短編 腹黒王子の嫌がらせ
結婚式に花嫁に逃げられた王様のいる国が今歴史に刻まれた。
「やられましたね」
銀髪の少女は彼女たちが今は消えてしまったあともしばらく手を降ったあと、そう言って私に向かって微笑んだ。
「ここまで、私が本気を出すことはこれからの人生でないと思うよ」
私は、そう答えて、眼下に見える興奮した様子の民衆を見る。言い訳が思いつかない。大々的に婚姻の発表をしておいて、その花嫁に逃げられるなんて、しかも逃避行をした相手がその少女の騎士で、主従で、なんともまあ、民衆の喜びそうなネタだった。
私は、対応をポワチエに丸投げすると、正装姿のまま、執務室へと引きこもった。
次の日の朝刊、紙面の一面を飾った文面は、
『赤髪の花嫁、リトリアの英雄と逃避行』
だった。私は小さくため息をつくと、紙面を要約して読んだ。
「王都の民衆は、結婚式で花嫁に逃げられた国王に同情しながらも、古い英雄譚にありそうな話に心を踊らせたのであったね」
思わず自虐的な笑みを浮かべると、執務室の扉が控えめに叩かれた。
「フィンでございます」
昨日、領主が不在になったピレネーの臨時領主に任命したフィンがやってきていた。
「入れ」
そう呼びかけると、白い正装を装ったフィンが入ってきた。
「王都は例の話題で持ち切りですが、国王陛下の求心力は健在でございます」
軽く市政を見てきたのだろう、フィンは少し嬉しそうな顔をしてそう報告してきた。元々アルデンヌ家に使えていたとはいえ、私は少し面白くなかった。まあ国王という立場だと私情を挟むこともできないのだが。
「それで、ひとつ今後の王国運営に関わる提案をしたいのですが、聞いてもらってもいいでしょうか?」
「それで、私に直接意見か?」
「私は今でこそ領主代理というお役目を頂いておりますが、もともと平民でございます。こうして直接伝えなければ途中でもみ消されるかもしれません」
フィンの正直な言葉に私は思わず笑ってしまった。あの港の作戦もそうだが、フィンの作戦はどこかおかしく、それでいて効果的なので私は結構好きだった。
「そうか、言ってみろ」
そう言って、許可を出すと、フィンは語り始めた。
「そうか、あの二人を利用してピレネーを聖地とした巨人教として打ち立てるということか、たしかに我が国では国教を定めているわけでもなくその地域ごとに信仰があるくらいだから、国教として定めれば、布教は容易だし、両国を一つにする政策としても効果的だな」
口ではそう論理的に言ったが、正直、私はあのスグルとルルにちょっとした嫌がらせのつもりも込めて、採用することに決めた。
国王に私情は挟めないと言ったが、今回ばかりは私は自分を見逃すことに決めた。
願わくば、彼女らが帰ってくることがあれば、その事実にちょっとした赤面をすることに期待して。
お久しぶりです。本日から新作投稿始めます。
作者欄から
男子高校生、美少女VTuberになる。
というタイトルです。
ぜひ読んでみてください。
それと、こちらの作品も年に数回ほど短編を公開できればと考えてます。引き続きよろしくおねがいします。




