表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/130

45話 ……申し訳ございませんでした!

 

「お、おい……! おまえ……! なぜ、ここにいる!」


「!」


 ギルドで声をかけてきたのは、村長の息子ボンドだった。

 やつれたような顔をしているボンドは、驚いたように俺を指差している。


 俺も驚いた。そして俺はフードを深く被ると、俯いてこの場から離れることにした。


「おい! 無視をするな! きさまは、あの可哀想なやつ、メテオノールだろ……! 俺はボンドだ! 顔を上げて、こっちを見ろ!」


「…………」


 呼び止めるボンド。


 ……どうしてここに彼が。

 いや……すぐに察した。恐らく村のことをギルドに伝えたのは、彼、ボンドだろう。


「おい、なんだ? ギルド内であまり騒ぎを起こすな」


 ボンドの声がギルド内に響いており、みんながそれを聞いていたようだった。

 そして近くにいた冒険者の一人がこっちにやってきた。


「この街では、争いは厳禁だ。聖女様の加護があるから、住人全員に迷惑がかかるぞ」


 冒険者はボンドにそう言う。

 するとボンドは、その冒険者の言葉に「はっ」と笑い、


「なんだと? 聖女様の加護だって……? それはまた随分ご挨拶なことだ。なにより、だったら尚更、こいつに関係してくることではないか。なぜなら、こいつは『聖女殺し』なのだからな……!」


「「「……なんだと……?」」」


 ボンドの言葉に、全員が反応する。

 彼らはボンドに訝しげな顔を向けつつも、俺の方も見て眉を潜めている。


「今、あいつ、なんて言った……?」


「『聖女殺し』って言ったぜ……?」


「ああ、間違いねえ。確かにそう聞こえた……。だとすると、このままにはしておけねえ。あいつを捕まえろ……!」


「………」


 ……俺は静かに魔力を練り上げようとする。


「ははっ。やってやれ……! そして俺の足元に、そいつを跪かせるのだ……!」


 ボンドが高らかにそう告げる。


 そして、数秒後。


「ぐ、はぁ……! どうして俺がこんな目に……!」


 数人の冒険者に捕らえられていて、床に組み伏せられているボンドの姿があった。

 ギルドの床に組み伏せられたボンドは、戸惑いの表情を見せている。


「お前、この小僧、何考えてんだ……!」


「聖女殺しだなんて物騒なこと言うんじゃねえ……!」


「そうだそうだ! お前、この街でそんなこと言うなんて、大変なことになるぞ……! ジェシカちゃんが、来ても知らねえからな!」


「く、くそぉお……。くそぉぉおお……」



 ……その時だった。



「「「!」」」


 コツン、と静かな足音を立ててやってくる人の気配があった。


「ええ、そうです。聖女ソフィア様に守られている街で、聖女を蔑ろにするような言葉が聞こえました。よってあなたは、大変なことになるでしょう……」


「「「…………来た!」」」


 コツン、コツン、と足音を立ててきたのは、ギルドの受付のジェシカさんだった。

 周りの冒険者たちは、ごくりと息を飲む。


 静けさに満ちたギルドの中、ジェシカさんがあくまでも落ち着いていた。


 そして、ジェシカさんは言葉を紡ぎ始めた。


「この街で聖女様に対して不穏なことを言うのは、禁忌であり、重罪にあたります。つまり、『聖女殺し』などと言う言葉を口にした時点で、大罪になります。よってあなたにはこれから先、聖女の加護を得られる機会は皆無でしょう。そしてあなたは、苦しむことになるでしょう……」


「……!? どうしてだ!?」


「それがこの街のルールであり、決まりなのです。なのであなたには、大変なことが起きるでしょう……」


 冷静に、悟りを開いたように。

 淡々と告げるジェシカさんの言葉は、30分ほど続き……。


「……も、申し訳ございませんでした……!」


 ボンドは青い顔をして頭を下げていた。

 姿勢を正してごめんなさいをする。


「私に謝られても意味がないでしょう……。謝るのなら、テオくんに謝るべきでしょう……」


「く、くそぉおお……。くそぉぉお……」


 わなわなと震えるボンド。そして、血の涙を流すと……。


「どうも、申し訳ございませんでした……!!」


「「「ものすごく、綺麗な謝り方だ……」」」」


 ごん! と、床に頭を叩きつけて謝ったボンド。

 その姿を見た周りの冒険者たちが感嘆の声を漏らす。


 窓から差し込んだ光が、ギルド内を明るく照らしていた。



 ここは、聖女ソフィア様の加護がある街。

 彼女がいる限り、この街は平和だった。


「私……勝手に聖女ソフィア様のご威光を借りてるけど、さすがに使いすぎると怒られるかもしれないわ……」


 そして、ジェシカさんはぼそりとそう言うと、苦笑いをするのだった、


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ