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92話 腹黒王の終戦宣言

 戦争が終わり、リトリア王国にはどこかのんびりした空気が流れていた。

 もともとリトリア王国とベルデ王国には国交があり、戦争前も戦争中も兄弟がそれぞれ別の国で暮らしているという状況が珍しくもなかったくらいであるので戦争が終われば、一旦は生まれた憎しみが収まるのも当然のことかもしれなかった。

 リトリア王国の爆弾不使用。ベルデ王国の終戦受け入れ。少なくない選択が両国の再びの関係改善を生んでいた。

 そして、戦争から一ヶ月、ついに今日になって戦争責任と戦後処理で両国が合意した内容が全国民に向けて発表される見通しとなっていた。



「しかし、あんな戦争があったのに王都中でお祭り騒ぎみたいになっていますね」


 スグルの左肩に乗っているフィンは喧騒で溢れている王都の町並みを見ながらそう言った。


「まあ、実質的にリトリア王国は戦勝国ではあるから仕方ないのかもね」


 正式に王都で執り行われる終戦宣言式典に正式な招待客として招かれているルルはスグルの右肩で足をふらつかせながらそう答えた。

 戦争の英雄であるルルとスグルであったので先程からの喧騒の中にはルルとスグルへの喝采の声が少なくなかった。


「いや、照れちゃうよね。こんなに色々言われると」


 スグルは喝采の声に答えるようにデレデレに緩んだ顔を下町娘に向けながら小さくてを振り返している。


「ばーか」


 ルルが小さくそう言うと、スグルはニコニコしながら


「こんなにモテモテだと困っちゃうよ」


 そんな言葉を返す。


「はあ」


「そういえば、ルルはどんな発表があるのか聞かされているの?」


 スグルが思い出したようにルルに尋ねると、ルルもしらないというように首を振る。


「さあ? ポワチエおじさまにも聞いたけど、当日まで待てとしか教えてくれなかったもの。チャールズ様は忙しくて連絡もままならないようだったし」


 スグルはこの一ヶ月のことを思い出しながらうなずいた。スグルですら、スミスと息子であるトビアスの再会のために北の地とピレネーを行き来したり領地の復興と新たな領民受け入れのためにあちこち回って忙しかった。終戦交渉に取り組んでいるチャールズであればそれの比ではないくらいに忙しいのだろう。


「国家の最重要事項ですから我々が知る術はないですね」


 戦争の英雄とは言えども所詮は一領主、フィンの指摘は当然だった。



 王城についたルルたちはすぐに正門から通されると、国の行事などで開放される広場に案内された。

 広場を見渡すようにそびえている王城のテラスにはすでに国王チャールズに前王レオナルド、王国騎士団長ヴィルヘルム。ベルデ王国からはベルデ国王ロリスと、実質的に現在のベルデ王国の統治者であるポワチエがいた。

 ポワチエがスグルの巨体に気づいてこちらを見るとすぐに肩に乗った赤髪のルルを見て笑顔に向けながら手を振った。

 すでに会場にいて王城のテラスを見ていた観衆もその仕草にルルとスグルが来たことに気づくと広場中で歓声が響いた。


「恥ずかしいからやめてほしいわ」


 ルルが頬を染めてそう言うと、スグルは調子に乗っているのか大声で叫んだ。


「終戦の聖女のルル様です!」


 スグルの叫びにすでにお祭り気分の民衆は呼応するように叫ぶ。


「「「聖女様バンザイ!!」」」


「小さい!」


「「「「「!!!聖女様バンザイ!!!」」」」」


 スグルが更に煽ろうと口を開いたところでスグルには確かにプツンという音が聞こえた気がした。


「やめなさーーーーーーーーーーーーーーーーいッ!!」


 それは数百人規模の民衆の声よりも大きかった。

 場はルルのその声と直後にルルが肩から飛び降りて金的をスグルに見舞わせている様子を見て半数は真っ青にもう半数はニヤニヤした表情で主従を見た。


「ふむ。見事な金的であった」


 静かになったのでヴィルヘルムの声はよく響いた。

 司会だろうか、文官は苦笑いを浮かべながら終戦式典の開会を宣言した。



「リトリア国王。チャールズである。この度の戦後処理について決定したことをすべての両国民に向けて発表させてもらう」


「一つに、現ベルデ国王はその王位を剥奪、今後10年間の間、蟄居すること」


「二つに、リトリア、ベルデ王国は今後一つの国としてリトリア連合王国となる」


 その発表にそれを知っていた一部を除き大きなざわめきが起きる。特に、国の名前がなくなるベルデからやってきたと思わしき集団では顕著であった。


「三つに、ベルデ王国の血筋を持つ、終戦の聖女であるルル・アルデンヌがベルデ王国の王女として即位し、リトリア国王である私との婚姻を執り行うことも合わせて発表させていただく」


 その発表はリトリア国民、ベルデ国民関係なしに歓声で迎えられた。


「一時間後より婚姻の儀を執り行うことも合わせて発表させていただきます」


 文官のそんな補足事項ですらほとんど聞こえないほど歓声はより大きくなって、驚愕の表情をしたルルとスグルを包んでいた。

あけましておめでとうございます。

年が明けてしまいました。ごめんなさい。

次で最終話の予定でございます。

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