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10話 聖女殺しの禁断の夜 ⑵

 

『神の審判によって、悪しきを滅せよ。『ジャッジメントスティグマタ』』


「ぐ……!」


 空気が振動し、夜の森が揺れる。

 虫の鳴き声も消えると同時に、テトラの張っている障壁に光がぶつかった。


 テトラは手を前に出し、それを防いでいた。

 そしてテトラの体が光り、神父が放っていたその光が弾き返された。


『なに……!?』


「神よ、光よ、その清らかなマナをお貸しください。『ホーリ・レア・レクリミール』」


 その瞬間、テトラから黄金の魔力が放たれる。


 それが瞬く間に、神父めがけて飛んでいく。


 神父は障壁を張り、耐えようとするも、無理だと悟ったのか、手に持っていた杖でそれを防ぎつつ、防げなかったものを身を屈めて躱していた。


『……それほどの力がありながら、教会の意に反するとは……。だが、所詮はまだ未熟なものよ。長年神に仕えし私には勝てぬ』


 杖で弾きながらも、神父が吐き捨てる。

 テトラは躱すその神父を狙い、黄金の光を放っていく。


 ……と、その時だった。


「テトラ! 危ない……!」


「……っ。う……!?」


 その刹那、俺たちの上を槍が通過していた。

 俺はテトラを抱きしめ、それを避ける。

 チラリと見ると、背後には杖に仕込んでいた刃物を突き出す神父の姿。


『勘のいい少年よ。あのまま受けておれば、聖女様を大人しくできたものを』


 そして神父が刃物を仕込んでいた杖を回転させ、俺たちに向かって振り下ろそうとしている。


『即死以外なら、たとえ聖女様が傷ついたとしても、治癒できる。だから、お主はその礎となって命を散らせ』


「テオ……!」


「……大丈夫」


 俺はテトラを強く抱きしめつつ、腰に差してあった剣で攻撃を防いだ。


『小癪な……!』


 そのまま俺はテトラの前に立って、神父と相対する。


「この刃を受け止めるほどのものが、あの村にあったとは驚きですね」


 神父が俺の手にある剣を見た。


『それはもしや、自作の剣ですか……? 聞きましたよ、メテオノールくん。あなたは魔石の加工に優れているだとか。それも彼女と暮らすために、貧しいながらも身につけた技術なのだとか。涙ぐましい努力の末に習得した技能に感服です。しかし、その才能は惜しいです。是非とも、私のために獲物を作ってほしいですね』


 仕込み杖が突き出される。俺はそれを剣で弾き、わざと刀身の脆い部分で受けた。


 その結果、受けた部分にヒビが入り……


『……もしや!』


 次の瞬間、刀身が木っ端微塵に砕け、その破片が撒き散らされると共に、爆発が巻き起こった。


『ぐ、ぐああああああああああああ!』


 炎に飲み込まれる神父。


「テトラ、今のうちに」


「……! うん!」


 俺はテトラの手を引いて、燃え盛る神父を見ながら走り出す。


 さっきのは、魔石に宿る魔力を利用した魔法だ。

 俺の使っていた剣は魔石で造った魔法の剣。それが砕かれたとき、あらかじめ刻んでいた魔法陣が発動し、その力が発揮され、火などの魔石に合った力を解放することができるのだ。


 俺には、これぐらいしかできない。

 ……いいや、もう一個できることも増えている。


「スキル……発動」


『ぐ、ぐああああああああああああ!』


 先ほど砕かれた魔石の破片を代償に、俺はスキルを発動。

 その瞬間、破片が炎の光に変化して、追い打ちをかけた。


「テオ……すごい……! かっこいい……!」


 目を輝かせて驚いているテトラ。


『こ、この身を、癒しの力で包みこめ……ヒール』


 背後で光る、燃えていた神父の体。


『く………聖女様のみならず、薄汚れた小僧までもが……。実に嘆かわしい……』



 * * * * * *



 暗い森の中を、背後に警戒しながら走っていく。

 追って来ている神父が魔法を放ってくるけど、テトラが障壁で防いでくれている。


 俺も魔石を代償にスキルを発動し、足止めをし続けていた。


 とにかく今は森の外に出ないと不利だ。

 見知った森の中はこっちの方が優勢だったらいいものの、神父にとっては意味を成すことはない。


 木に隠れようとしても、その木ごと光りで貫いてくる。

 どちらにしても森を抜け、広い場所に出た方が、こっちも動きやすいはずだ。


「……でも、このままだと振り払えないかもしれない」


 テトラが背後を確認しながら、渋い顔をしている。


「それに、攻撃の衝撃が強くなってきてる……」


 それは障壁越しに伝わってきていた。

 徐々に、徐々に、追い詰められているのを感じる。


「……こうなったら、もう……」


 一瞬見えた、何かを覚悟したようなテトラの顔。

 だけど、それを確認するよりも先に、俺たちの前には新たに立ち塞がる影があった。


『皆のもの、神の意に反するその二人を捉えよ……!』


「「……ッ」」


 立ち塞がったのは教会の格好をした数人の者たちの姿。


 夜の森に紛れるように、杖を持って、進路を塞いでいる。

 神父の指示にその杖をこちらに向けていて、その先端に魔力が集っているのが見て取れる。


『せ、聖女様、どうかお止まりください……』


 警告する教会の人達。

 しかし、その声には同時に迷いがあるのも分かった。

 俺たちに杖を向けてはいるものの、神父の方を見て、悩むような顔をしている。


 ……そして彼らは言う。


『神父様……。やはり、聖女様に杖を向けるのは、神のご意向とは真逆なのでは……』


 同様に、そばにいた者たちも同じようにためらっているように見える。


『……それに教会の教えにはこうあります……。聖女が見つかりし時、その少女の意思を尊重すべし、と。決して教会の意を強いてはいけない……と』


『いいえ、聖女様を教会へと導くことこそ、神のご意向です。それを捻じ曲げているのは、聖女様の隣にいる少年です。この村の長からも、そう聞き及んでいるはずです』


『で、ですが……』


 神父の言葉を受けても、テトラの姿を見ると思いとどまる教会の人達。


 そんな彼らに、テトラが言葉をかける。


 優しい声で、諭すような声音で……、


「敬虔なる神の信徒よ。聖女テトラが問います。神父の言葉と聖女の言葉、どちらが神の言葉に近しいでしょう」


『『『せ、聖女様……』』』


「私はまだ聖女の力を啓示されたばかりの、未熟者かもしれません。しかし、神の御意志を私は直接承りました。神はこう言っておられます。今はまだその時ではない……と」


『『『!』』』


「なにより、その聖女であるこの身を、教会へと無理矢理いざなおうとする神父のどこに神の意志があるでしょう。私はそれを望んではいません。神も同じように望んではおりません。ーー神は言っております。この横暴は神の意志ではないとーー」


『『『!』』』


 そしてテトラが落ち着いた声で告げる。


「それに、あなたたちも、今の教会に対して少なからず疑念を感じたことはないでしょうか……?」


『『『…………!』』』


 その言葉に、杖を下ろす教会の人達。


『いけません……!』


『しかし、神父様……』


『いけません……! 神の意向を捻じ曲げて振りかざす彼女の言葉に耳を傾けてはダメです……!』


『しかし、神父様……。神の意志を言葉にしてくださるのが聖女様ではないのでしょうか……』


『たわごとを……!』


『我々は村に滞在している間に見ました。聖女様の体調がお優れにならなかった啓示の日に、聖女様がそこの少年のみに救いを求めたのを』


『それは、迷いです……!』


『しかし、かの少年は、村では決して良い扱いを受けていないのも、見てとれました。それでも、幼き頃より聖女様を救った。今日までその身で彼女のために尽くした。彼女のために毎日食事も用意し、自分のことよりも彼女のことを優先させていた。それは何よりもの奉仕ではないのでしょうか』


『間違ってます……! それは悪しき考えです……! 惑わされてはだめなのです……!』


『しかし、私には分からないのです……。今の神父様の行いと、少年と聖女様の行いを拝見して、どちらが正しいのかということが……。だからこそ、聖女様の御意志を尊重するべきではないでしょうか……』


 その言葉に、他の者たちもうつむき、杖を地面に置いた。


 テトラの言葉が届いたのだ。


 しかし同時に神父が杖をかざして唱えた。


『……眠りなさい……』


『『『ぐ……っ』』』


 くずおれる教会の人達。

 そのまま力を失ったように地面に倒れ、動かなくなる。


『……あなたたちは、少し混乱しているようだ。安らかに眠りなさい』


 命までは奪ってはいない。ただ眠らされているだけのようだ。


 その間に俺たちはここから離れようとしたものの、神父が杖を薙ぎ払うと、俺たちを囲むように炎が展開されていた。

 それは逃げ場を塞ぐような炎で、森の中に炎の円ができる。

 つまり、退路が断たれてしまって、逃げられない。


『さて、ではそろそろ大人しくしていただくとしましょうか』


 神父が笑みを浮かべながら、ゆっくりと俺たちに近づいてくる。


「……テトラ、俺の後ろに……」


「ううん、テオ、私に任せて」


 ごめんね。


 そう言うと、テトラが微笑み俺の前に立つ。

 その手には純白に透き通っている石が握られていて、テトラは神父にそれを向けて告げた。


『そ、それは……』


「それ以上、近づかないでください。近づいたら、私はこれを砕きます。そうなったら、困るのはあなたのはずです。だって、教会の制約を破ってしまいますものね。……ねえ、神に仕える、神父様?」


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