90話 王位継承
その知らせは唐突だった。
リトリア王宮から全国に向けて発表された王位継承の知らせはその国民からもって驚きとして受け入れられた。なにしろ現王はいまだ老人と言うには若すぎ、チャールズも王様としては若すぎた。
そんな知らせは王都を中心として、数日もすればリトリア全土へと広がっていった。
「ピレネーの市街地に様子を見に行ったけどすごい騒ぎでした。きっと王都はもっとすごいんだと思います」
王位継承から2日後、ピレネーにもその知らせがもたらされ、ルルに街の様子を見てくるように命じられたフィンは屋敷に戻ってくるなりそう言った。
「そうね、なにしろ唐突だったものね。情報漏えいを警戒して私たちにも詳細な日程は知らされていなかったもの」
「しかし、これで終戦の第一歩が踏み出せましたね。噂程度の話しか流れてきていませんが、王位継承は極めて穏便に執り行われたようです。反対派も相当数いたようですが、チャールズ王子、いや王様の方が一枚上手だったようで、事前に根回しを済ませて反対派が気づいたときには前王の許可や、他の王位継承権を持つ王族との交渉事も終わっていたようですし、まあ、チャールズ王以外に王位に適任な王族がいなかったこともありますが」
「そうね、今までも表立って王位継承に関するいざこざも聞かなかったしね」
「それに、チャールズ王の母方はベルデ貴族ですから、それも終戦の口実になりえます。リトリアの王位継承反対派で好戦派にも属するというのはかなりの少数になりますし、その筆頭だったホーキンスも表立っては栄転といった扱いですが、事実上の更迭の処置が行われたようです」
「そう」
ギルの戦士の直接的な原因を作ったホーキンスに思うところもあるのだろう、ルルはそううなずくと、ともあれと続ける。
「それで、ギルの件についてはどうなっているの?」
「まだ、具体的な話は市井では聞こえてきませんね。おそらく王宮から漏れ出た話ということで少し時間をかけて広めていくんだと思います。あまりに急激に広めると工作の印象が強くなりますから、まあ、ベルデ王国側としてもギルに命令を下した事実はありませんからこれはあまり心配する必要はないと思います」
「分かったわ。ポワチエおじさまがきっとベルデ王国側で工作をしてくれるでしょうから、あとは次の会戦でベルデ王国軍の戦意を喪失させれば終戦が叶うのね」
「ええ、そうですね。ただ、ベルデ貴族に関してはどうにでもなりますが、実際に戦争を戦った一般の市民たちに納得させるのは難しいです。今後2つの国がうまくやっていくためにはルル様、あなたの終戦宣言が大切になります」
「うん、それは、ベルデ王国と、リトリア王国両方に属していた私にこそ適任だもの、絶対に成功させて、この戦争を終わらせて見せるわ」
「期待してます」
ルルの言葉にフィンはただそうとだけ答えた。




