためなんだから、私も嬉しいんだからね」


 髪をいじりながら照れたように言ってくれるコーネリスの頭を、俺はそっと撫でた。


 そして、コーネリスは「すぐ行ってくるから待っててね」と言うと、赤い魔力の残滓を残しながら青い空へと浮かび上がったのだった。



 * * * * * *



 その時のコーネリスはやる気に満ち溢れていた。


「……やっとご主人様の役に立てるわ! それに、この前のお返しも、ようやくできる!」


 コーネリスは先日、ご主人様のテオに迷惑をかけてしまった。それでもご主人様は自分を受け入れてくれて、優しくしてくれた。


 そして、今も自分に大切な役割を任せてくれている。


 だから、ご主人様の力になれるのが嬉しかった。


「ご主人様……! 私、頑張るから待っててね……!」


 一番目の眷属、コーネリス。

 彼女はテオの喜ぶ顔を思い浮かべながら、村へと飛んで向かうのだった。



 * * * * * *



 その村では、今日も魔物からの防衛に村人たちが動いていた。


 テオがいなくなってから、とめどなくやってくる魔物。収まる気配はなく、魔法の武器もすでに残り僅かになっている。

 村長の息子のボンドが街まで救援を呼びに行ってくれたようだが、おそらくそれは間に合わないだろう……と村人たちは思い始めていた。


 こんな辺鄙で何もない村を守ろうなどという者はいないだろう。

 もし自分が逆の立場だったらしない。なぜならメリットがないからである。


 だからこそ、もし誰かが助けにきてくれるのなら、それはもはや奇跡だった。


 村人たちはそのかすかな奇跡を信じて、手元にある残された希望、テオの魔法の武器を手にして、懸命に足掻いていた。


『グアアアアアアアアアアア!』


「魔物がきたぞー!」


 村の外、駆けてきたのは獣のような魔物。

 黒い体毛と、尖った牙を持つ、人ほどの大きさの狼のような魔物だ。


「ぐ!」


 カキン、という音がなり、牙の猛攻が防がれる。

 それをやった村人の手には、テオが作った魔法の武器が握られている。


 その村人は魔物の腹を蹴ると、体制が崩れたその魔物に狙いを定めた。

 そしてザクリと敵の背中に剣を突き立て、痛みによって暴れる魔物に何度も何度も剣を突き立てた。


「くそ……この……!」


 必死だった。敵は強く、何度も刺したところで、ようやく敵を倒すところまでできた。


「どうにか倒せた……」


 手に残っているのは、敵を殺した時の感触。

 それに眉をひそめながらもホッとしたのもつかの間……新たな魔物がやってきた。


『ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


「お、おい……あれはグレイドキングタイガーじゃねえのか……」


「「「……ッ!?」」」


 村近くの森から歩いてきたのは、一体の魔物、グレイドキングタイガー。

 黒くて、まだら模様の、人よりもはるかにでかい体。

 牙がのぞいているその口なら、人間の一人や二人を丸呑みするのも容易いだろう。

 鋭く伸びた爪を振るえば、人間なんて容易に切り裂かれてしまうだろう。


 地に足跡を残し、歩いてくるその魔物の姿を見た瞬間、村人たちは反射的に怯え上がり、見ただけで戦意喪失するほどだった。


『ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


「「「…………」」」


 ……どうやっても勝てない。


 その魔物を一目見ただけで、すぐに分かった。


 このままだと、自分達は食い殺される。そして自分達が食い殺されれば、ここが突破されて、今度は村の住人たちがグレイドキングタイガーに食い殺されるだろう。


 戦わないといけないのは、分かっている。だけど……怯えて体が言うことを聞かなかった。


『ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』


 後ろ足で地面を蹴ったグレイドキングタイガーが、一気に襲いかかってくる。


「「「誰か……」」」


 しかし、グレイドキングタイガーは彼らには目もくれない。

 怯えている村人たちの横を素通りすると、村へと侵入した。


 その魔物は、知恵が回る魔物だったのだ。


 ……あいつらは後で喰らえばいい。


 だから今は、別の獲物を狙う。


 その時、偶然グレイドキングタイガーの目についたのは村の中にある唯一あるパン屋の店だった。


 それはアイリスが住んでいる店で、家の中にいるアイリスもその魔物が近づいていることに気づいていた。


(テオくん……テトラちゃん……)


 一人だけの薄暗い家の中、胸の前で手を握っているアイリスは目を閉じて祈った。


 ここは、自分にとって大切な場所だ。

 テオとテトラと一緒に過ごした場所。死ぬのならここで死にたい。

 幸せだった思い出とともに、死ぬなら後悔はない。


 不思議と恐怖はなかった。どうしてかは分からないけど、アイリスは落ち着いた気持ちでいた。


『ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


 そして……グレイドキングタイガーがアイリスの家に飛びかかった刹那だった。



「……業火雷撃フレイムスパーク……」



「あ……っ」



 バチィと音がした。


 少し遅れて、バチバチバチィ……ッッッ、という音がした。


 それを肌で感じた瞬間、プツンと何かが切れた音がして、バチバチバチィ……! と赤黒い魔力が窓の外を通過する。


 それが家を襲ってきていたグレイドキングタイガーを瞬く間のうちに貫いていて、跡形も残さずに消滅していた。


 その結果、アイリスの家が壊されることはなく、アイリスの命も助かることになり……。


(テオくん……?)


 アイリスはどうしてかテオの名前を呟いていて、懐かしい気持ちで窓の外に目を向けるのだった。


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