19話 テトラのことに気づかれている……!?
各地にいる聖女たちが、彼女の視線を通じてついに彼の姿を確認した。
「「「あっ、テオくんだ……!」」」
それは彼女たちにとって、密かに楽しみにしていた、羨ましくも待ちわびた嬉しいひと時だった。
* * * * * *
『戦うテオ、やっぱりかっこいいぃ……!』
腕輪の宝石の中から、テトラの明るい声が聞こえてくる。
俺は土煙が巻き起こる草原に立って、周りの様子を確認した。
ひとまず、魔物は全部倒せたみたいだ。
土煙の外を見てみると、そこにいるのは二人の人物。どちらも怪我はしていないように見える。
それなら、あとは大丈夫なはず。
俺は土煙に紛れて、この場を後にすることにした。
……しかし、
「お待ちください」
「あ……」
その時、不意に握られた手。
風が吹き、土煙が晴れて、隠れていた姿が露わになる。
一人の少女が俺のそばにいた。その子は、白いドレスに身を包んでいる金色の髪の女の子だった。
金色のその髪は丁寧に編み込まれていて、背中まで伸びている。
どこか上品さがある子で、どうしてかほんの微かにテトラに似た魔力のようなものを感じた。
「やはり、あなた様は……」
俺の顔を見て、青い瞳を一度大きく揺らす彼女。
その彼女の手は、細く、か細い手。
彼女はゆっくりと手を離すと、今度は改めて両手で俺の手を握り直してきた。
握られている手は、ひんやりとしていた。彼女は包み込むように俺の手に触れている。
「あの、お待ちください。先ほどはあなたがお助けしてくださったのですよね」
彼女はそう言うと、「突然、申し訳ございませんでした」と言って、ゆっくりと手を離し、ドレスの端を少しつまんで綺麗な礼をした。
「この度は助けてくださりありがとうございました。私はソフィアと申します。こちらは私のおじい様です」
その隣には齢60代程の男性が控えており、紳士的な礼をしてくれた。
「……いえ……。お怪我はございませんでしたでしょうか……」
「はい。おかげさまで、この通りです。……それと、先ほどは大変申し訳御座いませんでした。こちらのせいで、あなた様を巻き込んでしまうところでした」
恐らく、魔物に襲われながら馬車で移動をしていたことを言っているのだろう。
あれは……別に故意ではないだろうし、魔物が蔓延るこの世界ではよくあることだと思う。
それに俺は見た。馬車が近づいてきていた時に、彼女達が進路を変えようとしていたのを。
……おそらく俺たちを巻き込まないようにしてくれたんだと思う。
『テオ、この子は優しい子だと思うよ』
腕輪の中で、テトラのそんな声が聞こえてきた。
『聖女の力を使って確認して見ると、この子の心が透明なのが分かるの』
テトラと共有し、俺も見てみる。
彼女のことを、包んでいるのは透明な光。それが優しげな雰囲気を宿している。
「私からも謝罪をさせて頂きたく思います、この度は大変申し訳ございませんでした」
彼女の隣にいた60代程の男性が、深々と頭を下げた。
「い、いえ……。こちらも無事でしたので、お気になさらないでください……」
「……あなた様に最大の感謝を」
「本当に申し訳ございませんでした……。そしてありがとうございました」
二人は深々と頭を下げる。日の光が差し込み、彼女の髪が黄金色に眩く輝いていた。
そして彼女は頬を少しだけ染めて、表情を柔らかくした。
「あなた様は、本当にお優しい方ですね……」
それは小さな呟きだった。
「あなた様は、心が綺麗な方です……」
その瞳はこちらに向けられていた。
……だけど、その瞳を見ていると心が締め付けられそうだった。
もし、本当に優しい人なら、あの時、すぐに馬車を助けるはずだ。
……だけど俺は違った。魔物に襲われている馬車を見て、ためらっていた。
……優しくなんてないし、薄情者だと思われてもおかしくはない。
……お礼を言われる資格もないと思う。
『テオ……』
腕輪の中で、テトラの声が聞こえた。
……だめだ……。考えてることが腕輪を通じて伝わるんだ……。
俺は腕輪の宝石を撫でて、気持ちを落ち着ける。
「やはり彼はお優しい方ですね……。私たちはその優しさに救われました」
「ええ、大変紳士的な方でもあります。お嬢様がすでに心を開いているのも納得の方です」
彼女は穏やかな瞳でこちらを見ていた。蒼い瞳が優しげに揺れていた。
* * * * * *
ともかく、二人は無事のようだった。
そしてここで先ほど逃げていた馬が戻ってきたようだった。
「お嬢様、では私は馬車の方の確認を」
「おじい様、お願いね」
彼は俺の方に一礼して「失礼します」と言うと、背を向けて馬車の方へと向かった。
残されたのは俺と彼女の二人だけ。
彼女は俺の顔を見ると、ずっと顔を綻ばせていた。
「あっ、そういえばまだお名前をお聞きしておりませんでしたね。もしよろしければ、あなた様のお名前をお聞かせいただけないでしょうか?」
「名前……」
彼女が優しげな微笑みを浮かべながら、伺うように聞いてくる。
『テオ、普通に名乗っても大丈夫だと思うよ』
腕輪を通じて、テトラの声が聞こえてきた。
『あっ、それとね、テオは女の子と喋るときに少し緊張するよね、ふふっ。テオのそういうところも私は、好きだよっ』
そんな声まで聞こえてきた。
とりあえず俺は名乗ることにした。
「め、メテオノールと申します……」
「まあ、素敵なお名前っ。ではメテオノール様と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい……」
「ありがとうございます。私のことは是非、ソフィアとお呼びください」
彼女が俺の手を握り、顔を綻ばせるように言ってくれる。
そうして俺は彼女と向かい合い、少し会話を交わすことになった。
だけど、なんだろう……この感じ……。
彼女からは、どこか言葉にできないものを感じる……。
やっぱりテトラに似ているような……だけどそれとも違うような……そんな感じだ。
上品な言葉遣いに、丁寧な仕草。彼女の口から紡がれる言葉一つ一つから、どこか儚げな感情も伝わってくるかのようで……。
彼女はずっと俺の目を見ていた。その瞳からは、静かなものを感じた。
「私たちは現在、街に移動していましたの。そしたら魔物に襲われてしまい、こうなってしまいましたの」
「……そ、そうでしたか……。それは……災難で……」
「はいっ。ですがメテオノール様のおかげで、助かることができました。本当に感謝してもしたりません。それでメテオノール様も今は街に向かっている最中なのでしょうか?」
「……はい……。……そうなっております……」
「まあっ、やはりそうだったのですか。でもここから徒歩で街に向かうのは、少し距離がありますわよね」
「は、はい……」
俺は頷いた。
だいぶ歩いたと思うけど、まだ少しかかるはずだ。
すると彼女は、ハッとしたように手を合わせると、嬉しそうな顔をしてこんな提案をしてくれた。
「でしたらメテオノール様。是非、私たちの馬車にご一緒してくださいませんか……?」
「馬車に……」
「ええ、ご迷惑をおかけしてそのままではやはり心苦しいですし、もし嫌でなければ馬車で街までご一緒できればと思います」
それは……ありがたい話だった。
だけど、申し訳なくもある……。
迷惑がかからないか心配だし……断った方がいいかとも思ったのだが……。
「……本音では、もし魔物が出たとしてもメテオノール様がいれば安心できると思ってもおりまして……ご迷惑をおかけした身でこんなことを頼むなど、厚かましいとは思いますがーー」
「あ、いえ、そんなことは決して……」
「ふふっ、やはりメテオノール様はお優しい方なのですね。先ほどから、とても気遣ってくれます……。本当に素敵な方です……」
彼女が顔を綻ばせて微笑んだ。
「お嬢様、馬車の修理が終わりました」
「おじい様、ありがとう。これで出発の準備は整いました。それでメテオノール様……どうでしょうか……? だめ、ですか……?」
少しだけ首を傾げた彼女が、揺れる蒼い瞳を向けてくる。
まるで祈るような瞳をしていた。
『私はいいと思うの。その子は心が澄んでるから、危なくもないと思うの』
腕輪を通じて、テトラが賛成をする。
そして俺も改めて考えを纏めていると……彼女は俺の腕輪を見てこんなことも言った。
「もちろん、そちらの彼女もご一緒にです。お二人と是非ご一緒させていただきたいです。ね、テトラさん」
「『!?』」
……テトラのことに気づいている……!?
「ふふっ」
ソフィアさんはまるでいたずらが成功したかのように、穏やかに微笑むのだった。
次回は一話だけ、間話を挟んで、街に行く予定になります。
続きが気になる。
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