86話 会合
スグルたちが再会して数分後にやってきたチャールズは3人を人払いをした高台の上まで連れてきた。
「さて、図らずもここにこの戦争をやめるという試みに挑んでいる同志が集まったわけだから、今後の取組みについて話したいんだけど」
「そうね……。色々と想定外のことで随分状況が変わってしまったものね」
ルルは先程まで涙で濡れていた瞳を力強く前へと向けるとそう答える。
「ルルは知っていると思うけども、ベルデ軍は例の爆弾の威力を目の当たりにして今回の侵攻計画を白紙に戻したらしい、すぐに全軍引き上げたようだ」
「そうですね。私が色々なことを後回しにしてそこのおバカさんを追ってこれたのもそのためだし」
ルルの責めるようでどこか心配するような目線にスグルが思わず謝りそうになると、
「まあ、そんなことは置いといて、これからどうするかですよね」
フィンがすぐに話を戻す。
「うん、ベルデ国王の今までの強引なやり方からすると、たかが爆弾程度で止まるとは思えない。おそらく、軍を分散させて東西横に広く戦線をとってくると思う。そうすれば、爆弾にはそこまでの阻止力は期待できない」
「ですわね。しかもベルデ王国は以前から侵攻を準備していた強みもありますし、そうなった場合はこちらに不利ですわね」
リリーが肯定するように言うと、フィンが補足するように言った。
「戦力の分散はあまり良しとはされませんが、戦力が上回っていればその限りではないですからね」
厳しい現状に場のみんなが思わずため息をつくと、意外なことにスグルが口を開いた。
「あの、ギルってこのままいくと名誉の回復は望めないかな?」
一見、この場に全く関係ない発言であったが、フィンが思いついたように言う。
「ギルさんの爆弾阻止を英雄的行動としてベルデ軍で広められれば、反戦運動のきっかけにはなるかもしれないですね」
フィンがそういうと、チャールズが顎に手をあてて少し考えると言った。
「ベルデ王国の好戦派は港の攻撃で力を失いました。そしてポワチエ公がこちらの味方としてベルデ王国にいます。ギルさんの話を十分にベルデ王国の反戦派にながした上で次の会戦でルル、あなたが、停戦の宣言を行えばいけるかもしれません」
「私ですか?」
ルルはそこで名前がでるとは思わなかったのか、驚いたふうにチャールズを見る。
「ええ、今回、爆弾の使用を阻止したギルさんの主人であり、直系ではなくともベルデ王家の血を引くルルは停戦の宣言に適任なはずです」
そう、説明した上でチャールズは、もちろんと前置きした上でさらに言う。
「ベルデ王国の工作はポワチエ公に任せたとして、リトリア王国の方を工作しなければいけません。今の所、ギルさんは裏切り者の扱いになってしまっていますので、それをどうにかしなければいけません。できればリトリア王国の反戦派の代表として相応の者が極秘に命じた形にしてです。ですから、それを可能にするために私があと一月以内に王位を継ごうと思います」
チャールズが王位を狙う発言をしたため、場の空気は凍りついた。
なぜなら、現王はいまだに存命で老齢というわけでもないからだ。
「本当に王位は、継げるんですか?」
フィンがそう確認するように尋ねると、チャールズはあっけらかんとした様子で答える。
「随分前から準備をしていたし、なんならこのあと王宮にもどってすぐでも大丈夫だと思う。そもそも、そのくらいの権力がなきゃ戦時中にこんな北の僻地まで今はまだ公にできない交渉になんて来られないからね」
尤もなチャールズの言葉に形だけは納得したフィンはさらに尋ねることはしなかった。
「全ては工作と演出だよ。主力同士がぶつかる戦場でベルデ王国のほとんどが反戦の意思を示せば、いかに王ともそれ以上の侵攻はできないからね。というわけで、日が登ったら私は王宮に戻って工作をしてポワチエ公にベルデ王国の工作をお願いするから、ルルたちは領地に戻って次の会戦の準備をしてほしい」
ルルたちが覚悟をもった顔つきで頷くとチャールズはニコリと笑うと、言う。
「この馬鹿げた戦争は早くやめにしよう」




