最終話 巨人の消失~そしてそれは伝説に~
「これはどういうことですか!?」
広場で大々的に発表されたルルのベルデ王国女王即位の知らせとリトリア王チャールズとの婚姻。人の目のある広場では流石に抗議することもできなかったので結婚衣装の着替えのためという名目で城郭の中にある庭にスグルとともに連れて来られたルルはそう言ってポワチエに詰め寄っていた。
「ルルや、お前には悪いとは思うが、儂はは今後の国のためには国王様に協力したほうがいいと判断したんじゃ」
ポワチエにも申し訳ない気持ちがあるのだろう。ルルとは目線を合わせないようにそう答える。
そんなやり取りをしていると、不意にポワチエの視線が建物の方を向いた。ルルが釣られてそちらを見ると、庭にきれいな銀髪をキラリと輝かせながら、チャールズその人がやってきたのが瞳に映る。
「チャールズ様! これはどういうことですか!?」
ルルはすぐに詰め寄ると、先程と同じ質問をチャールズにした。
「ルル、この国は今疲弊している。君にも説明したはずだろう? 今この国、いやこの島は大陸からの危機にさらされているんだ。それに対処するためにはこの両国をまとめるしかない。そのためだよ。だから、ベルデ王は戦争を起こしたし、私は君と結婚して連合王国にするという選択をしただけさ」
ルルはそのそれが当然というチャールズの声に彼の本気を悟った。
「それに、ここで婚約発表を破棄にしてみるかい? 国名がなくなるのを君との婚姻と連合王国という形で納得させたベルデ王国側はまた戦争を起こすかもしれないよ?」
チャールズが脅すようにそう言うと、ルルはそれは、と声を荒げる。
「そんなの、宰相とかを定めて、お兄様なんかを据えれば済む話じゃないの?」
「確かにそれでもいいかもしれないね。権力を分けるのはあまり好ましくないけど君のお兄さんなら十分その役目が果たせるだろうね」
「それなら!」
ルルがそう言うと、チャールズは遮るように言う。
「だけど、忘れたのかい? 私はルル、君に恋をしているんだ。君を手に入れたい。どんな汚い手を使っても」
その言葉にルルが助けを求めるようにスグルを見るけども、スグルは何も言うことができなかった。
強引に着付け師にウエディングドレスを着せられたルルは、そのまま王城のテラスにつれてこられていた。
スグルとフィンは関係者席に案内されて見上げるように並び立つタキシード姿のチャールズと純白のウエディングドレスを纏うルルを眺める。
「スグル! 本当にこんな結果でいいのかい?」
フィンは、放心したようにただ眺めるスグルにそう問いかけた。
「僕のこの大きな手よりも王様のルルと同じ小さな手のほうがいいのかもしれない。だって僕の体じゃルルを抱きしてあげることもできないし、きっと子供も作れない。ルルはきっと子供が好きだよ。それに、相手は王様なんだ。逆らえないよ」
スグルが情けない声でそう言うと、フィンは呆れたように言った。
「スグル、君が忘れているのか知らないけど、君みたいに大きな体も身分もないのに、王様に逆らってルルに求婚した男を知っているよ。そしてその男は君を親友と認めて、恋のライバルと認めていたのも知ってるよ」
フィンがそう言うと、スグルは呆けた顔をもう一度、ルルの方へ向ける。
その時だった。スグルの体に異変が起きたのは
「スグル、君の体が!」
フィンは、そう言ってスグルの体を指差す。
その大きな声に周囲の人々もスグルの異変に気づきだした。
「巨人様の体が透けてる!」
スグルの体は今にも消えそうに半透明になっていた。
その現象に、スグルは自分の運命を悟った。
「きっと、僕はこの戦争を終らせるためにこの世界に来たんだ」
スグルがそう悟った顔でそう言うと、ルルの方を見る。
「すごいカッコ悪いけど、こうやって追い詰められて初めて僕は君にちゃんと気持ちを伝えられる」
ルルが立ち上がってテラスの手すりから体を大きく出しながら叫ぶように言う。
「スグル行かないで!」
「ルル、僕は、君が好きだーーーーーーーーーー!!」
スグルの告白にルルは目いっぱいに涙をためながら答える。
「私も、私もスグルが好き。一緒にいたい!」
会場はもう既にパニック状態で、結婚式はとてもじゃないが進められる状況ではなくなっていた。
「ルル、君はすでにベルデ王国の女王で……」
チャールズがそう言ってルルを諌めようとすると、ルルはテラスの端にいる実兄であるギーシュの方を見る。
「お兄様!」
「承った! ルル、兄から最後の言葉を伝えるとするならば、二人で幸せになれ!」
それだけ聞いて、大きくうなずくと、ルルは助走をつけようと、一旦テラスの手すりから離れようとした。そしてそのルルの腕をつかもうとしたチャールズとの間にはギーシュが立った。
「ごめんね。最愛の妹の頼みなんだ」
「ルル!」
チャールズの静止も虚しくルルはウエディングドレスの裾を引きちぎると勢いよく駆け出した。
その様子を見た広場の観衆が悲鳴を上げる。
スグルは慌てて駆け出してルルの着地点に飛び込んだ。
「「「キャー!」」」
スグルの胸に飛び込むように飛び込んだルルは怪我もなく、次の瞬間には地面の上にいた。自分と同じサイズをした黒髪の少年を下敷きにして。
「きゃ、大丈夫?」
ルルはすぐにそこから退いて下敷きにしていた黒髪の少年を突く。しかし、自分を受け止めたはずのスグルが見当たらないことに気づくとすぐに取り乱したように
「スグル! 一人で行かないでよ!」
すると、もぞもぞと黒髪の少年が動き出し、ルルの体を抱きしめた。
「ずっとこんな風にルルを抱きしめたかった」
その言葉にルルは驚いた顔をしてその少年の顔を見た。
「スグル……なの?」
「うん、ルル同じ大きさで見るともっと綺麗に見える。ウエディングドレスだし」
地面と擦れたり、裾を破ったりして散々な扱いを受けたウエディングドレスだったがそれでもそれを纏うルルはとても綺麗だった。
「もう、」
ルルはそう言って照れたように頬を染めると、スグルに口づけした。
「!??」
スグルが驚いた様子でいると、
「私も連れて行きなさい!」
体が縮んでも透明化の止まらないスグルと再び抱擁を交わす。
「僕、どうやるのか分からないよ!」
スグルがそういうと、スグルとルルに聞こえるくらいの小さな声が聞こえた。
『仕方ないね』
場の混乱が、収まることを知らないように増幅している中、二人には馴染みの声がテラスの上から聞こえてきた。
「いってらっしゃい!」
脇が見えそうになっても気にしないで銀髪の少女、リリーは少し寂しさを滲ませた笑顔で二人に向けて手を降った。
「「行ってきます!」」
二人の返事とともに二人の姿はリトリアから消えた。
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それは温かい水の中に体が浮いている感覚だった。
「スグル、よく頑張ってくれたよ。これであの両国は一つになれたし、大陸から侵略を受けることもなくなった」
頭の中に響くようなその声を疑問にも思わずにスグルは質問した。
「あのあと、リトリアはどうなったの?」
スグルがそう尋ねるとその声は何が面白いのか大きな声で笑いながら答える。
「スグル、君常日頃からルルを聖女として祭り上げていたよね?」
質問に質問を返されたので、スグルは困惑しながらも答える。
「だってルルはすこぶる聖女じゃない?」
スグルがまた質問で返すと、その声はごめんごめんと言いながら答えた。
「それが答えなんだよ。巨人と聖女。さも物語になりそうな題材だろ? リトリア国教として巨人教という宗教ができたんだ。それが大陸でも信仰されるようになってリトリアは聖地として不可侵の地となったわけさ。もちろん、人工守り石や、北の地の技術力が背景になったのも理由としてあるけどね。そうそう、それにそれを進めたのが国王チャールズとフィンなのが面白い所なんだ。民衆は主従のこんな話が大好きだろう? 国民の前で大々的に振られた形になった王様はこうなったらとことん利用してやろうとしたみたいだね」
謎の声がそう言うと、スグルも笑いながら
「それは笑っちゃうわけだ」
そう答えた。
「総主教がベンで、その補佐にフェリス、リトリアの中でもピレネーは聖地として定められて大聖堂が建設されるんだぜ」
補足するように謎の声がいうと、そういえばとスグルが更に質問をする。
「僕を問題を解決するために次の場所に送り込むようだけど、次は僕小人になるってことだよね」
なんとなくガリバー旅行記に沿って事態が動いている気がしたのでスグルはそう尋ねた。
「大正解」
「ルルも一緒なんだよね?」
「本当は一緒じゃない予定だったけど、ご褒美だぞ」
謎の声がそう言うと、スグルは安心したようにうなずく。
「そしてこっちはもともとの予定通りではあるんだけど、先に送り込まれている協力者がいるから」
謎の声がそう言うと、スグルはまさかというようにその人物の名前を呼ぶ。
「ギル?」
謎の声はそれが答えだと言うようにただ鼻歌を歌いながら、
「じゃ、次も頑張って!」
そう言った。
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スグルが目を覚まして身を捩るとそこは柔らかくて温かい場所だった。微かにナニカに挟まれているようで心地よい弾力が全身を包んでいる。その心地よさに思わず二度寝しようとすると、そのナニカは
「んッ」
と悩ましい声を上げて動いた。
スグルはその正体に気づいたのかそのなにかを起こさないように脱出を試みはじめた。
しかし、悲しいかなスグルが脱出しようと体を動かすほど、そのナニカの目覚めが早くなるのだった。
ルルは目を覚ますと、眠る前のことを思い出して自分と一緒に消えたスグルのことを探した。そしてやっとおんなじ大きさで抱きしめあってキスまでしたことを思い出して頬を真っ赤に染めて身を捩った。
「何かしら?」
身を捩ると何かが胸のところでもぞもぞと動いた感触をルルは感じた。
手を胸元に入れてそのもぞもぞ動く物体をつまみ出すと、ルルの頬は別の意味で真っ赤に染まった。
「おはよう! ルル!」
清々しいほどの笑顔で小さなその手を降るスグルを見て、
「おはよう、スグル。それでなぜ私の胸にいたの? わざわざ体を縮ませて」
「目が覚めたらそこにいたんだ」
「それはよく眠れたでしょうね」
「ええ、それはもう、柔らかくて、平だったんで」
スグルは思わず、本音で言ってしまった。言ってしまった!
「このバカーーーーーー!」
ルルは掴んでいたスグルを比喩なしにぶん投げた!
「あんの謎の声め! なんで体を大きさをルルと同じに変えたあとに今度は小さくしたんだよ! ルルと同じ大きさでいいじゃないか!」
小さくなったスグルの声は誰にも聞こえることは無かった。
どうやら、スグルとルルの体の大きさはまた、別々になってしまったようであった。
完
2年間ありがとうございました!!
完結まで書ききれたのはブクマしてくれた方や最新話までPVを入れてくださった方の存在があったからです。
底辺作家として本当に励みになりました……。
タイトルの通りこの作品は巨人を題材にしてますのでここで完結となります。続きがあるような終わり方ですが、今後の展開については今の所は読者様の想像にお任せとなってしまいます。
さて、次作についてですが、こちらの作品にて短編の投稿とともにお知らせしようと思いますのでブクマはそのままにしてくれると嬉しいです。ついでに完結記念として評価や感想なんかを入れてくれると次作のモチベに繋がるのでぜひお願いします。
最後にもう一度、2年間ありがとうございました!!




