88話 現状報告と作戦
落ち着いた所でルルはマルクやシット、スミスなどの行動を別にしていた家臣たちを集めると、フィンとスグルを伴って屋敷の奥にある広間で家臣会議を行う旨を伝えた。マルクが代表して了承の返事を伝えると、すぐに屋敷のメイドに命じて広間の準備が整えられた。
「さて、みんなももう知っていることだけど、ギルがリトリアを裏切ったことになってなくなったわ」
ルルは冷静な声でそう言うと続ける。
「それを目の当たりにして逃避したスグルを追いかけて私は北の地へ向かったわ。スミス、息子さんのことが気がかりだったとは思うけど、ピレネーへの報告を任せてしまってごめんね。息子さんは元気にやっていたわ」
「ありがとうございます、ルル様。それが確認できただけでも今はいいですよ。あとはこの戦争を終わらせて一発ぶん殴るだけですわ」
「ほどほどにね?」
ルルがそう言うと、スミスは本当に承知したのか怪しそうな声音で「おうよ」と答える。
「それで、そこで北の地のリトリアへの併合が正式に決定したわ」
ルルがそう言うと、場の一員はルルが帰ってきて初めて嬉しそうな表情になった。
「ルル、そのことについてなんだけど……」
スグルは挙手をしながら気まずそうにそう言った。
「どうしたの? スグル」
「えっと、黙ってて本当に悪いと思ってるんだけど、僕どうやらチャールズ王子に嵌められて北の地の領主にされることになったみたいです……」
スグルがそう言うと、ルルは唖然とした風に目を大きく見開いた。
「スグルが北の地の領主……?」
ルルがその事実を確認するようにそう復唱すると、その顔はどんどん怒りからなのか、真っ赤に染まっていく。
「あの、クソッタレのハラグロ王子がッ__!」
ルルが貴族のお嬢様が決して言ってはいけない言動で一国の王子を罵倒すると家臣団一同は自分に向けられたものではないのに怒られている小学生みたいに背筋をしっかりと伸ばすと傾聴する形をとった。
そんな中でもここは自分が言うしかないというようにマルクは恐る恐るといった風にルルをたしなめる。
「ルル様、一回落ち着きましょう」
マルクの言葉にルルは数秒遅れて気がつくと、今度はとことん呆れた風にスグルの方を見る。
「チャールズ王子が簡単な相手ではないことはスグルやギルにとってはよーく分かっていたことじゃないかしら?」
スグルはそこでそ些細な会話の中にもギルの名前がでることが嬉しく感じた。そうだ。僕たちが忘れなければギルは僕たちの中で生き続けるんだから。
「本当にごめん」
スグルが内心でそんなことを感じながらそう謝ると、ルルはこうなったら仕方ないというように、言う。
「半年は、北の地にいないといけないと思うけど、もう半年は」
そこでスグルはルルの言葉にかぶせるように言った。
「もちろんピレネーに戻ってくるよ」
「なら良かった」
その言葉にはルル以外のみんなも深くうなずいていた。
「それで話の続きに戻るけど、ギルの名誉を取り戻すためにもチャールズ王子と今後の作戦をつめたわ」
「具体的にはどういったようになったんでしょうか?」
マルクがそう尋ねるとルルは続ける。
「チャールズ王子が王位を継いだ上で、ギルの爆弾使用の阻止を命じたのは自分だということをリトリア上層部に知らしめる。そしてその事実をもとにベルデ王国反戦派と交渉し、次の会戦において休戦の宣言を行い。ベルデ国王ならびに好戦派の動きを封じるといった作戦よ」
特にチャールズが王位を継ぐといったところで家臣団は息を飲んだ。
「これでついに戦争が終わるんですね」
思わずといった風にマルクが言うとルルはうなずく。
「北の地が味方について、両国の思惑が一致すれば本当の大陸が今後こちらに攻め込んできたとしても一致団結して迎え撃つことができるし、もしかしたら、そもそも攻め込んでくるのを難しいと思わせることができるかもしれないわ」
「そうですね。でもそんな未来を手に入れるためにはあと少し、頑張らないといけないですね」
フィンがそう言うと、部屋にいるみんなは真剣な顔になると拳に力を込めた。




