古びたもの一つ
初投稿です。文才も糞もないですが、最初はこういう短編中心に動いていこうと思います。しばらくは暇ですから、のんびりと書いていきます。よろしくお願いいたします。
祖父母の家に行った時だ。なんの観光名所もない片田舎だが、それがいつもの気を張っていた心を緩め、つい惰性に暮らそうとしてしまう。2階は物置と化していて、卓球台が部屋のほとんどを占めている。長らく使われておらず、緑色が黒ずんで何とも不気味な雰囲気だったのを覚えている。部屋の輪郭に沿うように本棚が設置されており、その棚の上には人形や他様々なものが置かれていた。皆古びてしまった物ばかりだが、一本のギターが目に入ってきた。
ご多分に漏れず、少し黒ずんで、ほこりをかぶっている。もしも綺麗なままなら、其れは洗い立てのシーツのような優しい白色だったのだろう。ナイロン弦は少したるんでいる。指をかけて弾いてみる。ナイロン特有の柔らかい質感とそこから出される柔らかい音は、劣化など毛頭知らぬと言わんばかりの楽器としての矜持を見たような気もした。私がこの白いギターに目を奪われたのがこのためだろうか。自分はギターなのだと、そういった楽器自身の強い意志が私の目を引き付けたのか。それとも、画面越しにしか見たことがなかった楽器に物珍しく思っただけなのだろうか。どちらにしろ、黒ずんだ部屋の中でそのギターは何よりも綺麗だった。白かった。新しかった。
楽器など、鍵盤ハーモニカとリコーダーしか触ったことがない。楽譜も線を数えて読むのが精一杯だった。それでも私はこの白いギターに触れたいと思った。画面越しに見たように座って構えてみる。右の下腹部に少し痛みが走った。白いギターの裏は、その本体が割れて気が棘のようになっていた。その瞬間、ナイロンの弦が切れた。矜持が崩れてしまったのだろうか。すぐに弦の切れたギターは部屋に馴染んでしまった。