89話 マッドサイエンティスト
家臣会議が終わったルルは、本来出席しなければならないはずの、お抱え科学者兼秘書官であるマッドがいないことをマルクに尋ねた。
「それが、ギルさんがなくなった原因の爆弾の原材料を作ったのが自分だということに責任を感じているようで、知らせを受けてから部屋にこもりきりなんです」
「……そう」
ルルは、悩ましげにマッドの部屋の方を見ると、今度はスグルを見て、
「一緒にマッドのところに行くわよ。他のみんなは仕事を初めてちょうだい」
そう言うとすぐにルルは会議室から出ると、マッドの部屋の前に行く。
ルルがマッドの部屋の扉をノックをすると、中からガタンという音がしたかと思うと、すぐに無音になった。
「でないわね。あら、鍵がかかっているみたいね」
出ないのでルルがドアノブを回してドアが開くかを試してみるも、鍵がかかっているようで開かないので、ルルはスグルの方に顔を向ける。
「ドアをぶち破れってこと?」
ルルがうなずいたので、スグルはしゃがみ込むと、自分じゃとてもじゃないが入れないミニマムサイズのドアを人指し指でつつくと、今度は握りこぶしを作って勢いよく殴った。
すると、ドアはものすごい音をたてて粉砕して、握りこぶしはそのまま部屋の中に突っ込む格好になった。
「ちょっと! スグル! 手加減ってものを知らないの!? これじゃマッドが潰れちゃうじゃない!」
ルルが取り乱したように叫ぶと、部屋の中からカエルの潰れたようなうめき声が聞こえてきた。
「ほら、早く手を抜いて」
スグルが真っ青な顔で手を引き抜くと、ルルがすぐに部屋の中に入っていく。
30秒もすると、どうやら、飛んできたものがみぞおちにあたっただけの五体満足の様子でルルの片腕でもって引きずられてきたマッドが目を回した様子で部屋から引っ張り出されてきた。
「スグル、ちょっと手伝って」
はあはあ、と息を荒くしながらルルがスグルに会議室の方向を指し示すと、スグルはマッドを手のひらに乗せると慎重に会議室へと運んでいった。
マッドが意識を取り戻すと、マッドは目の前の椅子に座ったルルを見て、顔面を真っ青にすると、すぐに顔を目の前の机の天板へと向けた。
「マッド、私は別にあなたのせいだとは思ってないわ」
「私は自分の発明はきっと人の役立つものだと信じていままで科学の探求を行ってきました。王国立ホールを半壊させたときも、こんな被害は科学の発展のためには些細なことだと思っていました。しかし、私の発明で初めて人に被害をもたらしてしまった。いえ、被害なんて言い方では正しくありません。私の発明が人を殺してしまいました。殺人です」
マッドはいつものどこかおちゃらけた態度からは考えられないほど顔面を蒼白にしてそう独白するように言った。
「いいえ、あなたの発明は確実に人を助けられるものよ。まだあなたには報告はいってないかもしれないけど、ベルデ王国に守り石を取られて収穫量に不安があった地域にあなたが作った人工守り石が送られたわ。そのおかげでそこの領民は安心して農業を続けることができたわ。……すべてはその発明を使う人間の在り方で決まるものだと私は思うわ」
そこまでルルが言って続く言葉がないことにマッドが顔を上げてルルを見ると、
「ギルはそんなあなたの発明を大量虐殺で汚すことのないように自分の命をかけたといってもいいと思うわ」
今度はルルは泣かなかった。ただ、ルルはそう信じているという目をマッドに向ける。
「私は、まだ発明をしてもいいんだろうか。ギルさんに許してもらえるんだろうか」
マッドがそこにギルがいるかのようにそう言うと、
「ギルだったら、許すとかじゃなくてきっと笑いながら次のマッドの発明の説明を聞いてくれるはずだよ」
スグルが言うと、
「いいえ、きっと苦笑いだわ。だってマッドの発明の話は長いもの」
ルルが茶化すようにマッドを見ると、マッドはそのマッドサイエンティストの顔には似つかわしくない、優しい笑顔に小さな水滴を作りながら、何度もうなずいた。
直近三回分の更新ではいずれもその当日中にブクマが一人増えるんですが次の日になるとブクマがもとにもどるという怪現象笑(T_T)が発生しております。
私はそれでもブクマ27人のために更新します。ぜひ最後まで読んでやってください。
今年中に完結するか怪しくなってきた……。 がんばります。




